第82話 強さの片鱗
「ギャ、ス、ト?」(隼人)
初めて聞いた名前だった。僕ら、新人には伝えられていないのだろうか?
まあ、特戦群のように、同じ自衛官でも謎に包まれている組織もあるわけで、きっと他にも極秘で動いている特殊部隊はあるんだろうな。
「来てくれたんだ。」(坂下)
あれ? 知らないの僕だけ?
「新たに実戦投入される特殊部隊があるという話は、作戦会議時に話していたよ?」(杏南)
う……。僕が話を聞いていなかっただけだった。それよりも…。
「すいません、僕も一緒に戦わせて下さい。」(隼人)
「あんた、何を言って…。」(坂下)
「俺達若手は足手まといだ。おとなしく撤退だ、クソ馬鹿。」(諏訪)
「俺達を引っ張ってくれる上官もいない。怪我人もいる。俺達はここまでだ。後は、上官に託すべきだ。」(山下)
「引っ張ってくれる方が、今、目の前にいます。僕はまだ戦える!」(隼人)
隼人は、GASTの存在が、自分たちを導いてくれる光だと感じていた。
「身の程を知れ、クソボケが!」(諏訪)
諏訪は、隼人の無謀さに怒りが隠せないようだ。思わず、隼人の胸倉を掴む。先輩の威圧的な態度に、隼人は言葉を詰まらせる。
「ちょっと、喧嘩は…。」(杏南)
「は~い、ちょっと失礼。」(???)
諏訪と隼人の間に入ったGAST隊員。僕らをトラックに誘導した人だ。声の感じから女性なのかな。僕は、その隊員に…。
「ぐえっ……。」(隼人)
「はい、撤収しますよ~」(???)
その隊員は、隼人を絞め落とし、トラックの荷台に投げ捨てた。荷台では、別の隊員が隼人を拘束してから喝を入れる。
「?? ん、ん~~~」(隼人)
口を塞がれて声も出せない。隼人は、抗議の視線を向けたが、そんな隼人の視線など気にも留めない。
「エルメス、出発!」
「OK、Let’s GO!」(エルメス)
なすすべもなく、隼人は拘束されたまま、トラックが走り出すのを感じていた。
「まったく、シャークちゃん、滅茶苦茶しちゃって…。班長に似たのね。」
どうやら、シャークというのは僕を絞め落とした隊員のようだ。そして、目の前にいるGAST隊員は…。でかい。とにかくでかい。2mはあろう長身に筋骨隆々の体格。まるでヒグマのような風体。なのに、オネエ口調。声のしゃがれ具合から、女性だとは思えない。
「あ、アタシのコードネームはフロリアンというの。よろしくね、子猫ちゃん達♪」(フロリアン)
ヒグマのような体格で、そのオネエ口調を聞かされた時、隼人たちは皆、言葉を失った。
「は、はあ…。」(諏訪)
戸惑う皆をよそに、フロリアンは、テキパキと怪我人に処置を施す。
「よく頑張ったわね、もう大丈夫よ。」(フロリアン)
そして、急性ストレス障害を発症した木山に向かって声をかけ、優しく抱きしめる。無礼を承知で申すならば、それは貴方の役割ではない。木山も嫌がっているではないか。
「さて、パルヴァーちゃん、敵の様子は?」(フロリアン)
「班長がとっくに仕留めましたよ。」(パルヴァー)
「で、その班長は?」(フロリアン)
「他の奴を殺してくるって、どこかへ行きましたよ。」(パルヴァー)
「相変わらずね、班長は…。自由すぎるわ。」(フロリアン)
勝手にどこかに行ってしまう班長とやらに、何故か、トラックの上にいるGAST隊員、パルヴァーと呼ばれていた。運転しているエルメスは、大声で歌っている。そして、助手席でノリノリに身体を揺らすシャーク。
「(GASTって変わり者集まりなのか…?)」(隼人)
とはいえ、実力は相当なものだろう。班長と呼ばれる隊員は、杏南が倒せなかったグーリエ星人2人をあっさりと討伐したようだ。
「あのう、そろそろ隼人を拘束から解いていただけませんか?」(杏南)
そうだ、その通りだ。グーリエ星人が襲ってきたらどうするつもりなのか。
「駄目よ。この子、まだ戦えるとか言って、飛び出しそうだもの。」(フロリアン)
「…。」(隼人)
図星だった。
「座標、35.117487、139.114982に生存者発見。敵に囲まれている模様、アルバトロス班は至急迎え。」
といった命令が無線から何度も聞こえる。このメンバーを見る限りだと、GASTは少数で動いているのだろう。グーリエ星人相手に、この人数で大丈夫なのだろうか? 動ける人間は1人でも戦った方がいいのではないか?
「電波が復活している?」(坂下)
「GASTにも優秀な電子戦部隊がいるのよ♪」(フロリアン)
――某所――
「へっくしょい!」(モンソン)
「集中!」(ピート)
「……どうも貴方は、アタシ達を見くびっているようね。」(フロリアン)
フロリアンは、そうウインクしながら僕に語りかける。気持ち悪い。
「アタシ達は、対グーリエ星人で戦果を上げた隊員から選抜されたの。既に一度、領土奪還もしてるんだから、もうちょっと信頼して欲しいなぁ~。」(フロリアン)
「まあ、百聞は一見に如かずというわね。じゃあ、ちょっとアタシ達の強さを見せてあげる」(フロリアン)
「え? どういう…。」(坂下)
「敵がこちらに向かっている。数は2個分隊かな。10分もあれば追いつかれる。」(パルヴァー)
「そういうこと。貴方たちは、そこでアタシ達の戦いを見てなさい。」(フロリアン)
そう言うと、フロリアン・シャーク・パルヴァーの3人は、トラックの上へ移動する。
「あらら、敵さん、戦車連れて来ましたね。ペ○パー君も2機いますよ。」(パルヴァー)
「ペッ○ー君は厄介ね。あれとの対戦は避けましょう。まずは、アタシが戦車を壊すわ。」(フロリアン)
「ああ、その袋をアタシに頂戴。」(フロリアン)
フロリアンが山下を呼ぶ。
「これですか?」(山下)
「重…。これは、石?」(山下)
袋の中には、砲丸ほどの大きさの石が入っていた。
「あの石をどうするつもりだろう?」(山下)
「って、えええええええ?」(山下)
ヒューン
ドォン!
山下士長が驚くのむ無理はない。フロリアンは、その石を受け取ると、まるで野球ボールでも投げるかのように、軽々と敵戦車へ向かって投げつけた。そして、戦車が爆発した。どうやら、戦車砲に石が入り、暴発したようだ。
「まったく、現代戦争で投石する人なんて、他にはいないでしょ。」(シャーク)
「使える物は何でも使うのよ。それが、生き残るための知恵ってもんでしょ?」(フロリアン)
フロリアンはウインクして答える。
「それに、石なら無駄使いも出来るしね。」(フロリアン)
投石を続けるフロリアン。
「○ッパー君にも当たりましたよ。壊れたみたいです。敵兵、あたふたしてますよ。」(パルヴァー)
「あら、ツイてるわ~」(フロリアン)
もはや敵は、ただの標的に過ぎなかった。
「今のうちにトドメを刺しちゃいましょ。」(シャーク)
そういうと、シャークとパルヴァーは、二手に分かれ、まるで影のように素早く動き、敵兵を挟撃する。フロリアンは、袋に入っていた石を全て敵兵に投げつける。
「投石だー」
「何で投石? いつの時代だよ!」
敵兵が投石に戸惑う中、シャークとパルヴァーが一人ずつ、確実に仕留めていく。
「アタシも援護ししゃうわよ!」(フロリアン)
そう言って、フロリアンは84mm無反動砲を敵兵へ向かって放った。フロリアンの体格だと、まるで玩具を扱うように軽々としている。
ドォン!
ドォン!
ドォン!
「つ、強い!」(坂下)
「凄い…。グーリエ星人を圧倒した…。」(諏訪)
こうして、GAST、ピットブル班の皆さんは、無傷でグーリエ星人をあっさりと倒してしまった。
「強い。――これが、GASTの戦い方なのか。」(隼人)
「(地頭曹長や瑛松二曹でも、ここまで圧倒はしてなかった。この人達、本当に強い!)」(隼人)
最初は変人を見るような目で見ていた隼人だったが、憧れの目に変わっていた。
登場人物紹介
シャーク……GAST・ピットブル班の隊員。若手隊員達をトラックへ誘導した。女性と思われる。「まだ戦う」と志願した隼人をキュっとしてポイっして、移動中の車内でノリノリにヘドバンするあたり、フロリアンに滅茶苦茶と言われるのも頷ける。
フロリアン……GAST・ピットブル班の隊員。シャークと班長を「滅茶苦茶」というあたり、常識人枠かと思いきや、2m近い長身で筋骨隆々ながらオネエ口調を操るクセの強い隊員である。投石で戦車を破壊するという強肩さを見せつける。
パルヴァー……GAST・ピットブル班の隊員。振舞いからして、1番の若手と思われる。トラックの上に乗って移動していたのは、敵兵を見つけるためだった。たぶん視力が良い。
エルメス……GAST・ピットブル班の隊員。73式大型トラックの運転を任されていた。戦地であるにも関わらず、大声で歌っちゃうお茶目さん。英語はネイティブな発音らしい。
班長……GAST・ピットブル班の班長だが、まだコードネームは明かされていない。ハーピー族の兵士2人を瞬殺した模様。また、フロリアン曰く、滅茶苦茶な一面があるようだ。どのように滅茶苦茶なのか。
モンソン……GAST・電子戦隊班の班員
ピート……GAST電子戦隊の班員
段場 隼人……本編の主人公。35普連2中隊所属の二等陸士
苫米地 杏南……隼人の同期で恋人。多大な戦果を挙げるが負傷してしまう
木山 拓哉……隼人、杏南の同期。味方を誤射し、急性ストレス障害を発症
山下 裕介……渚の同期
坂下 ジュリア……35普連3中隊の新人
諏訪 明登……謎の力に覚醒した若手
※ペ○パー君……帝国産小型戦車のことで、形が似ているから、自衛隊員はそう呼んでいる。小回りが利き、連射が出来るので、速射砲と言った方がしっくりくる。太陽光で動いており、悪天候の日や暗所では、専用のバッテリーで動く。砲弾はドローンで補充する。グーリエ星内では、砲弾ではなく、太陽光のようなエネルギーを利用し、エネルギー弾として発射しているので、弾の補充は必要ない。この「ペッ○ー君」は、地球で造った物なので、弾の補充が必要となり、性能がやや落ちる。




