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外星戦記  作者: 無名の凡夫
第1章 初陣~オペレーション・ギデオン~

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第87話 闘犬と鷲

五十鈴 寛治――。


その名を耳にした瞬間、ルックノワの顔色はみるみる青ざめていった。


(あのドーブス大佐殿を半殺しにしたっていうのは……あいつだったのか。)


信じ難い噂だと思っていた。だが今、目の前で繰り広げられている光景は、その噂が誇張などではなかったことを物語っている。


刀を振るうたびに兵士が倒れ、狙撃銃を構えれば誰一人として逃れられない。あれは人ではない。帝国兵たちの誰もが、そう思い始めていた。


「私達、人魚族は丘で戦うのは不利だ。」


ローニアは冷静に戦況を見極めると、即座に無線へ手を伸ばした。


「コカロック連隊長! 奴が現れた! 退却の命令を!」


通信の向こうで、一瞬だけ沈黙が流れる。


『むう……。奴がいるなら仕方ない……一度下がって態勢を立て直そう。』


やがてポーラ・コカロック大佐の重い声が返ってきた。


『第5艦隊制圧連隊、第6強襲陸上連隊は撤退せよ!』


その命令と同時に、帝国軍は一斉に反転する。


「海にさえ逃げれば、まだ勝機はある。」


ポッパーの言葉どおり、人魚族にとって海は最大の拠点だった。駿河湾まであとわずか。そこへ辿り着ければ、この悪夢から逃れられる。


しかし、その希望は一瞬で打ち砕かれた。逃げ遅れた一人の兵士の後頭部を、大きな手が無造作に掴み上げる。


「おい、どこへ行く?」


「ひいっ!」


振り返った兵士は、BJの無表情な顔を見た瞬間、喉の奥から悲鳴を絞り出した。


「くそ、もう破れかぶれだ!」


「ただじゃ殺られない!」


「敵は、たった一匹だ! やってやる!」


「え? 俺は?」


隣で銃を構えていたバスが、思わず素っ頓狂な声を漏らす。


BJの近くにいた帝国兵たちは、生きて逃げられないことを悟った者、あるいは目の前の男がそこまで恐れられる理由を理解できない者たちだった。彼らは半ば自棄になり、一斉に襲い掛かる。


だが――。


「ぎゃあああ!」


「は、速い……。」


「ぐはっ……。」


悲鳴だけが次々と響いた。刀が閃くたびに誰かが倒れ、銃声が響くたびに一人ずつ命を落としていく。抵抗らしい抵抗は、ほとんど成立しなかった。


「つ、強すぎる……。」


スキュア・レフスキー兵士長は、その光景を見た瞬間、自分の死を悟った。身体から力が抜け、その場へ崩れ落ちる。恐怖で意識を失ったのだ。


BJは倒れたレフスキーを一瞥すると、ためらうことなく刃を振るった。


「何をやっている!? 早く海へ飛び込め!」


ローニアの怒号で我に返った帝国兵たちは、我先に海へ向かって駆け出す。しかし、その背中をBJは容赦なく追い続けた。狙撃で仕留め、追いつけば刀で斬る。


常人では到底追いつけない速度で戦場を駆け抜け、一個中隊規模の兵力は、駿河湾へ辿り着く前に壊滅的な損害を受けていった。


「……。」


バスは銃を構えたまま、その光景を眺める。


「……。」


再び沈黙。そして小さく呟いた。


「………俺、要る?」


誰に聞かせるでもない独り言だった。それほどまでにBJ一人で戦況を支配していたのである。


バスは苦笑しながら肩を落とした。


「……はぁ……せめて、俺が狙撃で5体仕留めたのは覚えておいてくださいね……。」


     


 ――その頃、箱根。


「また敵が追ってきてます。今度は上空に天使族や鳥人族もいますね。規模としては2個小隊ってとこでしょうか。」


パルヴァーが双眼鏡を下ろしながら報告する。


「う~ん、何か他の所よりも追手が多いわね~。何か理由があるのかしら?」


フロリアンは首を傾げながらも、余裕を失わない。


「しかし、上空の敵を狙うのは骨が折れますよ……。」


「そうよね~。怪我人を守りながらだと難しいわ~。」


その時だった。上空から金属音にも似た甲高い音が聞こえた。直後、天使族の飛行隊形の中央で、激しい爆発が起こる。


轟音とともに炎が噴き上がり、2体の天使族が黒煙を引きながら山中へ墜落していった。


「きゃあああああああ!」


「何事だ! どこからだ!」


突然の攻撃に帝国軍は完全に混乱する。


「え? 何が起きたの?」


坂下が呆然と空を見上げる。その疑問へ答えるように、無線機から間延びした声が聞こえた。


『やっほ~。』


「あら~、ヒーゾ班長じゃなぁい! 助かったわ~。」


フロリアンが嬉しそうに声を弾ませる。


『丁度あいつらを追ってたんだよね~。』


緊張感とは無縁の口調だった。しかし、その直後の言葉には絶対的な自信があった。


『上空の敵は我々、イーグル班に任せるのだ~。』


「OK~。アタシ達は地上の敵に行くわよ!」


「う~ん、携サムだと火力が弱いな~。スタン、中サムの準備だ。」


「了解! 中サム準備!」


トラックの進行方向、その先に広がる尾根の上。3人の隊員が大型の地対空ミサイルを展開していた。


轟音とともに飛び出したミサイルは一直線に天使族へ向かい、次々と撃墜していく。空を支配していた帝国軍は、わずか数十秒で制空権を失った。


フロリアンは満足そうに頷く。


「ふふ、これで地上の敵だけになったわね。あとはアタシ達の獲物よ。」


空の脅威が消えた。残る敵は地上を追走してきた5体のみ。フロリアンは84ミリ無反動砲を軽々と肩へ担ぐ。


「さあ、お楽しみはこれからよ。パルヴァーちゃん、シャークちゃん、行くわよ!」


照準が定まる。砲声が山間へ轟いた。砲弾は先頭を走っていたハーピー族兵士の胸元へ吸い込まれるように飛び込み、轟音とともに炸裂する。


「ぐっ……馬鹿な……!」


羽を盾代わりに腕を交差させていたが、そのわずかな隙間を正確に撃ち抜かれていた。


「アタシの砲弾を素手で止めようなんて、甘いわよ?」


余裕たっぷりにウインクするフロリアン。その直後には、シャークが荷台から飛び降りていた。地面を滑るように疾走し、一瞬で敵の懐へ潜り込む。


「――っ、速すぎる!」


短い特殊ナイフが閃く。敵兵の喉が裂け、その身体が崩れ落ちた。さらに次の標的へ向かう動きには、一切の無駄がない。拘束されたまま荷台から戦況を見つめる隼人は、思わず息を呑んだ。


(凄い……凄い、凄い!)


これは今まで見てきた戦いとは別次元だった。敵を圧倒するという言葉では足りない。狩っている。そんな表現の方が相応しいほどだった。


(これなら……きっと瑛松二曹達も無事だ!)


隼人は瞬きを忘れ、GASTの戦いへ目を奪われ続けていた。

登場人物紹介

ヒーゾ…GAST所属で、イーグル班の班長。対空攻撃を担当する。

スタン…GASTの隊員で、イーグル班所属。

段場だんば 隼人はやと……本編の主人公。35普連2中隊所属の二等陸士

苫米地とまべち 杏南あんな……隼人の同期で恋人。多大な戦果を挙げるが負傷してしまう

木山きやま 拓哉たくや……隼人、杏南の同期。味方を誤射し、急性ストレス障害を発症

山下やました 裕介ゆうすけ……戦死した渚の同期

坂下さかした ジュリア……35普連3中隊の新人

諏訪すわ 明登めいと……謎の力に覚醒した若手

フロリアン……GAST「ピットブル班」の隊員で大柄ながらオネエ口調を話す

シャーク……GAST「ピットブル班」で、フロリアンに「滅茶苦茶」と言われる

パルヴァー……GAST「ピットブル班」で多分、視力が良い

BJ……GAST「ピットブル班」の班長で圧倒的な武力を誇る

ポーラ・コカロック……人魚族の女性で海軍大佐。第6強襲陸上連隊長

スキュア・レフスキー…帝国海軍兵士長で、スキュラ族の女性。BJに倒される



グーリエ星にいる種族

スキュラ族…上半身が人間、下半身がタコの種族で、人魚族の亜種と言われている。人魚族同様、水中での活動を得意とし、陸上では24時間程しか動けない。人魚族同様、陸上では専用の義足を装着して活動する。

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ミリタリー SF ファンタジー 自衛隊 戦争
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