第4話 運天 要
――ふざけるな。
作戦会議室を出た瞬間、俺は奥歯を噛み締めていた。
住民の捜索・避難誘導。
そんなもののために、俺は自衛隊に入ったんじゃない。
俺の名は、運天 要。今年、自衛官になったばかりの二等陸士だ。
運天という苗字は珍しいらしい。ルーツは沖縄だ。両親は沖縄出身。だが俺は大阪生まれ大阪育ちで、沖縄に行ったことすらない。
それでも――ニュースを見るたびに胸がざわつく。
今、沖縄は孤立している。九州がグーリエ星人に落ちたことで、本土との物流はほぼ途絶えた。
食料不足、生活物資の欠乏、観光業は壊滅。台湾が支援しているらしいが、それでも焼け石に水だ。
子供の頃、ニュースを見て思った。「なんで誰も助けないんだ」、と。
沖縄だけじゃない。奄美大島をはじめ、国内の離島は本土から孤立しており、沖縄と同じ状況に追い込まれている。
許せない。
だから決めた。俺が終わらせる。この戦争を。グーリエ星人を倒して、日本を救う。いや――世界を救う。
同じ志を持つ仲間と切磋琢磨し、ついに俺も初陣を迎える。東部方面隊が中心となって行われている、オペレーション・ギデオン(第7次首都圏奪還作戦)に加わることになったのだ。
ついに来た!
この戦いで、俺の英雄への第一歩が刻まれる。俺が英雄になる時が来た!
なのに……。
俺の任務は――避難誘導だった。
「35普連4中隊は、現地住民の捜索と避難誘導を担当する」
※享乱 瑞穂三等陸佐、第35普通科連隊第4中隊長
中隊長の言葉を聞いた瞬間、頭が真っ白になった。
捜索?
避難誘導?
そんな後方任務をやるために、ここまで訓練してきたのか?
……それは戦えない奴の仕事じゃないのか?
俺は命を賭ける覚悟でここにいる。死ぬことだって怖くない。なら、最前線に立つべきなのは俺みたいな人間だろう。
上官に食い下がった。だが返ってきた答えは同じだった。
「これは中隊単位の任務だ。個人ではない」
「それと、勘違いするな。」
享乱三佐の声は低かった。
「住民の捜索・避難誘導は戦場で最も難しい任務の一つだ。住民は命令どおりには動かない。敵は民間人を狙ってくる。一人でも見捨てれば、それは我々の敗北だ。」
納得できるわけがない。前線に行く中隊にも、明らかにビビっている奴はいた。それでも、そいつらは前線に行く。
じゃあ俺は何だ?
俺は、あいつらより劣っているのか?
そんなはずはない。そんなはずは――
……いや。一人だけ、別格の奴がいた。
苫米地 杏南。
同期の女だ。女のくせに――なんて言いたくはないが、あいつは本当に強かった。
同じ時間だけ訓練した。俺は毎晩、自主練もした。それでも、差は縮まらなかった。あいつは笑いながら俺を追い越していく。
格闘訓練も射撃もトップクラス。誰も勝てない。あいつだけは認めざるを得ない。もし最前線に立つのがあいつなら――それは納得できる。だが……俺が後方任務なのは、納得できない。
前線に立ちたいと直訴してみたが、当然ながら認められなかった。納得はできなかったが、これ以上、上官にたてつくわけにはいかない。不満を飲み込み、俺は指示に従うしかなかった。
まあ、首都圏奪還の他にも、九州の奪還も残っている。北海道の奪還もまだ出来ていない。俺が活躍できる部隊は残っている。そう自分に言い聞かせている。しかし、愚痴が止まらない……。
俺ならできるのに……クソが…。
— 2020年9月21日 5:00 —
守山駐屯地のゲートが開く。車列が、ゆっくりと外へ出ていく。出撃だ。俺の同期たちが乗っている。最前線へ向かう部隊だ。俺たち4中隊は一時間後に出発する。先行部隊が進撃路を確保してから、避難誘導を開始するためだ。
俺はフェンス越しに、それを見送っていた。拳を強く握る。……なんで俺じゃない。俺ならできる。俺なら――
…クソが。
車列が角を曲がり、最後尾の軽装甲機動車も見えなくなった。エンジン音だけが、ゆっくり遠ざかっていく。俺は、その音が完全に消えるまで動けなかった。
登場人物紹介
運天 要……2002年2月15日生まれ、大阪府出身、階級は二等陸士。隼人や杏南とは同期。グーリエ星人を倒し、世界を救う英雄になりたいと願っているが、自分自身の能力を冷静に把握しきれていない「英雄志向」を持つ。
享乱 瑞穂……1980年8月7日生まれ、神奈川県出身、階級は三等陸佐。要が所属する35普連4中隊の中隊長を務める。女性。




