第39話 共闘
― 自衛隊、山梨方面隊・前線部隊 敵補給路の1つ ―
「敵が来なくなりましたね。」(赤松)
「補給路を断てたってことでしょうか?」(徳島)
「それは分からん。だが、補給路と断たれたと分かれば、奪い返しに来る。だから、引き続き、補給路の哨戒を続けよう。」(美村)
「了解。」(高杉、赤松、徳島)
「ゴエ、その足ではもう無理だ。お前は下がれ。」(コウガ)
「悔しいけど、そうします。まずは怪我を治さないとですね。」(ゴエ)
「ああ、救護ヘリには連絡済みだ。それまでは、哨戒任務を続けてもらうが。」(コウガ)
「コウガ、聞こえるか?」(ジュース)
「ジュースか。状況はどうなっている?」(コウガ)
「落ち着いて聞け。隊長とハンゾウ、フウマは…おそらく死んだ。俺も詳細を掴みきれていないが、通信が途絶え、その場所に大量の血痕や肉片が散らばっていた。」(ジュース)
「…そうか。敵は?」(コウガ)
「隊長が仕留めたはずだが、正確な情報は分からん。ところで、モモは戦死したようだな…。」(ジュース)
「…ああ。俺たちを庇って死んだ。」(コウガ)
「…そうか。なら、俺が隊長代理として現場の指揮をとらせてもらう。第1補給路の哨戒任務は、フィンレー、リコシェ、エルガンに任せる。お前たちは、そこで待機していてくれ。」(ジュース)
「了解した。」(コウガ)
「…だれか来る!」(ゴエ)
コウガとゴエは、足音の方へ銃口を向ける。一方で、足音の主もコウガとゴエに気付いていた。
「…何者?」(美村)
「敵!?」(徳島)
美村、高杉、赤松、徳島の4人は、警戒を解かずに銃口を向けたままだったが、特戦群のコウガ、ゴエだと気付くと銃口を下ろす。
「何だ、お前達か。」(コウガ)
「状況はどうだ?」(ゴエ)
「概ね順調です。」(徳島)
「先ほどの補給路は断てたので、場所を移そうかと。」(高杉)
「俺達は、補給路をまた奪われないようにここを哨戒する必要がある。お前達にはこの地点へ行ってもらいたい。」(コウガ)
コウガは地図上のある場所を指さし、美村達に指示を出す。
「ここは?」(美村)
「補給路の1つだ。ここで仲間が戦っている。援軍へ向かってくれ。」(コウガ)
「了解!」(美村)
「よし、高杉、赤松、徳島、行こう。」(美村)
美村達が去った後、ゴエはコウガに問う。
「彼らに任せて大丈夫ですか?」(ゴエ)
「ああ、誰も脱落することなく、任務をこなしているようだ。信頼に値する。」(コウガ)
コウガは4人の背中を見つめ、静かにそう語る。
第3補給地点では、ダンゾウが1人で戦っていた。
帝国兵が仕掛けた罠と伏兵、それを1人で相手をしていたダンゾウ。周囲には、帝国兵の死体がいくつも転がっていた。多くの敵兵を討ち取るも、体力の消耗が激しく、弾薬も尽きようとしていた。
「はぁはぁ…。(隊長に大丈夫と言った手前、ここで死ぬわけはいかん…。)」(ダンゾウ)
彼は、ほとんど尽きた弾倉を握りしめ、次の行動を模索していた。死は厭わない。だが、意味のない死だけは避けたかった。
「くそう、敵は1匹なのに、何故仕留められん…。」(ドフィーラ)
「少尉、でも大丈夫です。奴はもう虫の息。それに、弾薬も尽きるころでしょう。」(フアンナ・デネボーラ兵士長)
「何故だ…、何故、俺たち帝国軍が、たった1匹の羽虫を仕留められない…。」(ニール・ツインクエ曹長)
ツインクエは、銃身から立ち上る白煙を睨みながら、悔しそうに唇を噛みしめた。彼らがこれまで経験してきた戦いとは、全く異なる苛烈な状況だった。
「(犠牲が多すぎる…。敵1匹にこれは割に合わんだろ…。)」(ツインクエ)
「(いくら、僕たち砲兵科とはいえ…ここまで苦戦するなんて…。」(シマオ)
「奴はこちらの弾が当たらないポジションを取ってる。闇雲に撃つと味方に当たってしまうよ。」(ナックス)
「むう…。(敵が数匹いればそれでも撃つよう命じられるんだが、1匹ではなぁ…。)」(ドフィーラ)
「ぎゃっ!」
「くっ、また兵が1人…。」(ドフィーラ)
戦死したのは、若い二等兵。帝国としては痛くもない犠牲。しかし、敵1人をなかなか仕留めきれない焦りを、ドフィーラは感じていた。
「美村三曹、目標の地点までもうすぐです。」(徳島)
「あそこだな。」(美村)
「美村さん、特戦群の人、1人で戦ってます!」(赤松)
「本当だ、すぐに援護を!」(徳島)
「待て、敵の配置をよく見ろ。闇雲に突っ込んでも意味ないぞ。」(美村)
美村達4人は、敵に気付かれないよう、慎重に敵兵へ近づく。
「(狙撃手は不在。このまま敵の背後へ回り込む。)」(美村)
美村は、ハンドサインで高杉に伝える。
「ドフィーラ少尉、背後に敵。4匹。」(デネボーラ)
「何!」(ドフィーラ)
「見つかった!?」(高杉)
「問題ない!」(美村)
TATATATANG! TATATATANG! TATATATANG!
美村は、冷静な対応で、敵小隊長のダレン・ドフィーラを討ち取った。
「小隊長!」(デネボーラ!)
「一旦引く。」(美村)
「良いんですか?」(徳島)
「構わん! 迂回して敵をかく乱させる。」(美村)
「(あいつらのおかげで隙が出来た。)」(ダンゾウ)
TANG! TANG! TANG!
ダンゾウは正確な射撃で、敵を確実に仕留めていく。
「くそ、あいつの射撃、正確すぎる!」(シマオ)
TATATATANG!
「な、何だと…。」(シマオ)
ダンゾウの正確な射撃に驚愕しているその刹那、シマオの死角から銃弾が襲う。一度、撤退した美村や高杉だったが、4人揃って撤退したわけではなく、赤松だけがその場に残り、機を伺っていた。そして、特戦群に負けない射撃技術で、シマオ、ナックスを討ち取った。
「小隊長が2人とも戦死だと!」(ツインクエ)
「よし!まずは、ここから敵兵を討つ。数を減らせたら彼に接近し、弾薬を渡すぞ。」(美村)
美村たちの発砲が始まる。
TATATATANG! TATATATANG!
「敵に近づけない…。」(デネボーラ)
「曹長、指示を!」(デネボーラ)
「おい、アニャーニャ、アブゾフ、ヴィジポ、サイヴェ、お前らあいつに突撃しろ。」(ツインクエ)
「え?」(ルフン・サイヴェ二等兵)
「え? じゃねーよ。突撃しろって言ってるんだ。」(ツインクエ)
「それでは、狙撃手に撃たれてしまいますが…。」(ステイル・アニャーニャ二等兵)
「いいんだよ撃たれても。その間にハンゴとニーカムが狙撃手に近づいて仕留めろ。」(ツインクエ)
「それは、我々に死ねと」(ナジーム・アブゾフ二等兵)
「そう言ってるんだよ、早くしろ糞馬鹿共。」(ツインクエ)
冷酷に言い放つツインクエ。ただの捨て駒のように扱われると感じたアニャーニャ、アブゾフ、ヴィジポにサイヴェ。
「上官の命令には逆らえない。い、行くぞ…。」(アンル・ヴィジポ一等兵)
ヴィジポの悲痛な声とともに突撃する。
ヴィジポは幼い頃に父を亡くした。6人の兄弟を養うため、必死に働いていた母も過労で身体を壊した。ヴィジポ家の長子であった彼女は、兵役可能な年齢である14歳になったらすぐに帝国軍に志願した。軍への入隊が手っ取り早く稼げるからだ。更には、地球侵略の遠征に志願すれば、さらに給金に箔がつく。地球の文明や武力は帝国と比較しても遥かに劣る。楽な仕事で簡単に金が手に入る。その言葉を信じ、彼女は地球遠征に志願した。
「(話と全然違う…地球人は……強い。)」(ヴィジポ)
「(お母さんに楽させてあげたかっただけなのに……)」(ヴィジポ)
TATATATANG! TATATATANG! TATATATANG!
4人に容赦なく銃弾が降り注いだ。4人は、ツインクエの冷たい眼差しの中で、故郷の家族の顔を思い浮かべながら、そして、再び家族に会うことなく、あっけなく命を落とした。そして、美村達3人へ仕掛けたハンゴやニーカムは、高杉に頭部を撃ち抜かれていた。
「くそ…。役立たずどもが!」(ツインクエ)
激高するツインクエの懐に銃剣を向けて突撃するダンゾウ。不意を突かれたツインクエに防ぐ術はなかった。
「よし、俺達も下りて援護しよう。」(美村)
美村の号令のもと、高杉と赤松、徳島は下りてダンゾウの下へ近づく。弾薬の補充を行った後、5人で挟撃して残りの敵兵を討ち取った。美村たちは冷静に敵を追い詰め、ダンゾウは持ち前の超人的な身体能力で敵兵を次々と仕留めていく。
「制圧、完了。」(ダンゾウ)
ダンゾウは、荒い息を整えながら、美村たちに小さく頷いた。それは、言葉を交わさずとも通じ合う、戦友への感謝のサインだった。
登場人物紹介
ジュース…特戦群の1人。怪我人の救護をメインに行っていたが、イガの死により、中隊長代理となる。
フィンレー…特戦群の1人。イガの班が行っていた補給路の警護を行うことに。
リコシェ…特戦群の1人。以下同文。
エルガン…特戦群の1人。以下同文。
フアンナ・デネボーラ
種族・性別:エルフ族の女性
所属・階級:陸軍兵士長、砲兵科の即席小隊員
ニール・ツインクエ
種族・性別:犬型獣人族の男性
所属・階級:陸軍曹長、砲兵科の即席小隊員
ステイル・アニャーニャ
種族・性別:猫型獣人族の男性
所属・階級:陸軍二等兵、砲兵科の即席小隊員
備考:ツインクエに捨て駒にされた。
ナジーム・アブゾフ
種族・性別:ヒト族の男性
所属・階級:陸軍二等兵、砲兵科の即席小隊員
アンル・ヴィジポ
種族・性別:猫型獣人族の女性
所属・階級:帝国陸軍一等兵、砲兵科の即席小隊員
備考:ツインクエに捨て駒にされる
ルフン・サイヴェ
種族・性別:ゴブリン族の男性
所属・階級:陸軍二等兵、砲兵科の即席小隊員
備考:ツインクエに捨て駒にされる
ハファラビ・ハンゴ
種族・性別:ゴブリン族の男性
所属・階級:陸軍伍長、砲兵科の即席小隊員
備考:ヴィジポ達がダンゾウに突撃している間に、美村達に突撃するも、高杉によって狙撃される。
ミリ・ニーカム
種族・性別:ラミア族の女性
所属・階級:陸軍上等兵、砲兵科の即席小隊員
備考:ハンゴと共に突撃するも、高杉に討たれる。
ダンゾウ……特戦群の班長格。仲間の怪我により、1人で戦闘していた。
赤松 つらら(あかまつ)……31普連の有望株
徳島 陽平……31普連の新人
美村 丹……31普連の中堅隊員
高杉 眞瀬……31普連の中堅隊員
ピオトル・シマオ……第3砲兵大隊の生き残りで、急遽、補給戦線の防衛に駆り出された。
ダレン・ドフィーラ……第3砲兵大隊で急遽結成された小隊の小隊長
モザ・ナックス……以下同文
グーリエ星に存在する種族
ラミア族……下半身が蛇で攻勢されている。男性よりも女性が多い。水中・水上・森林の中を素早く動ける。身体に巻き付かれると、たちまち骨が粉々になり、内臓は破裂する。巻き付かれた時の力の強さは、アナコンダやニシキヘビよりも強い。
※アステリム帝国では、兵役に就ける年齢は種族によって異なります。今回登場したヴィジポは、獣人族ですが、獣人族はヒト族より、平均寿命や健康寿命が短い変わりに、心身が成熟するのが早く、14歳から兵役につけます。ヒト族は17歳、エルフは長寿ですが、心身の成長が他種族より遅いため、50歳が成人として認定され、兵役が認められるのは45歳からです。




