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外星戦記  作者: 無名の凡夫


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第72話 川を越えろ

――2020年9月30日 5:00――


茨城県の県境から千葉県へ入る部隊は、利根川を挟んでの戦闘が続いていた。


「くそったれ! 朝っぱらからドンパチしやがって!」(有働 嵯音丸(うどう さねまる)三等陸曹)


「こう24時間攻めてこられたら、俺たち、寝る時間もないね…。少しは休ませてほしいよ。」(寄充颯斗(よりみつ ふうと)三等陸曹)


「戦い始めて今日で何日だ?」(有働)


「21日からだから9日目か!」(有働)


「10日目じゃない?」(寄充)


「おめぇはいちいち冷静なんだよ!」(有働)


「つーかよ! このまま川から来る敵を迎え撃つだけじゃジリ貧だろ! この利根川の防衛線自体が、いつまでもつか…。 空挺団は何やってるんだ!」(有働)


「仕方ないよ、敵の対空砲は殺傷力も連射性能も規格外なんだ。迂闊に空は飛べないって。ただ、この防衛線が突破さえすれば、敵拠点まで一直線だ。」(寄充)


「お前、頭回ってるな! 寝てるのか?」(有働)


「俺だって寝てないよ。ずっと一緒にいたでしょ?」(寄充)


この戦況を打開したいと思っているのは、上層部とて同じこと。しかし、利根川を挟んだ包囲網が強固で崩せないまま。逆に自衛隊の陣形が崩されそうとしていた。



「1普連と32普連が頑張ってくれている間に、降下できる場所を見つけねば…。しかし、あの対空ミサイルをどうにかせねば…。」(森間護平(もりま ごへい)陸将補:第1空挺団団長)


森間が思案中、1偵の大隊長、紅場駿(べにば はやお)の元に朗報が入る。


「何! 本当か?」(紅場)


「はい、銚子大橋があったあの辺りは、警部が薄く、水中にもグーリエ星人は殆どいません。」


「大隊長! 1小隊の柴木です。自分は今、銚子大橋跡付近にいますが、敵兵はほぼいません。」(柴木関平(しばき かんぺい)一等陸尉)


「敵の対空砲は? 連射型対空ミサイルの状況は?」(紅場)


「こちらS。そのミサイルは、昨日から沈黙している。我々が確認した限り、すべて破壊済だ。問題ない。」(パリジャン)


「!?」(紅場)


紅場は、特戦群が事前に潜入していたという事実に驚きを隠せない。特戦群の実力は本物なのは承知しているものの、情報が完璧すぎて逆に怪しい。しかし、今のままではジリ貧なのは変わらない。紅場は賭けに出る。


「(いくら特戦群でも、あの包囲網に潜入出来るというのか?)」(紅場)


「……」(紅場)


「特戦群、情報感謝する。」(紅場)


「森間陸将補、対空防御が手薄になったという情報に加え、銚子大橋跡付近の守備も薄いことが確認されました。今が空挺降下の好機かと。」(紅場)


「そうか! ならば空挺団を出撃させる!」(森間)


「(あそこには主力部隊を置いていなかった。奴らも油断して手薄にしたのか!)」(森間)


森間は、即座に作戦群司令として通信機を握りしめる。


「赤樹二佐!貴官の舟艇と渡河資材を直ちに出動させろ。銚子大橋のあった場所だ。空挺団降下と同時に、利根川に陽動のための渡河拠点を築け!」(森間)


「了解! 第1施設大隊、渡河作戦を開始します!」(赤樹寿一朗(あかぎ じゅいちろう)二等陸佐)


赤樹の指揮のもと、施設科の隊員達が銚子大橋へ向かう。


「大代夏一佐! 渡河拠点確保のため、第1普連隊に突撃を命じろ。対岸の敵の注意を最大限に引きつけろ!」(森間)


「我が第1普連が、空挺団への血路を開きます!」(大代夏土門(おおしろなつ どもん)一等陸佐)


森間は力強く頷いた。紅場は通信を終えた後、ふと顔を上げた。


「(警備が薄い。対空ミサイルが沈黙した。あまりに都合が良すぎる…。しかし、ここで躊躇すれば、地上で戦う仲間たちの命がない。――行くしかないのか…。)」(紅場)


あまりに都合が良すぎる。紅場は地図を見つめたまま、しばらく動かなかった。それでも――


森間は、紅場の葛藤を知りながらも、作戦群司令として通信機を握りしめ、空挺団員へ出撃命令を下すため、深く息を吸い込んだ。森間自身も、違和感を覚えずにはいられなかったのだ。


「(このまま行けば、ジリ貧。ならば懸けるしかない)」(森間)


「第一空挺団、出撃せよ!」(森間)


「了解。」(小柳傑(こやなぎ すぐる)二等陸佐)


「野郎共、行くぞ!」(小柳)


「おお!」


「まずは、俺達1大隊が先陣を切る!」(小柳)


「うおおおおおおおおおお!」


けたたましい雄たけびをあげる第1空挺団の隊員達。習志野に拠点を置く第1空挺団にとっても、首都圏奪還は悲願でもある。敵本部を叩くため、これまで温存されていた彼らは闘志を漲らせている。


銚子大橋跡では、赤樹の指揮の下、施設科の隊員たちが舟艇を対岸へ向けて進水させる轟音が響き始めた。


茨城県の某所にある塹壕では有働が、頭上を通過していくヘリコプターに気付く。


「やっと来たぜ…。」(有働)


「頼むよ、空挺団…。」(寄充)


利根川を挟み、彼らが戦線を死守した先に、今、希望の光が降り立とうとしていた。




利根川上空――CH-47輸送ヘリコプターが低空で飛行する。


「行くぞ!」(小柳)


小柳は、機内に響き渡るエンジンの轟音に負けない大声で、隊員たちを鼓舞した。第1普通科大隊の精鋭達は、顔を固く引き締め、静かに命令を待つ。


「目標上空まで、あと30秒!」


「機体長、風速は?」(小柳)


「問題ありません!特戦群が設定した、完璧な降下ポイントです!」


しかし、小柳の胸中は晴れない。彼は、森間や紅場と同じく、この作戦の「都合の良さ」が、拭いきれない違和感として残っていた。だが、もはや引き返せない。この一歩が、地上で血を流す仲間たち、そして作戦全体の運命を決する。


「フックを自動索に繋げ! 降下用意!」(小柳)


空挺隊員たちが次々と、太い懸垂下降用のロープにフックを接続していく。機体の横には、利根川の流れと、その先に広がる水郷地帯、柴崎町が見える。


「目標上空!降下開始!」(小柳)

「(静かすぎるな…)」(小柳)


「大隊長!行きます!」(加呂翼(かろ つばさ)三等陸曹)


ヘリコプターの側面扉が開け放たれ、強烈な風と利根川の冷たい空気が機内に流れ込む。ロープにぶら下がった先頭の隊員が、闇の中へと一気に滑り落ちていく。


「降下!」(小柳)


小柳は、自らもヘリの縁に立ち、下方を見据えた。彼の眼下に広がる風景が、勝利への活路か、それとも帝国軍の仕掛けた巨大な「罠」の入り口なのか――。


その答えは、彼らが着地した瞬間に決まる。

登場人物紹介

有働うどう 嵯音丸さねまる

生年月日:1997年1月30日 / 出身:埼玉県出身

階級:三等陸曹 / 所属:32普連

備考:気性が荒く、普段から口が悪い。声がでかい。寄充とは同期。


寄充よりみつ 颯斗ふうと

生年月日:1995年6月17日 / 出身:茨城県

階級:三等陸曹 / 所属:32普連

備考:有働とは同期。冷静な性格で、有働のツッコミ役になっている。


森間もりま 護平ごへい

生年月日:1968年5月5日 / 出身:千葉県

階級:陸将補 / 役職:第一空挺団の団長、千葉方面部隊の司令官

備考:若いころは気性が荒かったが、階級が上がるごとに落ち着いてきた。


紅場べにば 駿はやお

生年月日:1971年8月21日 / 出身:京都府

階級:二等陸佐 / 役職:第1偵察大隊の大隊長

備考:銚子大橋跡の警備の薄さや、その場所に設置されていた対空砲が短時間で壊れていることに違和感がある。


柴木しばき 関平かんぺい

生年月日:1986年12月13日 / 出身:福島県

階級:三等陸尉 / 役職:第1偵察大隊1偵察小隊の小隊長

備考:銚子大橋跡の付近を偵察していた。


赤樹あかぎ 寿一朗じゅいちろう

生年月日:1974年2月8日 / 出身:石川県

階級:二等陸佐 / 役職:第1施設大隊の大隊長。


大代夏おおしろなつ 土門どもん

生年月日:1968年7月13日 / 出身:東京都

階級:一等陸佐 / 役職:第1普連の連隊長


小柳こやなぎ すぐる

生年月日:1976年10月24日 / 出身:東京都

階級:二等陸佐 / 役職:第一空挺団第1大隊の大隊長


加呂かろ つばさ

生年月日:1994年11月10日 / 出身:岡山県

階級:三等陸曹 / 備考:第一空挺団第一大隊所属

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