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外星戦記  作者: 無名の凡夫
第1章 初陣~オペレーション・ギデオン~

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第83話 絶望の果て

嫌だ。


嫌だ、嫌だ、嫌だ。


先輩たちを置いて逃げるなんて、そんなこと出来るはずがない。


まだ戦える。僕は未熟だけど、それでも銃は撃てる。少しでも時間を稼げる。瑛松二曹も亜久二曹も、須田二曹もまだあそこで戦っている。


一緒に戦わせてください。お願いします。


「ああああああああああああああああああああっ!」


気付けば、僕は喉が裂けるほど叫んでいた。


「おい、うるせーぞ、段場! 黙って進め、クソ野郎が!」


「まだ俺たちが無事に戻れる保証はないんだ。しっかりしろ!」


諏訪一士と山下陸士長に怒鳴られても、心は現実を受け入れられなかった。振り返れば、そこにはもう戦場しかない。置いてきた先輩たちは、今も命を削っている。


「しかし、生存者はいないのか? どこへ行っても仲間の遺体しか見つからない……。」


渚陸士長の呟きが耳に刺さる。辺りには、自衛官とグーリエ星人の亡骸が折り重なるように転がっていた。焦げた火薬の臭いと血の臭いが入り混じり、焼け焦げた樹木からは黒煙が立ち昇っている。もうこれ以上、誰にも死んでほしくなかった。


「……。」


足が止まる。このまま逃げていいのか。答えは、どう考えても出なかった。


「……すいません。」


自然と声が漏れる。


「僕は戻ります!」


僕は踵を返し、先輩たちが戦っている方向へ駆け出した。


「はあ? 何を言ってやがる!」


「段場君、駄目だよ!」


諏訪一士と渚陸士長が止めたが、2人の制止も聞こえなかった。あの人たちを置いて逃げるなんて、僕には出来ない。その背中を、手塚たちも追い始める。


「くそ、見捨てるわけにはいかん、追うぞ。」




一方で、諏訪だけは動かなかった。険しい表情のまま隼人を見送り、苦々しく唇を噛み締める。


須田二曹たちは、自分たちが生き延びるためではない。未来を託すために、命を懸けて殿を買って出た。その覚悟を無駄にしてはならない。諏訪はそう理解していた。


それでも、仲間を見捨てることもまた、自衛官として許せない。葛藤の末、諏訪は隼人ではなく、僕を追った仲間を援護するため走り出した。




「段場君、待って!」


渚陸士長が僕との距離を詰めようとした、その瞬間だった。


乾いた銃声が、戦場に響く。渚陸士長の身体が不自然に止まり、そのまま力なく崩れ落ちた。


「……渚さん?」


山下陸士長が呆然と名前を呼ぶ。返事はない。山下陸士長の表情から血の気が引いていく。多くの仲間を失いながら、それでも気丈に皆を支えてきた渚陸士長。その死は、山下陸士長の心を音を立てて砕いたのだ。


「馬鹿野郎が!!」


諏訪一士の怒号が山中に響く。


「うわああああああ! もう駄目だぁ! 俺たちも全滅だぁ!」


木山の悲鳴が、絶望をさらに広げた。僕たちの前へ姿を現したのは、さっきまで戦っていたグーリエ兵たちだった。しかも、その中には紅林陸士長を玩具のように弄び、命を奪ったハーピー族の姿もある。


上空から舞い降りた女兵士が、冷静に部下へ命じた。


「モナ、ウィーチ、チムスは突撃しな! あたしとアレーシャは援護するよ。」


「了解!」


上空では、天使族の軍曹チヒア・ヒッツが冷静に戦場を見下ろしていた。


撤退する自衛隊員たちの会話までは聞き取れない。しかし、身振りや表情だけで十分だった。一人の若い隊員だけが命令に逆らい、引き返そうとしている。その後を、仲間たちが慌てて追う。組織の統制が乱れ始めていることを、ヒッツは瞬時に見抜いた。


(あいつは組織の歯車としては脆い。ならば、あえて生かす。)


狙うべきは先頭ではない。その後ろで仲間を追う隊員。


ヒッツは敢えて隼人を狙わず、その後ろで隼人を追っていた渚に狙いを定めた。ヒッツは渚の人となりを知らない。しかし、撤退している彼らの中で、渚は頼れる兄貴分だった。渚の死により、山下や諏訪は動揺した。


(これで、奴等の連携は瓦解する。あとは、じっくりと痛ぶればいい。)


「上空に敵兵5体……。あ、あいつらは……。」


坂下の声が震える。


「……ああ……。上官は……負けたの?」


誰も答えられなかった。あの人たちが負けるはずはない。そう信じたい。それでも、ここへ敵が現れたという事実だけが、残酷な現実を突き付けていた。絶望が、僕たちを静かに飲み込んでいく。


 ――その中で、一人だけ前へ踏み出す者がいた。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


杏南だった。負傷した身体を引きずりながら、それでも銃を構え、一直線にハーピー族へ突撃していく。銃声が連続して響き、一体が地面へ墜ちた。


しかし残る2体が左右へ散開したところで、乾いた空撃ちの音だけが戦場に響く。弾切れだった。それでも杏南は躊躇しない。銃剣を構え、そのまま敵へ飛び込んでいった。


負傷しているとは思えない鋭い踏み込みで一体へ切り付ける。しかし脚の傷は確実に動きを鈍らせていた。その様子を、上空のヒッツは冷静に見下ろしていた。


(あいつ……まだ動けるのか!?)


驚きは一瞬だった。すぐに照準を杏南の脚へ合わせ、引き金を絞る。乾いた銃声が響き、杏南の身体が大きく揺れた。


「うっ……。」


「ああ! 怪我している足が……。」


さらに一歩、杏南の動きが鈍る。


「あの小娘さえ殺せば、後は楽になる。」

アレーシャ・モザット兵士長が冷たく言い放つ。


「苫米地ばかりに頼るな! 俺達もやるぞ!」


「おう!」


我に返った手塚と諏訪が一斉に銃を構える。だが、その動きを上空からの援護射撃が遮った。銃声が重なり、手塚の顎を銃弾が撃ち抜く。諏訪も脚を撃たれ、その場へ膝をついた。


「ああ、手塚さん! 諏訪さん……。」


坂下の悲鳴が響く。戦える者が、一人、また一人と倒れていく。ヒッツは再び杏南へ照準を向けた。


渚、手塚は死に、諏訪は負傷した。杏南さえ討てば、もはや抵抗できる者はいない。


(これで終わりだ。)


銃口が静かに杏南を捉える。その瞬間だった。糸原には、不思議なくらい時間がゆっくり流れて見えた。飛来する一発の銃弾。


避けられない。この一撃で、自分は死ぬ。そう悟った。


昨夜、坂下へ話した言葉が脳裏によみがえる。


「苫米地杏南は希望だ。あの子が生きれば、きっと未来は繋がる。だから命を懸けて守る。」


その覚悟に、迷いはなかった。糸原は杏南の前へ身を投げ出す。銃弾は、その胸を正確に貫いた。


「糸原さん!」


「苫米地……あんたは生きろ、生きて……みんなの……。」


言葉は最後まで続かなかった。糸原は静かに息を引き取る。


「糸原さん……早すぎるよ……。」


坂下は崩れ落ちた。絶望は、もう限界を超えていた。僕は立ち尽くすことしかできない。どうすればいい。どうすれば、皆を救える。


答えは、どこにもなかった。




――湯河原にて――


「うおあああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


湯河原町では、獣のような雄叫びがこだました。


その声の主は角南(すなみ) 朱杏(しゅあん)。9月30日に湯河原町へ進軍した帝国兵と戦闘が始まり、それから丸一日以上戦っていた。


弾薬はとうに尽き、銃剣も折れて使い物にならなくなった。それでも、鹵獲した刀剣で敵兵に斬りかかる。


「なんて奴…。中尉殿、もう我々3人だけです。」


「狼狽えるな! 奴ももう虫の息だ。我々でとどめを刺すぞ!」

※ガニー・アルキオ海軍中尉


24時間以上、大勢の敵をたった1人で倒していた朱杏、限界はとっくに超えていた。


「距離を取って白兵戦は回避だ。中距離を保ち、ハチの巣にしろ!」


アルキオの指示により、2名の帝国兵は距離を取る。


「うぐ…。」(朱杏)


中距離を保った敵兵からの銃撃に、左足を射抜かれた朱杏は、その場に倒れこむ。


(かすり傷。まだ戦える…。)


「うおおおおおおおおおおおおおおおお」


己を奮い立たせ立ち上がる朱杏だが、しかし、疲労の色が濃く、状況は絶望的である。




――石橋――


「くそがっ…。もう弾がねぇ。」


「おい、矢戸、聞こえるか? せってー死ぬんじゃねーぞ。俺が必ず、お前を連れて帰るからな。」(益子)


益子は、腹を抑えてうずくまる矢戸を背負う。矢戸は意識が朦朧としており、時折、うめき声のようなものを漏らす。益子自身も、足を怪我して上手く歩けていない。




――熱海――


「隊長、敵海兵が静岡市に上陸しました。」


「くそ、読みが外れたか…。第2、3、4小隊は急ぎ向かえ! 進軍を止めろ!」


敵の上陸に備えていた海上自衛隊の精鋭、特別警備隊だったが、敵の進路を読み切れず、静岡市内に上陸を許してしまった。


「豊川に援軍を申請しろ!」


「無線がジャミングされています!」


「車でも何でも使える物は使え! 一刻を争うんだぞ!」




国道135号線では、瀕死の羽毛を背負う厚巳の姿が。


「ああ、羽毛、羽毛―!」


戦線を抜け、通信も回復。もう少しで羽毛を搬送できる。だが、羽毛は力尽きてしまう。


「羽毛、羽毛…。すまねぇ。」


己の無力さに打ちひしがれ、その場に倒れ込む厚巳だった。



 

湯河原、石橋、熱海。


各地でも同じように自衛隊は追い詰められていた。


弾薬は尽き、負傷者は増え、退路は断たれ、生き残った隊員たちはなお戦い続けていた。誰もが限界だった。誰もが、「もう駄目だ」と思っていた。


「ちくしょう、死にたくねぇ、死にたくねえよ…。誰か、誰か助けてくれ…。」


木山のその言葉は、同じように追い詰められた各所の隊員たちの心の叫びと重なっていた。その時だった。


「ドォンッ」という轟音が山々を震わせる。続いて、各地で爆発音と帝国兵の悲鳴が響き渡った。


「何だ……?」


誰かが呟く。


混線していた無線機へ、ノイズ混じりの通信が飛び込んできた。


「こちら、バイパー班。石橋西口地点に到着。生存者なし。敵兵多数。全段爆破を要請。」


「こちら、アマゾネス班。湯河原海岸付近に到着。生存者2名、1名負傷。敵兵は全て制圧済み。」


「こちら、ピットブル班。箱根山岳地帯に到着。生存者6名、2名負傷し戦闘不能。敵兵2体撃破、残り2体。」


僕たちの前へ現れた5人組の一人が、無線機へ静かに応答する。


「ピットブル班、了解。」


そして僕たちへ振り返り、穏やかな声で告げた。


「もう大丈夫だよ、あなた達。さあ、みんな乗って。」


誘導された先には73式大型トラックが停まっていた。


敵を攻撃したことから味方なのは分かる。それでも、顔を覆面で隠した彼らの正体だけは分からなかった。


「あの人達は一体……。」


思わず漏れた僕の呟きに、山下陸士長が静かに答える。


「対グーリエ星人戦で、特に高い戦果を挙げた隊員だけで編成された部隊だ。」


「Gourie Alien Special Tactics Unit――通称、GAST(ギャスト)。」


無線が、一瞬だけ静まり返る。やがて、1人の落ち着いた声が全周波数へ響いた。


「総員、戦闘開始。」


その一言を境に、戦場の空気が変わった。

登場人物紹介

段場だんば 隼人はやと……本編の主人公。35普連2中隊所属の二等陸士

苫米地とまべち 杏南あんな……隼人の同期で恋人。多大な戦果を挙げるが負傷してしまう

木山きやま 拓哉たくや……隼人、杏南の同期。味方を誤射し、急性ストレス障害を発症

なぎさ 恭平きょうへい……隼人を止めに行った際に撃たれて死亡。享年27歳

山下やました 裕介ゆうすけ……渚の同期

坂下さかした ジュリア……35普連3中隊の新人

糸原いとはら ツヅラ……杏南を庇って死亡。享年25歳

手塚てづか 泰二郎たいじろう……追ってきた天使族やハーピー族に討たれる。享年26歳

諏訪すわ 明登めいと……謎の力に覚醒した若手

角南すなみ 朱杏しゅあん……湯河原で丸一日戦っていた

益子ますこ 武朗たけろう……35普連2中隊の女癖が悪い隊員

矢戸やと 聡士そうし……益子と共に行動していた

厚巳あつみ 千宏ちひろ……35普連4中隊の三等陸曹

羽毛はも 大和やまと……湯河原で瀕死の重傷を負い、息を引き取る。享年21歳

チヒア・ヒッツ……天使族の女性で階級は軍曹。上空から渚を撃った

アレーシャ・モザット……天使族の女性で階級は兵士長。ヒッツの部下


モナ……モナ・イアント

ウィーチ……ウィーチ・カファル

チムス……チムス・シーファ

※3人ともハーピー族の女性で陸軍二等兵。ハーピー族の兵士は、地球侵略の際に兵役を課せられたので、二等兵のみとなっています。グーリエ星に戻れば退役します。


Gourie Alien Special Tactics Unit――GAST

対グーリエ星人戦で特に高い戦果を挙げた隊員を選抜して編成された特殊部隊。2020年4月1日に本格始動し、北海道奪還作戦で初めて実戦投入された。圧倒的な戦果を挙げ、北海道奪還の立役者となる。

組織上は特殊作戦群第5中隊に位置付けられ、少人数での独立戦闘や救出任務、敵中突破など、最も困難な任務を担う。

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ミリタリー SF ファンタジー 自衛隊 戦争
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