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外星戦記  作者: 無名の凡夫


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第58話 再編の足音

――2020年9月25日 16:00 星山さつき公園――


「まなつるサボテンパークは、高台で周囲は原生林に囲まれている。上空からの偵察も、偽装で乗り切れる可能性もある。しかし、海が近く、崖で水棲種の上陸を遅らせることが出来たとしても、海からの砲撃には耐えられないかと。」(賀井)


「ふむ、海からの的になる。裏を変えれば、こちらから敵艦隊への砲撃も可能ということだ。真鶴の本拠点は、星山さつき公園で行くが、ここも海自の援軍用に陣地を築くぞ。」(有朋)


「しかし、施設科の人員が足りませんが…。」(片桐)


「星山さつき公園から先に取り掛かろう。少ない人数だが、頼むぞ、栄摩三尉。」(有朋)


「了解しました。」(栄摩来仁(えいま らいん)


第10施設大隊は、大隊長が戦死してしまい、栄摩三尉が、最上位階級であった。人員も分隊規模しかおらず、僕達普通科も陣地の構築を行う。


「早速取り掛かるぞ。」(賀井)


賀井連隊長の号令で、僕らの「本業」とはまた違う、過酷な重労働が始まった。 本来なら施設大隊が重機を駆使して行う作業だが、生き残った "分隊" には数台の小型ショベルカーしかない。あとは僕ら普通科が円匙(シャベル)と手作業で土を掘り、土嚢を積み上げるしかないのだ。


「(掘っても掘っても、終わりが見えない……)」(隼人)


丸2日が経過した頃、僕の意識は朦朧としていた。 標高400メートルの山頂付近は風が強く、夜は凍える。施設科の栄摩三尉は、不眠不休で測量と図面引きを行い、崩落の危険がある箇所に的確な指示を飛ばしていた。その顔は土埃で黒ずみ、目は血走っている。鉛筆を握る指が震えていたが、それでも図面を引く手は止まらなかった。


「隼人、手が止まってるぞ。……ほら、これでも飲め」(木山)


木山が差し出してきたのは、泥のついた水筒の水だった。


「サンキュ……」(隼人)


木山の顔も、以前のような「恐怖」ではなく、極度の「疲労」で無表情になっていた。逆に言えば、作業の忙しさが彼から余計な思考を奪っているようにも見えた。



――2020年9月28日 10:00 作業開始から3日


突貫工事で「星山さつき公園」に迫撃砲の砲床と、対空・対艦用の偽装陣地が形になり始めた頃、ようやく作戦会議の招集がかかった。


場所は、辛うじて倒壊を免れた公園の管理事務所。 地図を広げる賀井連隊長の周りには、片桐連隊長、そして空自や海自の連絡官たちが集まっていた。


「陣地構築の目処はついた。これより、次のフェーズに移る。……目標は小田原だ」(有朋)


「明日はまず、石橋に新たな兵站拠点を作る。場所は座標35.222728、139.128677。山の中だが、箱根にも行ける場所で、立地的にも悪くはない。ここを中心に作る。数が少ないが民家がある。住民がいれば避難勧告をしろ。小田原市内へ入るのは、兵站拠点の完成後だ。」(賀井)


「明日は34普連が海沿いの哨戒、35普連が石橋兵站拠点付近の哨戒と避難勧告を行う。尚、35普連の4中隊は湯河原の拠点、34普連の5中隊はここに残る。」(賀井)


「また、拠点の構築には、402施設中隊に来てもらう。」(賀井)


「……助かった。」(栄摩)


栄摩三尉は、その報告を聞いてホッと胸を撫で下ろしていた。当たり前だ。約3日、不眠不休で陣地を構築していたのだ。声もガラガラだ。兵站拠点を築きながらの進軍の要となっていた施設科の援軍は心強いだろう。


「あ、あと…。」(片桐)


片桐連隊長が話す。


「2中隊は、新しい中隊長が加わる。明日の朝に合流する予定だ。和戸、引継ぎを頼む。5中隊は4中隊と合流だ。」(片桐)


「了解。」(和戸)


和戸一尉の返答は短かった。代行としてこの激戦を支えてきた彼にとっても、複雑な思いがあるはずだ。新しい中隊長。どんな人だろうか。 僕ら2中隊を率いて、あの死地へと再び向かう指揮官。


「(園山中隊長は、本当に良い人だった。それだけに、喪った時の衝撃は大きかった……)」(隼人)


園山中隊長を失ったあの日の、燃えるような空と絶望感が脳裏をよぎる。 新しい人が来るということは、停滞していた時間が動き出すということだ。それは喜ばしいはずなのに、僕の胸には、古傷を触られるような鈍い痛みが走った。


「……会議は以上だ。各員、明日に備えてしっかり休養せよ」(有朋)


有朋陸将の言葉で、張り詰めていた空気がふっと緩む。


事務所を出ると、そこには突貫工事で築かれた泥臭い陣地が、夕闇の中に沈んでいた。 施設科の援軍が来る。新しい上官が来る。拠点はさらに北へと伸びていく。着実に、僕らは「奪還」に向けて歩み始めている。 だが、その一歩一歩が、誰かの犠牲の上に積み上げられた土嚢であることを、僕は忘れられずにいた。


「隼人、ご飯、食べに行こう」(杏南)


背後から、いつもの明るい声がした。 振り返ると、泥に汚れた顔で笑う杏南がいた。


「……ああ、そうだね。」(隼人)


僕は杏南の隣を歩き出した。 明日の朝、石橋へ。そしてその先にある小田原へ。 小田原の向こうには、まだグーリエ星人の支配圏が広がっている。新しい中隊長がもたらすのは、僕らの希望か、それとも新たな戦慄か。


相模湾から吹き上げる夜風が、少しだけ冬の気配を帯びて、僕らの頬を撫でていった。

登場人物紹介

栄摩えいま 来仁らいん

生年月日:1992年10月28日 / 出身:東京都

階級:三等陸尉 / 所属:第10施設大隊第3中隊

備考:10施の数少ない生き残り


段場だんば 隼人はやと……本編の主人公

苫米地とまべち 杏南あんな……隼人の同期で恋人

木山きやま 拓哉たくや……隼人や杏南の同期

有朋ありとも しげる……オペレーション・ギデオンの最高司令

賀井がい 双一郎そういちろう……34普連の連隊長

片桐かたぎり はじめ……35普連の連隊長

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