表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
外星戦記  作者: 無名の凡夫
第1章 初陣~オペレーション・ギデオン~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
82/261

第82話 繋げる者たち

「渚、山下、聞こえる?」


「はい。」


「新人を連れて逃げなさい。」


「瑛松二曹はどうされるのですか?」


「殿を務める。」


その一言に、空気が凍りついた。


殿――その意味は、僕にも分かった。


「……しんがり?」


思わず漏れた声は、自分でも驚くほど震えていた。そんなのは無茶だ。殿を務めるということは、最後まで敵を食い止めるということだ。生きて戻れる保証など、どこにもない。


「待ってください! 僕も残って戦います! 一緒に戦わせて下さい!」


叫びながら駆け寄ろうとした僕を、誰も責めなかった。


「ここで逃げたら、皆を見殺しにすることになる!」


それが本心だった。


仲間を置き去りにして、自分だけ生き延びるなど考えられない。


しかし、新山三曹は小さく笑った。


「お前はまだヒヨッコだ。残ったところで足手まといにしかならん。心配するな、死ぬつもりはねぇよ。」


軽口のように聞こえたが、その声には覚悟が滲んでいた。続いて亜久二曹が静かに言う。


「後輩を守るのが、先輩の務めだ。」


その言葉に続けるように、須田二曹が諏訪へ視線を向けた。


「諏訪、お前なら分かるだろ? この意味が。」


「須田二曹……」


諏訪は何も言わず目を閉じ、小さく頷いた。その姿を見て、僕は理解した。諏訪一士は分かったんだ。先輩たちが何を託そうとしているのかを。


生き残ること。


それこそが、ここで倒れた仲間たちと、これから命を懸ける先輩たちの願いなのだと。


「この戦いは負けだ。それでも、お前らは生きろ! 生きている限り、反撃のチャンスはある!」


「………了解しました……。」


山下陸士長は苦しそうに返事を絞り出した。


「渚さん、行きましょう。」


「うん、そうだね……。」


2人とも顔を上げることができない。


誰もが分かっていた。ここへ残る先輩たちは、自分たちが助かるとは思っていない。だからこそ、その命を後輩へ繋ごうとしている。


「嫌です、一緒に戦わせて下さい!」


それでも僕は食い下がった。もう誰にも死んでほしくなかった。ここで一人でも多く残れば、その分だけ助かる命が増えるかもしれない。そう思わずにはいられなかった。


「駄目だ! お前たちは生きろ! ここで死ぬ必要はない!」


「でも……。」


言い返そうとした、その瞬間だった。


吉良三尉が敵弾を浴びて倒れた。続いて浅井一曹も胸を押さえ、膝をつく。2人とも弾薬を撃ち尽くし、戦死した仲間や討ち取った敵兵の小銃を拾おうとしていた。敵は、それを読んでいた。


銃剣へ持ち替えて突撃したものの、その切っ先が届くより早く、敵の刃が浅井一曹を貫いた。


「何やってるんだ……あいつ等……。」


その言葉を最後に、浅井一曹は動かなくなった。一瞬の沈黙を、中西三曹の怒鳴り声が切り裂く。


「早く行け! このままじゃウチ等は無駄死にだ!」


亜久二曹も即座に命じる。


「手塚、糸原、お前はついていけ。渚、山下を引っ張ってやれ。」


「……了解しました。」


手塚三曹と糸原三曹の返事は短かった。坂下二士は涙をこらえながら呟く。


「皆さん……。死なないで……。」


諏訪一士が僕を振り返る。


「おい、段場! 早くしろ馬鹿野郎が!」


その時だった。杏南が、そっと僕の腕を掴んだ。


「隼人……。行こう……。」


その手は小刻みに震えていた。声も震えていた。杏南だって、本当は残りたいはずだ。いや、この場にいる誰一人として、先輩たちを置いて逃げたい者などいない。それでも――僕らが生き延びることこそが、この人たちの願いなのだ。


「撤退するぞ! このまま全滅しては意味がない!」


山下陸士長の声が響く。僕は唇を強く噛み締めた。鉄の味が口いっぱいに広がる。それでも、何一つ言葉は出なかった。ただ、胸の奥で何かが音を立てて崩れていくような気がした。


「皆、生きて帰ってね。そして、いつか絶対に勝ってね。」


瑛松二曹は穏やかな笑みを浮かべていた。その笑顔は、まるで僕たちの背中を押すためだけに作られたものだった。




「考えてたことは同じだったようだな。」


亜久が苦笑する。


「そうみたいね。」


理央も肩をすくめるように笑った。


「はあ、これで俺達もおしまいか。こんな事なら、俺達付き合っておけば良かったな。」


「私は嫌よ。これから死ぬ男になんて興味ないわ。」


「愛してるよ。」


「はいはい。」


「ちっ、連れないなぁ。」


「貴方に魅力がないからよ。」


「悲しいこと言うなよ。」


軽口を交わす2人の姿は、不思議なくらい自然だった。死を目前にしているとは思えないほど、穏やかな時間がそこには流れていた。やがて理央は前を向き、小銃を構える。


「さあ、最期の任務よ。後輩達の未来を守りましょう。」

登場人物紹介

段場だんば 隼人はやと……本編の主人公。35普連2中隊所属の二等陸士

苫米地とまべち 杏南あんな……隼人の同期で恋人。多大な戦果を挙げるが負傷してしまう

瑛松えいまつ 理央りお……35普連2中隊の二等陸曹

なぎさ 恭平きょうへい……脱サラして自衛官になった

山下やました 裕介ゆうすけ……渚の同期

坂下さかした ジュリア……35普連3中隊の新人

糸原いとはら ツヅラ……第4施設群所属の三等陸曹

手塚てづか 泰二郎たいじろう……35普連2中隊所属の三等陸曹

亜久あく 弘夏こうか……理央と同期の二等陸曹

須田すだ 寿一じゅいち……35普連2中隊の二等陸曹

新山しんやま がく……35普連2中隊の三等陸曹

中西なかにし ほたる……35普連2中隊の三等陸曹

諏訪すわ 明登めいと……謎の力に覚醒



※亜久は高校卒業後に入隊。理央は、高校卒業後に就職した会社がブラックだったので、半年で退職し、その後、自衛官の試験を受けました。会社員時代よりも自候生時代の方が理不尽さを感じていましたが、同期との絆で乗り切りました。その1人が亜久です。そして、数々の戦場を経験した結果、唯一の新人隊員教育隊での同期となってしまいました。


終盤の2人の掛け合いは、ただの軽口です。ただ、理央の「私は嫌よ」と、「貴方に魅力がないからよ。」は本心です。亜久は同期として信頼に足る存在でしたが、”男”としては魅力がなかったようです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミリタリー SF ファンタジー 自衛隊 戦争
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ