第36話 補給路を取り戻せ!
「痛っ!」(竹内)
「我慢しなさい。」(東財)
負傷者の手当をする東財の顔には、安堵と疲労の色が浮かんでいた。シュグルポッターが撤退し、束の間の静寂が当たりを包む。別当や桐谷が率いる部隊は、怪我人の手当と、敵兵の遺体から弾薬等の物資を鹵獲していた。
生き延びた……。
誰もが、そう心の中で呟いていた。だが、その安堵は長くは続かない。
「敵の補給路を襲うか…。」(青島)
「敵の補給路を襲うか、こっちの補給路を取り戻さないと、どうしようもないですね。」(大松崎)
「敵の補給路は、飛鳥が断つとか言ってたが、続報がないな。」(村西)
「私の無線は壊れて使えない。」(東財)
「僕のもです…。」(緑川)
「………了解した。」(別当)
「今、イガと名乗る男から連絡が来た。敵の砲兵部隊を制圧したと。」(別当)
「イガ?」(室)
「特戦群だ。」(別当)
その言葉に、周囲の空気が一変した。
「特戦群!?」(西)
「本当にいたんだ…。」(緑川)
「おいおい…。」(桐谷)
若手が特戦群の存在を疑っていたことに、桐谷は呆れた表情だったが、桐谷自身にも、特戦群が暗躍することは知らされていなかった。
「それで、連中は何と?」(桐谷)
「次は補給路を取り戻すと。我々には、引き続き敵の歩兵隊を足止めして欲しいとのことです。」(別当)
その言葉は、彼らが単なる捨て駒ではない、という確かな証明だった。
「そうか。よし、今のうちに飯をかきこんでおけ。交代で周囲を警戒しよう。」(桐谷)
「了解!」
― 自衛隊、山梨方面隊・後方部隊 ―
「はぁ、はぁ、状況はどうだ?」(麻生)
「敵は向こうへ行きました。」(上条)
「よし、なら今のうちに弾薬の残量をチェックしよう。」(麻生)
「了解。」(上条)
「…もう、あまり残ってませんね。」(上条)
「そうだな…。補給路はどうなっている? 補給が来たという連絡はないが…。」(麻生)
「来ないという事は、断たれたと思われます。」(上条)
「敵から鹵獲するにも限界がある…。」(麻生)
麻生は地図を広げ、現在地と補給路だった場所を交互に指した。
「(俺たちが、行って取り戻すか?)」(麻生)
考えを巡らす麻生だったが…。
「敵襲!」(上条)
「ちっ、やはり行かせてくれないか。」(麻生)
麻生は恨めしそうに呟き、小銃を構えた。
― 特戦群 第1班(イガ班) ―
「モモは見つかりませんね。」(ハンゾウ)
「ああ。だが、生きてれば自分ですべき事を見つけ、実践するだろう。俺たちは次の任務に行く。」(イガ)
イガはそう言うと、静かに地図を広げた。
「うちの補給路を破壊したという帝国特殊部隊、その動向を追う。フウマ、先行して敵の拠点を特定しろ。」(イガ)
「了解。」(フウマ)
― 特戦群 第2班(コウガ班)―
「ゴエ、何をしている?」(コウガ)
「弾薬を少し…ね。」(ゴエ)
ゴエは、まだ使える弾薬を集めていた。
「補給路が断たれてるからか?」(コウガ)
「ええ。必要としてる連中はいるでしょうからねぇ。」(ゴエ)
「やれやれ。だが、もう行くぞ、時間が惜しい。」(コウガ)
「了解。」(ゴエ)
コウガはそう告げると、通信機を取り出した。
「こちら2班、準備完了。目標、帝国軍特殊部隊の第2補給拠点。交戦規定、発動。」(コウガ)
― 特戦群 第3班(ダンゾウ班) ―
「逃げた敵兵が再び攻め入る可能性もみて、タキとハチヤは残って哨戒任務だ。これは隊長からの命令だ。」(ダンゾウ)
「前線にいる隊と連携を取っても?」(ハチヤ)
「問題ない。」(ダンゾウ)
「了解。」(ハチヤ)
ダンゾウは、ハチヤの肩を叩いた。
「途中、味方に会ったらお前たちが残っていることは伝えておく。キド、ハットリ、行くぞ。」(ダンゾウ)
「了解。」(キド、ハットリ)
彼らは音もなく、森の中へと消えていった。
その頃…。
「1匹葬ったから、敵はにょこり5匹。E-2地点に向かってる、それまでに倒すにゃ。」(ズバンニャ・ゴック曹長)
この「な行」が上手く喋れないグーリエ星人は、ズバンニャ・ゴック。猫型の獣人族で、第3砲兵大隊の偵察を担当していた。特戦群の襲撃の際に、「コタロウ」を討ち取るも、自身が率いる分隊が壊滅的被害を受ける。
「分隊長、私たち2人だけで勝てますかね?」(カレン・アルカル伍長)
「カレンよ、やる前から弱気ににゃるにゃ。帝国兵はそんにゃ軟にゃ鍛え方はされてにゃいぞ。」(ゴック)
「し、失礼しました…。」(アルカル)
な行が上手く言えないゴックとは対照的に、アルカルの発音は正確だった。どうやらこれは、種族の特性ではなく――ゴック本人の問題らしい。
ゴックの分隊で生き残っているのは、アレン・アルカル伍長とゴックの2人だけだったが、ゴックの闘志は衰えていない。一方で、アルカルの顔には、隠しきれない不安の色が浮かんでいた。
「分隊長、敵の背中が見えました。」(アルカル)
「敵は3匹…、二手に分かれたにゃ。数が減ったにょは好都合!」(ゴック)
ゴック、アルカルの速度が上がり、ダンゾウ率いる3班を捕えようとしている。
「!?」(ダンゾウ)
「後方より、敵!」(キド)
「死えぇぇぇぇぇぇぇ!」(ゴック)
勢いよく飛び出し、ダンゾウに切りかかるゴック、ハットリに切りかかるアルカル。
「(ハットリは反応が遅れた!)」(キド)
即座にキドは、アルカルの顔に向けて発砲する。
PAANG!
「にゃあ!」(アルカル)
ヘルメットがずれ、頭部の貫通を免れたアルカルだったが、キドはすかさず四肢に向けて発砲していた。
TATATANG!
「にゃっ…。」(アルカル)
「カレン!!」(ゴック)
「おにょれえええええ!」(ゴック)
彼女の悲痛な叫びに、ダンゾウは一瞬動揺した。その隙を突き、ゴックは三日月蹴りを見舞い、距離を取ると、キドへ向かって突撃する。
「(速い!)」(キド)
「ぐっ!」(キド)
ゴックのナイフが、キドの右鎖骨に突き刺さる。
「キド!」(ハットリ)
ハットリがゴックとの距離を詰めるが、カウンターの左ストレートがハットリの顔をかすめる。かろうじて避けたハットリだったが、脳が揺れダウンする。脳震盪を起こしたようだ。
「こいつ、強い…。」(キド)
ゴックの戦闘力の高さに戸惑うキドだったが、ダンゾウは冷静だった。ゴックが自身から離れたタイミングで、アルカルの頭部を撃ち抜き、ゴックの動きが止まった瞬間、腹部と胸部に数発撃ち込んだ。
「にゃばっ…。」(ゴック)
ゴックは、吐血し息絶える。
「ダンゾウ…。」(キド)
「隊長、こちら3班。敵の襲撃により、キドが負傷、ハットリが脳震盪。救護班を要請する。」(ダンゾウ)
ダンゾウの声には、微塵の動揺もなかった。まるで、仲間が血を流していることなど、最初から想定していたかのように。
「待て!俺はまだやれるぞ!」(キド)
「その怪我で何が出来る?ここはおとなしく引け。ここで死ぬ必要はない。まだ戦いは終わってない。」(ダンゾウ)
ダンゾウは、冷たく言い放つ。それは、仲間に見せる優しさではなく、戦場で生き残るための、彼なりの厳しさだった。
「く、くそ…。」(キド)
「ダンゾウ、1人は大変だろうが、頼むぞ。」(イガ)
「了解、大丈夫ですよ。」(ダンゾウ)
イガは、敵特殊部隊の隊長――アスゲニフへ銃口を向けていた。森の静寂の中で、二人の視線がぶつかる。
登場人物紹介
キド……特戦群の1人。ダンゾウと共に行動する。ゴックとの戦闘で右鎖骨を怪我する。
ハットリ……特戦群の1人。ダンゾウと共に行動する。ゴックとの戦闘で脳震盪を起こす。
ハチヤ……特戦群の1人。ダンゾウと共に行動する。逃走した敵兵の再襲撃に備えて前線に残る。
タキ……特戦群の1人。ダンゾウと共に行動する。以下同文。
ズバンニャ・ゴック
種族・性別:猫型獣人族の女性
所属・階級:陸軍曹長、第3砲兵大隊の偵察班
備考:「な行」が上手く言えないが、特殊部隊に推薦される実力者
カレン・アルカル
種族・性別:猫型獣人族の女性
所属・階級:陸軍伍長、ゴック率いる偵察分隊に所属
備考:特戦群との戦闘で死亡。
竹内 良樹……31普連2中隊所属
東財 晴美……31普連2中隊の中隊長
青島 ホベルト(あおしま)……日系ブラジル人。
村西 孝治……12偵大2中隊所属
緑川 一修……31普連の新人
別当 強司……31普連の連隊長
室 一鵬……12偵2中隊所属
西 友貴……12偵所属
桐谷 法征……12偵の大隊長
麻生 教之……13普連の精鋭
上条 直武……13普連の悩める中堅
イガ……特戦群の隊長格
ハンゾウ……イガと同じ班に所属
フウマ……イガと同じ班に所属
コウガ……特戦群の班長格
ゴエ……コウガの班に所属
※32話時点で、村西は、まだ飛鳥が戦死したことを知りません。




