第69話 空の精鋭
――2020年 9月30日 8:00 相模湾上空――
ドォン! ドォン!
「ミサイル、また外れた!? 嘘でしょ……」(恋垣千歳三等空尉)
恋垣が放ったAIM-120は、敵ドローン群の展開した強力な高周波ジャマーと、物理的な身代わりによって空中で無効化された。 帝国産のドローンは、一機一機が意思を持っているかのように連携し、空自の火器管制システムを攪乱する。
「千歳ちゃん、後ろ! 敵の機動ドローンが張り付いてる!」(畦地唯三等空尉)
ドローンは戦闘機のドッグファイトではありえない「真横へのスライド移動」を行い、恋垣のF-35Aの死角から高出力レーザーを照射し、表面のステルス塗料を焼き剥がしていく。恋垣は、「F-35A」を巧みに操縦し、レーザーを避けるも、仲間の乗るF-35Aに直撃。また1機、墜落してしまった。
「そんな……。また撃墜された…。もう私達しかいない…。」(恋垣)
恋垣は、無線から聞こえる断末魔と、画面から消えていく味方の機影を見て、震える声で呟いた。
「まだ諦めない。諦めてなるものか…。」(畦地)
陸・海でそれぞれの部隊が戦闘をしている間、上空でも空自と帝国空軍が対峙していた。
「このままじゃ私達も…。」(恋垣)
戦況は最悪だった。空自は、わずか3機の帝国空軍戦闘機と無数のドローンを相手に、既に13機が撃墜されていた。生き残った隊員は僅か2名。
「!?」(恋垣)
「あ、嗚呼…。」(恋垣)
恋垣はふと、視線を下に向ける。そこには、駿河湾で海上自衛隊の艦隊が黒煙をあげながら沈んでいくのが見えた。帝国軍の猛攻で多くの仲間が倒れていく様子を見て、唇を噛みしめる。
「(まずは、目の前の敵に集中…。)」(畦地)
帝国軍の戦闘機は、かつて鹵獲された「三菱F-1」の改造機だった。翼の形状が変わり、エンジンの排気音も独特だ。改良されていた性能は上がっているとはいえ、空自の戦闘機は「F-35A」。スペックでは上回っている。
「(パイロットの差かな…。悔しいけど…。)」(恋垣)
「(それだけじゃない。敵は、この機体の特性を完全に把握している。まるで、手の内を知り尽くした相手と戦っているよう。)」(畦地)
畦地は、悔しさを通り越し、戦慄を覚えていた。
「(今出来るのは、敵が地上に攻撃するのを防ぐ時間稼ぎ。でも、その時間稼ぎにどれほどの意味がある?)」(畦地)
畦地は、既に機能不全に陥った味方機の破片が浮かぶ海上に目をやる。
「(時間稼ぎをしたところで、陸も海も壊滅状態。この空で最後の花火を打ち上げるだけ…。)」(畦地)
地上では帝国兵が、今まさに兵站拠点を制圧しようとしていた。圧倒的な武力の差にただ絶望する畦地と恋垣は、死を覚悟する。その時だった。
ドォン!
「ぎゃあ!」(セリーナ・ジーケイ准尉)
帝国軍の戦闘機が一機、轟音と共に、きりもみ状態に陥りながら、相模湾へ墜落していく。
「あれは、岡田一尉?」(恋垣)
無線から、力強く冷静な声が聞こえてきた。
「畦地、恋垣、2人は一度浜松基地へ戻り補給をしろ。その間は俺たちが引き受ける。」(岡田)
空自最強のエースパイロット、岡田英一等空尉。彼の駆けるF-35Aが、太陽を背にしながら、残りの敵機に迫っていく。
「岡田一尉…。」(恋垣)
「音場空将補の指示だ。俺も仲間がやられるのを指咥えて見ているのは嫌だったんでな。」(岡田)
岡田一尉の率いる「虎徹隊」の後続には、第3航空団と第6航空団のエース部隊が駆けつけている。第3航空団は、北海道の奪還から日が経っていないのに参戦した。本来なら、休養を取るべきところを、強引に戦線に復帰したのだ。
「これより "虎徹隊" が、敵ドローンのネットワークを物理的に切断する! 総員、バースト射撃開始!」(岡田)
岡田の駆るF-35Aが放ったのは、誘導弾ではなく、超広範囲に散布される「EMP弾」を搭載したロケットだった。空中で炸裂したEMPが、連携していたドローン群の制御を一時的にマヒさせる。
「今だ! デストロイヤー、サムライ、食い破れ!」(岡田)
「了解!」 (軒一忠一等空尉:デストロイヤー隊)
「任せとけ!」(善城駆三等空佐:サムライ隊)
ドローンの統率が乱れた瞬間、エースたちが牙を剥く。善城の「サムライ隊」が、超低空からの急上昇でドローン群を下から突き上げ、20mm機関砲で次々と「屑鉄」に変えていく。
「皆さん、ご武運を!」(畦地)
畦地は、そう言いながら、彼らの背中を目で追っていた。
「援軍が来たとはいえ、烏合の衆にすぎん! アイレン! 貴様はあの2機を追え! わしはセリーナの仇を討つ!」(ハファラビ・ピープ空軍大尉)
「了解です! 小官も撃墜次第すぐ戻ります!」(アイレン・アクベニスト空軍少尉)
「行かすか!」(鷲鷹雅朗一等空曹)
「粒脇、お前も行け!」(軒)
「了解!」(粒脇辰大三等空曹)
アクベニストの放った誘導弾が、恋垣の機体を襲う。
「千歳ちゃん!」(畦地)
「まずっ…逃げ切れない…。」(恋垣)
恋垣は、鷲鷹と粒脇の位置を確認した。
「(ベイルアウトしても、海にはグーリエ星人…)」(恋垣)
「(だったら―――空で終わる。)」(恋垣)
恋垣は、最後の力を振り絞り、アフターバーナーを全開にして速度を上げた。F-35Aのエンジンが唸りを上げ、アクベニストの乗る「改良型三菱F-1」に突っ込んだ。
「千歳ちゃん、何を!?」(畦地)
「そんなものが通用するか!」(アクベニスト)
アクベニストは、天使族仕込みの動体視力と空間把握能力を駆使し、恋垣の突撃を紙一重で回避しようとする。しかし、恋垣はベイルアウト(脱出)を捨て、あえて機体をドローン群のジャミング領域へと突っ込ませた。
「(レーダーがダメなら……肉眼でぶち当てるだけ!)」(恋垣)
火を噴くエンジン、計器の警告音。彼女は操縦桿を限界まで引き込み、アクベニストの機体に影を落とした。
ドォン! グワァアアン!!
「千歳ちゃん!!」(畦地)
「当たれええええええ!」(恋垣)
猛スピードで突っ込んだ恋垣の機体は、爆発を起こし、火の玉となって相模湾に堕ちていく。その時、彼女の機体に刻まれた日の丸が、一瞬だけ太陽の光を反射した。
「やっぱり、無理だったか…。」(恋垣)
彼女の最期の言葉は、誰にも届かなかった。
「恋垣三尉、無駄にはしない!」(鷲鷹)
「しまっ…!?」(アクベニスト)
アクベニストは、鷲鷹と粒脇の機影を見て、絶望的な声をあげた。
「(挟撃される…!)」(アクベニスト)
鷲鷹と粒脇に挟撃され、アクベニストの乗る「改良型三菱F-1」は、機体に無数の被弾を受け、噴煙を上げて墜落していく。アクベニストは、射出座席で緊急脱出をした。
「逃げられた…。だが、あと一機…。」(鷲鷹)
「恋垣三尉が、命をかけて作った隙だったのに……倒せなかった…くそ…」(粒脇)
「残り一機だ! 全精力をかけて撃墜するぞ!」(善城)
「了解!」
相模湾上空では、空自の精鋭部隊が、ピープを追い詰めていく。
「こいつ等、わし一人が相手とはいえやりおる。烏合の衆なんかではなかったか…。」(ピープ)
「この局地戦では、わしらの負けじゃ。だが、帝国軍は負けんぞ。」(ピープ)
ピープが乗る「改良型三菱F-1」のエンジンタンクが炎上し、機体が操縦不能に陥った。その状況を冷静に判断したピープも緊急脱出を図った。
「討ち取れなかったか…。だが、これで相模湾上空の制空権は確保した。」(岡田)
岡田はそう呟き、無線から応答のない恋垣のコールサインを心の中で呼びながら、火の玉となって海に堕ちた墜落地点を静かに見つめた。その海面には、もう煙すら残っていなかった。
登場人物紹介
恋垣 千歳
生年月日:1995年5月3日 / 出身:長野県
階級:三等空尉 / 所属:第1航空団所属のパイロット
備考:防大を卒業して3年目の期待の若手パイロット。アクベニストとの戦闘で戦死する。
享年:25歳
畦地 結
生年月日:1995年9月14日 / 出身:広島県
階級:三等空尉 / 所属:第1航空団所属のパイロット
備考:恋垣の同期。パイロットとしての腕はまだ発展途上だが、状況判断に優れる。
軒 一忠
生年月日:1982年6月25日 / 出身:宮城県
階級:一等空尉 / 所属:第3航空団
備考:第3航空団の精鋭部隊「デストロイヤー隊」所属のエースパイロット。隊の名前は菅野直氏にあやかってのもの。
粒脇 辰大
生年月日:1997年3月9日 / 出身:山形県
階級:三等空曹 / 所属:第3航空団、「デストロイヤー隊」所属の精鋭パイロット。
善城 駆
生年月日:1981年4月5日 / 出身:東京都
階級:三等空佐 / 所属:第6航空団
備考:第6航空団所属の精鋭部隊「サムライ隊」の隊長を務める。隊の名前は、坂井三郎氏にあやかってのもの。
鷲鷹 雅朗
生年月日:1990年7月31日 / 出身:富山県
階級:一等空曹。 / 所属:第6航空団
備考:第6航空団、「サムライ隊」所属の精鋭パイロット。
音場 朝昭※名前のみ登場
生年月日:1966年1月28日 / 出身:埼玉県 / 階級:空将補。
備考:独断ではあったが、戦況が悪いと判断し、空自の精鋭部隊を援軍として派遣させる。
ハファラビ・ピープ
種族・性別:ドワーフ族の男性
所属・階級:帝国空軍大尉、小田原殲滅隊・第12航空大隊
備考:海自の艦隊を攻撃すべく招集されたが、空自の第1航空団と戦闘をする。あと一歩まで追い詰めるも、援軍にきた精鋭部隊によって敗戦。
アイレン・アクベニスト
種族・性別:天使族の男性
所属・階級:帝国空軍少尉、第12航空大隊
セリーナ・ジーケイ
種族・階級:猫型獣人族の女性
所属・階級:帝国空軍准尉、第12航空大隊
備考:ピープ、アクベニストと共に出撃するも、岡田により撃墜され戦死。




