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外星戦記  作者: 無名の凡夫
第1章 初陣~オペレーション・ギデオン~

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40/261

第40話 共闘

「ゴエ、その足ではもう戦えん。」


コウガはゴエの右脚へ視線を落とした。応急処置は済ませてあるものの、銃創からはなお血が滲み、まともに走れる状態ではない。


「悔しいですが、認めます。まずは治さないと始まりません。」


「救護ヘリは手配した。それまでは、この周辺の警戒を続けろ。」


「了解です。」


そのとき、無線機から通信が入った。


『コウガ、聞こえるか。』


「ジュースか。」


『落ち着いて聞け。隊長とハンゾウ、それにフウマだが……生存は絶望的だ。現場には大量の血痕と肉片だけが残っていた。』


コウガは目を閉じた。隊長なら最後まで戦ったはずだ。そう思えばこそ、その報告は現実として胸へ重くのしかかった。


「敵は?」


『詳細は不明だ。隊長が相打ちに持ち込んだ可能性が高い。……それと、モモは見つかったか?』


コウガは数秒だけ沈黙した。


「戦死した。」


無線の向こうもしばらく言葉を失う。やがてジュースは低く息を吐いた。


『了解した。俺が隊長代理として指揮を執る。第一補給路はフィンレーたちへ任せる。お前たちはその場で待機してくれ。』


「了解。」


通信が切れた直後だった。ゴエが耳を澄ませる。


「……誰か来ます。」


2人は同時に銃を構えた。木々の間から現れた4つの人影もまた、小銃をこちらへ向けている。数秒だけ、互いに引き金へ指を掛けたまま睨み合った。


「……美村三曹。」


「コウガか。」


互いの姿を確認すると、緊張は一気に解けた。


「何だ、お前たちだったか。」


「状況は?」


「敵補給路は遮断しました。次の地点へ移動するところです。」


コウガは地図を広げ、一か所を指差した。


「第3補給地点だ。仲間が孤立している。援護へ向かってくれ。」


「了解。」


美村は即座に頷く。命令を受けることへ迷いはなかった。4人は森の奥へ駆け出していく。その背中を見送りながら、ゴエが口を開いた。


「任せて大丈夫ですか?」


「ああ。」


コウガは迷わず答えた。


「ここまで誰1人欠けることなく任務を遂行してきた。十分、信頼できる。」




第3補給地点では、ダンゾウが孤軍奮闘していた。


敵が仕掛けた罠を突破し、幾度となく包囲網を破った結果、その周囲には帝国兵の亡骸が折り重なるように転がっている。


しかし、その代償は小さくなかった。弾倉には残り数発。肩口から流れた血で袖は黒く染まり、呼吸も荒い。それでもダンゾウは膝をつかなかった。


(隊長に"大丈夫です"と言った以上、この程度で倒れるわけにはいかん。)


岩陰から敵を観察する。


あと何人残っている?


どこを突破すれば包囲を崩せる?


頭の中では、それだけが静かに組み立てられていた。




「美村三曹、目標地点まで、あと100メートルです。」


徳島が木立の向こうを指差した。視線の先では、1人の隊員が岩陰を転々と移動しながら銃撃を続けている。その周囲には帝国兵の死体が幾重にも転がり、それでもなお十数名の敵兵が包囲を狭めていた。


「あれが……。」


「ああ、特戦群だ。」(美村)


ダンゾウの戦闘服は土と血にまみれ、肩口から流れた血が袖を黒く染めていた。足元には空になった弾倉がいくつも転がっている。それでも彼の射撃は正確で、身を乗り出した帝国兵が1人、また1人と倒れていった。


「奴はこちらの射線を全部読んでいる……。」

※ダレン・ドフィーラ軍曹、元第3砲兵大隊整備小隊


「軍曹、このままでは損害が増える一方です。」

※ピオトル・シマオ兵士長、元第3砲兵大隊弾薬小隊


「砲兵相手ならとっくに終わっていた戦いだ。たった一匹の羽虫ごときに、何人食われれば気が済む……!」


ドフィーラが苛立ちを隠せず唸る横で、ニール・ツインクエ曹長は双眼鏡を覗き込んでいた。


「……近づけん。」


「曹長、指示をお願いします。」


ツインクエは無表情のまま前方を指差した。


「アニャーニャ、アブゾフ、ヴィジポ、サイヴェ。」


「はい。」


「お前たち4人で突撃しろ。」


4人は一瞬だけ顔を見合わせた。


「……曹長、それでは狙撃されます。」


アニャーニャが恐る恐る口を開く。


「だから何だ?」


「え……。」


「撃たれて時間を稼げ。その間にハンゴとニーカムが狙撃手を始末する。」


アブゾフが思わず息を呑む。


「それは……我々に死ねという命令ですか。」


「そう言ってるんだ。」


ツインクエは眉ひとつ動かさなかった。


「さっさと行け。役立たず。」


4人は返す言葉を失った。上官の命令は絶対だった。ヴィジポは唇を噛み締める。


故郷には、病床の母と幼い弟妹がいる。地球遠征は危険も少なく、報酬も高い──そう聞かされて志願した。家族を楽にさせたい。その願いだけで軍服を着た。


(……お母さん。)


「行こう。」


ヴィジポが小さく呟く。


4人は覚悟を決め、木立から飛び出した。その瞬間だった。乾いた銃声が森を裂く。


ヴィジポの胸が跳ね、続いてアブゾフが首から血を噴いた。高杉の2発目がアニャーニャの額を撃ち抜き、赤松の銃弾がサイヴェを薙ぎ倒す。4人は敵に届くことなく地面へ崩れ落ちた。


「くそっ!」


ツインクエが顔を歪める。


だが、その怒りは部下を失ったことではない。


「役立たずどもが!」


その叫びを聞いたドフィーラでさえ、一瞬だけ表情を曇らせた。


一方、美村は敵の混乱を見逃さなかった。


「今だ。高杉、左を抑えろ。赤松は右。徳島、俺に続け。」


「了解!」


4人は一斉に射撃を開始する。完全に背後を突かれた帝国兵は次々と倒れ、包囲陣形は大きく崩れた。


「後方にも敵だ!」


「囲まれた!」


その叫びを聞いた瞬間、ダンゾウの目が鋭く光る。


「隙あり。」


岩陰から飛び出したダンゾウは、銃剣で目前の兵士の喉を貫き、そのまま小銃を引き抜く勢いで2人目の胸へ発砲した。返す刀で3人目を蹴り倒し、転がった敵の小銃を遠くへ蹴り飛ばす。


「美村三曹!」


徳島が叫ぶ。


「今のうちに弾薬を!」


「分かっている!」


美村は岩陰まで駆け寄ると、新しい弾倉をダンゾウへ放り投げた。ダンゾウは片手で受け取り、素早く装填する。


「助かる。」


その一言だけだった。


「礼は戦いが終わってから聞く。」


美村が笑みを浮かべる。


「全員、挟撃するぞ!」


5人は自然と左右へ展開した。


細かな指示は必要なかった。互いの射界を理解し、相手の動きを読んでいる。正面からはダンゾウ。側面からは美村、高杉、赤松、徳島。交差する銃火に帝国兵は次々と倒れ、反撃の機会を失っていく。


「退け!」


ドフィーラが叫ぶ。しかし、その声より早くダンゾウが距離を詰め、銃剣を突き出した。刃はドフィーラの喉を正確に貫く。


「ば……かな……。」


崩れ落ちる同僚を見たツインクエは、踵を返そうとした。だが、その退路を高杉の銃弾が断つ。さらに赤松の一射がシマオを撃ち抜き、徳島が逃げ遅れた兵士を仕留めた。


最後の一人が銃を捨てて逃げようとした瞬間、ダンゾウの放った一発が背中を貫いた。


森に静寂が戻る。硝煙だけがゆっくりと漂っていた。


ダンゾウは小銃を下ろし、深く息を吐く。


「……制圧完了。」


美村は周囲を確認すると、ダンゾウの前まで歩み寄った。


「助太刀が遅くなった。」


ダンゾウは首を横に振る。


「いや。間に合った。」


短い言葉だった。だが、その一言には、戦場で命を預け合った者だけが交わせる重みがあった。

登場人物紹介

ジュース……特戦群の代理指揮官

美村みむら たん……第31普通科連隊1中隊

高杉たかすぎ 眞瀬まきせ……同上

赤松あかまつ つらら……同 第2中隊

徳島とくしま 陽平ようへい……同上

ニール・ツインクエ……元第3砲兵大隊防空支隊長


※アステリム帝国では、兵役に就ける年齢は種族によって異なります。今回登場したヴィジポは、獣人族ですが、獣人族はヒト族より、平均寿命や健康寿命が短い変わりに、心身が成熟するのが早く、14歳から兵役につけます。ヒト族は17歳、エルフは長寿ですが、心身の成長が他種族より遅いため、50歳が成人として認定され、兵役が認められるのは45歳からです。

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ミリタリー SF ファンタジー 自衛隊 戦争
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