第80話 繋げる者たち
「渚、山下、聞こえる?」(理央)
「はい。」(渚、山下)
「新人を連れて逃げなさい。」(瑛松)
「瑛松二曹はどうされるのですか?」(山下)
「殿を務める。」(瑛松)
「!!」(渚、山下)
「しん…がり?」(隼人)
瑛松二曹の声は僕にも聞こえた。無茶だ。そんなの確実に死ぬじゃないか。いくら上官の命令でも、それは受け入れられない。
「待ってください!僕も残って戦います!一緒に戦わせて下さい!」(隼人)
「ここで逃げたら、皆を見殺しにすることになる!」(隼人)
「お前はまだヒヨッコだ。残ったところで足手まといにしかならん。心配するな、死ぬつもりはねぇよ。」(新山)
「後輩を守るのが、先輩の務めだ。」(亜久)
「諏訪、お前なら分かるだろ? この意味が。」(須田)
須田は、諏訪にしか分からないような、静かな目で問いかけてきた。
「須田二曹…」(諏訪)
諏訪は目を閉じた。そして、小さく頷いた。
諏訪は、言葉を詰まらせながらも、その意味を理解した。生き残ること。それが、死んでいった者たちの、そしてこれから死んでいく者たちの、唯一の望みだと。
「この戦いは負けだ。それでも、お前らは生きろ!生きている限り、反撃のチャンスはある!」(亜久)
「………了解しました…。」(山下)
「渚さん、行きましょう。」(山下)
「うん、そうだね…。」(渚)
山下も渚も、顔を上げられなかった。ここにいる皆が悟っている。先輩達は死ぬつもりだと。
「嫌です、一緒に戦わせて下さい!」(隼人)
僕は、この命令には従えなかった。もうこれ以上、仲間が死ぬのを見たくなかった。それに、ここで踏みとどまれば、助かる命が増えるかもしれない。
「駄目だ! お前たちは生きろ! ここで死ぬ必要はない!」(亜久)
「でも…。」(隼人)
僕らが押し問答をしている最中、吉良三尉が戦死。浅井一曹も重傷を負った。
吉良も浅井も弾薬が尽き、戦死した仲間や討ち取った敵兵の銃を拾おうとしたが、敵に先読みされた。銃剣に切り替えるも、その切っ先が届くことはなかった。
浅井が銃を拾おうとした瞬間、敵の刃が先に届いた。
「何やってるんだ…、あいつ等…。」(浅井)
浅井はそう言い残してこと切れる。
「早く行け! このままじゃウチ等は無駄死にだ!」(中西)
「手塚、糸原、お前はついていけ。渚、山下を引っ張ってやれ。」(亜久)
「……了解しました。」(手塚、糸原)
「皆さん…。死なないで…。」(坂下)
「おい、段場! 早くしろ馬鹿野郎が!」(諏訪)
杏南が僕の腕を掴み、か細い声で僕に言った。
「隼人…。行こう…。」(杏南)
杏南の手も、声も震えていた。杏南もここに残って戦いたいのだ。いや、他の仲間もそうだ。皆…。それでも、先輩達の覚悟を無駄にするわけにもいかない。
「撤退するぞ! このまま全滅しては意味がない!」 (山下)
「っ………。」(隼人)
僕は唇を噛み締めた。血の味がした。それでも、何も言えなかった。ただ、全身から力が抜けていくような感覚に襲われる。
「皆、生きて帰ってね。そして、いつか絶対に勝ってね。」(瑛松)
瑛松二曹のその言葉は、まるで永遠の別れを告げるかのようだった。
「考えてたことは同じだったようだな。」(亜久)
「そうみたいね。」(瑛松)
「はあ、これで俺達もおしまいか。こんな事なら、俺達付き合っておけば良かったな。」(亜久)
「私は嫌よ。これから死ぬ男になんて興味ないわ。」(瑛松)
「愛してるよ。」(亜久)
「はいはい。」(瑛松)
「ちっ、連れないなぁ。」(亜久)
「貴方に魅力がないからよ。」(瑛松)
「悲しいこと言うなよ。」(亜久)
「さあ、最期の任務よ。後輩達の未来を守りましょう。」(瑛松)
登場人物哨戒
段場 隼人……本編の主人公。35普連2中隊所属の二等陸士
苫米地 杏南……隼人の同期で恋人。多大な戦果を挙げるが負傷してしまう
木山 拓哉……隼人、杏南の同期。味方を誤射し、急性ストレス障害を発症
瑛松 理央……35普連2中隊の二等陸曹
渚 恭平……脱サラして自衛官になった
山下 裕介……渚の同期
坂下 ジュリア……35普連3中隊の新人
糸原 ツヅラ……第4施設群所属の三等陸曹
吉良 幹丈……35普連1中隊の三等陸尉
浅井 社……35普連1中隊の一等陸士
手塚 泰二郎……35普連2中隊所属の三等陸曹
亜久 弘夏……理央と同期の二等陸曹
須田 寿一……35普連2中隊の二等陸曹
新山 岳……35普連2中隊の三等陸曹
中西 蛍……35普連2中隊の三等陸曹
諏訪 明登……謎の力に覚醒
※亜久は高校卒業後に入隊。理央は、高校卒業後に就職した会社がブラックだったので、半年で退職し、その後、自衛官の試験を受けました。会社員時代よりも自候生時代の方が理不尽さを感じていましたが、同期との絆で乗り切りました。その1人が亜久です。そして、数々の戦場を経験した結果、唯一の新人隊員教育隊での同期となってしまいました。
終盤の2人の掛け合いは、ただの軽口です。ただ、理央の「私は嫌よ」と、「貴方に魅力がないからよ。」は本心です。亜久は同期として信頼に足る存在でしたが、”男”としては魅力がなかったようです。




