第71話 静かなる決意
――2020年9月30日 15:00 湯河原町某廃屋内――
「う…。」(要)
「気が付いたか。ここはまだ湯河原だ。戦ってた場所からは離れたがな。」(厚巳)
どうやら、あのあと気を失っていたようだ。どれくらい時間が経った? 戦況は? グーリエ星人は? いろいろと分からないことが多い。
「今は15:00。戦況は最悪ね。グーリエ星人はおそらく、兵站拠点へ向かった。無線がジャミングされてて使えないから、はっきりとした状況は分からない。」(朱杏)
「お前のことだ。ここでじっとしている事を問い詰めるんだろ?」(厚巳)
「う…。」(要)
図星だった。しかし、戦況が最悪なら、最後の1人になっても戦うべきだ。
「敵戦闘車の砲撃で房拭二曹と田島は戦死。由馬も、瓦礫の中から遺体で見つかった。羽毛も重傷で、角南も頭を怪我した。若松も行方不明。これで攻めるのは無理がある。」(厚巳)
「厚巳さんが、敵兵が大勢いる中、私も羽毛君も救出してくれた。あなたもね。それに物資をかき集め、私達を手当したの。」(角南)
「お前が、俺を見下しているのは気付いていた。戦闘に怖気づいた臆病者なのは認める。だが、それでも出来ることはあるんだよ。」(厚巳)
「……ありがとうございました。」(要)
「(一応、礼は言ったが、それくらいの事、誰でも出来ることだ。何を勘違いしているのだ。)」(要)
要は、心の中でそう吐き捨てた。
「厚巳さん、これからどうします?」(朱杏)
「そうだな…。」(厚巳)
「厚巳三曹は、動ける車を見つけ、羽毛一士を病院へ運んでください。俺と角南士長で拠点へ戻り、戦います。」(要)
「!?」(朱杏」
「出過ぎたマネを…。」(朱杏)
要の突然の具申に、朱杏は訝った。今年入隊したばかりの新人が、よくもまあ、ベテラン隊員かのように振舞えるものだと呆れもあるだろう。これで、中身が伴っていれば話を聞く気にもなるのだろうが、いかんせん口ばかりの男の意見等、聞けるはずもない。
角南陸士長は、俺の意見具申をよく思っていないようだが、ここで指揮を取れるのは俺しかいないだろう。臨機応変という奴だ。悔しかったなら、先輩方は態度で見せて欲しい。俺がこの窮地を救うんだ。
「羽毛をこのままにしてはおけない。俺が病院へ運ぶよ。」(厚巳)
「いいんですか?」(朱杏)
「俺が臆病者なのは事実だ。だが、臆病者にも出来ることはある。戦闘なら、角南の腕と怖い者知らずの運天なら何とかなるだろう。角南、頼むぞ。」(厚巳)
「…了解しました。」(朱杏)
朱杏は、要の具申に素直に従う厚巳に一瞬驚くが、厚巳がこういう時に力を発揮できると知っていたので、従うことにした。
「しっかり着いてきてくださいよ!」(要)
明らかに調子に乗っている要に、朱杏は深くため息をついた。
瓦礫の撤去作業をしていたのは、帝国海軍の工兵達だった半漁族のガストン・ハタギョ少尉と、タートル族のジラ・シタデル少尉。そして彼らを監督する、人魚族のシッシ・イオニチザン少佐。
戦闘部隊ではなく、あくまで後方要員だ。
「何で俺らがこんな事を…。」(ハタギョ)
「僕たちは海中が専門だしね。」(シタデル)
「本格的な復興作業は、陸軍の工兵科が行う。まあ、時間があるんだ。これくらいの協力はしよう。」(イオニチザン)
「よし、あいつ等を仕留めましょう。建物の陰に隠れて、左右から挟撃する。」(要)
タタタン!
張り切ってアサルトライフルを装填し、発砲した要だったが、狙いは定まらず、弾は当たらない。
「誰だ!?」(ハタギョ)
「しまった、見つかった! 角南士長、援護を! あれ?」(要)
要が焦って周りを見回すと、いつの間にか屋根にいた朱杏は、敵が固まっている場所に手榴弾を投げ、爆風に紛れて連射する。煙が晴れると、ハタギョとシタデルは、死体となって横たわっていた。イオニチザンも、右鎖骨と尾びれを負傷している。
「(蜥蜴と人魚を仕留め損ねた。)」(朱杏)
「少佐殿!」(ガニー・アルキオ海軍中尉)
「(援軍か。当然よね…。)」(朱杏)
「少佐殿が重傷だ! ニャミエ!お前達は少佐殿を衛生兵の下へ!」(アルキオ)
「了解です!」(ニャミエ・カムロ海軍曹長)
「ピリオル二等兵、貴様は私と来い!」(カムロ)
「ミザム兵士長は、貴様の部下と共に中尉殿を援護しろ!」(カムロ)
「了解!」(ミザム・スイヘビ海軍兵士長)
「任せて下さい!」(レイト・タクラ海軍一等兵)
「承知しました!」(ジュピー・メブラ一等兵)
アルキオ、スイヘビ、タクラ、メブラと、ジマーレ・ジッシュ海軍伍長、ニール・タロッグ海軍上等兵の計6名が、一斉に朱杏に向かい発砲する。朱杏は、陰に隠れながら隙を伺うも、更に帝国兵の増援が来てしまい、四方を囲まれてしまう。
「うおおおおおおおお!」(要)
「(まったく、世話の焼ける。)」(要)
タタタタン! タタタタン! タタタタン!
要が朱杏の援護をするが、敵に致命傷を与えることが出来ない。彼が放った銃弾は敵の足元の地面を叩き、派手に土煙を上げているだけだった。
「(闇雲に撃ちすぎ。あれでは、弾薬がすぐに切れる…。)」(朱杏)
「くそっ、もう弾薬がない。」(要)
「あいつだ! あいつを先に仕留めるぞ!」(ジッシュ)
「来るなら来い! 銃剣で刺し殺してやる!」(要)
パァン!
「ぎゃあ…。」(ジッシュ)
朱杏に背を向けてしまったジッシュは、後頭部を撃ち抜かれ即死となった。
「ふん、礼は言っておこう。」(要)
「はぁはぁ……。(まだ4人しか倒せてない。けど、敵は次から次にやって来る。キリがない…。)」(朱杏)
疲労が溜まり、銃を構える腕が重くなってきた。それでも、敵の増援は途切れることがない。
「(84でもあればいいんだけど…。ま、ない物ねだりしてもしょうがないか。)」(朱杏)
「(弾薬も残り僅か。これが尽きたら、もう戦う術はない。まさか、令和の時代にバンザイアタックするハメになるなんてね…。)」(朱杏)
朱杏は、ふうと一息ついた。弾薬は残りわずか。敵は次から次へと来る。それでも――彼女の瞳に、恐怖はもうなかった。あるのは、静かな決意だけだった。
登場人物紹介
ガストン・ハタギョ
種族・性別:半漁族の男性
所属・階級:帝国海軍少尉、小田原殲滅隊・第5艦隊制圧連隊・1大隊4中隊
備考:海中の工兵担当で、海自の新兵器の研究も行った。海自との戦闘に勝利したことで、空き時間を使って湯河原町で瓦礫の除去や、建物の修繕を行っていた。朱杏によって討たれる。
ジラ・シタデル
種別・性別:タートル族の男性
所属・階級:帝国海軍少尉、小田原殲滅隊・第5艦隊制圧連隊・1大隊4中隊
備考:海中の工兵担当で、海自の新兵器の研究も行った。海自との戦闘に勝利したことで、空き時間を使って湯河原町で瓦礫の除去や、建物の修繕を行っていた。朱杏によって討たれる。
シッシ・イオニチザン
種族・性別:人魚族の女性
所属・階級:帝国海軍少佐、第5艦隊制圧連隊1大隊の大隊長
帝国海軍少佐で、人魚族の女性。ハタギョやシタデルが所属する工兵大隊の大隊長を務める。朱杏の銃撃で重傷を負う。
ガニー・アルキオ
種族・性別:リザードマン族の男性
所属・階級:帝国海軍中尉、第5艦隊制圧連隊第1大隊
備考:イオニチザンが負傷離脱した後に、現場で指揮を執る。
ニャミエ・カムロ
種族・性別:人魚族の女性
所属・階級:帝国海軍曹長、第5艦隊制圧連隊第1大隊
備考:歌が得意
レイト・タクラ
種族・性別:半漁族の男性
所属・階級:帝国海軍一等兵、第5艦隊制圧連隊第1大隊
ミザム・スイヘビ
種族・性別:ラミア族の女性
所属・階級:帝国海軍兵士長、第5艦隊制圧連隊第1大隊
シュラ・ピリオル
種族・性別:ラミア族の男性
所属・階級:帝国海軍二等兵、第5艦隊制圧連隊第1大隊
備考:負傷したイオニチザンを搬送する。
ジュピー・メブラ
種族・性別:半漁族の女性
所属・階級:帝国海軍一等兵、第5艦隊制圧連隊第1大隊
ジマーレ・ジッシュ
種族・性別:リザードマン族の男性
所属・階級:帝国海軍伍長、第5艦隊制圧連隊第1大隊
備考:朱杏より要の方が劣ると判断し、先に仕留めようとするが、朱杏に後頭部を撃ち抜かれる。
ニール・タロッグ
種族・性別:フロッグ族の男性
所属・階級:帝国海軍上等兵で、第5艦隊制圧連隊第1大隊
備考:アルキオと共に援軍にくる。
運天 要……35普連4中隊所属の新人。英雄になることへ執着している。
角南 朱杏……35普連4中隊のエース
厚巳 千宏……要が気を失っている間、朱杏や羽毛の救護をしていた。
羽毛 大和……帝国軍の砲撃により瀕死の重傷を負う




