第41話 シーソーゲーム
「何だと? もう一度聞くぞ…?」(ホルナ・オズスリットリウム陸軍少佐:第2歩兵大隊大隊長)
「上空哨戒部隊が全滅しました。」
「補給路を奪われ、そして上空哨戒部隊までも全滅だと…。」(オズスリットリウム)
オズスリットリウムが信じられないといった様子で口を開く。その無線からは、銃声や爆発音がほとんど聞こえなくなっていた。これは、自衛隊が劣勢だった戦況を覆し、帝国軍を追い詰めている何よりの証拠だった。
「各隊、状況を報告せよ! 残っている隊はどれくらいいる?」(オズスリットリウム)
「2個中隊程かと…。」(エスリー・ハインツ中尉)
「何という事だ…。」(オズスリットリウム)
想定外の被害を受け、唇を噛むオズスリットリウム。
「大隊長殿!」
「今度は何だ!?」(オズスリットリウム)
「アルジャ中尉殿率いる第7中隊が壊滅的被害! アルジャ中隊長戦死!」
「何だと!?」(オズスリットリウム)
「……。」(ハインツ)
アルジャの戦死に呆然と立ち尽くすハインツ、怒りを隠しきれないアズスリットリウム。
「ホルナ大隊長殿、落ち着いて下さい。まだエレクトラオ中尉が率いる第6中隊が残っています。彼女らの隊なら、この状況も打破出来るでしょう。」(カミィ・アークス准尉)
「そうか、そうだったな。奴なら、この状況を変えてくれる。よし、お前たちも武器を取れ。我らも前線に出るぞ。」(オズスリットリウム)
「了解!」(ハインツ、アークス)
「さっきのオークというのか? あのでかいモンスターがこの部隊の隊長だったようだな。」(白木 歩夢陸准尉)
「ええ、あいつを討ち取ってから、敵部隊は動揺していますし。」(柳田俊輔二等陸曹)
「なあ、誰が指揮官を引き継ぐ?」(コウ・コピウム陸軍伍長)
「お前がやれよ。」(ツッツ・ゴヨウセ陸軍伍長)
「いや俺、伍長だぜ? 隊長経験もないしよ…。」(コピウム)
「それなら俺も伍長だよ。お前は、これまで10匹殺してるから、お前が相応しいと思うぞ?」(ゴヨウセ)
「それなら、タリオス軍曹殿は?」(コピウム)
「軍曹殿は、戦意喪失してしまわれた。無理だ…。」(ゴヨウセ)
ジャック・アルジャ中尉が率いる7中隊は、アルジャ以外でも、次席指揮官候補も相次いで討たれていた。これにより、生き残りは下士官以下の者だけとなっていた。
「先輩方!何びびってますの?」(エヒメ・ヴォラニュス兵士長)
「そんなにびびっているなら、私が次席指揮官をしますからね!」(ヴォラニュス)
彼女の目は、恐怖で凍り付いた者たちへの軽蔑と、功を焦る野心で燃えていた。
「敵はたかだか5匹、数ではまだ優位です!勇敢な者は、私についてきなさい!」(ヴォラニュス)
勇ましく、味方を鼓舞するヴォラニュス。しかし、彼女の言葉は、指揮系統が失われたことによる無秩序な突撃を招いた。
「待て、ヴォラニュス!闇雲に飛び込むな!お前のそれは死亡フラグだ!」(コピウム)
タタタタン! タタタタン!
コピウムの叫びも虚しく、ヴォラニュスとそれに続いた者達は、冷静に迎え撃つ白木や柳田に討ち取られた。
「くそ、もう俺達だけになってしまった…。」(ゴヨウセ)
「あ、ああああ、もう駄目だ…。」(エンス・タリオス軍曹)
「敵は残り3体! 一気に叩くぞ!」(白木)
コピウム等への攻撃を強める白木や柳田たち。「もはや、これまでか」と覚悟を決めたコピウムだったが、そこに援軍が現れる。
「アークス准尉!」(ゴヨウセ)
「それに大隊長殿!」(ゴヨウセ)
雲の上で戦場を見下ろす天使。オズスリットリウムが部下を引き連れて援軍に駆け付ける。
「あれは…。」(白木)
「なあ、あれって…。」(立山ミラ二等陸曹)
「ああ、ホルナ・オズススリットリウム。8年前、当時の防衛大臣を殺害し、その後も首都圏奪還作戦の度に大暴れし、多くの仲間を葬ったあの…。天使族ゆえの超絶的な飛行速度で、相模湾の護衛艦隊の防衛網も紙切れのように突破したという…。」(柳田)
柳田の声は、かつてないほどの緊張を含んでいた。
「(そんな奴が、なぜこんな場所に…。)」(白木)
白木の顔は、冷や汗で濡れていた。
「お前達、撤退する。私に着いて来い。」(オズスリットリウム)
「りょ、了解。」(コピウム)
オズスリットリウムの命令により、動き出すコピウムとゴヨウセ。2人が動き出すとオズスリットリウムとその側近は、その場から離れる。
「敵が逃げる!」(立山)
「追うぞ!」(白木)
「土井、お前はあの3体を討て!」(白木)
「任せて下さい!」(土井近太郎陸士長)
土井は、オズスリットリウムに気を取られているコピウムたちを、冷静に、そして確実に仕留めていく。
「どけ!!」(ゴヨウセ)
「逃がしませんよ!」(土井)
パァン!
土井の銃弾が、ゴヨウセの眉間を正確に貫く。
「(…下等生物どもが、はしゃぎおって。)」(オズスリットリウム)
オズスリットリウムは、自らの部下が目の前で倒れていくのを、何の感情も見せずに見つめていた。まるで、無意味な存在が消えていくのを傍観しているかのようだった。
「(まだ慌てる必要はない)」(オズスリットリウム)
「連隊長! 敵の大隊長、ホルナ・オズスリットリウムが姿を現しました!」(白木)
「何? 敵指揮官が自ら!?」(武石)
武石は一瞬、眉をひそめた。
「(奴ほどの指揮官が、この劣勢で、なぜ軽々しく姿を見せる…罠か? いや、もし奴を討てれば、この山梨方面での戦いは終わる。リスクを負う価値がある。)」(武石)
「よし、これは好機だ! 総員、狙うはオズスリットリウム!」(武石)
「オズスリットリウムの位置を把握。座標を送る。」(有永勝太二等陸尉)
「総員、有永二尉が送った座標へ進め! オズスリットリウムをここで討つぞ!」(武石)
「麻生三尉!」(白木)
指定された座標に次々と向かう自衛官達。そこには、麻生ほか、数名の隊員が集まっていた。
「大隊長殿、頃合いです。」(アークス)
「行け。」(オズスリットリウム)
その命令が下された瞬間、周囲の茂みから、無数の銃口が自衛官たちへと向けられた。
タタタタン! タタタタン! タタタタン!
「伏兵!」(白木)
「ぎゃあああああああ」
「うわああああ」
一瞬にして、希望に満ちていた自衛官たちの表情が絶望に変わる。彼らが追い詰めたと思っていた敵は、最初から彼らを誘い込んでいたのだ。
「罠か…」(麻生)
麻生や白木の前に現れたのは1個中隊。第2歩兵大隊率いる最後の中隊であった。
「形勢は逆転した! 一気に駆逐せよ!」(オズスリットリウム)
「まずい…」(白木)
オズスリットリウムは、自衛官たちが伏兵に襲われる光景を、上空から冷たい視線で見つめていた。まるで、手の上で弄ばれる駒を見るかのように。
登場人物紹介
白木 歩夢
生年月日:1989年9月9日 / 出身:山梨県
階級:陸准尉 / 所属:第13普連2中隊
備考:2年前の道志山塊攻防戦で戦果を挙げた精鋭
柳田 俊輔
生年月日:1992年3月11日 / 出身:神奈川県
階級:二等陸曹 / 所属:13普連2中隊
立山 ミラ(たてやま)
生年月日:1989年11月27日 / 出身:愛知県
階級:二等陸曹 / 所属:31普連3中隊
土井 近太郎
生年月日:1999年12月2日 / 出身:新潟県
階級:陸士長 / 所属:13普連1中隊
有永 勝太
生年月日:1990年5月9日 / 出身:福井県
階級:二等陸尉 / 所属:第12偵察大隊1小隊小隊長。
ホルナ・オズスリットリウム
種族・性別:天使族の女性
所属・階級:陸軍少佐、第2歩兵大隊大隊長
エスリー・ハインツ
種族・性別:ヒト族の男性
所属・階級:陸軍中尉で、オズスリットリウムの副官
カミィ・アークス
種族・性別:ヒト族の女性
所属・階級:陸軍准尉、アズスリットリウムの側近
ジャック・アルジャ
種族・性別:オーガ族の男性
所属・階級:陸軍中尉、第2歩兵大隊中隊長の1人
備考:白木達によって討たれる
コウ・コピウム
種族・性別:ゴブリン族の男性
所属・階級:陸軍伍長、第2歩兵大隊・アルジャの中隊に所属
備考:土井に討たれる
ツッツ・ゴヨウセ
種族・性別:ゴブリン族の男性
所属・階級:陸軍伍長、第2歩兵大隊、アルジャの中隊に所属
備考:土井に討たれる
エンス・タリオス
種族・性別:オーク族の男性
所属・階級:陸軍軍曹、第2歩兵大隊でアルジャの中隊
備考:アルジャ他、指揮官候補が軒並み討たれて戦意喪失。土井に討たれる
エヒメ・ヴォラニュス
種族・性別:猫型獣人族の女性
所属・階級:陸軍兵士長、第2歩兵大隊でアルジャの中隊に所属
備考:死亡フラグに則って戦死
麻生 教之……13普連の精鋭
武石 哲也……13普連の連隊長




