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外星戦記  作者: 無名の凡夫
第1章 初陣~オペレーション・ギデオン~

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第45話 痛み分け

「ふん、他愛もない。総員、残敵を殲滅――」


ブリンキンが命令を下しかけた、その瞬間だった。左目に鋭い痛みが走る。


「……っ!」


思わず顔を押さえると、指先に温かい血が付着した。視界の左半分が赤く滲み、ようやく自らが負傷していることを悟る。


(あの一瞬でやったというのか……。いや、構わん。奴は蹴り飛ばした。もう立てまい。)


そう判断した矢先だった。


「僕は無事ですよ。」


静かな声が戦場に響いた。土井 近太郎は、土煙の向こうから平然と姿を現した。


「何……?」


ブリンキンの表情が初めて揺らぐ。


「土井……!」


麻生が安堵の息を漏らした。


「あの蹴りを受けて無傷だと……?」


原崎も信じられないという顔で土井を見つめる。土井は小銃を構え直しながら、淡々と説明した。


「蹴りは当たっていません。吹き飛ばされたのは風圧です。」


その一言に、自衛隊員だけでなく帝国兵まで息を呑んだ。


「僕が避けた瞬間、蹴りで生じた衝撃波だけを受けました。あれほどの速度になると、蹴りそのものより風圧の方が危険ですね。蹴り圧、とでも言えばいいのでしょうか。」


彼は本当に研究結果を報告するような口調だった。


実際には、ブリンキンが蹴りを放つ刹那、土井は上体を大きく反らして直撃を回避すると同時に拳銃を抜き、左目へ一発だけ撃ち込んでいたのである。分厚い皮膚は貫けなくとも、眼球だけは別だった。


「なるほど……。」


原崎は苦笑した。


「無事なのは理解できんが、とにかく生きていて良かった。」


一方のブリンキンは左目を押さえながら低く唸る。


「お前たちは他の敵を片付けろ。」


その声には怒気が滲んでいた。


「この小僧は俺が殺す。誰も手を出すな。」


吉武も即座に指示を飛ばす。


「総員、土井に気を取られるな! 敵歩兵を掃討しろ!」


「了解!」


土井とブリンキンだけが、戦場の喧騒から切り離されたように向かい合う。先に動いたのはブリンキンだった。


「ふん!」


巨体からは想像もできない速度で拳が放たれる。土井は半歩だけ身を引き、紙一重でかわすと、その勢いを利用して敵の左側へ回り込んだ。


「そこです。」


銃剣が左膝裏へ深く突き刺さる。


「ぐおっ!」


巨体が揺らぐ。土井はためらうことなく銃剣を引き抜き、今度は右膝裏へ斬り込んだ。


「やはり人型ですね。」


土井は静かに呟く。


「皮膚は硬くても、関節構造は人間と変わらない。膝窩への攻撃は有効です。」


まるで敵を倒すより、弱点を検証することの方が目的であるかのような口調だった。両膝を破壊されたブリンキンは片膝をつく。


「ぐっ……!」


「これで終わりです。」


土井は照準を左目へ合わせた。引き金に指が掛かる。その瞬間、乾いた銃声が戦場を切り裂いた。


パァン――という音と共に、土井の右太腿から鮮血が噴き上がる。


「っ!」


射線をたどると、5頭のケンタウロス族がいつの間にか林間へ展開していた。銃声も、蹄の音も聞こえなかった。爆発音と銃撃戦に完全に紛れて接近してきたのである。先頭の男が静かに告げる。


「アイトンダ大佐殿より撤退命令です。我々が殿を務めます。」


「貴様は……。」


「ガストン・ブレイズ准尉です。」


麻生は思わず息を呑んだ。


「何だ、あいつら……。」


目で追っても速すぎる。ケンタウロスたちは地形をものともせず疾走し、短距離では人間の照準を容易に振り切る速度を見せていた。


「リッジ、ブリンキン中尉殿を乗せろ。」


「了解!」


「残りは私と共に殿を務める。」


4頭が一斉に散開し、自衛隊側へ猛烈な射撃を浴びせる。その隙に一頭がブリンキンを背へ乗せた。


「ガストン、助かった。」


「後で礼は結構です。今は退却を。」


土井は撃ち抜かれた脚を押さえながら素早く岩陰へ転がる。


(あと一発だったのに……。)


止血帯を巻きながら歯を食いしばる。


(仕留め切れなかった。)


ブリンキンもまた遠ざかる土井を見据えていた。


(小僧……今日はここまでだ。)


互いに相手へ決定打を与えながら、あと一歩届かなかった。まさに痛み分けだった。


上空ではオズスリットリウムが戦場全体を見下ろしていた。その視線の先には、自軍補給部隊の壊滅した陣地がある。


「……やはり補給路を断たれた影響は大きいか。」


苦々しく呟くと、彼女も撤退方向へ翼を向けた。


「吉武三佐、敵が退きます!」


原崎が叫ぶ。吉武は首を横に振った。


「追うな。我々も限界だ。負傷者の救護を最優先とする。」


「……了解。」


路吟も苦笑しながら歩み寄る。


「すまん。オズスリットリウムは討ち損ねた。」


「俺たちも熊を逃がした。」


吉武は肩をすくめた。


「今回は互いに決め手を欠いた。それだけだ。」


そのやり取りの傍らで、土井は悔しそうに地面を拳で叩いた。


「もう少しだったのに……。」


右脚から流れる血を押さえながら、小さく息を吐く。


「あの熊は、必ず僕が倒します。」


その声には先ほどまでの飄々とした空気はなく、静かな闘志だけが宿っていた。

登場人物紹介

ガストン・ブレイズ

種族・性別:ケンタウロス族の男性

所属・階級:陸軍准尉、第1歩兵大隊

備考:第2歩兵大隊の被害の一報を受け、支隊を率いて殿に駆け付ける


リッジ……リッジ・ムピンゴ兵士長。ブレイズの部下

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ミリタリー SF ファンタジー 自衛隊 戦争
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