表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
外星戦記  作者: 無名の凡夫
第1章 初陣~オペレーション・ギデオン~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
51/261

第51話 海辺の残照

海辺の残照


2020年9月23日 12:15――国道135号線。


国道の向こうに広がる相模湾は、もはや海ではなく戦場だった。


水平線では海上自衛隊の艦隊が砲火を交え、その上空では航空自衛隊の戦闘機が帝国軍航空隊と激しく入り乱れている。砲撃のたびに海面は白く盛り上がり、爆煙が潮風に流された。


第35普通科連隊第2中隊は道路脇の遮蔽物に身を寄せ、海岸線を警戒していた。


「これ、84㎜無反動(ハチヨン)砲で届くんでしょうか」


僕が海を見ながら漏らすと、江鹿一曹が双眼鏡を下ろした。


「届かん。海も空も海自と空自の仕事だ。俺たちは上陸してきた敵を止める。それだけ覚えておけ。」


「了解です。」


敵はまだ姿を見せない。その間にも沖合では爆発が続いていた。


「新兵器、効いてるんじゃないか?」


中西三曹が呟く。


「まだ分からん。」


須田二曹は首を振った。


「敵旗艦は健在だ。」


「いや……見ろ。」


新山三曹が空を指差す。


「あのミサイル、当たる前に爆発してないか?」


その瞬間だった。


F-35Bが一機、黒煙を引きながら海面へ落下した。


「あ……」


木山が思わず声を漏らす。


「見るな。」


和戸一暁一尉の声が飛んだ。


「段場、木山、小城。敵が来ないからと気を抜くな。」


3人は慌てて視線を海岸へ戻す。


「仲間を失うのは誰でも辛い。だが今は任務だ。生き残りたいなら、自分の正面だけを見ろ。」


誰も返事はしなかった。その言葉の重みだけが胸に残った。




―駿河湾沖15海里 艦隊旗艦「海王」―


「103番機、墜落!」


通信員の布置が叫ぶ。


「脱出確認できません!」


艦橋の空気が一瞬凍りつく。


「海中は水棲種の制圧圏だ。」


艦長・力安は短く言った。


「救助は不可能だ。」


誰も反論しない。艦橋の全員が、それを理解していた。


「艦長。」


沼田がモニターを指差す。


「敵主力艦のシールド出力に偏りがあります。大型艦を守るため、小型潜水艇までは保護できていません。」


力安は双眼鏡を静かに下ろした。


「黒鮫へ。」


「はい。」


「剣魚、水燕を敵小型艇群へ集中投入。主力は後回しだ。まずは護衛を削る。」


「了解。」


命令は数秒で海中へ伝達された。


深海では黒鮫から放たれた水燕が海底地形を縫うように加速していく。


帝国軍小型潜水艇は重力シールドを展開しながら回避機動を取るが、すべてを防ぎ切れるわけではない。1発が側面装甲を貫いた。


爆発。艇体が激しく回転しながら浮上していく。




―帝国小型潜水艦8号艇―


警報音が鳴り止まない。


「4時方向、魚雷!」


副操縦士リシ・ウールア兵士長が叫ぶ。操縦桿を握るエルーガ・イアテ上等兵は反射的に艇を右へ滑らせた。


魚雷は艇腹をかすめ、そのまま海底へ突き刺さる。


「正面、敵無人機!」


イアテは照準を合わせる。水中ドローンが四散した。


「見事だ。」


ウールアが笑う。


「兵士長の援護があったからです。」


言い終える前に、新たな警報が響いた。今度は魚雷だけではない。先端を刃のように尖らせた水中ドローンが数機、左右から接近してくる。


「シールド展開!」


透明な重力場が艇を包む。


3度の爆発。衝撃が艇全体を揺さぶる。


「シールド限界!」


表示が赤く変わる。


《充電開始 残り三〇秒》


その文字を見た瞬間、イアテは理解した。


「……耐えられない。」


彼は緊急脱出レバーを引いた。操縦区画だけが艇体から切り離され、水面へ射出される。




―国道135号線―


「敵潜水艇だ!」


和戸一尉が叫ぶ。


「砂浜に乗り上げる!」


大破した帝国潜水艇が砂浜へ突っ込んだ。ハッチが吹き飛び、中から兵士たちが飛び出してくる。


僕は84ミリ無反動砲《迅》を肩へ担いだ。手が震えている。


「後方クリア!」


魚見陸士長が叫ぶ。


「撃って!」


僕は引き金を絞った。鋭い発射音と共に新型弾は一直線に飛ぶ。


だが敵兵の脇をかすめ、潜水艇だけを吹き飛ばした。


「外した……!」


「伏せろ!」


新山三曹が前へ出る。


89式小銃が火を吹いた。


3点射、2点射。砂浜へ飛び出した帝国兵が次々と倒れていく。




海岸へ転がり出たイアテは、倒れたウールアへ手を伸ばした。


「兵士長……」


返事はない。次の瞬間、胸へ銃弾が食い込んだ。身体から力が抜ける。霞む視界の向こうでは、仲間たちが次々と倒れていた。


(……ここまで計算されていたのか。)


海上から逃れても、浜辺には陸自が待ち構えていた。自分たちは最初から、逃げ場のない殺傷区域へ追い込まれていたのである。




―帝国鹵獲艦隊 旗艦―


「シェメトーリ少佐より報告。」


通信兵が振り向く。


『敵水中誘導兵器の運動性能、爆圧、旋回半径。必要なサンプルを取得しました。』


ププップ・ロテウス・プー大佐は静かに頷いた。


「十分だ。」


彼は戦況表示盤から目を離さない。


「各艦反転。館山へ帰投する。」


護衛艦ヒューマでは、炎に包まれた艦内から乗員が次々と海へ飛び込んでいく。


水棲種主体の乗組員に救命艇は不要だった。何名かは追撃を受けたものの、主要指揮官は全員が離脱に成功した。




―艦隊旗艦「海王」―


「敵艦隊、反転!」


布置が報告する。


「追撃しますか?」


副艦長・恒村 大央が問う。


力安は数秒だけ海図を見つめた。


「いや。敵海域へ深入りする理由はない。こちらも弾薬と燃料を補給する。艦隊は舞鶴へ帰投。」




―国道135号線―


夕陽が海を赤く染めていた。砂浜には帝国兵の遺体と、小型潜水艇の残骸が転がっている。僕は、熱を帯びた84㎜無反動(ハチヨン)砲を抱えたまま、その場へ座り込んだ。


外した……あれほど近かったのに。敵を倒したのは新山三曹だった。その差が、そのまま自分とベテランとの差なのだと思い知らされる。


「段場。」


和戸一尉の声が飛ぶ。


「休むな。残敵警戒。」


「……はい。」


18:00、海は静かだった。だが、その静けさは勝利を意味してはいない。


「街の方は無事だったんでしょうか。」


僕の問いに、和戸一尉は少しだけ間を置いた。


「俺たちが海で戦っている間に、兵站拠点が襲撃された。」


僕は言葉を失った。目の前の海は守り切った。しかし、その背後では、自衛隊の命綱が別の戦場で断ち切られようとしていた。


潮騒だけが、夕暮れの浜辺に静かに響き続けていた。

登場人物紹介

力安りきやす 悟郎ごろう……艦隊旗艦「海王」の艦長

恒村つねむら 大央だおう……海王の副艦長、二等海佐

新山しんやま がく……35普連2中隊の隊員


ププップ・ロテウス・プー

種族・性別:ワニ族の男性

所属・階級:帝国海軍大佐、艦隊旗艦の艦長


エルーガ・イアテ

種族・性別:半漁族の男性

所属・階級:帝国海軍上等兵、帝国産小型潜水艦の操縦士

備考:子どもの頃に小型潜水艦の操縦士に憧れて海軍を目指した。


リシ・ウールア

種族・性別:河童族の男性

所属・階級:帝国海軍兵士長、帝国小型潜水艦の操縦士

備考:イアテの操縦士の腕を認め、自身が副操縦士となることを選んだ。大抵は格下が副操縦士になる。


シェイダー・シェメトーリ……帝国海軍少佐。テリムト情報参謀・海軍担当長で人魚族の男性


当物語に出てくる架空の装備品等

84mm無反動砲・じん……旧式よりも装填速度、標準速度、弾速が向上している

艦隊旗艦・海王かいおう……海自の空母

護衛艦:曉波あかつきなみ迅風じんぷう

潜水艦:渦潮うずしお黒鮫くろさめ

攻撃・妨害型水中ドローン・剣魚つるぎうお……先端が鋭く、剣状のため、先端で攻撃も出来る。

作戦遂行型小型無人潜水艦・叢雲むらくも……空母から操縦している無人潜水艦

かすか……極めて低い被探知性がある。

電光でんこう……水中ドローン用の魚雷。小型ながらも素早く、電撃的な攻撃をする。

水燕すいえん……小型無人潜水艦用の魚雷。水中を燕のように自在に動き回る。


帝国産小型潜水艦……2人乗りの小型潜水艦。コンパクトで小回りが利く。銃弾は水力エネルギーで造られる。


鹵獲艦隊・護衛艦「ヒューマ」……民間のフェリーを鹵獲し、改造した帝国軍の護衛艦。



※2)帝国軍の艦船には、人魚族や半漁族のためにプールが備わっています。

※3)「ヒューマ」の乗組員は、皆が水棲種か、水中でも自在に動ける種族なので、救援ボートいらずでした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミリタリー SF ファンタジー 自衛隊 戦争
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ