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外星戦記  作者: 無名の凡夫
第1章 初陣~オペレーション・ギデオン~

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第77話 崩壊

成田空港へ向けて走る鹵獲装甲車の車内で、小柳は無線機を耳へ押し当てた。車体は路面の継ぎ目を乗り越えるたびに大きく揺れるが、その声は落ち着きを失っていない。


「森間陸将補に報告。成田空港、第一関門を突破。駅構内で戦闘部隊を排除。鹵獲車両を使用し、管制塔へ向かう」


『了解した』


短い応答のあと、森間の声色がわずかに変わる。


『小柳、2中隊や3中隊の投入はどうする? お前の判断で構わん』


小柳は窓の外へ目を向けた。駅構内を突破してなお、敵の抵抗は異様なほど薄い。ここまで順調すぎる。特戦群からの情報、降下地点の無抵抗、装甲車の鹵獲――全てが噛み合いすぎている。


(ここでの共闘はリスクが伴う。とはいえ、連中が黙って待機できるとも思えんが……)


数秒だけ考え、小柳は答えを出した。


「陸将補、成田では我々が敵戦力を引きつけます。後続は成田線沿いに敵を掃討してください。あと、退路だけはしっかり確保するよう浪城には伝えてください。あいつは引くことを知らない」


『……了解だ。生きて帰ってこい』


通信が切れる。その一言だけが、小柳の胸へ静かに残った。彼は装甲車から身を乗り出し、隊員たちへ向かって怒鳴る。


「全隊に告ぐ! 敵司令官は一般客が入れない管制塔にいると思われる! ここから管制塔まで約500メートル! だが伏兵は確実にいる! 歩哨を警戒し、鹵獲車両で一気に管制塔へ向かう!」


「了解!」


隊員たちが一斉に動き出す。


その時だった。小柳の耳が、アスファルトの下から微かに響く流水音を捉えた。


(……水?)


違和感を覚えた次の瞬間。


「そうは行くか!」


怒号とともに、道路のマンホールが爆発した。轟音と共に鋳鉄製の蓋が宙を舞い、砕けたコンクリート片が周囲へ降り注ぐ。


「伏兵です! 地下からです!」


加呂の叫びが響く。


「下水管からかよ、汚ねぇな!」


薮下が舌打ちする。


「戦闘態勢を取れ!」


小柳の号令が飛ぶと同時に、空港各所の排水口やマンホールから帝国兵が次々と姿を現した。湿った地面をものともせず飛び出してきたのは、河童族を中心とする一個中隊規模の部隊だった。


先頭に立つ河童族の士官が、不敵な笑みを浮かべる。


「俺らは水陸強襲部隊だ! 側面と背後を叩け!」


空港守備隊、第6強襲陸上連隊第9中隊。その指揮官、スノーべ・アダレース海軍中尉である。彼らは湿った下水管を自在に移動し、空挺団の死角へ次々と姿を現した。その動きは、まるで水そのものだった。




2日前、千葉県内の帝国軍詰所。


「どうした? 急に呼び出して」


アダレースが部屋へ入ると、待っていたゼムファルトはタブレット端末を机へ広げた。


「配置を少し変える。スノーべ、一個中隊でここに隠れていてくれ」


画面に映し出された地図には、印旛沼から成田空港地下へ伸びる水路網が表示されていた。


「おいおい、ここに隠れて何をするってんだ? 俺らは利根川を渡って敵兵の殲滅だろう?」


「ゴア准将は第1空挺団を過小評価している」


思いがけない言葉に、アダレースは眉をひそめた。


「はあ? 何を言っている? 第1空挺団ってのは、狂った奴らが多いバーサーカー集団って話じゃねぇか。それは俺でも知ってるぞ。あのゴアがそんなわけあるか……」


ゼムファルトは静かに首を振る。


「現状、第1空挺団は川を渡って降下できていない。しかし奴らは自衛隊でも屈指の精鋭だ。必ず突破口を見つける。この陣形は、その時に脆い」


アダレースは腕を組んだ。


「うーむ……確かにそうだが、ゴアは川を渡らせないよう作戦を立てていたではないか」


「だからこそ侵入された時に脆い。その対策だ」


ゼムファルトは印旛沼周辺を指先でなぞる。


「空港付近は川幅が狭い。ここを正面から攻めても意味は薄い。だからこそ日本軍も、この地下の水路までは対応できない。だが、スノーべの部隊なら水陸両用で動ける。敵の虚を突き、奴らを殲滅する」


「しかし、本当に奴らはここまで来るのか?」


「来る。我々が日本を制圧できない理由は単純だ。奴らはこちらを研究している。そして確実に強くなっている。この作戦は極秘で行う。俺が窓口だ。頼むぞ」


「あ、ああ……」


アダレースは頷きながらも、胸の奥には割り切れないものが残っていた。


(この作戦、奴らが川を渡るとすれば、俺達が現場を放棄するからじゃないのか? イリアンには考えがあるのだろうが……。こいつとは古い仲だが、今は上官。従うしかないか……)


回想は終わる。





「撃てぇ!」


アダレースの怒号と同時に、水陸両用ライフルが一斉に火を噴いた。


湿地戦を前提として設計された特殊弾は、水しぶきを巻き上げながら空挺団へ正確に降り注ぐ。鹵獲装甲車の周囲へ展開していた隊員たちは、不意を突かれた十字砲火に次々と倒れていった。


「くそっ、敵の動きが速い!」


粟母が応射しながら叫ぶ。


「河童や半漁族がいるな! 奴らを水辺に引き込むな! 全員、榴弾を装填! マンホールと排水口を潰せ!」


小柳の命令が飛ぶ。だが、第9中隊は撃っては潜り、潜っては別の排水口から現れる。地下水路を熟知した敵は、空挺団が照準を合わせる前に姿を消してしまう。


「小柳二佐! 左側面三名負傷! このままでは装甲車にも近づけません!」


加呂の報告に、小柳は奥歯を噛み締めた。ゼムファルトは、最初からこの戦場を想定していた。空港へ誘い込み、水陸強襲部隊で包囲する。その構想は、恐ろしいほど的中していた。


一方、アダレースもまた銃を構えながら胸中で呟く。


(イリアン……お前の読み通りの展開だ。だが、そもそも俺達のやっていることは、本当に正しいのか……)


しかし、その迷いを表に出すことはない。彼は再び腕を振り上げた。


「撃ち続けろ! 一匹も逃がすな!」




地下から現れた河童族の猛攻に耐え続ける空挺団へ、さらなる脅威が襲いかかった。ターミナルビル上層階の窓ガラスが一斉に砕け散り、破片が朝日に煌めきながら降り注ぐ。


「間に合ったぜ!」


威勢のいい叫びとともに飛び出してきたのは、翼を大きく広げた天使族や鳥人族だった。彼らは滑空しながら空港構内へ降下し、そのまま高所を利用して銃口を空挺団へ向ける。


「こら! 勝手に飛び出すな!」


「構わん! あいつに続け!」


有翼種たちは上空から一斉に散開し、アダレース隊と連携するように空挺団を包囲した。


下水管から現れる河童族が低い位置から銃撃を浴びせ、建物や上空を確保した有翼種が頭上から射線を重ねる。立体的な十字砲火だった。


「くそっ……有翼種の高い位置からの射撃が厄介だ! ターミナルにいる奴らを優先しろ!」


小柳の怒声が飛ぶ。しかし、上を向けば下水管から河童族が現れ、下を警戒すれば有翼種の弾丸が降り注ぐ。敵は互いの死角を完全に補い合っていた。


「比嘉! 百合﨑! 小隊を組め! あの鳥人族どもを叩き落とせ!」


「しかし、敵の装甲が硬い! 榴弾もほとんど効きません!」


比嘉の報告どおり、特殊防御装備に身を包んだ帝国兵は容易には倒れない。空挺団は応戦を続けるものの、徐々に押し込まれていく。


「小柳二佐! 粟母が被弾! 加呂さんも右腕をやられました!」


薮下の声に、小柳は視線を向ける。右腕を押さえながらも加呂は片膝をつき、利き腕ではない左手で必死に小銃を構えていた。粟母も血を流しながら味方を援護している。精鋭たちが、次々と戦闘不能へ追い込まれていく。


森間が別れ際に口にした言葉が、小柳の脳裏によみがえった。


――生きて帰ってこい。


(このまま戦えば全滅する。)


その結論に至るまで、小柳は長く迷わなかった。ここで目的を変える。空港全域の制圧ではない。敵司令官を討つ。それだけに賭けるしかない。


「全員、聞け! 鹵獲装甲車を最大限に利用し、管制塔へ強行突破を図る! 戦闘を中断し、装甲車へ集結しろ!」


隊員たちは互いに援護射撃を繰り返しながら後退を開始する。負傷者を抱え、転びそうになりながらも装甲車へ飛び込んでいく。


「急げ! 生き残った者は装甲車に乗れ! 管制塔へ突っ込め!」


小柳自身も運転席へ滑り込み、エンジンを始動させた。重低音を響かせながら六輪装甲車が前進を始める。


「行くぞ!」


アクセルを踏み込んだ、その瞬間だった。管制塔方面から放たれた砲弾が装甲車の目前へ着弾し、アスファルトを吹き飛ばした。


「戦車部隊が待ち伏せていた! クソが!」


範が叫ぶ。装甲車が急停止した直後、2発目、3発目の砲弾が立て続けに襲来した。爆風が車体を持ち上げる。


重量級の装甲車が横倒しとなり、激しく地面へ叩きつけられた。車内へ火炎と煙が一気に流れ込み、悲鳴と金属音が入り混じる。


小柳の視界は激しく揺れ、額から流れた血が目を覆った。意識が闇へ沈んでいく。


その様子は、成田空港管制塔の大型モニターにも映し出されていた。炎に包まれた装甲車を見つめながら、タイタス・アイホロジェは深く息を吐く。


「外で何が起きている?」


「安心してください、准将殿。もう大丈夫です」


いつの間にか背後へ立っていたステフェン・アストロ中佐が静かに答えた。タイタスは振り返るなり怒鳴りつける。


「アストロ! 貴様、今までどこにいた!?」


「利根川を破られることを想定し、援軍の編成を人事参謀と打ち合わせていましてね。間に合って良かったです」


「そ、そうか……。それで首尾は?」


「奴等のほとんどは死に絶えました」


その報告に、タイタスは肩から力を抜いた。


「……うむ、でかした」


甥・アレンの安否は依然として不明だった。それでも、自らの司令部へ迫った自衛隊最精鋭部隊を撃退できたという事実は、彼に大きな安堵を与えていた。アストロは続ける。


「准将殿、小官とは別にゼムファルト少佐も、敵が包囲網を突破することを想定して援軍を送っていました。彼の機転もなければ危なかったでしょう」


タイタスはゆっくりとうなずく。


「……恩に着る」


その時、スハイルが敬礼した。


「准将殿、予備隊が到着しました」


「丁度いい。伏兵部隊と合流させろ。このまま一気に攻める!」


「了解!」


司令部は反攻作戦へ移った。




一方、利根川水郷地帯。


森間は何度も無線機へ呼びかけていた。


「……小柳との連絡が途絶えた。浪城! お前らは無事なのか?」


雑音の向こうから、荒い息遣いが返ってくる。


『予想以上に敵が多い! 犠牲も大きい! だが、このままやられっ放しでいられるか!』


「馬鹿者! ならば引け!」


浪城の部隊も激戦の最中にあった。そこへ紅場が駆け込む。


「森間陸将補! 敵が大軍で攻めてきます! 前線が突破されました!」


成田での反撃に成功したタイタスは、到着した予備隊と伏兵部隊を一斉に投入していた。


各所で敵攻勢が始まる。


「赤樹二佐、戦死!」


「他5名、戦死!」


立て続けに届く戦死報告に、指揮所の空気が凍りつく。森間は地図を見つめたまま拳を握り締めた。このままでは全滅する。苦渋の末に命令を下す。


「……総員、撤退!」


その命令は、千葉方面奪還作戦の失敗を意味していた。


利根川で辛うじて維持してきた均衡は、成田空港で第一空挺団が足止めされたことで完全に崩壊する。各部隊は後退を余儀なくされ、防衛線は次々と放棄された。


こうして9月30日朝、こうして、第7次首都圏奪還作戦の一環として実施された千葉方面反攻作戦は、多くの犠牲を払った末に終結した。

登場人物紹介

浪城なみしろ 激げき

生年月日:1978年3月7日 / 出身:千葉県

階級:二等陸佐 / 所属:第1空挺団第2普通科大隊の大隊長


スノーべ・アダレース

種族・性別:河童族の男性

所属・階級:帝国海軍中尉、成田防衛隊・第6強襲陸上連隊・第9中隊


小柳こやなぎ すぐる……第1空挺団第1普通科大隊の大隊長

森間もりま 護平ごへい……第1空挺団団長兼千葉方面部隊の司令

イリアン・ゼムファルト……テリムト作戦参謀海軍担当兼領海警備隊副隊長

タイタス・アイホロジェ……帝国4大貴族・アイホロジェ家の血筋の陸軍准将

ステフェン・アストロ……テリムト作戦参謀の副参謀長

ラーミー・スハイル……テリムト作戦参謀所属

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ミリタリー SF ファンタジー 自衛隊 戦争
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