第84話 最強にして最恐…その男の名は
「ピットブル班、BJはどうした?」(GAST中隊長)
「それが……他の敵を殺してくると言って、別行動を…。」(パルヴァー)
「やれやれ…相変わらず自由すぎるな。まあ良い。ピート、BJに静岡市へ行くように伝えなさい。」(GAST中隊長)
「了解。」(ピート)
「BJ、応答せよ。」(ピート)
「こちら、BJ。」(BJ)
「至急、静岡市へ向かってほしい。」(ピート)
「静岡? あそこは豊川(駐屯地)から援軍が行ったろ?」(BJ)
「劣勢だ。だからBJ、頼む。」(ピート)
「了解した。」(BJ)
「とはいえ、ここから向かうには歩きじゃ、時間かかりすぎる。さて、どうしたものか。」(BJ)
「どこかに都合よく、バイクでも落ちてれば…なんてな。」(BJ)
そう呟く男の声は、感情がほとんど感じられなかった。
「お?」(BJ)
BJは、前方にグーリエ星人2人を見つける。
「このバイク、動くか?」
「ええ、兵士長殿、どうやら動くみたいです。今、エンジンかけますね。」
BJは、道路の端に倒れている自衛官の姿が目に入る。
「(あれは、偵察用のオートバイじゃねぇか。鹵獲されたのか、クソッタレが。)」(BJ)
「よしよし、エンジンかかった。どっちが運転する?」
「自分は、兵士長に従いまよ。」
「殊勝な奴だ。じゃあ、俺が運転するから、お前は後ろな。」
BJは無表情のまま、2人に近づいていく。
「おい、そのオートバイ、俺が運転する。」(BJ)
「!?」
「いいよな?」(BJ)
「は、はい…。」
彼らは、BJの存在にまったく気づいていなかった。男が放つ静かな殺気に気圧され、素直にオートバイを差し出す。オートバイを受け取ると、BJは何も言わず、2人の首を刎ねた。
「…」(BJ)
「このオートバイ借りるぞ…。」(BJ)
BJは、このオートバイを運転していたであろう、自衛官の遺体へ向かってそう語りかけ、一瞥を投げる。そして、オートバイへ跨ると、静岡市へ急いだ。
――静岡市内――
「オラオラオラ~、殺せ殺せ~」(シェン)
静岡市内に上陸した帝国兵は、海自を墜とした勢いそのままに、街を蹂躙していった。特別警備隊が急ぎ向かい、急遽、豊川駐屯地からも隊を派遣するが、到着した時には、多くの市民が虐殺されていた。
「くそ、援軍として来たのに、なんて様だ…。」(段団圭河陸士長)
「とにかく耐えろ! 今、我々が出来るのはそれしかない!」(保坂欽也三等陸曹)
「ああ、もう弾薬がない。保坂三曹、銃剣で突撃します!」
劣勢の中、冷静になれていなかった新人隊員が突撃した。自衛官として、国民を守るという責任感が悪い方に働いてしまった。
「待て、それは無駄死にだ!」(保坂)
タタタタン!
保坂の声を聞かず、敵へ突撃した新人隊員は、敵銃弾を浴び戦死する。
「くそ…無駄死にじゃないか…。」(段団)
「おいおい、あいつ、銃剣で突撃したぞ。」(シェン)
「ああ、無防備な突撃だったな。」(セギンス)
「何でも、バンザイアタックとかいう、この国の伝統芸らしいですよ。」(ラッツ・ルジェーリ海軍伍長)
新人隊員の突撃を馬鹿にするように笑う帝国兵達。彼女らは、狩りを楽しむかのように、自衛官を屠っていた。
「お~い、自衛隊の皆さ~ん、出ておいで~。君達にプレゼントがあるよ!!」(セギンス)
そう言って彼女らは、これまで仕留めた自衛官の首を目の前に並べだした。
「野郎!」(保坂)
「保坂三曹!?」(段団)
激高した保坂が、敵兵へ向かって銃を乱射する。しかし、怒りで冷静さを欠いた射撃は、敵に当たることはない。
「やれやれ、狙撃のお手本を見せてあげましょう。」(メクブ・ジエビー海軍一等兵)
パァン!
ジエビーは、保坂が陰に隠れる寸前に発砲。一撃で仕留める。
「ひゅ~(口笛)お見事!」(セギンス)
「よし! 最後の一匹は俺が仕留めるぜ!」(シェイダー・サズンリ海軍上等兵)
そう言って、サズンリは塀から姿を現し、段団をからかう様に踊りだした。
「クソが…。」(段団)
タタタタン! タタタタン!
段団は、サズンリに向かい発砲するが、弾は当たらない。
「(くそ、もう弾薬がない。)」(段団)
段団は、その場から撤退する。もはや、戦う力は残されていなかった。
「逃がすな、追え!」(ルックノワ)
タタタタン! タタタタン!
ルックノワの号令で、段団を追う帝国軍。笑いながら追いかけ、わざと銃撃を外し、ただただ弄ぶ。
「クソクソクソ…。」(段団)
屈辱を感じる段団だが、しかし抗う手立てはない。惨めな自分に対し、悔し涙を流す。
「うっ…。」(段団)
疲労がピークを迎え、足がもつれて転倒してしまう。それを嘲笑う帝国兵達。
「こいつ、泣いてやがる。だっせ~」(バテン・セック一等兵)
タン! タン! タン! タン!
「ぐわあああああ!」(段団)
帝国軍は、段団を嘲笑し、ひと思いに殺さない。手足から順に撃って痛ぶっていく。その時……。
タン! タン! タン! タン!
4発の銃声が聞こえ、セギンス、ルジェーリ、セックは心臓を撃ち抜かれ即死。シェンが、義足を撃ち抜かれ、倒れ込む。
「狙撃手だ!」(ギオ・ベッシャー兵士長)
「ジエビー、サズンリ、ベッシャー、狙撃手を捜せ! 見つけ次第殺せ!」(ルックノワ)
パァン!
ジエビー、サズンリ、ベッシャーの3人が狙撃手を捜している間、シェンの心臓に銃弾が突き刺さる。
「さっきと位置が違う。狙撃手は複数いるようです!」(サリー・ルキンミ海軍上等兵)
「大丈夫だ! ジエビー達が狙撃手を突き止める。それまで耐えるんだ!」(ルックノワ)
「ん?」(ルックノワ)
ルックノワの前に何かが転がる。それが首だと理解するまで、数秒かかった。
「ひっ! こ、これは…。」(ルックノワ)
狙撃手を捜しに行ったはずのベッシャーの首だった。更には…。
「こっちにも……ジエビー!?」(ルキンミ)
ルキンミの前に投げつけられたのは、ジエビ―の生首だった。既に2人の兵が討たれている。ルックノワは、敵狙撃手の戦闘能力の高さに戦慄する。
「少尉殿、あそこに敵が。おそらく狙撃手です。」(ルキンミ)
「っ……。」(ルックノワ)
ルックノワとルキンミの前に現れた男は、サズンリの生々しい首を持って現れた。そして、サズンリの首を落とすと、その顔面を、まるで虫でも踏み潰すかのように、全力で踏みつける。
「サリー、援軍要請だ。我々2人だけでは分が悪い。」(ルックノワ)
「敵は一匹ですよ? 私達で挟撃すればあんな奴…。」(ルキンミ)
ルキンミは、強がってそう答えたが、2人では絶対に勝てない事を自覚していた。
「馬鹿野郎、今そんな虚勢は必要ない。早くポッパーに援軍を要請しろ!」(ルックノワ)
「りょ、了解しました。」(ルキンミ)
「(援軍を呼んでいるようだな。)」(BJ)
……
BJはボルトを引いた。
段団は、何が起きたのか理解できなかった。ただ、意識が朦朧とする中で、誰かが自分に駆け寄ってくるのを感じた。BJは段団に応急処置を施す。
「あ、あなたは一体…。」(段団)
声にならない声で段団は尋ねた。目の前の男は、さっきまで自分を嘲笑していた敵兵を難なく倒した、人間離れした存在。恐怖と、しかしそれ以上の安堵が入り混じる。
「特殊部隊の隊員とだけ言っておく。血は止まったが、早く治療した方がいい。今、救助を呼ぶ。」(BJ)
「助けていただき、ありがとうございます。」(段団)
段団は、震える声で感謝を告げる。
「そのために来た。」(BJ)
ぶっきらぼうに答えるBJだったが、帝国軍へ向ける冷酷なそれではない、温かさもあった。
「BJ、こちらスサノオ班・キャベージ。怪我人の救援に来た。そこから500m後方。」(キャベージ)
「了解、そちらへ向かう。」(BJ)
BJは段団を抱き上げ、キャベージの下へと向かう。
「手足を撃たれ、自力では歩けない。止血済み。意識はある。」(BJ)
「了解。」(キャベージ)
「こちらキャベージ。怪我人を保護。地点Cにヘリ要請。」(キャベージ)
「了解。直ちに派遣する。」(ピート)
「戦闘に戻るの?」(キャベージ)
「ああ。」(BJ)
「部下を1人貸そうか?」(キャベージ)
「丁度、敵が増援要請してたから助かる。」(BJ)
「OK。そしたら、バスはBJについて。」(キャベージ)
「了解!」(バス)
スサノオ班は段団の搬送、BJとバスは再び戦場へ戻っていく。
「丁度、援軍が来たようだ。」(BJ)
「シェルダン、無事か?」(ポッパー)
「援軍だ! おお! アーフェルグ大尉殿も自身の中隊を率いて来て下さった! ローニア中佐殿まで!」 (ルキンミ)
勝利を確信したルックノワとルキンミだったが、その希望は音を立てて崩れていく。到着するや否や、ローニアは撤退の命令を下す。
「何故??」(ルックノワ)
ルックノワとルキンミを掴まえて、退却を図る帝国海軍。BJは銃口をゆっくり上げた。
「逃がすかよ。」(BJ)
「援護します。」(バス)
しかし、BJが猛スピードで追いかける。BJの狙撃技術は高く、敵兵を一発で仕留めていく。近接戦闘に持ち込んでも、帝国兵は成す術なく切り刻まれる。
「ぎゃあっ」
「う…」
「うわあああ」
「あいつ、普通じゃない…。」(ルキンミ)
「アーフェルグ中隊長殿、あいつは一体…。」(ルックノワ)
「貴様は覚えてないのか? 軍議で師団長が言っていただろう?」(フィフィカ・アーフェルグ海軍大尉)
――回想――
「もし、敵兵の中に、日本刀を持った兵士がいたら、気をつけろ。見つけたら戦うな。逃げて構わん。そいつは危険すぎる。以前、そいつ1匹に1個大隊が殲滅させられた。」(アルクク・アルアパ陸軍准将)
「そいつ、1匹にですか?」(ルックノワ)
「そうだ。」(アルアパ)
「奴を討つには、綿密な作戦と物量が必要だ。そうだな、1個連隊並の戦力が必要だろう。」(アルアパ)
――回想終了――
「(ああ、思い出した。信じられない話だったから、忘れていた。あいつは、日本刀を持っていた。あいつが、師団長殿が仰っていた兵士…。)」(ルックノワ)
「あいつは、これまでにも多くの同胞を屠り、かつて、ドーブス大佐殿に瀕死の重傷を負わせた…。」(アーフェルグ)
「日本を制圧する上で、最も気を付けなければならない男…。」(アーフェルグ)
「五十鈴寛治だ。」(アーフェルグ)
登場人物紹介
保坂 欽也
生年月日:1994年10月11日 / 出身:岡山県
階級:三等陸曹 / 所属:49普連1中隊
備考:静岡市内にて帝国海軍と戦い戦死
享年:26歳
段団 圭河
生年月日:1997年6月3日 / 出身:埼玉県
階級:陸士長 / 所属:49普連1中隊
備考:帝国海軍との戦闘中、BJに助けられる。
五十鈴 寛治
生年月日:1990年2月9日 / 出身:福岡県
階級:三等陸尉 / 所属:GASTの隊員で、コードネームは「BJ」
備考:人間離れした身体能力と戦闘能力を持ち、帝国軍からも要注意人物としてマークされている。GAST入隊前から、任務時は日本刀を帯刀していたため、特殊部隊にいて素顔を隠し、コードネームで名乗っても、敵兵に素性が知られている。
キャベージ…GASTの隊員で、スサノオ班の班長
バス…GAST隊員で、スサノオ班所属。
※スサノオ班は、GAST後方支援班です。
ラッツ・ルジェーリ
種族・性別:人魚族の男性
所属・階級:帝国海軍伍長、小田原殲滅隊・第5艦隊制圧連隊・2大隊・6中隊
備考:海自殲滅後、上陸し進軍していた。BJに討たれる。
メクブ・ジエビー
種族・性別:人魚族の男性
所属・階級:帝国海軍伍長、第5艦隊制圧連隊・6中隊
備考:BJに討たれる
シェイダー・サズンリ
種族・性別:半漁族の男性
所属・階級:帝国海軍上等兵、第6艦隊制圧中隊
備考:BJに討たれる
バテン・セック
種族・性別:半漁族の男性
所属・階級:帝国海軍一等兵、第6艦隊制圧中隊
備考:BJに討たれる
ギオ・ベッシャー
種族・性別:人魚族の男性
所属・階級:帝国海軍兵士長、第6艦隊制圧中隊
備考:BJに討たれる
サリー・ルキンミ
種族・性別:人魚族の女性
所属・階級:帝国海軍上等兵、第6艦隊制圧中隊
備考:援軍が来た際に撤退する。
フィフィカ・アーフェルグ
種族・性別・人魚族の女性
所属・階級:帝国海軍大尉、第5艦隊制圧中隊・中隊長
備考:援軍に来た際にBJの姿を見て、即撤退の命令を下す。
アルルク・アルアパ
種族・性別:ヒト族の男性
所属・階級:帝国陸軍准将、小田原殲滅隊最高指揮官
備考:帝国4大貴族・アルアパ家、現当主の弟
GAST中隊長……その全貌はまだ不明
パルヴァー……GASTピットブル班。多分、班で一番の後輩
ピート……GASTの電子戦隊所属
シェリア・シェン……好戦的な人魚
ディッパ・セギンス……酒好きの人魚
シャラ・ポッパー……有望な若手尉官の人魚
ブランチェスカ・ローニア……小田原殲滅隊・第5艦隊制圧連隊2大隊大隊長
※2)静岡市内にも、スサノオ班のように、援軍へ向かった部隊が他にもあります。




