第48話 僕らも戦っていた
皆さん、お久しぶりです。この物語の主人公・段場 隼人です。だいぶご無沙汰していました。主人公の僕を覚えていますか?僕が主人公ですよ。主人公なんです。主人公ですよね? ね?
…。
…。
何故、誰も応えないのでしょう? もしかして、主人公を万代に交代した?
いや、まさかね…。
2020年9月23日、この日は朝から慌ただしい一日だった。山梨方面部隊が戦闘に入ったと聞き、戦争を身近に感じながら、僕は真鶴町を偵察していた。遠くから聞こえる砲声や銃声が、どうしても気になって仕方がなかった。真鶴が戦場になる可能性もあるので、僕らも緊張は走る。
10:40、無線に海自が戦闘に入ったと連絡が入る。僕ら35普連2中隊は、同じ35普連の1中隊、3中隊と共に海沿いで、上陸してきた水棲種の掃討を命じられた。
「補給小隊が追加で84を持って行く。それまで、そこで待機。」(片桐)
「了解。」(和戸)
僕らには、新型の84mm無反動砲・迅が多めに支給される。万が一、有翼種の襲撃があっても、新型の84なら迎撃可能とのことだ。
「このまま時間が止まってくれればいいのに…。」(木山)
ふと、木山がつぶやいた。僕も同じ気持ちだ。
「大丈夫だって~これまでの訓練を信じなよ! あ、84を撃つ時は、後方に誰もいないか確認を忘れずにね!」(まひる)
魚見陸士長が、いつもの明るい感じで答えた。展望台で準備していた時も、湯河原で先行偵察していた時も、この人は明るかった。緊張がピークに達してる今、こうも明るく振舞われると、戸惑ってしまう。一瞬、ここが戦場ではなく、いつもの演習場ではないかと錯覚したほどだ。
「まひる先輩、頼もしいです。」(杏南)
「それがあの子の強さよ。」(理央)
いつも通りの魚見陸士長、瑛松二曹もいつも通りの冷静さだ。僕も、上官方みたく、冷静でいられるだろうか。
11:55、補給小隊が合流し、84を受け取った。新型の84は、旧式よりも装填速度、標準速度、弾速が向上しているとの事だ。……正直、まだ違いはよく分からないけど。
「よし、行くぞ!」(和戸)
和戸一尉の号令により、僕らは海沿いへ向かった。海の方でも戦闘が始まった。
― 駿河湾沖 15海里 ―
「艦隊旗艦・海王より各艦へ。相模湾に敵艦隊を確認。」(布置元気三等海尉)
「……これは、鹵獲された海保の巡視船、それに民間のフェリーか。無残な姿に改造されてやがる…。」(沼田大典三等海尉)
海王の艦橋で、通信士が苦渋に満ちた声を上げた。前方海域には、帝国軍の手によって不気味な装甲と未知の兵装を取り付けられた”鹵獲艦隊”が姿を現している。
「感傷に浸る暇はない。F-35B、発艦急げ! 敵の空を封じ込めろ!」(力安悟郎海王艦長)
海王の甲板から、急ピッチの改修で搭載可能となった垂直離着陸機F-35Bが、轟音と共に噴射炎を上げて飛び立つ。それと同時に、艦尾のハッチからは数多の「小型無人潜水艦叢雲」、「幽」、攻撃・妨害型ドローン「剣魚」が、獲物を狙う魚の群れのように海中へと吸い込まれていった。
「護衛艦迅風、曉波、対艦ミサイル発射用意! ターゲットは敵改造フェリー。あれを盾にさせるな!」(力安)
「迅風」のVLS(垂直発射システム)からミサイルが白煙を上げて飛び出す。しかし、敵艦隊の影から、帝国のオリジナル潜水艇が放った「高エネルギー収束弾」が走り、ミサイルを空中で迎撃した。
「全弾、迎撃されました!」(沼田)
「むう、やはり簡単にはいかんな…。」(力安)
一方、海中――潜水艦「渦潮」は、深度300で静かに息を潜めていた。
「艦長、敵の無人潜水機群(UUV)が急速に接近。数は30!……速い! 時速100ノットを超えています!」
「放っておけ。こちらには黒鮫が誘導する最新型の水中ドローンがある。……放て!」(則哲鷹渦潮艦長)
渦潮から放たれた攻撃型ドローン・剣魚が、海中で複雑な機動を描き、帝国の無人機を次々と爆砕していく。
「……!? 艦長、大型の反応! シールドが展開されており、通常魚雷では効果が見込めません!」
ソナー員の絶叫。海中にありながら、帝国の超科学が産んだ「重力シールド」が水を押し広げ、無敵の威容を誇っている。
「……陸自の連中が地上で命を張ってるんだ。海で我々が後れを取るわけにはいかない。全艦、波状攻撃を継続! 盾を剥がすぞ!」(力安)
その号令と共に、海と空と深海のすべての兵器が、帝国の怪物へと襲いかかった。
登場人物紹介
力安 悟郎
生年月日:1969年3月11日 / 出身:神奈川県
階級:一等海佐 / 役職:空母「海王」の艦長
布置 元気
生年月日:1993年5月14日 / 出身:北海道
階級:三等海尉 / 所属:海王の通信士
沼田 大典
生年月日:1993年1月30日 / 出身:高知県
階級:三等海尉 / 海王の通信士
則 哲鷹
生年月日:1971年11月26日 / 出身:岩手県
階級:二等海佐 / 役職:潜水艦「渦潮」の艦長
段場 隼人……本編の主人公、35普連2中隊所属の二等陸士
苫米地 杏南……隼人の同期で恋人
木山 拓哉……隼人・杏南の同期
片桐 初……35普連の連隊長
和戸 一暁……35普連2中隊の中隊長代理
魚見 まひる……35普連2中隊のムードメーカー
瑛松 理央……35普連2中隊所属。クールな性格
当物語に出てくる架空の装備品等
84mm無反動砲・迅……旧式よりも装填速度、標準速度、弾速が向上している
艦隊旗艦・海王……海自の空母
護衛艦:曉波、迅風
潜水艦:黒鮫
攻撃・妨害型水中ドローン・剣魚……先端が鋭く、剣状のため、先端で攻撃も出来る。
作戦遂行型小型無人潜水艦・叢雲……空母から操縦している無人潜水艦
同 幽……極めて低い被探知性がある。
電光……水中ドローン用の魚雷。小型ながらも素早く、電撃的な攻撃をする。
水燕……小型無人潜水艦用の魚雷。水中を燕のように自在に動き回る。
※鹵獲艦隊……帝国軍は、宇宙船に乗って地球へ来ているため、大型の装備品は持ち込めず、特に戦艦は小型潜水艦(2人乗り)や無人潜水艦等、限られた装備しか持ち出せませんでした。撃ち落とした海自戦艦・海保の巡視船、民間のフェリー等を修理・改修し、運用しています。そのため、自衛隊では、帝国海軍の戦艦をこう呼びます。




