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外星戦記  作者: 無名の凡夫
第1章 初陣~オペレーション・ギデオン~

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第6話 吉報

出発から約30分。僕らを乗せた車列は、海沿いの国道を西へ進んでいた。


「おい、見ろよ」


声を上げたのは、下葛(しもつづら) ノエル三曹だった。


装甲車の小さな窓から外を指さしている。午後の柔らかな光が、廃墟となった街を照らしていた。ここは熱海市。かつては観光客で溢れていた温泉街だ。


けれど今は、人の姿はない。土産物屋のシャッターは閉まり、ホテルの看板も色あせている。まるで街そのものが眠ってしまったみたいだった。


「……チクショウ」


下葛三曹が小さく呟いた。彼女は窓の外を睨みつけている。装甲車の天井に手をついた彼女の腕は、戦闘服の上からでも分かるほど筋肉が盛り上がっている。その目が、今は怒りで燃えていた。その異なる瞳――オッドアイが、廃墟の街を真っすぐ睨んでいた。


「絶対、取り戻す」


誰に言うでもなく続ける。


「熱海はな。こんな街じゃねぇんだ」


少し間を置いてから、笑う。


「観光客でごった返して、温泉の匂いがして、うちの店の試食で腹いっぱいになる街なんだよ」


車内に小さな笑いが起きた。


「実家、土産物屋でしたっけ?」と、中西(なかにし) (ほたる)三曹が彼女に聞く。


「ああ」


下葛三曹は肩をすくめた。


「大学で経営学やって、そのまま店継ぐ予定だった」


少しだけ声が低くなる。


「……でも、あいつらが来た」


窓の外の廃墟を顎で示す。


「で、このザマだ」


沈黙が落ちた。


「自分の街が瓦礫になるってのはさ……本当に、腹立つんだよ。」


その言葉に、何人かの隊員が黙って頷いた。


故郷を奪われた者、故郷が緩衝地帯になった者。そして僕も――横須賀は、もう敵の占領下だ。


神奈川県に近づくにつれ、倒壊した建物が増えていく。海岸線に並ぶリゾートホテルの窓ガラスは砕け散り、建物は廃墟と化していた。波の音だけが、虚しく響いている。


僕の故郷、横須賀もこんな風に廃墟となっているのだろうか?


慣れ親しんだ港、幼い頃に遊んだ公園、通学路の商店街…。それら全てが、今目の前の熱海のように、無残な姿を晒しているのではないか、という嫌な予感が心を締め付ける。


『こちら34普連本部。方面隊司令部より入電。本日0900、北海道方面隊より「札幌地区の掃討完了」との報告。北海道奪還に成功した』


「!?」


その言葉が無線から響き渡った瞬間、車内の空気が一変した。最初は理解が追いつかず、誰もが息を飲んだが、やがてその意味を理解し始めた隊員達の間から、堰を切ったように歓声が沸き上がった。


「うおおおおおおおおおおお!」


下葛三曹の雄叫びが響く。隣にいた木山がヘッドロックをされたような状態で苦しそうにしている。いや……胸が顔に当たって嬉しそうにしていた。


「よし、次はアタイたちの番だな」


下葛三曹が笑った。


「やった、やった!」


魚見陸士長が、隣にいた杏南に抱き着く。杏南も喜びを隠さない。


「……マジかよ。人類が占領地を取り返したの、これが初めてじゃないか?」


「北海道が取り返せたなら、俺達にもできる!」


「続こう!」


「落ち着け!」


歓喜に湧く車内にて、江鹿(えじか) (あきら)一曹が一喝する。その声は、高揚した空気を一瞬で鎮めた。


「俺達はまだ何も成し遂げていない。任務は今からだ。気を引き締めろ。」


江鹿一曹は続ける。だが、その右手だけは、固く握られていた。白くなるほど力が入っている。


「士気が上がるのは良い事だ。しかし、慢心に繋がったら意味がない。いいか、集中しろ、気を抜くな。俺達は、故郷を奪われた国民の想いも背負っていることを忘れるな。」


「了解!」


江鹿一曹の言葉に僕はハッとした。僕はこれまで、両親や助けてくれた自衛官の仇討ちばかり考えていた。だけど違う。故郷を取り戻したい人は、日本中にいる。僕たちは、その願いも背負って戦うんだ。




2020年9月21日 11:56―――僕らは、湯河原町へ入る。


誰もが北海道奪還の報せに胸を躍らせていた。人類は初めて、占領された国土を取り戻した。ならば、今度は自分たちの番だ。そう信じて疑わなかった。


この時の僕たちは、まだ笑っていられた。


登場人物紹介

下葛しもつづら ノエル……1992年2月18日生まれ 静岡県熱海市出身 三等陸曹で、35普連2中隊所属。両親は、熱海の土産物屋を経営していたが廃業。自身も家業を継ぐつもりだったが断念し、自衛官になった。女性だが、豪快な性格。北海道奪還を知った時の咆哮も、男勝りなものだった。オッドアイ。


江鹿えじか あきら……1989年1月14日生まれ、埼玉県出身、一等陸曹で、35普連2中隊所属。首都圏が陥落した2012年8月に、グーリエ星人との戦闘を経験している。その後も、数回にわたり、首都圏奪還作戦に参戦している経験豊富な隊員。奥さんの地元が北海道なので、奪還に成功した時は、本心では飛び上がるほど嬉しかったのだが、自身は任務前なので、なんとか抑えた。あの一喝は、自分に向けて発したのかもしれない。


※北海道の奪還は、2020年4月1日より行われていた。

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ミリタリー SF ファンタジー 自衛隊 戦争
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