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外星戦記  作者: 無名の凡夫
第1章 初陣~オペレーション・ギデオン~

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第79話 包囲網

――2020年9月30日 18時00分 陸上自衛隊座間基地(現・テリムト軍座間基地)――


数時間前、司令部では、戦闘記録の映像が大型モニターへ次々と映し出されていた。


エレナ・ポートレミ中佐は、顎に手を当てながら興味深そうに映像を眺めている。


「ふむふむ。」


その隣で資料を整理していたゾーリー・ゴア准将が声を掛けた。


「どうしました? ポートレミ中佐。」


「准将殿~、上官なんだから敬語は止めてにゃ~。」


「いやぁ、ポートレミ中佐の方が年上なので、つい……。」


「ははは、エルフは長寿だからね~。」


軽く笑ったポートレミだったが、次の瞬間、その表情は真剣なものへ変わった。映像が停止する。そこには、一人の若い女性自衛官が映っていた。


苫米地杏南――戦闘の最中でも冷静に照準を合わせ、次々と帝国兵を撃ち倒していく姿が記録されている。


「それよりも……このトマベチって兵士、かなり強いよ。まだ新兵らしいけど、相当強い。この兵士……放置すると面倒になるにゃあ。」


ゴアも映像へ目を向け、小さく頷いた。


「……確かに脅威ですね。放置はできません。このルート、どうやら箱根へ向かっていますね。」


彼はすぐさま通信機へ手を伸ばす。


「タイテリオン中佐、応答願います。」


ほどなく重厚な声が返ってきた。


「うむ、我こそが、小田原殲滅隊・第2歩兵連隊長、ペーリ・タイテリオン陸軍中佐である!」


「中佐の連隊が控えている付近に、手練れの兵士がいます。今、情報を送りますね。」


送信された戦闘映像を見たタイテリオンは、感心したように眉を上げた。


「ほう、この小柄な娘がのう。見かけによらないものだ。」


「箱根方面へ向かっています。本陣へ戻る可能性が高いので、その前に潰してください。移動経路はこちらで逐次送ります。」


「うむ。このペーリ・タイテリオン率いる第2歩兵連隊に任せよ。」


通信はそこで終わる。


ゴアは静かにモニターを見つめた。自衛隊はまだ気付いていない。帝国軍は一人の兵士を危険人物と判断し、その動きを追跡し始めていた。その標的こそが、苫米地杏南だった。彼女を中心にした包囲網は、この時すでに完成しつつあったのである。


    


――湯本――


「連隊長! 目的の地点に到着。ターゲットは、シッポ少尉の小隊と戦闘中です。現在戦線は不利。これより援護します。」


ブラキウ・ドナーテ中尉の報告を受けると、タイテリオンは腕を組んだまま首を横へ振った。


「うむ、我こそが、小田原殲滅隊・第2歩兵連隊・連隊長、ペーリ・タイテリオン陸軍中佐である!」


(この人はいちいち自己紹介しないと気が済まないのかな……。)


ドナーテは内心でため息をつきながら命令を待つ。


「いや、お前たちはそこで控えろ。奴らが小隊を倒してから出撃だ。」


「しかし、それでは仲間が……。」


「まずはターゲットの殺害が優先だ。例え、仲間を犠牲にしてもだ。」


ドナーテは絶句した。


「そんな……。」


「仲間が死ぬのは覚悟の上だ。」


その口調には一切の迷いがない。


「……了解しました。」


命令は絶対だった。ドナーテは複雑な思いを抱えながらも部隊を待機させるしかなかった。


    


――そして現在――


乾いた銃声が山中へ響き渡る。


「まずい、北嶺を早く処置しないと……。出血が酷い……。」


糸原の焦った声が飛ぶ。吉良も敵弾を避けながら叫んだ。


「しかし、先に敵を退けないと近寄ることすら出来ない!」


腹部を撃ち抜かれた北嶺は苦痛に顔を歪め、地面を掻きむしる。


「あああああ……痛い……痛い……。嫌だ、死にたくない!」


その悲鳴は銃声を突き抜けるように耳へ刺さった。僕たちは一斉に応戦を始める。敵は1個中隊。こちらは寄せ集めの2個分隊程度しかいない。兵力でも装備でも圧倒的に劣勢だった。


それでも撃つしかない。生き残るためには、それしか方法がなかった。


「大丈夫、大丈夫だから!」


東雲は必死に叫ぶ。しかし北嶺のもとへ駆け寄ることもできない。


(血が止まらない……。このままでは……。)


歯を食いしばるしかなかった。その時だった。


「紅林士長!?」


木山が叫ぶ。眼窩底骨折で戦闘不能だった紅林が、ふらつきながら立ち上がっていた。


(私は何も役に立っていない……。これくらいはしないと!)


自分を責めるような表情で、北嶺のもとへ歩き出そうとする。


「待て、紅林! 止まれ!」


手塚が怒鳴る。だが銃声にかき消され、届かない。


「くそ、聞こえていないか……。」


手塚は一瞬で判断した。


「渚、山下! 紅林と北嶺を回収する! 木山はここに残り、紅林の面倒を見ろ!」


「了解!」


「は、はい……。」


3人は銃弾が飛び交う中へ飛び出していった。その様子を、少し離れた尾根からドナーテは冷静に見つめていた。


「ドナーテ中尉! 敵の動きを阻止します!」


ステイシー・ラドゥス上等兵が前へ出ようとする。


「ステイシー、控えろ。」


ドナーテは静かに制止した。


紅林(あの女)は、我々からすれば自ら餌場へ飛び込んできた獲物と同じだ。そして、それを助けに来る兵士もろとも、一網打尽にする。」


彼は部下へ次々と命令を飛ばす。


「40小隊は左翼から回り込み、敵の救助部隊を側面から釘付けにしろ。41小隊は正面から押し込め。39小隊は右翼の岩場へ展開し、狙撃手を警戒しろ。」


そして最後に付け加えた。


「クックス、貴様は39小隊へ入れ。」


「了解しました。」


帝国軍は最初から救助に動くことまで計算に入れて包囲を狭めていた。


一方、自衛隊側でも浅井が敵の動きを察知する。


「吉良三尉! 敵が3方向から来ます! 左翼が薄い!」


久里浜は即座に怒鳴った。


「段場! 浅井と奥戸に遅れるな! 冷静に引き金を絞れ!」


その一喝で、震えそうになっていた僕の意識が現実へ引き戻される。斜面の向こうからは、次々と帝国兵が姿を現していた。


数が違う。圧倒的すぎる。


(まずは、北嶺さんへ向かう敵を倒す!)


杏南は照準を左翼へ切り替え、救助班へ迫る第40小隊へ狙いを定めた。引き金を絞る。乾いた発砲音が山へ響き、帝国兵が次々と倒れていく。


「ぐわっ!」


「ぎゃっ!」


「狙撃手か!?」


「いや、ターゲットの小娘だ!」


正確無比な狙撃によって、第40小隊の前進は完全に止められた。


その映像を遠く座間基地で見ていたポートレミは、思わず口元を緩める。


「この兵士……面白いにゃ。」




一方、僕は杏南の射撃を目の当たりにし、思わず息を呑んだ。


(す……凄い。)


戦場へ出てから強くなったのではない。最初から、あれほどの実力を秘めていたのだ。そう理解した瞬間だった。




手塚が閃光手榴弾で時間を稼いでいた頃、中央の防御線も限界へと近づいていた。


「中央! 正面(41小隊)の火力が上がりすぎているぞ! 押し込まれる!」


吉良の怒号が尾根に響く。帝国軍第41小隊は数を頼みに正面から圧力を強め、左右へ展開した部隊もじわじわと包囲を狭めていた。銃声は絶えることなく山肌を叩き、土煙と木片が雨のように降り注ぐ。


浅井は岩陰へ身を伏せながら応射を続けるが、弾倉は瞬く間に空になっていく。


(くそ、弾が足りない!)


焦りを押し殺しながら新しい弾倉を叩き込み、再び照準を合わせる。しかし撃っても撃っても、敵は止まらない。倒した以上の兵が尾根の向こうから現れ、じりじりと距離を詰めてくる。


吉良は小銃の弾切れを確認すると、迷うことなく背中へ担ぎ直し、窪地に置かれていた軽MATの発射機を抱え上げた。


「一橋! 弾を!」


「はい!」


一橋は慌てて弾薬箱を開き、一本の弾体を取り出して吉良へ放る。それを受け取った吉良は、一瞬だけ眉をひそめた。


「吉良三尉! 軽MATじゃありません!」


手渡されたのは対戦車弾ではなく、対人榴弾だった。しかし吉良は迷わなかった。


「……上等だ!」


即座に装填し、敵兵が密集する斜面へ照準を定める。轟音とともに榴弾が発射され、一直線に飛翔した弾体は41小隊の中央付近で炸裂した。猛烈な爆風が土砂と破片を巻き上げ、前進していた帝国兵たちを吹き飛ばす。


「伏せろ!」


「散開しろ!」


敵陣形が一瞬だけ乱れた。久里浜は、そのわずかな隙を見逃さなかった。


(今のうちに立て直す……!)


鋭い視線で周囲を見渡す。敵は3方向。退路はない。それでも指揮官として、次の一手を打ち続けなければ全滅する。


「吉良! 中央の火力を維持しろ! 一橋、久木田は上空を警戒! 浅井、左翼は一歩も下げるな!」


「了解!」


隊員たちは即座に応じ、それぞれの持ち場で応射を再開した。


その頃、手塚たちは閃光手榴弾が生んだわずかな空白を利用し、必死に負傷者を後送していた。


渚は紅林を肩へ担ぎ、山下は北嶺を引きずるように支えながら岩陰へ向かう。だが、その背後では40小隊がすでに態勢を立て直していた。


「目が見えるようになったぞ!」


「逃がすな!」


フェクンダ・ペイク少尉の怒号とともに帝国兵が再び突撃を開始する。その先頭に立つクックスは怒りに顔を歪めていた。


「くそっ、止まれ!」


銃弾が岩肌を削り、火花が散る。


手塚は身を翻すように岩陰へ飛び込み、振り返りざまに二点射を浴びせた。先頭を走っていた帝国兵が崩れ落ちる。しかし、それでも敵の勢いは止まらない。


数が違う。1人倒せば、その後ろから2人、3人と飛び出してくる。手塚は歯を食いしばった。


(このままじゃ追いつかれる……!)


その瞬間だった。乾いた狙撃音が尾根に響いた。クックスの隣を走っていた帝国兵の額が弾け飛ぶ。さらに2発、3発。立て続けに40小隊の兵士が倒れた。


「またあの狙撃手か!」


「ターゲットの娘だ!」


苫米地杏南だった。負傷した足を庇いながらも、彼女は照準だけは微塵も狂わせない。一発ごとに敵兵を確実に減らしていく。ドナーテはその射撃を見据え、静かに目を細めた。


(やはり狙うべきは、あの娘だ。)


敵味方入り乱れる混戦の中でも、杏南だけは別格だった。彼女が一人いるだけで、包囲の速度が明らかに鈍る。だからこそ、この中隊は最初から彼女を封じるために配置されていた。


「39小隊!」


ドナーテの声が響く。


「狙撃手を自由に撃たせるな! 岩場を押さえろ! 必ず包囲を完成させる!」


「了解!」


39小隊は岩場へ散開し、杏南へ向けて集中的に射撃を開始した。弾丸が次々と岩を砕き、破片が飛び散る。杏南は身を伏せながら位置を変え、再び照準を合わせる。


しかし今度は敵も学習していた。1人が姿を晒して囮となり、別方向から別の兵士が回り込んでくる。


「苫米地!」


理央が叫ぶ。


「右!」


杏南は反射的に体を捻り、間一髪で銃剣の一撃を避けた。その隙を理央が正確な射撃で補い、敵兵を撃ち倒す。坂下もすぐさま応射し、接近してきた鬼人族を仕留めた。それでも敵の圧力は衰えない。包囲網は、確実に狭まり続けていた。


久里浜は戦場全体を見渡した。北嶺の救出には成功した。紅林も離脱させた。しかし、その代償として敵中隊は完全に自分たちを取り囲みつつある。


帝国軍の狙いは明白だった。単なる殲滅ではない。最も危険な狙撃手――苫米地杏南を、この山中で確実に仕留めること。そのためだけに張り巡らされた包囲網が、静かに、しかし確実に閉じ始めていた。

登場人物紹介

ペーリ・タイテリオン

種族・性別:エルダードワーフの男性

所属・階級:帝国陸軍中佐、第2歩兵連隊連隊長

備考:名前を呼ばれると、自己紹介をする癖がある。


段場だんば 隼人はやと……本編の主人公。35普連2中隊所属の二等陸士

苫米地とまべち 杏南あんな……隼人の同期で恋人

木山きやま 拓哉たくや……隼人、杏南の同期。味方を誤射し、急性ストレス障害を発症

瑛松えいまつ 理央りお……35普連2中隊の二等陸曹。

なぎさ 恭平きょうへい……脱サラして自衛官になった

山下やました 裕介ゆうすけ……渚の同期

一橋ひとつばし ごう……35普連1中隊の一等陸士

久木田くきた れい……35普連1中隊の新人

東雲しののめ 舞夢まいむ……34普連衛生小隊

糸原いとはらツヅラ……第4施設群所属の三等陸曹

紅林くればやし たま……眼窩底骨折の疑いあり

北嶺きたみね 百合果ゆりか……出血が止まらず、絶体絶命

坂下さかした ジュリア……35普連3中隊の新人

久里浜くりはま 良仁よしと……35普連3中隊の中隊長

吉良きら 幹丈かんじ……35普連1中隊の三等陸尉

浅井あさい やしろ……35普連1中隊の一等陸士

奥戸おくと 健太けんた……35普連3中隊の三等陸曹

手塚てづか 泰二郎たいじろう……35普連2中隊所属の三等陸曹

芦屋あしや じん……10通2中の三等陸曹

エレナ・ポートレミ……テリムト情報参謀長兼分析担当

ゾーリー・ゴア……テリムト作戦参謀長

ブラキウ・ドナーテ……虎型獣人族の男性。第2歩兵連隊・第13中隊長

フェクンダ・ペイク……ヒョウ型獣人族の男性で、第40歩兵小隊小隊長

ステイシー・ラドゥス……ハーフエルフの女性で、第39歩兵小隊所属


シッポ少尉……シスイ・シッポ…犬型獣人族の女性で、前話で杏南達が戦った小隊の長。戦死。

クックス……トイ・クックス上等兵…犬型獣人族の男性で、シッポの小隊に所属していた。唯一の生き残り。北嶺を撃った兵士。

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ミリタリー SF ファンタジー 自衛隊 戦争
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