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外星戦記  作者: 無名の凡夫
第1章 初陣~オペレーション・ギデオン~

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第5話 初陣の恐怖

高機動車が止まり、エンジン音がゆっくりと落ちていく。ハッチが開いた瞬間、冷たい風が車内に流れ込んだ。外へ降りると、空気が妙に張り詰めている。


ここは静岡県函南町、月白展望台。


広大な敷地には、すでに数えきれないほどの車両が並び、隊員たちが忙しく動き回っていた。まるで巨大な蟻の巣のようだった。


ここが、オペレーション・ギデオン(第7次首都圏奪還作戦)の前進指揮所だった。


「賀井一佐、35普連、到着しました!」(片桐)


賀井(がい) 双一郎(そういちろう)。34普連隊長だ。」


野太く、しかい張り詰めた声が、広場に集まった僕らの耳に響く。精悍な顔つきのその男は、一瞬で場の空気を引き締めた。


「来てすぐで悪いが、時間が惜しい。作戦の確認を行うので、ホールへ集まってくれ。」


「了解しました!」




―大会議室にて―


大会議室に張り巡らされた大型スクリーンには、湯河原町から真鶴町にかけての地図が映し出されている。


「これより作戦確認を開始する。」


賀井一佐が一歩下がる。代わって情報幹部が前へ出た。


「敵情を説明します。」


スクリーンに東京湾が映る。


「34普連と35普連は、山を下って熱海へ行き、国道135号線から湯河原へ入ってもらう。敵の水棲種が上陸した際の討伐任務は聞いてるだろう」


情報幹部の言葉に、守山で聞かされた敵の姿が頭をよぎる。


――人魚種、半漁種。海の底から現れ、沿岸都市を襲う外星の兵。海沿いを進む以上、奴らの奇襲が最大の脅威だった。


「だが、まずは、湯河原町内で兵站拠点を作る。候補地は、湯河原駅の裏にある廃墟となった駐車場や、使われなくなった倉庫、廃ビル等だ。拠点作りと哨戒任務がメインとなる。現在、34普連の情報小隊が先行偵察を行っている。35普連の情報小隊も、これに続いてもらう。」


情報幹部の厳しい視線が、ホールに集まった隊員達一人ひとりに向けられる。誰もが固唾を飲んで、その言葉に聞き入っていた。


説明を聞きながら、僕は固く拳を握りしめていた。湯河原から真鶴へ、そしてその先には、僕の故郷・横須賀がある。


だが、その道が平坦でないことは、言葉の端々から痛いほど伝わってきた。海からの奇襲、市街地での戦闘、訓練とは違う本当の戦いが、すぐそこまで来ているのだ。


「以上だ。」


「計画どおりに進む戦争など存在しない。各級指揮官は現地判断を徹底しろ。必ず任務を達成する。」


「はい!」


作戦の確認を行った後、僕ら35普連は移動の準備を始める。出発は10:00。つまり、あとわずかで戦場へ向かう。急に喉が渇いた。水筒を開けようとして、気づく。手が震えている。指先がうまく動かない。胸の奥がざわざわする。


訓練では何度も銃を撃った。何度も突撃もした。でも――あれは全部「訓練」だった。ふと、隣にいる杏南と視線が合う。


「怖いね、隼人……。」


「杏南……。」


訓練では負け知らずの杏南でも、いざ実戦になると恐怖を隠しきれないんだな。


「訓練と違って、撃ちあうんだもんね…」


「へっ、びびってんじゃねぇよ」


同期の木山(きやま) 拓哉(たくや)が肩を叩いてきた。だが、声が少し裏返っている。木山は水を飲もうとして、中身を少しこぼした。


「両親の仇討つんじゃねぇのかよ? こんなんでびびってたら、すぐ死ぬぞ」


「木山さん!」


杏南が睨む。


「声、震えてるよ」


僕が言うと、木山は顔をしかめた。


「うるせぇ!お前ほどじゃねぇ!」


僕らが悪態をつき合っている中、ふと背後に気配を感じる。


「怖い?」


振り向くと、瑛松(えいまつ) 理央(りお)二曹が立っていた。いつの間に近づいたのか分からない。細身の体格。だが、その目は異様に落ち着いていた。


「怖くないっすよ!」


木山が笑う。相変わらず声が上ずっている。


「はは……全然っす」


「嘘だね」


瑛松二曹は淡々と言った。


「怖いのは普通。でも…恐怖に飲まれると、すぐに死ぬ」


空気が一瞬静まり返る。


「恐怖は捨てなくていい。でも、恐怖に呑まれては駄目」


そう諭す瑛松二曹は、これまでも死線をくぐってきた経験豊富な上官である。同じ中隊だけど、なかなか話す機会はなかった。


「新入りは、生きて帰ってくれば、それでいいんだよ~」


別の上官も話しかけてくる。今度は、魚見(うおみ) まひる陸士長。明るく気さくな性格で、後輩にも分け隔てなく接してくれる先輩だ。彼女も同じ中隊である。


「まひるの言った通り、初陣の時は、生きて帰ってくれれば、それでいい。そうやって経験を積んでいくものなの。」


「そうだよ! 新人のカバーはあたし達に任せて!」


「その通り」


瑛松二曹が短く言った。


「今日は、私達が前に出る」


「そうっすよね。いきなり戦果をあげるのも無理っすもんね。生きて帰ればいいだけなら。へへ、やってやろうぜ。」


木山は、瑛松二曹や魚見陸士長の声掛けで、だいぶリラックスできたようだ。僕も少しだけ怖さが取れた。周りには、こんなにも心強い仲間がいる。きっと大丈夫…。そう信じて…。


上官が立ち去る姿を見て、杏南が呟く。


瑛松二曹(あの人)、どれだけの死線を潜り抜けたんだろう…。」


瑛松二曹の制服には、何度も補修した跡があった。勲章はない。だが、その静かな眼差しだけで、誰もがこの人は生き残ってきた人間なのだと悟った。


一方、瑛松も、杏南に対し、思うところがあった。


「(苫米地 杏南…天才的な動きをするのは、訓練で実証済み。実戦でどこまで動けるか…。)」


やがて命令が下る。――10:00 出発。


僕は89式小銃を握り直した。冷たい樹脂製の被筒の感触が掌に伝わる。その重みが、これから始まる現実を突きつけてくる。


エンジンが次々とかかる。重いディーゼル音が展望台に響いた。車列はゆっくりと前へ動き出す。振り返る者は、誰一人いなかった。僕も前だけを見た。


これから向かう先にあるのは、故郷か、それとも死か。それでも、進むしかなかった。

登場人物紹介

賀井がい 双一郎そういちろう……1969年6月6日生まれ、静岡県出身、一等陸佐で、第34普通科連隊連隊長。神奈川方面部隊の指揮官。


木山きやま 拓哉たくや……2000年4月5日生まれ、静岡県出身、階級は二等陸士。35普連2中隊所属。隼人や杏南とは同期だが、年齢は1つ上。なので、杏南は敬語で喋るも、本人はため口で構わないと言っているので、隼人はため口で話している。


瑛松えいまつ 理央りお……1991年12月3日生まれ、山梨県出身、階級は二等陸曹。35普連2中隊所属。緊張していた隼人や杏南に声をかける。クールな性格をしている。女性。


魚見うおみ まひる……1999年7月6日生まれ 神奈川県出身、階級は陸士長。明るく、気さくな性格でもあり、2中隊のムードメーカー。女性。



グーリエ星に存在する種族

人魚族……上半身は人間、下半身は魚の尾ひれを持つ種族。基本的には水中生活を送るが、専用の義足を装着することで陸上活動も可能。ただし活動時間は約24時間が限界。亜種として、下半身が蛸で構成された「スキュラ族」が存在する。いずれも卵生。


半漁族……上半身が魚類に近く、下半身は二足歩行。人魚族より長く陸上活動が可能で、約40時間の活動が可能。亜種として、

・タートル族(亀型)

・フロッグ族(蛙型)

などが存在する。こちらも卵生である。


※人魚族と半漁族の特徴として、地上での活動は半漁族が活動量も多く、水陸両用の作戦では半漁族が重宝されるが、純粋な水中の動きでは、人魚族が圧倒的な活動量を誇ります。

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ミリタリー SF ファンタジー 自衛隊 戦争
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