第6話 段場 静流
私の名前は、段場静流。15歳、高校1年生。
8年前、グーリエ星人の侵攻で両親を失った。それから兄と二人、名古屋の児童養護施設で暮らしている。
最初の頃は、よく泣いていた。夜になると、どうしても両親のことを思い出してしまう。気がつけば、声が枯れるまで泣いていた日もあった。
それでも、施設の職員は優しく、友達もできた。時間が経つにつれて、少しずつ普通の生活を取り戻していった。
そんなある日のことだった。兄から電話がかかってきた。
「静流、驚かないで聞いてくれ」
兄の声は、いつもより少しだけ固かった。
「明日、出撃する」
一瞬、言葉の意味が分からなかった。
「初陣だ」
それでようやく理解する。――戦場に行く。
兄は昔から言っていた。
「いつか仇を討つ」
「故郷を取り戻す」
両親を殺されたあの日から、兄はずっと同じことを言い続けていた。そして、その日がついに来たのだ。
電話の向こうの兄の声は、不思議なくらい落ち着いていた。怖がっている様子は感じられない。
けれど、私は違った。もし兄が死んだら……。その考えが頭をよぎるだけで、胸が苦しくなる。兄がいなくなったら、私は一人になる。
本当は思っていることがある。仇討ちなんていいから、ただ一緒に生きていてほしい。
でも、その言葉は口にできなかった。兄がここまで生きてこられたのは、きっとその思いがあったからだと思うから。だから私は、こう言うしかなかった。
「……お兄ちゃん」
「頑張って」
「死なないで」
電話を切ったあと、しばらく動けなかった。スマートフォンを机に置き、両手で顔を覆う。兄の言葉が何度も頭の中で繰り返される。
――初陣だ。
その夜、眠ることはできなかった。
翌朝、ニュースで、守山駐屯地から部隊が出発することを知った。午前8時。
学校は休みだった。気がつくと私は、駐屯地の前に立っていた。門の前には、すでに多くの人が集まっている。
幼い子どもの手を握る母親、制服姿のまま涙をこらえている女性、背筋を伸ばして敬礼している年配の男性。
隊員の家族なのだろう。
「自衛隊がんばれ!」
小学生くらいの男の子が大きな声で叫ぶ。その声に、周囲の人たちが静かに頷いた。みんな同じ気持ちなのだと思った。
やがて、門の向こうからエンジン音が響き始める。装甲車の列がゆっくりと動き出した。重いエンジン音が地面を震わせる。上空では輸送ヘリが回転翼の音を轟かせていた。部隊は、奪われた首都圏へ向かう。
私は必死に人の列を見渡した。兄の姿を探す。でも、もしかしたら今、あの装甲車の中にいるのかもしれない。けれど、見つけることはできなかった。
当然だ。どの隊員も同じ迷彩服で、同じ装備を身につけている。それでも、目で追い続けた。昨日の電話が最後にならないように。
どうか、生きて帰ってきてほしい。遠ざかっていく車列を見送りながら、私はただ祈っていた。
登場人物紹介
段場 静流……2004年10月4日生まれの15歳(2020年9月21日現在)、高校生。兄・隼人を応援しつつも、失う恐怖とも戦っている。




