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外星戦記  作者: 無名の凡夫


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第46話 撤退戦ー悲劇の桂川ー

― テリムト大月攻略隊 野戦病院 ―


野戦病院でも撤退の準備が始まっていた。軍医である、ピーエイ・カインズ少佐の叫び声が響き渡る。


「軽傷者はトラックへ行け! 歩ける者は自分の足で歩け! 重傷者はヘリへ運べ! 手の空いている者は、搬送を手伝え!」(カインズ)


野戦病院では、片腕や片足を失った兵士達が、呻き声をあげながら、助けを求めている。彼らの目には、恐怖と絶望が浮かんでいた。


搬送された負傷兵の中には、ラランワ・アスゲニフやセルチュク・ガーの姿もあった。片腕を失ったアスゲニフの顔は青白い。両足を失ったガーは激痛で呻き続けていた。キキ・ディオンヌは、右目を失明したことから、特殊作戦部隊の復帰が絶望的だと告げられ、茫然自失となっていた。アスゲニフとガーはヘリで、ディオンヌはトラックで搬送されていく。



「(こいつらはもう助からん…。)」(カインズ)


「おい、ここの奴らは安楽死だ。薬を投与しろ。」(カインズ)


カインズは、近くにいたナースに声をかけた。


「了解しました。」(ガルチェ・クサマ伍長)


ナースとして派遣されたクサマは、テキパキとした処置で瀕死の兵士達に安楽死剤を投与する。何の抵抗もなく投与するあたり、帝国軍人たる所以か。


「(くそっ、こんなことになるとは…!)」(ジョゼ・マスケス上等兵)


負傷したラミア族の兵士、ジョゼ・マスケスが、背中に負傷者を抱えたまま、痛みに顔をゆがめていた。彼は、一刻も早くこの地を離れたいと願っていた。


「アイトンダ大佐殿! 私達、ラミア族なら川を渡って怪我人を搬送出来ます。」(ガッキー・イブング陸軍曹長)


「なるほど、ラミア族の背中になら怪我人を乗せることも可能か! よし、衛生兵を同行させ、ラミア族も怪我人の救護へ急げ!」(アイトンダ)


帝国軍は、撤退戦及び怪我人の搬送に切り替えていた。補給路を断たれたことで、兵站の補給が滞り、更には自衛隊の戦力を見誤った。


「畜生…!まさか、たかが地球の人間どもに、ここまでやられるとは…!」(アイトンダ)


「補給がなければ、この先、我々の勝利はない。今は、一度退き、態勢を立て直すしかない…。」(アイトンダ)


想定外の被害を被った帝国軍は、この先の戦いを見据え、撤退することを決意した。


イブングが着目したのは、相模湖に続く桂川だった。自衛隊の車両や重火器は、この川を容易に渡ることは出来ない。また、水棲種の兵への警戒心が強く、迂闊に水辺には近づかない。下手にトラックやヘリを使うより、効果的に搬送できると判断した。


「軽傷者は、私達ラミア族の背中に乗せて運べます!」(イブング)


「我ら、リザードマンも水上を動けます! 水上での護衛はお任せを!」(ライナー・リレーボア陸軍少尉)


「ならば、私達が殿を務める。着いて来い!」(アレイア・ニカウィー陸軍少尉)


帝国軍は一致団結し、撤退戦を戦った。軽傷者は、ケンタウロス族の健脚を活かして地上から、ラミア族の水上で動ける利点を活かして桂川から怪我人を運ぶ。犬型獣人族は嗅覚、兎型獣人族は聴覚を活かして怪我人を探し出す。ニカウィーだけでなく、生き残った兵士が命を賭して殿も務めた。


しかし、空には自衛隊のヘリのローター音が響き、地上には砲弾の雨が降り注ぐ。銃弾に倒れる仲間や、爆炎に巻き込まれる兵士が後を絶たなかった。


「桐谷隊長! 敵兵が桂川方面へ向かっています。」(王子野)


「追うぞ。撤退は、敵にとって最も無防備な瞬間だ。この機会を逃すわけにはいかない。」(桐谷)


「しかし、我々も疲弊しています。無理な追撃は…。」(王子野)


「分かっている。だが、ここで敵戦力を削らなければ、また次の戦場で、仲間を失うことになる。一人でも多くの敵を倒せ!敵兵力を削る絶好の機会だ!」(桐谷)


「了解!」(王子野)


「敵を一人たりとも逃がすな!」(別当)


「我々は引き続き、補給線を守る!」(ダンゾウ)


この機を逃すまいと、自衛隊(前線部隊)は最後の力を振り絞り、帝国軍へ総攻撃を仕掛ける。


「班長、敵は桂川へ向かっています。川を渡って逃げるかも…」(王子野)


「追うぞ!」


王子野は数名の隊員と共に桂川へ向かった。


「ぐえ!」

「うあ…。」

「ぎゃあああああああ!」


敵味方問わず、攻撃を受けた兵たちの悲鳴やうめき声がこだまする。


桂川の水面には、月明かりが揺れていた。


その川へ、ラミア族の兵士たちがゆっくりと身体を滑り込ませる。長い蛇体の背には、ぐったりとした負傷兵が乗せられていた。


「しっかり掴まっていろ!」(イブング)


負傷兵の腕が力なく揺れる。血が水面に落ち、川の流れに薄く溶けていく。その周囲を、リザードマンたちが水上を滑るように進み、盾のように隊列を作っていた。


「急げ! まだ敵の追撃が来る!」(リレーボア)


川の中央へと、負傷兵を乗せたラミア族が次々と進んでいく。あと少しで向こう岸だった。その時だった。


「桂川到着。ラミア族が負傷兵を乗せて川を渡っている。よし、攻撃を開始する。」


タタタタン! タタタタン!


水面に弾丸が突き刺さり、柱のように水しぶきが上がる。


「ぐあっ!」


背中に乗っていた負傷兵が川へ転げ落ちた。


「沈むな! 掴まれ!」(イブング)


「ぐ…。」

「ぐあっ」


銃弾に倒れた帝国兵が川へ落ち、川面に血の海が出来た。


「おのれ、怪我人を躊躇なく撃ちやがって…。」(リレーボア)


タタタタン! タタタタン!


リレーボアが怒りに身を任せ、王子野達が潜んでいる地点に発砲し、王子野が被弾した。


「ぐ…。」(王子野)


「王子野!」


新人のWAC隊員が王子野に駆け寄る。


「俺にかまうな、攻撃を続けろ!」(王子野)


王子野は、再び銃を構えた。


「とどめ!」(リレーボア)


ドォン!


「ぎゃああああああああ」


リレーボアの投げた手榴弾により、王子野を含む数名の隊員が爆炎に飲み込まれる。その間、桂川の向こう岸で、最後の負傷者を乗せたラミア族が姿を消した。


「撤退、完了! 我らも引くぞ!」(ニカウィー)


「隊長、これ以上追うのは無理です!」(西)


「むう、仕方がない。我々も、後方部隊と合流しよう。」(桐谷)


「敵は全て去ったようです。」(栫)


栫のその報告を各地で受けた隊員達は、思わず、その場で腰を下ろした。


「大月を守り切ったってことでいいのかな?」(大松崎)


「にしては、代償が大きすぎる…。」(青島)


この戦場に、勝利の歓声はなかった。ただ、血の匂いと、仲間を失った者たちの、静かな慟哭だけが残された。


登場人物紹介

ピーエイ・カインズ

種族・性別:ヒト族の男性

所属・階級:陸軍少佐、軍医。

備考:軍医として大月攻略隊に同行した。


ガルチェ・クサマ

種族・性別:リザードマンの女性

所属・階級:陸軍伍長

備考:地球でいう看護師にあたる資格を持つ。


ジョゼ・マスケス

種族・性別:ラミア族の男性

所属・階級:陸軍上等兵、第1歩兵大隊

備考:自身も怪我を負いながらも、負傷した仲間をカインズのもとへ搬送した。


ガッキー・イブング

種族・性別:ラミア族の女性

所属・階級:陸軍曹長、第1歩兵大隊

備考:相模湖に救護船を停めていると知った後、ラミア族なら桂川経由で怪我人の搬送が可能と判断する。


ライナー・リレーボア

種族・性別:リザードマン族の男性

所属・階級:陸軍少尉、第1歩兵大隊

備考:水中で素早く動ける特性を活かし、ラミア族の護衛を買って出る。


アレイア・ニカウィー

種族・性別:エルフ族の女性

所属・階級:陸軍少尉、第1歩兵大隊

備考:自ら殿を買って出る。


王子野おうじの 吹樹ふぶき……12偵の成長株。享年22歳。

桐谷きりたに 法征のりと……第12偵察大隊大隊長

別当べっとう 強司つよし……31普連連隊長

ダンゾウ……特戦群の班長格。

西にし 友貴ともき……12偵所属。大月市の戦いを得て成長した。

かこい 仁星じんせい……12偵3中隊所属

大松崎おおまつざき 璃亜りあ……31普連1中隊所属

青島 ホベルト(あおしま)……31普連1中隊所属

ペーリ・アイトンダ……大月攻略隊の野戦指揮官


グーリエ星に存在する種族

リザードマン……蜥蜴の姿をした種族。卵生。水陸両用で動ける。スピードとパワーをバランスよく兼ね備える。

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