第81話 絶望の果て
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
一緒に戦わせて下さい。僕は未熟だけど戦えます。まだやれます。
先輩達が死ぬのは嫌です。嫌なんです。
お願いします。戦わせて下さい。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」(隼人)
「おい、うるせーぞ、段場! 黙って進め、クソ野郎が!」(諏訪)
「まだ俺たちが無事に戻れる保証はないんだ、しっかりしろ!」(山下)
「しかし、生存者はいないのか? どこへ行っても仲間の遺体しか見つからない…。」(渚)
多くの仲間が死んでしまった。もうこれ以上、死人を増やしたくない。
「……。」(隼人)
「…すいません」(隼人)
「僕は戻ります!」(隼人)
隼人は、理央や亜久が戦っている地点へ引き返そうとした。
「はあ? 何を言ってやがる?」(諏訪)
「段場君、駄目だよ。」(渚)
皆の制止を振り切って、僕は先輩方の戦っていた場所へ引き返した。
「くそ、見捨てるわけにはいかん、追うぞ。」(手塚)
「…。」(諏訪)
この時、諏訪は隼人を置いて先に進むべきと考えていた。ここにいる誰もが、理央や亜久に死んでほしくないと思っている。それでも、いつかグーリエ星人を倒すべく、大勢を立て直せるよう、自らの命を懸けて逃がそうとしてくれた。その想いを無下にするような隼人の行動を、諏訪は許せなかった。
とはいえ、仲間を見捨てる行為も自衛官としてのモラルを問われる。目の前の仲間とて日本を支える国民である。諏訪は葛藤した。その結果、彼は隼人ではなく、彼を追った渚や山下の援護のつもりで動いた。
「段場君、待って!」(渚)
タタン!
渚の体が、一瞬だけ止まった。
それから、崩れ落ちた。
「…渚…さん?」(山下)
山下は、呆然と渚の名を呼んだ。だが、返事はない。彼の心は、音を立てて崩れていくようだった。多くの仲間を失い、それでも前に進もうとしていたが、親しかった渚を失ったことで、その心の支えが折れてしまう。
「馬鹿野郎が!!」(諏訪)
「うわああああああああああ、もう駄目だぁ、俺達も全滅だぁぁ。」(木山)
隼人達、若手隊員の下に現れた帝国兵は、先程まで戦闘していた兵士だった。しかも、紅林を残虐なやり方で殺したハーピー族もいた。
「モナ、ウィーチ、チムスは突撃しな! あたしとアレーシャは援護するよ。」(チヒア・ヒッツ陸軍軍曹)
「了解!」(モナ、ウィーチ、チムス、アレーシャ)
ヒッツは、隼人達が撤退する際のやり取りを上空から観察していた。会話の内容は聞き取れなかったが、身振り手振りや表情で、隼人は撤退を拒んでいることを察した。彼らの後を追うと、隼人が引き返していた。
「あいつ(隼人)は、組織の歯車としては脆い。ならば、敢えて生かしていこう。」(ヒッツ)
ヒッツは敢えて隼人を狙わず、その後ろで隼人を追っていた渚に狙いを定めた。ヒッツは渚の人となりを知らない。しかし、撤退している彼らの中で、渚は頼れる兄貴分だった。渚の死により、山下や諏訪は動揺した。
「(これで、奴等の連携は瓦解する。あとは、じっくりと痛ぶればいい。)」(ヒッツ)
「上空に敵兵5体。あ、あいつらは…。」(坂下)
「あ、あああ……。上官は……負けたの?」(坂下)
手隊員達に絶望が広がる。しかし、1人だけは違った。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」(杏南)
タタタタン! タタタタン!
突撃してくるハーピー族に1人立ち向かう杏南。1体を仕留め、残り2体となった所で、銃弾が尽きてしまう。
「(弾がなければ銃剣で殺す!)」(杏南)
ハーピー族の攻撃を巧みに受け流しながら、敵兵を切り付ける杏南だったが、怪我の影響で動きが重い。
「(あいつ…まだ動けるのか!?)(ヒッツ)
パァン!
「うっ…。」(杏南)
「ああ! 怪我している足が…。」(坂下)
ハーピー族2体を仕留めることが出来ず、更には上空からの狙撃により、杏南は更に負傷を重ねる。
「あの小娘さえ殺せば、後は楽になる。」(アレーシャ・モザット陸軍兵士長)
「苫米地ばかりに頼るな! 俺達もやるぞ!」(手塚)
「おう!」(諏訪)
タタタタン! タタタタン!
皆が絶望に打ちひしがれる中、我に返った手塚と諏訪が、慌ててハーピー族へ銃口を向けるも、モザットの銃撃がそれを阻む。手塚は顎を撃ち抜かれ戦死。諏訪も、足を撃たれ負傷する。
「ああ、手塚さん、諏訪さん…。」(坂下)
「これであの小娘を殺せば、戦える奴はいなくなる。」(ヒッツ)
杏南に銃口を向けるヒッツ。 渚と手塚の死、杏南や諏訪の負傷。「――もう駄目だ。」 その言葉が皆の頭によぎる。
パァン!
糸原は弾道がスローモーションに見えた。故に悟った。「この銃撃で、私は死ぬ…」
糸原は杏南に助けてもらい、彼女へ恩義を感じていた。そして、グーリエ星人を倒し、平和を取り戻す希望だとも…。
昨晩、坂下に話していた。
「苫米地杏南…あの子に助けられなかったら、私達は死んでいた。あの子は希望だ。だから私は、この戦いで命を懸けてでもあの子を守る。その時は、止めてくれるなよ。」
「糸原さん…」(坂下)
ヒッツが放った銃弾は、糸原の心臓を撃ち抜く。
「糸原さん!」(杏南)
「苫米地…あんたは生きろ、生きて…みんなの…」(糸原)
糸原は息絶えた。
「糸原さん……早すぎるよ…」(坂下)
糸原の覚悟を聞いていた坂下だったが、ここまで早い別れになるとは思わなかった。
「どうする……そうすれば…」(隼人)
この絶体絶命の窮地、僕にはどうすることも出来なかった。
――湯河原にて――
「うおあああああああああああああああああああああああああああああああああああ」(朱杏)
湯河原町では、獣のような雄叫びがこだました。
その声の主は角南朱杏。9月30日に湯河原町へ進軍した帝国兵と戦闘が始まり、それから丸一日以上戦っていた。弾薬はとうに尽き、銃剣も折れて使い物にならなくなった。それでも、鹵獲した刀剣で敵兵に斬りかかる。
「なんて奴…。中尉殿、もう我々3人だけです。」(カムロ)
「狼狽えるな! 奴ももう虫の息だ。我々でとどめを刺すぞ!」(アルキオ)
24時間以上、大勢の敵をたった1人で倒していた角南、限界はとっくに超えていた。
「距離を取って白兵戦は回避だ。中距離を保ち、ハチの巣にしろ!」(アルキオ)
タタタタン! タタタタン! タタタタン! タタタタン!
「うぐ…。」(朱杏)
中距離を保った敵兵からの銃撃に、左足を射抜かれた朱杏は、その場に倒れこむ。
「(かすり傷。まだ戦える…。)」(朱杏)
「うおおおおおおおおおおおおおおおお」(朱杏)
己を奮い立たせ立ち上がる角南。しかし、疲労の色が濃く、状況は絶望的である。
湯河原、真鶴、石橋と3ヶ所に築いた兵站拠点は全て潰され、補給が断たれた自衛隊は、各所で物資が尽き始める。
――石橋――
「くそがっ…。もう弾がねぇ。」(益子)
「おい、矢戸、聞こえるか? せってー死ぬんじゃねーぞ。俺が必ず、お前を連れて帰るからな。」(益子)
益子は、腹を抑えてうずくまる矢戸を背負う。矢戸は意識が朦朧としており、時折、うめき声のようなものを漏らす。益子自身も、足を怪我して上手く歩けていない。
――大月市では――
一度、帝国軍を追い払った大月でも、9月30日、再び戦闘が始まっていた。33普連の援軍もあり、何とか戦線を保っていたが、先遣部隊(13普連や31普連等)の疲労が色濃く出始め、戦況が劣勢になっていった。
「村西三尉!」(室)
「俺はもう駄目だ…。お前達、後を頼む…。」(村西)
敵の猛攻を受け、村西は戦死。援護にきた赤松も負傷。
「くそ、もう弾薬がない。どうすれば…。」(室)
室は、両足を負傷し、気を失っている赤松を抱えていた。まともに戦える状態ではなく、退却も難しい。
「俺が退路を開く。お前たちは引け!」(ハチヤ)
「特戦群! 感謝する!」(室)
「一人でかっこつけるなよ。俺も手伝うぜ、相棒」(タキ)
「俺達はもう、次の任務は出来そうにないな。よし、なら、一人でも多く仲間を救って、一人でも多くグーリエ星人を道ずれにしようぜ…。」(ハチヤ)
――利根川近郊では――
「くそがああああ、死んでたまるかよ!」(有働)
「ああ、中隊長!」(寄充)
「嵯音丸、ここはもう駄目だ。撤退しよう。」(寄充)
「どこに逃げ場があるんだよ!」(有働)
「俺達で切り開くんだ!」(寄充)
「こんな時にカッコいいこと言ってんじゃねぇよ!」(有働)
――熱海――
「隊長、敵海兵が静岡市に上陸しました。」
「くそ、読みが外れたか…。第2、3、4小隊は急ぎ向かえ! 進軍を止めろ!」(久宝将弘:くほう まさひろ:一等海佐)
「チクショウ、俺の故郷を奪われてたまるかぁ!」
敵の上陸に備えていた海上自衛隊の精鋭、特別警備隊だったが、敵の進路を読み切れず、静岡市内に上陸を許してしまった。
「豊川に援軍を申請しろ!」(久宝)
「無線がジャミングされています!」
「車でも何でも使える物は使え! 一刻を争うんだぞ!」(久宝)
国道135号線では、瀕死の羽毛を背負う厚巳の姿が。
「ああ、羽毛、羽毛―!」(厚巳)
戦線を抜け、通信も回復。もう少しで羽毛を搬送できる。だが、羽毛は力尽きてしまう。
「羽毛、羽毛…。すまねぇ。」(厚巳)
己の無力さに打ちひしがれ、その場に倒れ込む厚巳だった。
「ちくしょう、死にたくねぇ、死にたくねえよ…。誰か、誰か助けてくれ…。」(木山)
その言葉は、同じように追い詰められた各所の隊員たちの心の叫びと重なっていた。その時。
ドォン!
BOOM!
バァン!!
「ぎゃあああああああああああああああああああ」(各地の帝国兵達)
各地で爆発音が聞こえ、帝国兵達の悲鳴がこだまする。
「何だ? 何が起きた?」(要)
無線機から、ノイズ混じりの声が聞こえてくる。
「こちら、スネーク班。石橋西口地点に到着。生存者なし、敵兵多数。全段爆破を要請。どうぞ。」
「こちら、アマゾネス班。湯河原の海岸付近に到着。生存者2名、1名負傷。敵兵は全て制圧済み。どうぞ。」
「こちら、ピットブル班。箱根山岳地帯に到着。生存者6名、2名負傷し戦闘不可。敵兵は2体を仕留め、残りは2体。」(班長らしき隊員)
隼人たちに向かってきた隊員は、無線機から「ピットブル班、了解」と答えると、一人の隊員が静かに語りかける。
「もう大丈夫だよ、あなた達。」(???)
「さあ、みんな乗って!」(???)
隼人は、その言葉に安堵を覚えつつも、警戒を解くことができなかった。突如現れた5人の覆面姿のグループ。そのうちの1人から、トラックの荷台へ誘導される。あれは、73式で陸自の装備品。グーリエ星人を攻撃したので、仲間だと思うのだが…。
「あの人達は一体…」(隼人)
「あの方達は、対グーリエ星人で高い戦果を挙げた隊員を集め結成された、最強の戦闘部隊。」(山下)
「Gourie Alien Special Tactics Unit」(山下)
「通称、GASTだ。」(山下)
無線が、一瞬だけ静まり返った。
そして――
「総員、戦闘開始。」(GAST中隊長)
この一言が、全てを変える合図だった。
登場人物紹介
久宝 将弘
生年月日:1970年12月7日 / 出身:福岡県
階級:一等海佐 / 役職:海自の特殊部隊・特別警備隊の隊長
チヒア・ヒッツ
種族・性別:天使族の女性
所属・階級:帝国陸軍軍曹、小田原殲滅隊・第2歩兵連・隊7大隊16中隊47小隊
備考:上空から隼人達に奇襲を仕掛けすも、GASTからの襲撃によって死亡。
アレーシャ・モザット
種族・性別:天使族の女性
所属・階級:帝国陸軍兵士長、第47歩兵小隊
備考:GASTの襲撃により死亡
モナ・イアント
種族・性別:ハーピー族の女性
所属・階級:帝国陸軍二等兵、第47歩兵小隊
備考:杏南に突撃した際に返り討ちに遭う
ウィーチ・カファル
種族・性別:ハーピー族の女性
所属・階級:帝国陸軍二等兵、第47歩兵小隊
備考:杏南に突撃をした兵士
チムス・シーファ
種族・性別:ハーピー族の女性
所属・階級:帝国陸軍二等兵、第47歩兵小隊
備考:杏南に突撃をした兵士
タキ:本名:野田 空知
生年月日:1995年5月4日 / 出身:神奈川県
階級:三等陸曹 / 所属:特戦群3中隊
備考:大月にて戦死 / 享年:25歳
ハチヤ:本名:早乙女 准
生年月日:1995年10月13日 / 出身:大阪府
階級:三等陸曹 / 所属:特戦群3中隊
備考:大月の戦いで戦死 / 享年:25歳
段場 隼人……本編の主人公。35普連2中隊所属の二等陸士
苫米地 杏南……隼人の同期で恋人。多大な戦果を挙げるが負傷してしまう
木山 拓哉……隼人、杏南の同期。味方を誤射し、急性ストレス障害を発症
渚 恭平……隼人を止めに行った際に撃たれて死亡。享年27歳
山下 裕介……渚の同期
坂下 ジュリア……35普連3中隊の新人
糸原 ツヅラ……杏南を庇って死亡。享年25歳
手塚 泰二郎……追ってきた天使族やハーピー族に討たれる。享年26歳
諏訪 明登……謎の力に覚醒した若手
角南 朱杏……湯河原で丸一日戦っていた
益子 武朗……35普連2中隊の女癖が悪い隊員
矢戸 聡士……益子と共に行動していた
村西 孝治……経験豊富な隊員だが、大月で戦死。享年36歳
室 一鵬……12偵の三等陸曹
運天 要……隼人と杏南の同期で、分相応な英雄志向がある
厚巳 千宏……35普連4中隊の三等陸曹
羽毛 大和……湯河原で瀕死の重傷を負い、息を引き取る。享年21歳
ニャミエ・カムロ……歌が得意な人魚族
ガニー・アルキオ……朱杏と激闘を繰り広げるリザードマン
※Gourie Alien Special Tactics Unit(通称:GAST:ギャスト)
グーリエ星人の討伐数が多い隊員で構成された特殊部隊。2020年4月1日から本格始動。北海道の奪還作戦に初めて実戦投入され、領土奪還を果たす。組織としては、特殊作戦群の第5中隊という位置づけ。




