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外星戦記  作者: 無名の凡夫


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第47話 内なる亀裂

― 陸上自衛隊 立川駐屯地 現テリムト立川基地 ―


2020年9月24日 4:00 大月市近郊で戦っていた帝国兵達が続々と帰還してくる。


泥と血にまみれた兵士たちが、次々と基地へ戻ってくる。疲れ切った表情の者。担架で運ばれる者。自分の足で歩けない者も少なくなかった。そこかしこから、呻き声や悲鳴が聞こえる。衛生兵たちが慌ただしく走り回り、包帯や薬品の匂いが立ち込めていた。これまで誇り高かった帝国兵たちの表情には、恐怖と屈辱の色が浮かんでいた。


「随分な有様だな。」(イアン・アールオブ空軍少佐)


両足を怪我して自ら歩くことが出来ない、トビ・ブリンキンに嘲るような視線を向け、辛辣な言葉をかける者がいた。


イアン・アールオブ空軍少佐。帝国空軍訓練参謀を務めるハイエルフの男性は、ブリンキンをあからさまに見下し、続けた。


「帝国陸軍屈指の武力を持つと言われた男がこの様とはな。その肩書きは嘘偽りだったか、役立たずめ。」(アールオブ)


「少佐殿、さすがにその言い方は…。」(ベラル・イーヘイ軍曹)


「ほう、貴様、上官に口答えか? ヴァランクエ准将殿に報告せねばならんな。」(アールオブ)


「...。」(ブリンキン)


ブリンキンは、アールオブの言葉に激しい怒りを覚えたが、それを表に出すことはせず、ただ拳を握りしめた。戦場で晒した己の無力さに、悔しさを滲ませることしか出来なかった。


「少佐殿、戦果については返す言葉もございません。また、イーヘイ軍曹については何卒、ご容赦願いたい。」(ブリンキン)


ブリンキンは頭を下げる。


「ふん、まあ良いだろう。さっさと医務室へ行け痴れ者が。」(アールオブ)


「はっ」(ブリンキン)


「何をしているんだい、イアン?」(コーディー・ヴァランクエ空軍准将)


「准将殿! いえ、今回の戦犯にお説教をですね。」(アールオブ)


「あまり苛めてくれるなよ少佐。明日の朝、10:00に会議をするとの事だよ。責任の追及は、その時にしっかりと行うよ。フフフ。」(ヴァランクエ)


ヴァランクエは、まるで愉しんでいるかのように薄く笑った。その目は、獲物を品定めする肉食獣のようだった。


「了解です。そうですね。責任はしっかりと取って貰わないと。」(アールオブ)



― 2020年9月24日 10:00 立川基地内会議室 ―


会議室には、今回参戦した兵士の一部と、上層部が一堂に会している。


「さて、今回の敗戦についてだが、貴様ら、地球の下等生物に敗れ、おめおめと帰ってきて恥ずかしくないのか!」(ヴァランクエ)


ヴァランクエの怒声が会議室に響き渡る。


「お待ちください、ヴァランクエ准将。今回の総括は、作戦参謀である私の役目であります。」(ゴア)


作戦参謀長のゴアは、それは自身の役目と、進行を続けるヴァランクエを止める。


「黙れ! 元をたどれば貴様の稚拙な作戦が生んだことだ。そんな奴に任せられるか!」(ヴァランクエ)


「しかし、ヴァランクエ准将は人事参謀。人事の仕事は、我々が総括してからでは? 今介入すると、越権行為になりますぞ。」(ゴア)


「黙れと言っている! そもそも兵の質が落ちているのは、訓練参謀長のルックバーにある! 貴様の稚拙な訓練プログラムが兵の質を下げている! 貴様は少佐に降格および、訓練参謀長はアールオブ少佐に変更する!」(ヴァランクエ)


ゴアの制止を気にもとめず、大月攻略失態の責任を兵の質に転嫁し、訓練参謀長のルク・ルックバー陸軍中佐を糾弾する。


「な…。」(ルックバー)


ルックバーは、自身が糾弾されることは、寝耳に水だったが、テリムトの戦果はここ何年か芳しくないのも事実である。兵の質を問われると何も言い返せなかった。


「そして、参謀次長のミルキーウッドや、作戦立案や司令として関わったゴアも同罪だ。貴様らも降格し、この参謀部から追放する! これこそが、組織の規律を保つ唯一の道だ!」(ヴァランクエ)


「貴様らみたいな無能が率いる参謀部等、脆弱になるに決まっている。私がこのテリムトを改革するのだ!」(ヴァランクエ)


「黙りなさい。」(アイソレイテ)


「何だと!?」(ヴァランクエ)


「貴方のその発言は、職権の乱用です。人事の責任者だからと、その場の感情で辞令を出すのは許しません。手順に則り、作戦参謀の総括を行ってから、次戦に向けて人員配備をしなさい。」(アイソレイテ)


アイソレイテの声は静かだったが、その言葉には、一切の揺るぎない鋼のような意思が宿っていた。彼女は、公正な評価と手順を尊重し、秩序を守ろうとしていた。


「ふん、プレヤディッチの腰巾着が。ダークエルフなんぞに媚びる愚か者が。役立たずの兵は本来、粛清すべきだ。降格で済ませてありがたいと思ってほしいもんだ。」(ヴァランクエ准将)


「ヴァランクエ准将、口が過ぎるぞ!」(ミルキーウッド)


「貴様も私に対して口が過ぎるぞ? 天使族ともあろう者が、ダークエルフなんぞに媚びやがって。」(ヴァランクエ)


「中将殿の悪口もですが、種族に対する差別発言も看過出来ません。あなたの処分は追って決めます。まずは、会議を始めましょう。」(アイソレイテ)


「ちっ。(このままで済むと思うなよ馬鹿どもが。)」(ヴァランクエ)


不穏な空気が漂ったが、アイソレイテの強い統率の下、会議は順調に進んだ。敗因は、補給線を断たれた事と、敵の実力を見誤った事だと、全員が一致していた。


「要注意人物の排除に手間取り、全員を始末できなかった事は、不徳の致す限りです。」(アスゲニフ)


片腕を失い、まだ痛みが残るアスゲニフだったが、特殊作戦部隊の隊長としての責任が伴うため、会議へ招集された。


「しかし、次の作戦への移行に問題ないと判断し、奇襲を決行しました。」(アイトンダ)


「それで、特殊部隊数人を犠牲にしたわけだな。」(ステフェン・アストロ陸軍中佐)


その言葉は、まるでアイトンダの上げ足を取るかのようだった。アストロの目は、今回の敗戦が、自身の出世の足がかりになるとでも言いたげに、ギラついていた。ヴァランクエは満足げに頷き、一瞬、二人の間で視線が交わされた。それは、互いの企みを共有する者同士にしかわからない、密かな合図だった。


「仲間を犠牲にするのは問題だな。」(ヴァランクエ)


ヴァランクエが不敵に笑う。


「敵の戦力を見誤った点についてはどう弁解するので?」(アストロ)


「ターゲットの実力が2年前よりも上がっておりました。また、奴らは後進の育成もしていたようで…。ヒヨッコと思っていた兵士に足下を救われてしまいました…。」(アスゲニフ)


「それは、特殊作戦部隊だけではなく、各大隊と直属支援部隊でも同じようにやられてしまい…。」(オズスリットリウム)


「おいおい…。下等生物たる地球人が後進の育成をしているのに、訓練参謀はやはり無能だな。そして、情報収集にも問題があるようだ。ポートレミとポズテリリ、シェメトーリも責任を取って降格だな。」(ヴァランクエ)


ヴァランクエは、作戦参謀部、訓練参謀部、そして情報参謀部、全ての権力を掌握しようとしているのかのように、作戦立案から戦果に至るまで粗を探し続ける。その冷酷な視線が、会議室の隅で息を潜めていた同じ人事参謀のナザレノ・フー陸軍少佐に向けられた。ダークエルフを軽蔑するヴァランクエによって、フーは日常的にパワハラを受けている。彼は、ヴァランクエの次の標的が自分になるのではないかと、恐怖に身を震わせていた。


「補給路を取り返さなかった理由は?」(アストロ)


「気付いてたんでしょ? 大佐殿?」(アストロ)


「…貴様!」(アイトンダ)


アイトンダは怒りで顔を紅潮させた。――赤鬼だから分かりにくいが。上官であるヴァランクエの理不尽な言葉には耐えられても、現場で共に戦っていない、格下のアストロに、自身のプライドと、仲間たちの命を軽んじられることだけは許せなかった。多くの兵が仲間を失った悲しみと悔しさを抱えている。それを踏みにじるような言葉に、彼の怒りは限界に達していた。


「いい加減にしなさい! 個人を吊し上げるために会議を開いたわけではありません! ヴァランクエ准将、貴方は退室してください!」(アイソレイテ准将)


「ちっ…。(まあ良い。人事権は俺にある。適当に理由つけて降格させてやる。)」(ヴァランクエ)


退室するヴァランクエの後ろ姿を見て、ホッと胸を撫で下ろす一部の左官達。


「アストロ中佐も、態度には気をつけなさい。アイトンダ大佐は貴方よりも上の階級ですよ。」(アイソレイテ)


「失礼しました。」(アストロ)


お詫びの言葉を発したアストロだったが、本心で謝罪してはおらず、アイソレイテやミルキーウッドもそれは感じ取っていた。


「自衛隊も戦力が上がっており、我々が負ける機会が増えています。精鋭と呼べる兵士も増えていますね。」(ポズテリリ)


「うん、敵兵の質は上がっていると思う。」(ポートレミ)


「それに、この戦いには奴が参戦していない。」(シェイダー・シェメトーリ海軍少佐)


「奴が参加していたら、被害はもっと甚大だっただろうな。」(ミルキーウッド)


「北海道では、奴が大暴れしていたようです。」(ルックバー)


「この戦いに奴は参戦するでしょうか?」(フー)


「するでしょうな。あれは化け物だ…。」(ゼムファルト)


「今回、敗れたとはいえ、奴らの被害も多い。敵本隊への罠は予定通りいきましょう。山梨方面は、斥候を送って情報の再収集を行ってから考えます。」(ゴア)


アストロは怪訝な顔でゴアを睨む。この時アストロは、今すぐ山梨に兵を送れば、その遅れを取り戻せると考えていた。しかし、あえて何も言わなかった。ゴアの作戦がしくじれば、奴は失脚し、自身が作戦参謀長に昇進できる。そう目論んでいた。


「次戦の人選、ヴァランクエ准将に託して大丈夫でしょうか?」(ミルキーウッド)


「彼とて帝国軍の一人。帝国そのものが不利益を被ることはしないでしょう。」(アイソレイテ)


「(しかし、公然の前で中将殿を侮辱した件、あいつは信用に値しない。)」(ミルキーウッド)


「(こんな状態で作戦を遂行できるだろうか…。このままでは、また大勢の命が失われる…。)」(ゼムファルト)


ゼムファルトの視線の先には、同じくこの内部対立に苦い表情を浮かべる、ゴアやミルキーウッドの姿があった。一枚岩ではない組織の危険性を感じ取っていた。しかし、その声は、権力に固執する者たちの怒声にかき消されていく。


自衛隊は確実に強くなっている。陸・海・空が団結して戦わないと次も負ける。だが、それ以上に帝国軍は内部から崩れ始めていた。

登場人物紹介

イアン・アールオブ

種族・性別:ハイエルフの男性

所属・階級:空軍少佐、訓練参謀空軍担当

備考:反プレヤディッチ派の一人。男爵の家系。


ベラル・イーヘイ

種族・性別:熊型獣人族の男性

所属・階級:陸軍軍曹、第2歩兵大隊

備考:ブリンキンの弟分。サイズはツキノワグマくらい。


コーディー・ヴァランクエ

種族・性別:ハイエルフの男性

所属・階級:空軍准将、人事参謀長

備考:反プレヤディッチ派。子爵の家系。ダークエルフを差別している。アイソレイテとは、軍学校の同期。先に将校に出世したのはヴァランクエだったが、アイソレイテが先に少将へ昇格したことを妬んでいる。


ルク・ルックバー

種族・性別:エルダードワーフの男性

所属・階級:陸軍中佐、訓練参謀長

備考:ヴァランクエやアストロの粗探しに巻き込まれてしまう。


ピッピディー・プレヤディッチ ※名前のみ登場

種族・性別:ダークエルフの女性

所属・階級:陸軍中将、テリムト総督府

備考:帝国軍初の女性将校となり、一部でカリスマ的な人気を誇るが、敵も多い。


ステフェン・アストロ

種族・性別:ヒト族の男性

所属・階級:陸軍中佐、作戦参謀次長

備考:ゴアの副官だが、反プレヤディッチ派。


シェイダー・シェメトーリ

種族・性別:人魚族の男性

所属・階級:海軍少佐、情報参謀海軍情報収集担当


トビ・ブリンキン……帝国軍屈指の戦闘力を誇るも負傷離脱

ゾーリー・ゴア……テリムト作戦参謀長

サッサ・アイソレイテ……テリムト参謀長

ラランワ・アスゲニフ……テリムト特殊作戦部隊の部隊長

ホルナ・オズスリットリウム……大月攻略隊の第2歩兵大隊大隊長だった

ナザレノ・フー……テリムト人事参謀で、ヴァランクエに日常的にパワハラを受けている

ポステオ・ポズテリリ……テリムト情報参謀、陸軍情報収集担当

エレナ・ポートレミ……テリムト情報参謀長兼陸軍情報分析担当

イリアン・ゼムファルト……テリムト作戦参謀海軍担当


※反プレヤディッチ派とは?

プレヤディッチは、帝国史上初の女性将校となったことで、カリスマ的人気を誇る一方、敵も多いです。反プレヤディッチ派のヴァランクエは、ダークエルフを差別していますが、それは種族間の差別意識だけではありません。彼女のテリムトの統治方法に理由があります。その概要は、今後話が進むうえで明らかになっていくでしょう。


アイソレイテは当初、ダークエルフであるプレヤディッチを良く思っていませんでしたが、共に仕事をするにあたり、彼女の人柄や軍務に対する姿勢に感銘を受け、今や心酔するまでになりました。


現在の登場人物で明確にプレヤディッチ派なのは、アイソレイテ、ゴア、ミルキーウッド、ポートレミ、フー、反プレヤディッチ派はヴァランクエ、アールオブ、アストロです。ゼムファルトやルックバーは中立派です。

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