第45話 幕間
― 自衛隊富士病院 ―
「ここは…? 病院?」
万代佑大です。ぼんやりとした視界の中、消毒液の匂いが鼻をつきました。頭の痛みがじんじんと響きます。確か、大月市付近で戦っていたはずですが、何がどうなっているのでしょうか?
自分の心臓は動いているようなので、ここが天国ということはないでしょうが、状況がまったく分かりません。誰か、事の顛末を知っている方はいないのでしょうか?
「先生、万代二士が目を覚ましました。」
「万代君、気分はどう?」(木佐原樹理恵:医師/二等陸佐)
「少し頭が痛いです。」
「(というか、頭の中で何かが軋む感覚がある…。)」
「他は?」
「大丈夫です。」
「そう。念のため、検査をするから、こっちへいらっしゃい。」
「はい。……あの、自分の状況が分かる方はいませんか?」
「あなたを保護したのは、美村三曹や徳島二士だと聞いたわ。詳細は分からないけど…。」
「……。」
「彼らが戻ってから聞きなさい。」と言いかけた来佐原だったが、ぐっと堪えた。これは戦争だ。生きて帰って来られる保証などない。
「そうですか…」
院内では、医師や看護師が慌ただしく動いていました。多くの重傷者がいて予断を許さない状況だそうです。
「万代君、検査の結果は異状なしよ。だけど、しばらくは安静にしていてね。」
「あの、異常がないなら、すぐに戦列に戻りたいんですが?」
「駄目よ。まだ体調が悪化する可能性がある。まだ戦う機会はある。今は、その時に備えなさい。」
「は、はい…。」
来佐原二佐の鋭い眼差しと、その言葉に宿る確固たる意志に、これ以上反論は出来ませんでした。彼女の目はただ冷静なだけではありません。その奥には、多くの隊員の命を救ってきた医師としての悲しみと決意が宿っているようでした。
「(この人は、自分たちのことを、本当に心配してくれているんだ。)」
しかし、来佐原二佐の言う事が正しいのは分かりますが、戦死した仲間に報いたい気持ちも抑えきれません。
病室へ戻る途中、江田翠仙一士を発見します。意識が戻っておらず、体中に巻かれている包帯が痛々しいです。傍にいた看護師さん曰く、「生きているのが不思議」なのだそうです。
「そんな奴ばっかりだよ。」
悲しそうな目で、呟いていました。
ところで、どれくらい眠っていたのでしょう?
ふと時計に目をやると、9月23日の21時35分を指していました。夜になっています。戦闘はどうなったのか、近くの隊員に聞いたところ…。
まだ戦っているようです。夜の病院の窓の向こうで、遠くの空がわずかに赤く染まっている気がしました。
登場人物紹介
来佐原 樹里恵
生年月日:1971年8月29日 / 出身:広島県
階級:二等陸佐 / 所属:自衛隊富士病院に勤務する医師
万代 佑大……謎の力が覚醒した夜に意識が戻る。
江田 翠仙……意識不明の重体で搬送されていた。




