表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
外星戦記  作者: 無名の凡夫
第1章 初陣~オペレーション・ギデオン~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
47/261

第47話 撤退戦ー悲劇の桂川ー

テリムト大月攻略隊野戦病院では、怒号が絶え間なく飛び交っていた。


「歩ける者はトラックへ! 重傷者はヘリへ搬送しろ! 手の空いている者は負傷兵を運べ!」


軍医ピーエイ・カインズ少佐の指示の下、衛生兵たちは血に染まった担架を抱えて走り回る。


片腕を失った兵士。


両脚を吹き飛ばされた兵士。


視力を失い、ただ天井を見つめる兵士。


勝利を疑わなかった帝国軍は、今や壊走寸前だった。


カインズは負傷兵を一瞥し、小さく舌打ちする。


(……助からん。)


瀕死の兵が並ぶ一角を見回し、傍らの看護兵へ低く命じた。


「苦痛を長引かせるな。」


「……了解しました。」


看護兵は表情一つ変えず薬液を注射器へ吸い上げる。戦場では、生き残る者を優先する。それが帝国軍の軍医だった。


     


 一方、大隊長アイトンダも撤退を決断していた。


「補給路を断たれた以上、このまま戦えば全滅する。」


苦渋の決断だった。兵站を失った軍隊は戦えない。今は兵を残すことが最優先だった。その時、1人のラミア族下士官が進み出る。


「大佐殿。桂川を使いましょう。」


ガッキー・イブング曹長だった。


「我々なら負傷兵を背負ったまま川を渡れます。」


その一言で作戦は決まった。ラミア族が負傷兵を背負い川を渡る。リザードマンが護衛し、ケンタウロスが陸路を確保する。犬型獣人は負傷兵を捜索し、生き残った将兵が殿となる。帝国軍は総力を挙げて撤退戦へ移行した。


     


しかし、その動きは自衛隊も察知していた。


「敵が桂川へ向かっています。」


報告を受けた桐谷は双眼鏡を下ろす。


「追撃する。」


「ですが、こちらも消耗しています。」


王子野が慎重論を口にした。


「分かっている。」


桐谷は静かに答える。


「だが、ここで逃がした敵は、次の戦場でまた我々と戦う。」


短い沈黙のあと、


「1人でも多く敵兵を減らす。」


誰も異論を口にしなかった。


     


―夜の桂川―


月明かりだけが静かに水面を照らしていた。そこへ、巨大な蛇体が音もなく滑り込む。ラミア族だった。背中には重傷兵が乗せられている。


「しっかり掴まっていろ!」


イブングが叫ぶ。


その周囲をリザードマンが警戒しながら泳ぎ、負傷兵を守る。


あと少し。あと数十メートル。向こう岸へ届く――その瞬間だった。


「撃て。」


乾いた命令と同時に、無数の銃声が夜を切り裂いた。水柱が次々と立ち上がる。


「ぐあっ!」


負傷兵が川へ転落した。赤黒い血が流れへ広がっていく。


「沈むな! 腕を離すな!」


イブングは必死に叫びながら仲間を引き上げる。だが弾丸は容赦なく降り注いだ。


背負われた兵士も、泳いでいた兵士も、護衛のリザードマンさえ、次々と川へ沈んでいく。


「怪我人を撃ちやがって……!」


リレーボア少尉は怒りに任せ、小銃を撃ち返した。その弾丸が、自衛隊側の王子野を捉える。


「ぐっ……!」


「王子野さん!」


若い隊員が駆け寄る。


「俺はいい!」


王子野は傷口を押さえながら怒鳴った。


「攻撃を続けろ!」


再び銃を構えた、その時だった。


リレーボアの投げた手榴弾が弧を描く。


王子野たちの姿は煙の中へ消えた。


     


「撤退完了!」


最後の負傷兵が対岸へ到達する。


アレイア・ニカウィー少尉が大きく手を振った。


「殿も離脱する!」


帝国軍は一斉に川を離れた。桐谷は双眼鏡を下ろし、小さく息を吐く。


「……これ以上は追えない。」


部隊も限界だった。敵も味方も、もう戦える状態ではない。


     


「敵影、ありません。」


栫の報告を聞いた隊員たちは、その場へ座り込んだ。


「終わった……のか。」


誰かが呟く。しかし勝利を喜ぶ声は上がらない。大月は守り切った。それでも、多くの仲間が帰らなかった。


桂川の流れは、月明かりを映しながら静かに流れている。その水は、敵味方の血を分け隔てなく飲み込み、何事もなかったかのように闇の中へ流れていった。


この夜を生き延びた者たちは、その光景を決して忘れることはない。

登場人物紹介

桐谷きりたに 法征のりと……第12偵察大隊長

かこい 仁星じんせい……第12偵察大隊第3中隊所属

王子野おうじの 吹樹ふぶき……第12偵察大隊所属の若手。殉職

ピーエイ・カインズ……陸軍少佐で、ヒト族の男性。テリムト軍の軍医

ガッキー・イブング……ラミア族の女性で、第1歩兵大隊所属

ライナー・リレーボア……陸軍少尉で、リザードマンの男性

アレイア・ニカウィー……陸軍少尉で、エルフの女性

ペーリ・アイトンダ……陸軍大佐で、赤鬼科鬼人族の男性。大月攻略隊長



グーリエ星に存在する種族

ラミア族……下半身が蛇で攻勢されている。男性よりも女性が多い。水中・水上・森林の中を素早く動ける。身体に巻き付かれると、たちまち骨が粉々になり、内臓は破裂する。巻き付かれた時の力の強さは、アナコンダやニシキヘビよりも強い。


リザードマン……蜥蜴の姿をした種族。卵生。水陸両用で動ける。スピードとパワーをバランスよく兼ね備える。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミリタリー SF ファンタジー 自衛隊 戦争
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ