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外星戦記  作者: 無名の凡夫


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第73話 鹵獲作戦

――千葉県柴崎町の某水田地帯――


第一空挺団、降下完了。柴崎町、利根川水郷地帯。


ロープを伝って闇の中へ滑り落ちた先頭隊員、加呂は、湿った泥の上に膝から着地した。フックを外し、反射的に身構える。予想していた怒涛の銃火は、ない。


「敵影なし! 静かすぎます!」(加呂)


水路にも、田んぼにも――何もいない。


加呂の報告に、続いて降下した小柳も驚きを隠せなかったが、小柳はすぐさま、防水加工された地図を広げていた。先陣を切った第1普通科大隊は、訓練通りに広大な水田地帯のわずかな高台に集結を完了している。


「森間団長に報告。降下地点(DZ)、敵の抵抗なく確保完了。全隊、損耗なし」(小柳)


小柳の声は落ち着き払っていたが、彼の瞳は周囲を鋭く射抜いていた。彼の隣で警戒に当たる加呂の額には、早くも冷や汗が滲んでいる。


「大隊長、この沈黙は……」(加呂)


「わかっている。だが、我々の任務はここではない。」(小柳)


小柳は地図の成田空港の位置を指さした。


「全隊に告ぐ。ここからが戦いだ! 敵の待ち伏せがあるとしても、この機に乗じて一気に敵中枢を叩く。進軍開始!」(小柳)


小柳の号令下、第一普通科大隊の隊員たちは水田地帯を進み始めた。夜明け前の薄闇の中、湿った土を踏みしめる半長靴の音だけが、不気味なほど響く。隊員たちは、一様に違和感を覚えていた。


「おい、本当に敵がいないのか?」(百合﨑立司(ゆりさき りっし)二等陸曹)


「この辺で、半漁人の奴らが水路で待ち伏せていてもおかしくないが…。」(範来人(はん らいと)一等陸曹)


彼らが警戒していたのは、利根川水郷地帯の特性を活かした水中からの奇襲だった。しかし、特戦群の情報通り、この川にも水田のどこにも敵の気配はない。


小柳は、進軍のペースを落とさず、無線機を耳に当てた。


「(偵察隊の報告は正確だった。だが、敵の対空砲が沈黙した理由は?そして、水中にいるはずの奴らが消えた理由は?)」(小柳)


小柳の疑問は解消されぬまま先へ進む。


「(このまま2大隊や3大隊を出撃させて大丈夫なのか?)」(小柳)


小柳の号令下、隊員たちは水田地帯を進み始めた。夜明け前の薄闇の中、湿った土を踏みしめる半長靴の音だけが響く。隊員たちは、一様に違和感を覚えていた。


「街が…。復興している!?」(比嘉篤志(ひが あつし)二等陸尉)


成田空港へ近づくにつれ、隊員たちは息を呑んだ。電気が灯り、区画整理された道路。そこには廃墟ではなく――帝国の街だった。


「生活の跡もあるな。」(川屋英明(かわや ひであき)二等陸尉)


そこは、廃墟と化したゴーストタウンではなく、綺麗に整った街であった。


「奴らは地球を住処にするみたいだし、街を綺麗にしてても不思議じゃない。」(薮下栄龍(やぶした えいたつ)三等陸曹)


「この街に住む方の土地を奪い、のうのうと暮らしやがって…。許せねぇ…。」(粟母憲久(あわも のりひさ)三等陸曹)


「この街で生活している奴が、全員グーリエ星人だとしたら、奴らは地球に何人いるんだ?」(加呂)


「……もう移住が始まってるってことだろ。」(薮下)


「(そう考えるのは早計と思うが…。まあ、それよりもまずは、俺らの任務だ。)」(小柳)


「おい、てめぇら、無駄口叩いてねぇで集中しろ!」(小柳)


敵がいないことで、警戒心が緩んでいた事を察知した小柳は、雷鳴のような怒声で集団の意識を再び一点に集中させた。


「大隊各員へ。ここから成田まで徒歩で進む余裕はない。線路沿いの補給拠点を強襲し、敵の装甲車両を奪う。移動速度を上げろ、駆け足(ダブルタイム)!」(小柳)


その時、静寂を破ったのは、水路の泥を跳ね上げる独特の駆動音だった。


「敵影! 水路からリザードマンの遊撃班! 規模は2個小隊!」(加呂)


「川屋! 比嘉! 2個小隊で排除しろ。範は突入班を率いて車両を奪え。航空機が来る前に必ず確保するぞ!」(小柳)


空挺隊員たちが堤防道路へと駆け上がる。目標は、運休中の駅舎の陰に潜む、グーリエ星人の六輪装甲車。地球の技術を凌駕する防御力を持つ鉄獣だ。


「敵歩哨、2名」(薮下)



「何故敵がここに?」


「利根川で足止めしていたはずじゃ…。」



「加呂、一瞬で終わらせろ」(小柳)


予期せぬ自衛隊の出現に混乱をきたす帝国軍。加呂は対物ライフルに対装甲徹甲弾を装填した。小柳が懐から取り出した通信妨害装置(ジャマ―)のスイッチを入れる。


「仕掛けろ!」(小柳)


タタタン! タタタン!


対物ライフルの重低音が空気を震わせる。2発の弾丸は歩哨のヘルメットごと頭部を粉砕した。


「行け!」(範)


加呂たちがハッチへ取り付く。内部へスタングレネードを投じ、衝撃と共に引きずり出した搭乗員を即座に拘束した。


「小柳二佐! 装甲車確保! ……ですが、電子ロックが掛かっています!」(加呂)


小柳は無線を飛ばした。


「電子作戦隊、こいつの認証を抜け!」(小柳)


「……大隊長、無茶言わないでください。グーリエの暗号体系ですよ? 解析に3時間は欲しい」


「30分でやれ!」(小柳)


「無茶だ! 3時間もだいぶ無理な設定で物理的に……え?」


無線の先から悲鳴に近い声が無線に混ざる。直後、装甲車のコンソールが緑色に点灯し、ハッチの自動ロックが解除された。


「一体何が?」


「……安心して下さい。私も自衛隊の者です。」(???)


割り込んできたのは、無機質で冷徹な、しかし聞き覚えのある周波数の声だった。


「空挺団の皆さん、健闘を祈ります。」(???)


「……これでいいですか、群長?」(???)


「ああ、上出来だ」


通信が切れる。加呂が呆然と呟いた。


「今の、一体……」(加呂)


「なるほど……。あいつらか。」(小柳)


小柳が何かを察したように呟いた。


「よし、総員搭乗! この地獄を脱出し、さらなる地獄(成田)へ向かうぞ!」(小柳)


装甲車が咆哮を上げる。幹線道路を突き進む鉄獣。だが――小柳の胸の中から、あの違和感だけは消えていなかった。


成田は近い。近すぎるほどに。

登場人物紹介

百合﨑 立司ゆりさき りっし

生年月日:1988年7月15日 / 出身:千葉県

階級:二等陸曹 / 所属:第1空挺団第1普通科大隊


はん 来人らいと

生年月日:1987年11月6日 / 出身:京都府

階級:一等陸曹 / 所属:第1空挺団第1普通科大隊


薮下やぶした 栄龍えいたつ

生年月日:1995年4月2日 / 出身:千葉県

階級:三等陸曹 / 所属:第1空挺団第1普通科大隊


粟母あわも 憲久のりひさ

生年月日:1995年4月23日 / 出身:徳島県

階級:三等陸曹 / 所属:第1空挺団第1普通科大隊


川屋かわや 英明ひであき

生年月日:1983年10月2日 / 出身:北海道

階級:二等陸尉 / 所属:第1空挺団第1普通科大隊


比嘉ひが 篤志あつし

生年月日:1981年5月14日 / 出身:沖縄県

階級:二等陸尉 / 所属:第1空挺団第1普通科大隊


小柳こやなぎ すぐる……第1空挺団第1普通科大隊の大隊長

加呂かろ つばさ……第1空挺団第1普通科大隊の隊員

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