第67話 嬉しい再会
――石橋の街中――
「あそこのスーパー、扉が開いている。」
「行ってみるか。」
「中には、誰もいない?」
「おい、店主らしき男が倒れているぞ!」
「もう死んでる…。」
「こいつは、グーリエ星人なのか?」
「分からん。しかし、一体何が…。」
こんばんは、苫米地杏南です。今、目の前にまひる先輩の仇が現れました。奴は、まひる先輩ほか、仲間たちを殺しただけではなく、その後、私達の攻撃を仲間たちの遺体を盾にして防ぐという、死者を冒涜する行為をしました。また、理央先輩を見て、「コレクションにする」と言い、そしておそらく、あのビルに監禁した5人の仲間も、黒幕はあのモグラでしょう。本当に虫唾が走ります。
しかし、個人の感情で動いてはいけません。奴らを討つのは、あくまでも「任務遂行のため」と自分に言い聞かせます。まずは、手前の2人、そして蜥蜴2体を討ち、最後にあのモグラを殺す!
「おい! まだ任務の途中だそうが、何やってる! 早く戻れ!」(ノザクサ)
「大丈夫だって! お前は真面目すぎるぞ!」(シグニュス)
「ノザクサ軍曹殿、戦況が落ち着いたから、大丈夫ですよ!」(アータイ・イズト兵士長)
「そうそう、俺たちは休憩のために一時離脱するの!」(シグニュス)
「ところでシグニュス軍曹殿、怪我は大丈夫でありますか?」(オッドー・ヒャイ一等兵)
「いてぇよ、まさか俺様目掛けて砲弾が飛んでくるなんてよ。」(シグニュス)
「日頃の行いだな…。」(ノザクサ)
「(同じ場所にいたのに、ガイ(ノザクサの事)はかすり傷…。リザードマンは頑丈だなぁ…。)」(シグニュス)
「シグニュス軍曹! あのコレクション、今日は軍曹の代わりに俺が遊んでいいっすか?」(グラフィー・キュベレン一等兵)
「ちっ、しょうがねぇな~。丁度、5匹だし一人一匹ずつな! ただし、コレクションを傷つけるんじゃねぇぞ。お前、一匹怪我させたろ?」(シグニュス)
「す、すみません。抵抗するもんですから…」(キュベレン)
「死んだら価値がねぇからな。気を付けろよ?」(シグニュス)
「俺はいい! てか早く戻れ!」(ノザクサ)
「もう夕方だから、退散しても大丈夫だろ。それより、あのコレクション、別のとこに移していこう。」(シグニュス)
「……。」(杏南)
私はまず、建物の陰から前方にいる猿の眉間を狙い、当てることに成功しました。そして、グラップルワイヤーで目の前の民家に登り、上からモンスターを撃ちます。
タタタタン!
「ぎゃ!」(キュベレン)
「がっ…。」(ヒャイ)
「何だ!?」(シグニュス)
「狙撃手か!」(ノザクサ)
「(あと3体…。)」(杏南)
隣の民家の屋根に移り、左の蜥蜴を狙います。
パァン!
「狙撃手は、前方だ! あの屋根に隠れている!」(ノザクサ)
タタタタタン! タタタタン!
蜥蜴に場所を気付かれてしまい、私は反撃を受けてしまいます。
「(外した、距離が遠かったか…。)」(杏南)
モグラは手負いなので、実質は1対2。しかし、場所を悟られた以上、私が不利。
「(時間がかけられないのに…。さて、どうするか…。)」(杏南)
その時でした。ビルの屋上から、奴らに向かって銃弾が飛んだのです。
蜥蜴の銃弾が私の隠れる屋根を削ります。奴の正確な射撃に、私は身動きが取れなくなっていました。その時、空気を切り裂くような乾いた音が響きます。
パシュ! パシュ!
「うっ」(ノザクサ)
「ああ…」(ヒャイ)
「(音が小さい。消音器か。)」(杏南)
蜥蜴とモンスターが、踊るように崩れ落ちます。私が苦戦した敵を、一瞬で、それも位置を悟られずに。
「(仲間? でも…誰?)」(杏南)
呆然とする私を現実に引き戻したのは、唯一生き残ったモグラの悲鳴でした。
「何!? 狙撃手は正面、12時の方向じゃなかったのか!?」(シグニュス)
モグラは道に取り残されました。誰かは分かりませんが、これは好機です。私は、すぐにモグラに発砲。モグラはその場で倒れました。
パァン!
「うぐっ…。」(シグニュス)
「(念のため、もう一発撃っておこう。)」(杏南)
パァン!
「がはっ…」(シグニュス)
モグラは完全にこと切れたようです。
「(仇は討ちましたよ、まひる先輩…。)」(杏南)
「…あっけないものですね。」(杏南)
でも、それでいいんです。
…。
泣いてはいけません。まだ戦場なのですから。急いで周囲を警戒しつつ、敵の死体へ向かおうとしますが…。
その時、私の背後に何者かが来ました。
「!?」(杏南)
「(気配を感じなかった…。)」(杏南)
私はすぐに振り返り、銃を突きつけます。
「待て待て、俺は味方だ。」(???)
そう言いますが、目の前の男は、私に拳銃を突きつけています。これを味方と思うのは無理があります。
「味方ならその銃をしまって下さいよ。」(杏南)
「俺はSだ。この街を探っていたところだ。」(???)
Sとは特戦群のことですね。かなりの手練れなのは分かりますが、私には本当に特戦群かを判別できません。
「俺は、芳賀統心、二等陸曹だ。コードネームはヤオという。どうだ、これで信じてくれるか?」(ヤオ)
その男はマスクを外し、名を明かしました。戦地で身分を明かすのは相当の覚悟です。私は信じることにしました。
「私は、35普連第2中隊所属の苫米地杏南二等陸士です。」(杏南)
私も身分を明かし、今私達が取っている行動について話します。
「撤退命令は出たのか?」(ヤオ)
「分かりません。無線がジャミングされており、通信が出来ていません。ですので、自分達で拠点に戻り、援軍の要請を考えました。」(杏南)
「そうか。では、俺たちが援護しよう。仲間にも伝える。お前は早く、武器を鹵獲して来い。」(ヤオ)
「了解。感謝します。」(杏南)
私は急ぎ武器を鹵獲し、理央先輩達と合流してビルから脱出しました。
「しかし、本当にやり遂げるとは。」(糸原)
「この子は天才なのよ。」(瑛松)
特戦群の皆さんに周囲の敵を倒してもらい、私たちは湯本へ向かいます。
下着姿だった北嶺一士は、別部屋のマネキンの服を着用することになりました。幸い、罠はなかったそうです。
「敵の服を着るは抵抗があるなぁ…。」(北嶺)
19:30、だいぶ暗くなってきました。山でこれ以上は危険と判断し、野営することになりました。
「紅林、調子はどう?」(瑛松)
「正直に言うと、痛みが強くなっています。」(紅林)
「患部に熱が出ていますね。現状、冷やすことしか出来ませんが…。」(東雲)
私は、タオルを冷やして紅林士長の患部に当てます。水を使いすぎないよう気を付けないといけません。氷を持ってくるべきだったと反省です。
「大丈夫。我慢する。」(紅林)
紅林士長は気丈に振舞いますが、痛みに顔を歪めています。しかし、現状ではどうすることも出来ません。
塹壕を掘っている時です。そう遠くない場所で銃声が聞こえました。
「様子を見てきます。」(杏南)
「待って、私も行く。」(坂下)
「助けてもらった借りを返したい。それに、1人より2人の方がいいでしょ?」(坂下)
「ジュリアさん。」(杏南)
「グラップルワイヤーを使って、木を伝って移動しなさい。」(瑛松)
「了解。」(杏南)
「あ、私、グラップルワイヤー苦手で…。」(坂下)
私は坂下二士を抱えてグラップルワイヤーで移動します。銃弾が聞こえた場所は、思っていたより近く、しかも敵の背後でした。
「(数は11人、1個分隊。味方は、ここから500m先くらいか。暗いのと銃声で人数までは分からない。)」(杏南)
「な、なあどうする?」(坂下)
「(7~8人なら一撃で仕留める自信がある。けど、もう夜だ。打ち損じるリスクが高い。どうする?)」(杏南)
「あ!」(坂下)
タタタタン!
中央の敵兵1人が、左の塹壕へ移動しようとした際に、銃弾に倒れました。
「(弾薬はあそこか。右側の敵兵が2人前進している。中央からも2人。ならば…。)」(杏南)
「ジュリアさん、左の2人を狙って下さい。私が残りを仕留めます。」(杏南)
「わ、分かった。任せろ。」(坂下)
普通なら、無謀だと反対するだろうが、坂下は一度、杏南の天才的な戦闘力を実感していたので、異を唱えることはなかった。今は、外したら自分が死ぬという緊張感に包まれていた。
「準備が出来たら撃って下さい。」(杏南)
「ああ…。」(坂下)
彼女の指が引き金にかかった瞬間、心臓が耳元で鳴り響く。指が震えて、引き金がやけに重く感じた。しかし、隣に立つ杏南の横顔を見て安心し、迷いが完全に消えた。
「(こいつがいれば大丈夫…)」(坂下)
「(……訓練を信じろ!)」(坂下)
「(すーっ、はぁー)」(坂下)
深く深呼吸をした後、坂下は左の敵兵へ発砲した。
タタタタン!
「ぐあ!」
「な、何だ!?」
坂下は1人仕留め損ねたが、杏南が拳銃で討ち取る。そして、中央の敵は銃剣で切り殺す。敵の塹壕に潜り、右側の敵兵2人も討ち取った。
「す、すげぇ…。」(坂下)
杏南の華麗な動きに思わず見とれる坂下だった。
後方の味方が討ち取られたことで、前進していた敵兵は混乱し、杏南と味方隊員の挟撃で討ち取った。
「助かった。礼を言う。」
戦っていた仲間の隊長と思われる隊員が話しかけてきました。同じ35普連で、3中隊の久里浜良仁三等陸佐でした。そして…。
「杏南!」(隼人)
見慣れた声が、暗闇の中から聞こえました。そこにいたのは、隼人でした。本当に隼人なのか、一瞬だけ目を疑いましたが…。あれは間違いなく隼人です。
「隼人!」(杏南)
隼人とも再会できました。私は思わず、隼人に抱き着いてしまいました。
「隼人、隼人ぉ~」(杏南)
杏南は、僕の胸に顔を埋めるように抱き着いてきた。
「ちょ、杏南…。皆が見てるから…。」(隼人)
「それに、杏南と一緒にいたあの人、僕の事ずっと睨んでいるから…。」(隼人)
僕がそっと耳元で囁くと、杏南は「あ…」と小さく声を漏らし、顔を真っ赤にして僕から離れた。戦場の緊張で張り詰めていた空気が一瞬で解け、ほんの少しだけ、普通の女の子に戻ったようだった。
僕らはお互いに情報交換をすべく、瑛松二曹等と合流した。
「手塚、段場、無事だったのね。」(瑛松)
「久里浜中隊長、ご無事で…。良かった…。」(坂下)
「坂下も無事で何よりだ。」(久里浜)
僕らはお互いの無事を喜び合った。久里浜中隊長と坂下二士の間には、言葉にならない安堵と喜びの震えがあった。しかし、失った仲間の事を語ると、その場はたちまち重い静寂に包まれた。
「俺たちは、敵の銃弾を避けながら戦っていた。そんな中でおち合った。所属もバラバラだ。この場所にいたのも、意図的というよりも、成り行きで来ちまった感じだ。」(久里浜)
「そうでしたか…。」(理央)
僕は、敵に囲まれていたところを、吉良三尉、浅井一曹、奥戸三曹に助けられ、共に行動している時に手塚三曹とおち合った。そこから、久里浜中隊長や芦屋三曹と合流し、態勢を整えようとしていた。しかし、ここまでの間に死んでしまった仲間もいる…。
瑛松二曹の部隊は、箱根から月白展望台へ向かう途中だった。その道中に、グーリエ星人に捕えられた東雲三尉等を救出、武器の鹵獲と獅子奮迅の活躍だったようで、凄まじい戦果を挙げているようだ。凄いな…。ところで、坂下二士の杏南を見る目って、あれ、恋する乙女じゃない? 気のせい?
「物資の確保は出来たけど、この人数だと少し少ないかなと。」(理央)
「今日はここで一晩過ごし、明日の5:00に出発する予定です。久里浜中隊長、明日以降の指示をお願いします。」(理央)
「いや、お前が指揮を取れ。」(久里浜)
久里浜中隊長は、僅かに視線を落とした後、毅然とした態度で瑛松二曹に言った。
「しかし、階級で言えば、久里浜中隊長が…。」(理央)
「階級など、今はどうでもいい。 この作戦はお前が立案し、そしてそれに着いてきた隊員達だろう。俺が指揮を執って作戦遂行に支障が出てはいかん。それに、お前が一番この状況を理解している。引き続き、指揮は任せる。」(久里浜)
「…俺たちはただ逃げていたようなものだしな…。」(久里浜)
「久里浜中隊長…。」(瑛松)
「瑛松二曹、お願いします。」(渚)
「私達は、貴方がいなかったら敵兵に捕らわれてどうなったか分かりません。瑛松二曹だから着いていけるんです。」(糸原)
「…。」(理央)
「分かりました。引き続き、指揮を取ります。」(理央)
「…。」(浅井社)
ここに至るまでに、瑛松二曹が築いた信頼、作戦遂行のために指揮権を譲る久里浜中隊長、2人とも凄い人だ。
…。
ふと、誰かの顔が思い浮かんだが思い出せないな。
戦場の真っ只中なので、塹壕の中で眠るのは勇気がいる。とはいえ、疲労がピークにきている。すぐに睡魔に負け、僕は眠ってしまった…。
登場人物紹介
芳賀 統心
生年月日:1993年4月30日 / 出身:神奈川県
階級:二等陸曹 / 所属:特戦群4中隊
備考:特戦群の一員で、コードネームは「ヤオ」。石橋の街に潜んでいた。
久里浜 良仁
生年月日:1979年5月20日 / 出身:愛知県
階級:三等陸佐 / 役職:35普連3中隊の中隊長
備考:湯本へ向かう山中で交戦中、杏南と坂下の援護で難を逃れる。
吉良 幹丈
生年月日:1989年3月30日 / 出身:東京都
階級:三等陸尉 / 所属:35普連1中隊
浅井 社
生年月日:1990年11月4日 / 出身:愛知県
階級:一等陸曹 / 所属:35普連1中隊
奥戸 健太
生年月日:1995年12月2日 / 出身:岡山県
階級:三等陸曹 / 所属:35普連3中隊
芦屋 仁
生年月日:1992年7月24日 / 出身:愛知県
階級:三等陸曹 / 所属:第10通信大隊2中隊
アータイ・イズト
種族・性別:リザードマン族の男性
所属・階級:陸軍兵士長、小田原殲滅隊・第1歩兵連隊3大隊11中隊20小隊。
備考:奇襲の際に紅林を攫う。「ヤオ」の銃弾に倒れる。
グラフィー・キュベレン
種族・階級:猿型獣人族の男性
所属・階級:陸軍一等兵、小田原殲滅隊・第8補給支援連隊4大隊
備考:杏南の銃弾に倒れる
オッドー・ヒャイ
種族・性別:ゴブリン族の男性
所属・階級:陸軍一等兵、小田原殲滅隊・第3奇襲連隊3大隊9中隊
備考:奇襲の際に東雲を攫う。杏南の銃弾に倒れる。
オグマ・シグニュス……まひるを殺したモグラ型獣人族
ガイネル・ノザクサ……シグニュスと同じ部隊のリザードマン
※理央が引っ張ってきた隊員達
渚 恭平(陸士長)
山下 裕介(陸士長)
一橋 剛(一等陸士)
苫米地 杏南(二等陸士)
久木田 怜(二等陸士)
※石橋で理央と合流した隊員達
東雲 舞夢(三等陸曹)
糸原 ツヅラ(三等陸曹)
紅林 珠(陸士長)
北嶺 百合果(一等陸士)
坂下 ジュリア(二等陸士)
※湯本へ向かう途中で理央と合流した隊員。
久里浜 良仁(三等陸佐)
吉良 幹丈(三等陸尉)
浅井 社(一等陸曹)
奥戸 健太(三等陸曹)
手塚 泰二郎(三等陸曹)
芦屋 仁(三等陸曹)
段場 隼人(二等陸士)
木山 拓哉(二等陸士)




