第79話 死を招く悲鳴
「亜久、どうしてここに?」(理央)
タタタタタン! タタタタン!
「お前が箱根へ向かってると聞いてな! 俺達もついてきた。」(亜久)
タタタタン! タタタタン!
「誰からその情報を?」(理央)
「あのポンコツ中隊長だよ! ちったぁ役に立つんだな、あのポンコツ!」(亜久)
タタタタン! タタタタン!
「上官をポンコツって言うものじゃないわ。」(理央)
タタタタン! タタタタン!
「は? なんて? 銃声で聞こえんかった!」(亜久)
「何でもない。集中して!」(理央)
タタタタン! タタタタン!
「ぐあ…。」
「ぎゃあ!」
「あの5匹が来てから、戦局が変わった。奴らは腕利きの精鋭なのか?」(ラドゥス)
「(連隊長の情報だと、あの褐色の女が要注意人物のはず。奴が怪我した今、脅威は排除したと思ったが…。)」(ドナーテ)
「(数ではこちらが優位なのに、何故?)」(ペイク)
「ああ…。」
「ぎゃああああ」
「上空の敵2体撃破!」(山下)
亜久二曹や須田二曹達が駆けつけてから、閉塞感のあった僕らは、息を吹き返したように躍動している。数ではまだグーリエ星人が圧倒しているし、杏南が怪我をして後退しているこの状況下でだ。きっと、仲間の存在だ。背後で誰かが撃つ音がする。足が止まらなかった。僕は今、仲間の存在がどれほど大きく、心強いものだと改めて実感している。
「(このまま押し切る!)」(隼人)
同じ頃、諏訪は隼人が感じているものとは違う、不思議な感覚を纏っていた。銃声が妙に遠く聞こえた。まるで、世界がスローモーションになったかのように、敵の銃弾が遅く感じ、弾道を見切れている。
「(何だ、この感覚は? 身体の奥底から、力が湧き出てくるようだ…。)」(諏訪)
被弾しないことに違和感を覚えつつも、これは好機と、積極的に仕掛ける。
「うおっ…。」(ペイク)
「小隊長、血が!?」(パルップ・アップス伍長)
「かすり傷だ、心配いらん…。」(ペイク)
「(あいつは隊長クラス。仕留めるは今!)」(諏訪)
諏訪が放った一撃が、ペイクのこめかみを撃ち抜く。
「小隊長! おのれ!」(アップス)
アップスは、怒りに打ち震え、諏訪を目掛けて発砲する。木の陰に隠れ隙を伺う中、手塚の放った一撃が、アップスの肩を射抜いた。
「くそ、利き腕をやられた…。」(アップス)
「しくじった…。」(手塚)
「十分よ。」(理央)
タタタタン!
アップスが岩陰に隠れる寸前、瑛松が放った銃弾が、アップスの頭部にヒットした。
「(行ける、この窮地を乗り切れる!)」(隼人)
隼人は、確かな手応えを感じていた。戦況が変わったのは、隼人の推測通りで、亜久達の援軍によって奮い立てた事だった。彼らとの絆がこの窮地の中、再び勇気を与え、実力以上の力を発揮した。数的不利の中、戦局を優位に進めることが出来た。
しかし、それは一時的なものに過ぎない。彼らは今、実力以上の力を出している。それは、体力の損耗を意味し、何かの弾みで疲労が顕著になり、集中力の低下を招く危険性がある。そして、その時は早くも訪れた。
「百合果さんが……、死にました…。」(東雲)
「弾薬が尽きた…。」(浅井)
「まずい、俺も弾薬が少ない。このままでは…。」(久里浜)
「ぎゃああああ」(久木田)
「久木田!」(一橋)
状況が一変した。北嶺の死、弾薬が少なくなり、集中力が切れたところで久木田も戦死。各隊員に疲労が色濃く出て、再び絶望的な状況となった。
「あ、あ…。うわあああああああ」(木山)
木山の悲鳴が合図だった。
「今だ!」(タイテリオン)
タイテリオンがある部隊に指示を送る。
「あ、あああ…。」(木山)
「上空に天使族ほか、10体!」(奥戸)
木山が上空の敵に気付き、空を見上げると、上空の天使族からの砲撃が僕らを襲う。
「伏せろー!」(久里浜)
その砲撃は、僕らが戦っていた半径1kmほどの範囲を、瞬く間に巨大な霧で覆いつくした。
「(毒?)」(隼人)
「(これは、あの時の…!)」(亜久)
「(う、動けない…)」(中西)
霧が流れ去ると、僕らの目の前に現れたのは、上半身が人間、下半身が蛇の姿をしたグーリエ星人が5体。ラミア族だ。このラミア族は、久里浜中隊長、奥戸三曹、東雲三曹、一橋一士に巻き付いていた。
「ぐわあああああ」(奥戸)
「うわああああ、誰か、助けて…。」(東雲)
「救援しろ!」(亜久)
慌てて、ラミア族に攻撃を仕掛けようとするも、新たな伏兵が立ちはだかる。僕らの攻撃は、ラミア族に当たることなく、ラミア族に巻き付かれた4人から、全身の骨が折れる音がし、そして、亡くなった。
「くそ、また伏兵かよ!」(山下)
「伏兵が好きだな! チクショウ…」(諏訪)
「もう、弾も少ないのに…。」(渚)
「友貞中隊長! あそこで仲間が戦っています!」(水野海三曹)
「加勢するぞ!」(友貞萃三等陸佐)
「援軍!」(隼人)
「あれは、中即連!」(諏訪)
「助かった…。」(木山)
30日、各地で帝国軍の電波妨害を受け、戦況が悪化していると判断した有朋が、中央即応連隊に援軍要請を行っていた。
精鋭部隊の援軍に僕は安堵したが、しかし、そう甘くはなかった。
「ぎゃあああああ」
「がはっ…。」
「わあああああああああああ」
「な、何だこいつは!?」
援軍に来てくれた中即連の下へ、黒い影が走る。次の瞬間、中即連の隊員が宙を舞った。
その黒い影は、兎のような見た目だが、筋骨隆々の身体で、ツキノワグマみたいだった。
「さ、さすがエヌダル准尉」(ラドゥス)
「中即連の精鋭が、歯が立たない…!?」(中西)
「あいつは、ヤバい…。」(新山)
「うわあああああああああ、来るなぁぁぁぁ」(木山)
「木山!?」(隼人)
木山の方を振り向くと、ハーピー族?と思われるグーリエ星人が、木山と紅林士長に襲い掛かる。木山は武器を持っておらず、紅林士長は怪我で思うように動けない。
「2人を助けないと…。」(隼人)
しかし、近づくことが出来ない。
「いやああああああああああああああ」(紅林)
ハーピー族が、紅林士長を掴み、上空へ連れて行く。ハーピー族のグーリエ星人は、紅林士長をまるでボールで遊ぶかのように、3体でラリーを繰り返す。
「あがああああああああああああ。」(紅林)
紅林士長の体が空中で放り投げられる。そのたびに、骨の折れる音が空に響いた。
紅林士長の悲鳴は、やがて意味をなさない絶叫となり、空に響き渡る。上空で紅林士長の悲鳴を聞きながら、応戦する状況に、心をかき乱される。今、僕らに上空の敵を迎撃できる装備はない。紅林士長を見殺しにするしかなかった。そして、ハーピー族は紅林士長の体を地面に叩きつけ、その命を絶った。
「ぎゃああああ。」
「ぐああああああ。」
「何なんだアイツは…。」(友貞)
「強すぎる…。」(水野)
援軍に来てくれた中即連も、次々と蹂躙されていく。あの黒い物体は、筋骨隆々の兎だった。目のも止まらぬスピードと、圧倒的なフィジカルで銃弾を弾き返し、相手の懐に入っては刀剣を突き刺していく。
「総員、撤退だ! ここにいる者達を含め、退却するぞ!」(友貞)
「退路は確保してある! ついて来い!」(友貞)
友貞が悲痛の叫びで撤退を促す。しかし、中即連が確保していた退路には、1個小隊が立ちはだかっていた。
「中隊長! 退路を塞がれました!」(水野)
「もう一度、切り開くぞ!」(友貞)
「待て!」(クックス)
「逃がさない!」(ラドゥス)
タタタタン! タタタタン! タタタタン!
「ぎゃあああああ」(水野)
「くそ……」(友貞)
最期まで粘り強く戦っていた中即連の中隊長・友貞や水野も敵銃弾に倒れ、援軍に来たはずの中即連が全滅した。
「マジかよ…。援軍に来た中即連が全滅…。」(浅井)
「……流石にこれは、駄目かもしれんな…。」(吉良)
「……」(須田)
須田は、ふと諏訪の方に目を向ける。
「(あいつ、この戦いの中で逞しくなっているな。貪欲に学ぶ姿勢は元からあったが、実力が着いてきている。このまま死なすわけにはいかないな。)」(須田)
「(苫米地杏南、優秀な新人だと聞いていたけど想像以上だった。あの子がいれば、きっとグーリエ星人を倒してくれる。)」(理央)
「(山下、お前は生きろ。生きて将来、リーダーとして後輩たちを支えてやれ。諏訪も逞しくなったし、苫米地の強さは想像以上だった。この3人は、35普連隊の希望だ。)」(亜久)
「先輩方、何か覚悟を決めたみたいだ…。」(新山)
「仕方ない、同じ中隊ですし…。うち等も付き合いますか。」(中西)
中西は諦めに近いため息をついた。
「俺は嫌だね、逃げるよ。死にたくない。」(新山)
「いいシーンなんだから、そんな事言わない!」(中西)
「死にたくない」と語る新山だが、その目は覚悟が決まっていた。
彼らは、この戦いを通じて、若手隊員の成長を感じていた。そして、この有望な彼らが、きっとグーリエ星人を倒し、この世界に平和をもたらしてくれる事を信じ、命を賭して守ると決意した。
「(死なせない。)(理央)
「(あいつ等は希望だ。)」(亜久)
「(この命に替えても、守る価値がある。)」(須田)
絶対に守る!
登場人物紹
友貞 萃
生年月日:1976年5月14日 / 出身:東京都
階級:三等陸佐 / 役職:中央即応連隊第3普通科中隊の中隊長
備考:隼人達が戦っている所へ、援軍として駆けつけるも、黒兎のグーリエ星人によって討たれる。
享年:44歳
水野 海
生年月日:1992年9月4日 / 出身:栃木県
階級:三等陸曹 / 所属:中央即応連隊情報小隊
備考:隼人達が戦っている所へ、援軍として駆けつけるも、黒兎のグーリエ星人によって討たれる。
享年:28歳
パルップ・アップス
種族・性別:狐型獣人族の男性、九尾狐
所属・階級:陸軍准尉、第40歩兵小隊
備考:理央に討たれる
アスペイディー・エヌダル
種族・性別:兎型獣人族の男性
所属・階級:陸軍准尉で、第2歩兵連隊第13中隊40小隊
備考:兎の範疇を超えたスピードとパワーを兼ね備える「黒い物体」
段場 隼人……本編の主人公。35普連2中隊所属の二等陸士
苫米地 杏南……隼人の同期で恋人。多大な戦果を挙げるが負傷してしまう
木山 拓哉……隼人、杏南の同期。味方を誤射し、急性ストレス障害を発症
瑛松 理央……35普連2中隊の二等陸曹
渚 恭平……脱サラして自衛官になった
山下 裕介……渚の同期
一橋 剛……ラミア族に巻き付かれて内臓と骨を粉砕される。享年20歳
久木田 怜……35普連1中隊の新人、戦死。享年19歳
東雲 舞夢……ラミ族に巻き付かれて、内臓と骨を粉砕されせ死亡。享年27歳
紅林 珠……ハーピー族に空中から叩きつけられて死亡。享年23歳
北嶺 百合果……出血が止まらず死亡。享年21歳
坂下 ジュリア……35普連3中隊の新人
久里浜 良仁……ラミア族に巻き付かれて内臓と骨を粉砕されて死亡。享年41歳
吉良 幹丈……35普連1中隊の三等陸尉
浅井 社……35普連1中隊の一等陸士
奥戸 健太……ラミア族に巻き付かれて内臓と骨を粉砕されて死亡。享年25歳
手塚 泰二郎……35普連2中隊所属の三等陸曹
亜久 弘夏……理央と同期の二等陸曹
須田 寿一……35普連2中隊の二等陸曹
新山 岳……35普連2中隊の三等陸曹
中西 蛍……35普連2中隊の三等陸曹
諏訪 明登……35普連2中隊の一等陸士
ステイシー・ラドゥス……タイテリオンの連隊に所属
トイ・クックス……北嶺を撃った兵士
フェクンダ・ペイク……諏訪に討たれる
ブラキウ・ドナーテ……タイテリオンの連隊に所属。中隊長の1人
ペーリ・タイテリオン……名前を呼ばれると自己紹介をする連隊長
グーリエ星に存在する種族
ハーピー族……鋭いくちばしに、腕に大きな羽がある種族。鳥人族と違い、羽に手が隠れているわけではないので、物はくちばしか足で掴む。羽での攻撃は強烈で、人間ならば致命傷になる。また、拳銃程度の火力ならば、羽を傷つけることは出来ない。フィジカルにおいては、天使族をも凌ぎ、天使族よりも速く長く高く飛べる。現代戦争には向かない種族だが、その圧倒的なフィジカルは、対地球人には有効と判断し、急遽鍛えられて招集された。
※紅林をボールみたく遊んでいた時は、かなり加減をしていました。これは、自衛隊に対する挑発行動で、ハーピー族の習性ではありません。
※2)奇襲に参加した5体のラミア族の残り1体は、杏南に向かっていきましたが、杏南に倒されています。
※3)ラミア族が登場する前に使用された霧は、第50話に出てきた「重力霧」です。この範囲内では、身体へかかる負荷が大きく、身動きを満足に取れません。グーリエ星人は、高い身体能力によって普段と同じ動きが出来る個体も多いのですが、万全を期すため、専用のワクチンを打って対処しています。




