第35話 再び前へ
「おい、万代、万代!」
徳島は何度も肩を揺すった。呼吸はある。脈も正常だ。外傷も見当たらない。それでも万代は目を覚まさない。
「脳震盪か……?」
徳島は万代を背負い、森の中を歩き始めた。
(ぐ…。脱力した人は、結構重いな…。)
徳島はこの間、敵が来ない事を願っていた。先ほどの戦い(メリオジン戦)は乗り切ったとはいえ、それは万代の力によるものが大きい。今、自分が敵と遭遇したら生き残れる保障はない。人を背負ったまま戦うのも無理がある。
「ハァハァ…(ここには敵はいない。しかし、これからどうするか…。)」
(新人の俺が1人でどうにかできる状況ではない。とはいえ、万代をこのままにしておけない…。くそ、こういう時、どうしたらいいんだ…。)
絶望的な状況で、徳島はふと、前方の茂みが動いたのに気づいた。反射的に銃を構える。
「撃つな! 味方だ!」
徳島は引き金を引く寸前で止まった。聞き覚えのある声と、見慣れた顔に、徳島の緊張が一気に緩んだ。
「美村三曹! 高杉三曹! 赤松さん!」
「徳島、万代! 無事だったか!」(美村)
徳島が背負う万代の姿を見て、美村と高杉眞瀬は顔色を変えた。
「万代は意識が…。」
「しかし、大怪我をしているようにも見えん。どういう状況だ?」(高杉)
徳島は、先ほど万代が人間離れした動きで敵兵を倒していったことを、簡潔に説明した。
「にわかに信じがたい話ですが…。」
「…いや、信じるよ。自衛官の中にも、稀に人間離れした動きをする者がいる。俺も見たことがある。」(美村)
(ならば万代は、対グーリエ星人への希望だ。ここで死なすわけにはいかんな。)
「徳島、万代を俺に預けろ。そして、高杉と赤松と3人で周囲の警戒を!」
徳島が手早く万代を背中に移すと、その身体をしっかりと固定した。徳島は、美村の迅速な対応に安堵するも、周囲に敵の気配を感じた。
「静かに。後方から敵だ。」
4人は、即座に戦闘態勢に入った。
敵の銃声が響く。
美村は万代を庇いながら木陰へ飛び込む。高杉が撃つ。敵も撃つ。赤松が押さえ込まれる。徳島の弾倉も残り少ない。
「もう弾薬が……」(徳島)
「万代を守りながらでは、厳しい…!」
その時、敵の背後から、これまで聞いたこともない大口径の銃声が轟いた。
悲鳴を上げる間もなく、敵兵の頭部と胸部が吹き飛ぶ。一瞬で2体が倒れた。その瞬間、森は再び静まり返った。
「今の射撃…!?」(赤松)
残る1体が混乱し、こちらへ向き直ろうとした瞬間、建物の屋根から飛び降りてきた2つの人影が、その敵兵を瞬時に制圧した。1人はナイフで首筋を切り裂き、もう1人は近接戦闘で顎の骨を砕いた。
「チッ、弾を無駄にした。もっと接近するべきだったな。」
ゴエは倒れた敵兵を一瞥しただけで、すぐに周囲の警戒へ視線を戻した。
「ゴエ、静かにしろ。4人とも無事で良かった。」
全身を黒い戦闘服に包み、顔のほとんどをマスクで覆った2人の男。特殊作戦群のコウガとゴエだった。彼らの出現により、戦場は静寂を取り戻した。
「特戦群…!」(美村)
(別当連隊長の隊に合流するはずが、寄り道をしてしまった。)(ゴエ)
ゴエはすぐさま無線機を取り出す。
「こちらゴエ。生存者4、負傷者1。座標XXXX。収容を要請」
「なぜ、あなたたちがここに?」(美村)
「敵の補給路を奪い、自補給路を取り戻す任務だ。我々はこれ以上、足止めは出来ない。動けるなら君達も手伝え。」(コウガ)
「ちょうど、自分も敵の補給路を断つべく、動いていました。」(徳島)
「なら話は早い。敵補給路は把握しているな? しばらくここにいろ。仲間が万代二士を保護に来る。」(ゴエ)
ゴエは補給路の確認をすると、すぐにその場から去った。その速度と消え方は、まるで最初から存在しなかったかのようなものだった。
「…行くぞ、徳島。我々がやらねばならないことができた。」(美村)
「はい。」
美村、高杉、赤松、徳島は、万代を救護に来た特戦群へ引き渡した。担架が森の奥へ消えていく。徳島は一度だけその背中を見送った。
「必ず戻ってこい。」
小さく呟くと、銃を握り直す。彼らは振り返ることなく、敵補給路へ向かった。
登場人物紹介
徳島 陽平……万代の同期で、31普連2中隊所属
コウガ……特戦群の隊員
ゴエ……特戦群の隊員




