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外星戦記  作者: 無名の凡夫


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第38話 小さくない犠牲

PAANG! PAANG!


ハンゾウとフウマの体が、力なく崩れ落ちた。


「…。」(イガ)


その瞬間、イガの瞳が見開かれる。そして少し後にアスゲニフは、撃った拳銃をゆっくりと下げた。


意識が朦朧とする中、イガは拳銃を取り出し、アスゲニフへ向けて撃とうとするも、それに気付いたガーに撃たれてしまう。


PAANG!


「うぐっ…。」(イガ)


「こいつ、まだ生きてますよ。」(ガー)


「しぶとさはゴキブリ並よのう。」(アスゲニフ)


アスゲニフは、嘲笑ではなく、まるで手強い獲物を前にしたかのような、ゾクゾクするような笑みを浮かべた。イガに近づき、とどめを刺そうとする。


朦朧とする意識の中で、イガは過去の記憶を呼び起こす。第一空挺団時代、特戦群発足時の理不尽とも言える合格基準に抗議したこと、その翌年、特戦群の入隊が認められたこと。特戦群になったことで、家族との時間が作れなくなり、離婚をしたこと―――特戦群への入隊は間違いだったのかと葛藤したことも思い出される。家族と、国民を守るべく、己を鍛え、ただただ任務に従事した結果が、家族との別れとはなんと理不尽なことだろう。


それでも、イガは粛々と任務をこなした。やがて、中隊長となり、部下を持つようになった。「出会いがない」とぼやく部下に、「出会いがあっても実らないぞ。」と自虐的にアドバイスをした、その部下はフウマだった。ハンゾウは、「特戦群の入隊を機に、彼女と別れてきました!」と明るく言っていたのを覚えている。だが、イガには、そんな彼の並々ならぬ覚悟が伝わった。


「(ただでは死なん……俺は、隊長として、部下を守れなかった。だが、せめて、この命を無駄にはしない……。)」(イガ)


彼の目に、アスゲニフ達への静かな怒りと、最後の使命を全うしようとする固い意志が宿る。イガこと工藤佐介(くどう さすけ)三等陸佐の胸元には、任務用のC4爆薬が装備されていた。イガは起爆スイッチを押すと、装備に仕込んであったC4爆薬が爆発する。


「何!?」(アスゲニフ)


アスゲニフの驚愕の声が響く。爆風と閃光が、周囲の全てを飲み込んだ。


DOONG!


「ぐあああああああ!」(アスゲニフ、ガー、ディオンヌ)



「おのれ…。」(アスゲニフ)


爆発の中心にいたアスゲニフは片腕を、ガーは両足を、ディオンヌは右耳と右目を失い、全員が戦線離脱を余儀なくされる。


爆風が去った後、あたりには不気味な静寂が戻った。そこに残っていたのは、塵となって消えたイガの、微かな血の匂いだけだった。


目の前で命を散らした仲間、ハンゾウこと大社欧次(たいしゃ おうつぐ)二等陸曹、フウマこと領南鴇矢(りょうなん ときや)三等陸曹。彼らを、そして自分自身の名誉を守るために、工藤は自らの命を投げ打った。




― 特戦群 第2班(コウガ、ゴエ)―


「くそ…。」(コウガ)


フィアン・トロイカ率いるヒョウ型獣人族の支隊、ネウレイ・マーファク率いる狼型獣人族の支隊による挟撃を、コウガとゴエは受けることしか出来なかった。


「(この数を捌き続けるのは無理があるぞ…。)」(ゴエ)


「(敵が近接戦をしてるから何とかなってるだけだ…。このままじゃジリ貧だ…。)」(コウガ)


「おらおら!どうした? 守ってるだけか?」(マーファク)


「自衛隊の特殊部隊ってのは、その程度の実力か?」(ヴィスス・ヴィハン陸軍伍長)


日本語で挑発的な言葉を発するヴィハン。その声には、単なる侮辱ではない、何か焦りを誘うような不自然な高揚感が含まれているようだった。


「(くそっ、何でだ? 何でこんなに上手くいかない!? 相手はたったの2匹。俺たち6人がかりで、こんなに苦戦するはずがない…!)」(ヴィハン)


コウガとゴエが、ジリ貧だと感じている一方で、ヴィハンは、特戦群を仕留められないことに焦りを感じていた。彼は、苛立ちを隠すかのように、さらに大声で挑発を繰り返した。


「(安い挑発には乗らん…。だが、なぜわざわざ日本語で?そして、なぜ近接戦にこだわる?この状況で、奴らが欲している情報はなんだ……。)」(コウガ)


コウガは、敵の意図を冷静に分析しようと試みた。しかし、状況を打開できる術を見つけずにいた。


「ガックス、右側から!」(トロイカ)


トロイカの指示に、ガックスが俊敏に動き、コウガの側面を突く。


「くっ!」(コウガ)


「シガー、左だ!」(マーファク)


マーファクの指示で、狼型獣人のシガー・コピロック曹長が、まるで獲物を狩るかのように、ゴエの背後から迫る。


「(…奴らは、ただの獣ではない。個々の能力を最大限に活かし、完璧な連携で俺たちを追い詰めている。)」(ゴエ)


追い詰められたコウガとゴエは、立体物に身を隠しながら、反撃の機会を伺っていた。


「(隊としても特徴があるな。ヒョウの方が冷静に戦っている。逆に狼はガンガン攻めてくる。)」(コウガ)


「(ただ、隊長格ならヒョウの方が強い。ならば……。)」(コウガ)


コウガは、一瞬の隙をついてゴエにアイコンタクトを送る。ゴエは言葉を交わさずとも、その意図を読み取った。


「(…先に狼を仕留める。)」(コウガ)


彼は、マーファクに狙いを定め、決意を固めた。


「(とは言っても、2対6じゃあ、どうしようもない…。)」(コウガ)


「(…いや、ひとつだけ方法がある。奴らは連携を完璧にこなしているが、あのお喋りな狼〈ヴィハンの事〉は、少しレベルが落ちる。あそこを突けば…。)」(コウガ)


コウガは、ゴエに再びアイコンタクトを送る。その目は、状況を打開する術を見つけた希望の目だ。ゴエは、言葉を交わさずとも、その意図を正確に読み取った。


「(了解。援護する…。)」(ゴエ)


ゴエは、わずかに頷いた。


「(あのお喋り狼、奴は、常に喋り続けている。それは、敵を威圧するためか、あるいは、自分自身を鼓舞するためか…。)」(コウガ)


コウガは、ゴエに再びアイコンタクトを送る。


「(…奴は、集中力が途切れる瞬間がある。そして、その瞬間こそが、俺たちのチャンスだ。)」(コウガ)


「しぶとすぎだろ、下等生物がああああ!」(マーファク)


「シガー、ヴィスス! マシンガンに切り替えろ! 奴らの頭にぶち込んでやる!」(マーファク)


マーファクの支隊は、距離を取り、マシンガンの準備を始める。


「(もたついた!)」(ゴエ)


「(今だ!)」(コウガ)


「マーファクを援護しろ!」(トロイカ)


ヴィハンが弾の装填にもたついた瞬間を狙うコウガとゴエ、トロイカはそれに気付いた。


「(何故前もって装填してないんだ…。)」(トロイカ)


初歩的なミスを犯したヴィハンに向けて発砲するコウガ。トロイカが急いで発砲する。


「ゔ……。」(ゴエ)


TATATATAN! TATATATANG!


お互いの銃弾が交錯する中、ゴエは足を撃たれるが、銃撃を止めず、マーファクを撃ち抜いた。


「クソがああああああ」(マーファク)


PAANG!


コウガの銃弾が、怒りに声を上げるマーファクの心臓を貫く。


「しまっ…。」(トロイカ)


BOOM!


慌てて飛び出したトロイカ。近くに立体物もなく、無防備な姿になっていた。ゴエはトロイカに手榴弾を投げる。手榴弾の爆発により、トロイカのみならず、ガックスやカムイリも爆風に巻き込まれた。


ゴエは痛みに顔を歪めながらも、近くの岩陰に身を隠す。引き続き、コウガは、コピロックと銃剣と軍刀による近接戦闘を行う。


「(いた!)」(ゴエ)


ゴエは暗視眼鏡でトロイカの支隊を確認。匍匐前進で小銃の射程距離まで詰めると、トロイカとガックスを仕留めた。


「きゃあ!」(トロイカ)


「(あと2体!)」(ゴエ)


「うっ!」(ゴエ)


カムイリを仕留めるべく、銃口を向けるゴエだったが、足に激痛が走り、動きが遅れた。


「(チャンス!)」(カムイリ)


軍刀を抜き、ゴエに接近し、切りかかろうとするカムイリ。その前に立ちはだかるのは…。


「うぐっ…。」(モモ)


行方不明とされていたモモだった。


「モモ!」(ゴエ)


モモは、オサスタとの戦闘で重傷を負ったが、川へ転落し流されたことで、とどめを刺されることなく生き延びていた。流された場所が偶然、第2補給地点の近くだった。カムイリの刀剣が腹部に刺さり、死の寸前、カムイリに向け発砲。モモこと、三島拓樹(みしま たくき)一等陸尉は、自身の命と引き換えにカムイリを仕留めた…。


「(モモが命を賭して救ってくれた命、無駄にはせん!)」(ゴエ)


痛みに耐え、匍匐前進でコウガとコピロックに接近したゴエは、コピロックの足に向けて発砲。コピロックのバランスが崩れたところ、コウガは銃剣でコピロックの喉元を切り裂く。


「ぐわあ…」(コピロック)


「ぜぇぜぇ…制圧完了…。」(コウガ)


コウガの言葉に、ゴエは何も答えなかった。その視線は、動かなくなったモモの体に向けられていた。


登場人物紹介

シガー・コピロック

種族・性別:狼型獣人族の男性

所属・階級:陸軍曹長、特殊作戦部隊・マーファクの支隊に配属。

備考:マーファクの班の中で唯一冷静に戦っていたが、ゴエとコウガの連携にて戦死。


ヴィスス・ヴィハン

種族・性別:狼型獣人族の男性

所属・階級:陸軍伍長、特殊作戦部隊で、マーファクの支隊

備考:マシンガンに弾薬を装填していないという致命的なミスをし、その隙に戦死する。

「こんなにアホだと思いませんでした。」(天に召されたマーファク談)


※亡くなった特戦群隊員

イガ:本名、工藤くどう 佐介さすけ

生年月日:1979年12月12日 / 出身:広島県

階級:三等陸佐 / 役職:特戦群3中隊中隊長

備考:バツイチ独身。なかなか家族に会えなくていつの間にか離婚していた。

享年:41歳


ハンゾウ:本名、大社たいしゃ 欧次おうつぐ

生年月日:1992年7月2日 / 出身:山梨県

階級:二等陸曹 / 所属:特戦群第3中隊

享年:29歳


フウマ:本名、領南りょうなん 鴇矢ときや

生年月日:1993年4月24日 / 出身:秋田県

所属:二等陸曹 / 所属:特戦群3中隊

享年:27歳


モモ:本名、三島みしま 拓樹たくき

生年月日:1984年4月11日 / 出身:千葉県

階級:一等陸尉 / 所属:特戦群3中隊

備考:モモというコードネームのせいで女性と勘違いされがちだが、ゴリゴリのおっさん。

享年:36歳


ラランワ・アスゲニフ……帝国特殊作戦部隊の部隊長。イガの自爆により重傷を負う。

セルチュク・ガー……アスゲニフの部下。アスゲニフ同様に重傷を負った。

キキ・ディオンヌ……アスゲニフの部下。同じく重傷を負った。

コウガ……特戦群班長の1人

ゴエ……特戦群。コウガと共に行動する。

フィアン・トロイカ……帝国特殊作戦部隊支隊長の1人。

アジウ・ガックス……トロイカの部下。

デイジー・カムイリ……トロイカの部下。

ネウレイ・マーファク……帝国特殊部隊支隊長の1人。


※言語の話……アステリム帝国の言語は、アステリム帝国語(通称、帝国語)が公用語です。他、種族ごとに特有の言語もあります。地球上に存在する言語も翻訳できる高性能の翻訳機があり、帝国兵は地球遠征の際に、この翻訳機が支給されます。個人によっては、翻訳機なしで会話が出来るようになった者もいます。ヴィハンが日本語で挑発できたのは、この翻訳機のおかげです。

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