表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
外星戦記  作者: 無名の凡夫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/129

第54話 学び舎の死闘②

校庭に飛び出した僕らの目に飛び込んできたのは、無残に砕け散った廣嶋一曹や足尾二曹の残骸と、それを嘲笑うかのように浮遊する「AH-64D(アパッチ)」の影だった。


「廣嶋さん……足尾さん……嘘だろ……」(木山)


木山が震える声で呟いた。彼の持つ89式小銃が、カチカチと小さく音を立てている。寒さのせいじゃない。抑えきれない恐怖だ。 木山にとって、これまでの戦いはどこか現実味を欠いていたはずだ。新崎川の捕縛劇も、天使族の襲撃も、彼は最前線にいなかった。真鶴岬の激戦ですら招集されず、海辺の戦いでも逃げてきた敵を処理しただけだった。だが、ここは違う。 一歩先には、ベテランの命を一瞬で塵に変える「死」が充満している。


「木山、しっかりしろ! 来るぞ!」(隼人)


木山が震えているのは、僕にでも分かった。僕が叫んだ瞬間、木山の視界を追い越して、一つの影が弾丸のように飛び出した。 杏南だ。


「……遅い」(杏南)


杏南の呟きと共に、彼女の放った狙撃が、目の前のグーリエ星人達の額を、心臓を的確に撃ち抜く。グーリエ星人は断末魔の悲鳴と共に、ぞろぞろと倒れ込む。


「(なんだよ……これ……。隼人も、苫米地も……いつの間に、あんなに遠くへ行っちまったんだ?)」(木山)


かつて一緒に訓練を受け、愚痴をこぼし合っていた仲間。そのはずなのに、今の2人は、戦場という異界に完全に適応してしまっている。取り残された自分への焦燥感と、圧倒的な死の気配。木山は、引き金にかけた指が自分の物ではないような感覚に陥っていた。




――数キロ先外周:4中隊


「中隊長! 学校内で戦闘! 俺達も行きましょう!」(要)


要は、今度こそ戦える、英雄になれる一歩だと息巻いている。しかし、今回もそれは叶わない。


「10偵と5中隊の生存者の救護をする。」(享乱)


「……なんで俺たちが救助任務なんですか! あそこでは味方が戦っているんだぞ!」(要)


要は、中隊長に向かって吠えた。 4中隊に下された命令は、壊滅した10偵と5中隊の生存者の保護、及び周辺の封鎖。偵察距離が校内から最も遠かった故の判断だ。 目の前では、血を流し、うなだれる5中隊の生き残りたちが運ばれていく。


「運天、落ち着け。これも重要な任務だ。仲間の命には代えられない。」(享乱)


「しかし……」(要)


「運天! 命令を無視するな!」(享乱)


「……くっ」(要)


今すぐにでも戦いたかった要にとって、生存者の保護は、受け入れられる任務ではなかった。戦って英雄になりたいという彼の想いが、自衛官として矜持にヒビを入れる。


「(国民の命を守るのが自衛官の使命。目の前にいる仲間も立派な日本国民だ。あいつは、それを忘れている…。)」(厚巳)


「角南! お前は例外だ。いますぐゆずり葉学園に援護へ行け! お前の力は必要だろう。」(享乱)


「了解!」(朱杏)


「な!?」(要)


享乱から指示を受けた角南朱杏が、バイクのエンジンを吹かした。彼女にだけ、例外的に認めた戦場への介入。それは、彼女の実力への信頼だった。しかし、要だけはそれが納得出来ないでいた。


「中隊長! ならば、俺も!」(要)


「お前はここで、生存者の保護だ! 命令に従え!」(享乱)


「チクショウ! 俺も戦えるのに……」(要)


要は、走り去る朱杏の背中を、悔しさを噛み締めながら見送るしかなかった。



――再び、ゆずり葉学園


「……来るぞ! 全員伏せろッ!」(和戸)


和戸一尉の叫びが響く。上空で不気味なハミング音を響かせていたAH-64D(アパッチ)が、その機首を校庭の生存者たちへと向けた。30mm機関砲の銃身が、獲物を定めるように微かに動く。


「(ダメだ……あれだけは、小銃じゃどうにもならない!)」(隼人)


僕は杏南の腕を掴んで引き寄せようとした。しかし、杏南の視線は空を射抜いたまま動かない。彼女の瞳の中では、アパッチの火器管制システムの挙動さえも「予測可能な光の筋」として見えているようだった。その時だった。


「な、何だ!?」(隼人)


空が震えた。僕は思わず、空を見上げた。


「全地上部隊へ、こちら”ハンター01”。第一航空団・岡田英一等空尉だ。これより対地支援を開始する」(岡田)


空気を裂くような轟音が、学園の上空を震わせた。夕闇を切り裂く二条の影が、超低空で校庭をかすめた――航空自衛隊のF-2戦闘機が、超低空でアパッチの側を通り抜ける。


「空自だ……! 空自が来てくれたぞ!」(中西)


中西思わずが叫ぶ。アパッチの操縦士が慌てて回避機動を取り、F-2へ銃口を向ける。


「(まずい……態勢が悪い…)」(妙台)


「ターゲットロック!」(アパッチの操縦士)


アパッチが、妙台の乗るF-2をロックオンした。


「(なんてね)」(妙台)


「ターゲットロック。……送るぞ」(岡田)


岡田の乗るF-2から放たれた短距離空対空ミサイルが、漆黒のアパッチへと吸い込まれていく。直後、学園の上空に巨大な火球が咲き誇った。かつて陸自の誇りだった機体が、鉄の屑となって校庭の外へと墜落していく。


「(毎回囮になるのは心臓に悪い。別にいいけど…)」(妙台)


「ああっ……」(木山)


木山は、ただ口を開けたまま空を見上げていた。自分たちが手も足も出なかった「死神」が、一瞬で消え去った。その事実が、彼の「戦士」としての自信をさらに削り取っていく。


「まだよ!」(朱杏)


冷徹な声が響いた。 校門の向こう、炎を背負って一人の女性がバイクで突入してきた。4中隊のエース、角南朱杏(すなみ しゅあん)だ。 彼女はバイクをスライドさせながら停車させると、背負っていた狙撃銃を一流の動作で構えた。


「援軍に来ました!ここは私に任せて!」(朱杏)


朱杏の言葉を裏付けるように、校外からは3中隊の増援部隊が放つ迫撃砲の着弾音が響き始める。


「援軍だ!」(山下)


「俺達もいるぞ!」(橋本)


2階を制圧した1中隊も、校庭に現れる。


「……まさか、これほど早く航空援軍を呼べるとは。計算外ね」(イオクタン)


イオクタンが忌々しげに扇を閉じる。 しかし、彼女の部隊はまだ健在だ。 校庭のあちこちで、江鹿、須田、亜久たちが地頭班と合流し、最後の反撃の陣形を組む。


「もう十分ね。これ以上、被害を出すわけにはいかないわ。一度撤退する!」(イオクタン)


彼女は、既に何かを確認したような目をしていた。


「逃がすな! ここで殲滅するぞ!」(橋本)


イオクタンの狙いは、罠が完成するまでの足止め。ここでの殲滅ではない。状況が悪いと判断すると、すぐさま撤退の命令を下す。


1中隊と2中隊が正面から、背後から3中隊と朱杏が挟撃し、撤退を始めた帝国兵に銃火を浴びせる。しかし、イオクタンは動じなかった。


「アンタス、重力霧(グラビティミスト)展開!」(イオクタン)


アンタスが特殊な球体を地面に叩きつける。次の瞬間、地面から黒い霧のような歪みが噴出し、瞬く間に校門付近を包み込んだ。


「何だ!? 目標が見えない!」(山下)


霧の中では光が屈折し、照準器ドットサイトが役に立たない。それどころか、霧に足を踏み入れた隊員たちが、目に見えない重圧に押し潰されるように膝をついた。


「くっ、これは……重力波の干渉か!? 橋本中隊長、止まってください! 罠です!」(瀧嶋)


瀧嶋の制止で、辛うじて隊列が止まる。 その黒い霧の向こう側、イオクタンは朱杏と、銃口を向けたままの杏南を一瞥した。


「……褐色の娘(杏南の事)よ、その力、次に会う時まで磨いておくことね。まあ、次会う時は、その瞳も絶望に染まっているでしょうけれど」(イオクタン)


イオクタンの姿が、夕闇と黒い霧の中に消えていく。


「逃がさない……!」(杏南)


杏南が引き金を引いた。 音もなく放たれた一撃は、霧を切り裂き、遠ざかるイオクタンの肩を掠めた。だが、致命傷には至らない。帝国軍は驚異的な統制を保ったまま、ゆずり葉学園から完全に離脱していった。 静寂が戻った校庭。 聞こえるのは、炎上するアパッチの残骸が爆ぜる音と、遠くで警戒を続けるF-2戦闘機のエンジン音だけだった。


「……終わった、のか?」(木山)


木山が震える手で小銃を下ろす。 校庭には、至る所に薬莢が散らばり、コンクリートは砕け、そして――。


「廣嶋一曹……足尾二曹……」(隼人)


僕は、2人がいた場所へと歩み寄った。そこには、原型を留めない遮蔽物の残骸と、主を失ったてっぱちが転がっているだけだった。


「勝った……んだよな?」(隼人)


足下で薬莢が転がる音がした。僕の問いに答える者はいなかった。


3階から立ち昇る煙を見上げる橋本中隊長の背中も、呆然と立ち尽くす地頭曹長の拳も、勝利の喜びとは程遠い、深い喪失感に満ちていた。勝利したはずなのに、不吉な予感だけが胸の中に(おり)のように溜まっていく。 杏南は、いつの間にか元の静かな瞳に戻り、僕の手をそっと握った。その手は、驚くほど冷たかった。


勝ったはずなのに…勝った気にはなれなかった。

登場人物紹介

段場だんば 隼人はやと……本編の主人公

苫米地とまべち 杏南あんな……隼人の同期で恋人

木山きやま 拓哉たくや……隼人と杏南の同期

運天うんてん かなめ……隼人と杏南の同期、戦果を挙げて英雄になりたい。

享乱きょうらん 瑞穂みずほ……35普連4中隊の中隊長

厚巳あつみ 千宏ちひろ……35普連4中隊の三等陸曹

角南すなみ 朱杏しゅあん……35普連4中隊のエース

和戸わこ 一暁かずあき……35普連2中隊の中隊長代理

江鹿えじか あきら……35普連2中隊の一等陸曹

地頭じとう 孝之たかゆき……35普連2中隊の陸曹長

亜久あく 弘夏こうか……35普連2中隊の二等陸曹

山下やました 裕介ゆうすけ……35普連2中隊の陸士長

中西なかにし ほたる……35普連2中隊の三等陸曹

橋本はしもと 紋次もんじ……35普連1中隊の中隊長

瀧嶋たきしま 達世たつよし……35普連1中隊の二等陸曹

岡田おかだ はなぶさ……第一航空団所属のエースパイロット

妙台みょうだい 愛羽あいは……第一航空団所属の精鋭パイロット

ファネッタ・イオクタン……帝国陸軍少佐で、真鶴攪乱部隊の指揮官


当作品に出てくる架空の装備

重力霧グラビティミスト……帝国軍が撤退時もしくは、奇襲時等に用いる。風船のような物を破損させることで、黒い霧が当たりを包み、光が屈折し、照準器ドットサイトも役に立たない。また、霧の中では、重力に押しつぶされてしまう。煙幕よりも広範囲を包む。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ