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外星戦記~異星人に家族を殺された少年は、自衛官になって復讐を誓う~  作者: 無名の凡夫
第3章 九州奪還へ

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第344話 空からの救援

「浪城二佐、敵兵はあらかた後退したようです」


竹下からの報告を受けた浪城は、敵が退いていった方向へ視線を向けた。先程まで絶え間なく響いていた銃声は散発的なものへと変わり、帝国軍の姿も殆ど見えなくなっていた。しかし、敵が完全に撤退したと断定できる状況ではない。周囲には戦闘の爪痕が残り、負傷した隊員達の声が聞こえていた。浪城は敵の動きを警戒する隊員を残し、竹下へ指示を出した。


「よし、お前等は怪我人の救護だ」


「了解」


竹下が隊員達へ指示を伝えると、浪城も負傷者のいる場所へ向かった。


自ら救護に加わり、手当てを必要とする隊員の状態を確かめていく。負傷者の中には自力で移動できる者もいたが、仲間の手を借りなければ身体を起こせない者もおり、応急処置を施す隊員達の表情には疲労が色濃く浮かんでいた。


浪城は彼らの姿を見ながら、第7普通科連隊の隊員達にも随分と無理を強いたものだと感じていた。


自分たち第2普通科大隊だけではない。臨時に指揮下へ入っていた第7普通科連隊の隊員達も、帝国軍の激しい攻撃を受けながら戦い続けていた。戦車を撃破し、敵歩兵を退けることはできたものの、その代償は決して小さくなかった。


一方、第1空挺団第3普通科大隊を率いる柄垣の部隊と、生野が率いる特科大隊は、依然として帝国軍との戦闘を続けていた。


GASTは浪城大隊の救援を終えると、今度はその2個大隊を援護するために移動している。彼らもまた不眠不休に近い状態で戦い続けているはずだったが、それでも浪城には、しばらく隊員達を休ませるよう提案してきた。


浪城はその申し出を受け入れた。敵の攻撃を退けたとはいえ、隊員たちの疲労は限界に近い。このまま無理に戦闘を続けさせれば、判断力の低下によって新たな犠牲者を出しかねなかった。浪城大隊と第7普通科連隊の隊員達は、周囲への警戒を続けながら、束の間の休息を取ることになった。


負傷者の救護が進められる中、浪城は1人の隊員が近づいてくることに気付いた。


「浪城二佐…」


声を掛けてきたのは、第7普通科連隊の三等陸曹だった。その表情は険しく、何かを伝えようとしながらも、なかなか言葉を続けられない様子だった。


「どうした?」


浪城が問い掛けると、三曹は一度唇を噛み締めてから口を開いた。


「園一尉が…戦死しました…」


浪城は返す言葉を失った。目の前の三曹は悲壮な表情を浮かべていた。戦地で上官を失ったのだから無理もない。園一尉の下で戦ってきた隊員達にとって、その死がどれほど大きな痛手であるかは、浪城にも理解できた。また、浪城自身もまた、簡単にはその事実を受け入れられなかった。


(あの時、撤退していたなら……)


敵の攻撃が激しさを増した時点で撤退を決断していれば、園一尉は死なずに済んだのだろうか。そう考えたところで、当時の状況が容易に撤退を許すものではなかったことも分かっていた。帝国軍の歩兵と戦車による攻撃が続く中、部隊を動かせば、かえって被害が拡大した可能性もある。


あの状況では、陣地を維持する以外に選択肢がなかったのかもしれない。しかし、だからといって園一尉の死を仕方のない犠牲として片付けることはできなかった。失われた命は二度と戻らず、その事実は、戦闘に勝利したからといって変わるものではない。


浪城が歯を食いしばっていると、三曹が再び口を開いた。


「浪城二佐、園一尉の死は中隊としては痛手です。ですが、二佐が撤退を受け入れなかったからではありません。」


「そうか。」


浪城は短く答えた。


自分の責任だという考えが、知らず知らずのうちに表情へ出ていたのだろう。大隊長である自分が、上官を失ったばかりの三曹に気遣われてしまった。これではいけない。


部下の死を悼むことと、指揮官としての責務を果たすことは別である。自分がいつまでも判断を悔やんでいては、残された隊員たちを率いることなどできない。


浪城は気を引き締め直し、三曹の顔を見た。


その時、携行していた無線機からビービの声が聞こえてきた。


『スパイダー01、柄垣大隊の救援はクリアしたわ。柄垣二佐は……亡くなったのね』


『ああ。ところで河内は無事か?』


『河内三佐は無事よ』


『そうか、それは良かった。それで……生野大隊は……あの航空機が厄介だな』


浪城は空を見上げた。


生野大隊が交戦している方向には、帝国軍の航空機が飛行していた。地上の帝国軍だけでも厄介だというのに、上空から攻撃を加えてくる敵までいるのだから、特科大隊の苦戦は想像に難くない。


『そうね。あれは私達ではどうにもならないわ。』


『……』


無線越しに沈黙が流れた。


生野大隊だけでなく、第7普通科連隊の第2中隊と第3中隊も、同じ戦場で敵と交戦している。航空機を迎撃する手段がない以上、地上の敵を退けたとしても、上空からの攻撃によって被害が増え続けるおそれがあった。


幸い、敵航空機の攻撃力はそれほど高くないようだった。もし本格的な対地攻撃機であれば、今頃はさらに深刻な損害が出ていたかもしれない。


一方、無線の向こうで状況を確認していたビービも、上空を飛ぶ敵機に注意を向けていた。


(あれは、おそらく偵察機ね。戦闘用じゃないことが不幸中の幸いだけど)


敵機は地上への攻撃能力を備えているものの、その火力は限定的だった。しかし、偵察機であっても、上空から一方的に攻撃できる状況であれば、地上の隊員達にとって十分な脅威となる。


『とりあえず、地上の敵を撃破するわ。航空機はそれから考えましょう』


ビービはそう告げると、銃を構え直した。まずは生野大隊の援護に向かい、地上の帝国軍を退ける。その間に航空機への対処を考えるしかない。


彼女が移動を再開しようとした、その時だった。


『ビービ、桂だ。扉は開かれた』


突然入ってきた通信に、ビービは足を止めた。


聞き慣れた陸将の声だったが、その言葉の意味を考えるより先に、上空から微かな飛行音が聞こえてきた。


ビービが顔を上げると、そこには複数の偵察用ドローンが飛行していた。


『陸将!』


『ああ、中部方面隊各隊から拝借した。これで移動の負担は減るだろう』


『感謝します、陸将』


『気にするな。ただし、絶対に生きて帰れ』


『はい!』


桂の言葉に、ビービは力強く返事をした。


上空を飛ぶドローンは、これまでGASTだけでは補いきれなかった偵察や警戒を支援する戦力となる。地上の敵を警戒しながら移動する負担が少しでも軽減されれば、それだけ生野大隊の援護へ向かいやすくなる。


同じ通信を聞いていた浪城も、桂の支援が始まったことを理解した。先程まで隊員たちを休ませることを優先していたが、生野大隊は今も戦っている。自分達が束の間の休息を取っている間にも、同じ空挺団の仲間が命を懸けているのだ。


浪城は周囲の隊員達へ目を向けた。負傷者の救護は続いており、休息に入ったばかりの隊員もいる。それでも、動ける者達には再び立ち上がってもらわなければならなかった。


「お前等、休憩は終わりだ! 生野大隊は俺達、空挺団の仲間だ! 俺達が助けないでどうする!」


「おう!」


浪城の声に、隊員達が応じた。


疲労は消えていない。園一尉をはじめとする戦死者を失った悲しみも、簡単に振り払えるものではなかった。それでも、仲間が戦っていると知りながら、ただ待っているわけにはいかない。


浪城の指示を受け、第1空挺団第2普通科大隊の隊員たちは再び立ち上がった。


     *


第47普通科連隊第1中隊に所属する崔(さい) 勇太(ゆうた)一等陸曹は、今になって、以前受けたドローンの講習を思い出していた。


当時の崔にとって、その講習は面倒なものでしかなかった。操縦方法を学んでも特別な興味は湧かず、講習を終えたところで、自分が積極的にドローンを扱うようになるとは考えていなかった。しかし、現在の状況を思えば、あの時に講習を受けておいて正解だった。戦争が続く中、自衛官が任務を選り好みできるはずもない。興味があるかどうかに関係なく、必要な技能を身に付け、求められた役割を果たさなければならないのだと、崔は改めて痛感していた。


(あの頃の自分を殴りたいぜ)


崔は苦笑する余裕もなく、操縦に意識を集中させた。


決して得意とは言えない操作だったが、今は少しの失敗も許されない。ドローンの向こうには敵が存在し、地上では仲間たちが命を懸けて戦っている。崔自身、これまでの戦闘を通じてGASTの実力を肌で感じていた。この戦いを終わらせるのも、彼らなのではないかと考えるほどだった。


そのGASTが窮地に立たされているのであれば、今度は自分たちが支援する番である。崔は画面に映る情報を確認しながら、敵航空機の存在を捉えた。


「琴子濵一尉、前方に敵航空戦力発見」


報告を受けたのは、同じ第47普通科連隊第1中隊に所属する琴子濵(ことこはま) 大成(たいせい)一等陸尉だった。


琴子濵は戦闘型ドローンを操縦しており、崔から伝えられた敵の位置を確認すると、相手の飛行状況を慎重に見極めた。


航空機とドローンでは、飛行性能に大きな差がある。こちらのドローンにも攻撃能力は備わっているが、有人航空機を相手に正面から戦うのは分が悪かった。


「戦闘型ドロ(コイツ)ーンでは分が悪い。自爆型ドローンを投入した方が良い」


琴子濵がそう判断した直後、無線に別の部隊からの通信が割り込んできた。


『ならば我々に任せろ』


通信の相手は、第15即応機動連隊だった。


『我々の自爆型ドローンを向かわせる。琴子濵一尉のドローンで陽動を頼む』


『了解した』


琴子濵は返答すると、自身が操縦する戦闘型ドローンを敵航空機へ近づけた。


敵機は地上への攻撃を続けていたが、接近してくるドローンに気付けば、そちらへ注意を向けるはずだった。琴子濵に求められているのは、敵機を撃墜することではない。自爆型ドローンが到着するまで、地上の仲間から敵の注意を逸らすことだった。


     *


「何だあれ?」


第186偵察飛行中隊のパイロットは、視界に入ってきた小さな飛行物体に気付いた。地上への警戒を続けていたところへ、見慣れないドローンが接近してきたのである。


「ドローンか。味方のじゃねぇな。撃ち落とす!」


パイロットは照準を合わせ、機体の火器でドローンを狙った。しかし、放たれた銃弾は目標を捉えられなかった。


ドローンは進路を変えながら飛行を続け、パイロットが再び狙いを定めようとすると、またしても射線から外れてしまう。航空機のほうが飛行性能では優れているものの、小さな目標を捉えることは容易ではなかった。


「くそっ、ちょこまかと逃げやがって!」


パイロットは苛立ちを募らせながら、ドローンを追った。その間、地上への攻撃は中断されていた。


     *


琴子濵は画面に映る敵航空機の動きを確認しながら、操縦を続けていた。


敵機がドローンを追ってきていることは分かっていた。相手のほうが高速で飛行できる以上、いつまでも逃げ続けられるわけではないが、こちらを狙っている間は、少なくとも地上への攻撃を妨害できる。


(そういや、子ども(ガキ)の頃、シューティングゲームが得意だったよな)


ふと、そんな記憶が頭をよぎった。


画面を見つめながら敵の攻撃を避けるという点では、子どもの頃に遊んだゲームと似ている部分もあった。しかし、今行っているのは遊びではない。たとえドローンを撃墜されても、操縦している自分が直接命を落とすわけではなかった。だが、その失敗によって敵航空機が地上への攻撃を再開すれば、仲間たちの命が危険に晒される。琴子濵はその重圧を感じながら、必死に操作を続けた。


敵機は何度も攻撃を仕掛けてきたが、琴子濵は進路を変え、何とか銃撃を避け続けた。機体の性能差を考えれば、正面から戦うことなどできない。敵の攻撃を避けながら注意を引きつけ、自爆型ドローンが到着するまで時間を稼ぐしかなかった。


しかし、操縦を続けるうちに、琴子濵の身体にも疲労が現れ始めた。画面を凝視し続けた目は充血し、操作を繰り返していた指や腕も重く感じられる。集中力が限界に近づいていることは、本人が誰よりも自覚していた。


それでも、敵航空機は執拗にドローンを追い続けている。このままでは、いずれ撃ち落とされるだろう。琴子濵はそう考えながらも、操作を緩めなかった。自爆型ドローンが到着する前に撃墜されれば、地上の仲間達は再び敵航空機の攻撃に晒されてしまう。


だが、琴子濵はすでに、一つの大きな成果を上げていた。


     *


「航空機が離れていく…」


第1空挺団特科大隊を率いる生野(いきるの) 氷護(ひょうご)二等陸佐は、上空を飛ぶ敵航空機の動きを見つめていた。


先程まで自分達の頭上を飛び回り、地上への攻撃を繰り返していた航空機が、今は小さな飛行物体を追いながら戦場から遠ざかっている。生野は、それが自衛隊のドローンであることを理解していたものの、ここまで敵機の注意を引きつけられるとは思っていなかった。


何しろ、相手は武装した有人航空機である。機体の大きさも飛行性能も違い、まともに交戦すればドローンなど容易に撃墜されるものだと考えていた。


ところが、名も知らない操縦者は予想以上に粘っていた。敵機が攻撃を仕掛けるたびにドローンは進路を変え、銃撃をかわしながら飛び続けている。危うい場面もあったが、その間、敵航空機は地上への攻撃を中断せざるを得なくなっていた。


生野は上空から目を離し、前方の戦況を確認した。


敵航空機による妨害がなくなったとはいえ、地上の帝国軍は依然として健在だった。銃弾が飛び交う中、第7普通科連隊の第2中隊と第3中隊も応戦を続けており、敵歩兵は遮蔽物を利用しながら射撃を繰り返している。しかし、今なら上空を気にせず地上の敵へ戦力を集中できる。ドローンの操縦者が稼いでくれた時間を無駄にするわけにはいかなかった。


「総員、地上の敵に集中! 殲滅せよ!」


生野の号令を受け、隊員たちは前方の敵へ銃口を向け直した。


敵航空機への警戒に割かれていた注意が地上へ戻り、帝国軍の射撃位置を見極めながら反撃が続けられる。敵も容易には退かず、銃弾が周囲の地面を叩いて土煙を巻き上げたが、隊員達は身を伏せながら射撃を続け、少しずつ敵の勢いを削いでいった。


そこへ、新たな銃声が加わった。


生野大隊の救援に向かっていたGASTが、ついに戦場へ到着したのである。その後方には、休息を切り上げて駆け付けた浪城大隊の姿もあった。


GASTの隊員達は戦闘が続く前方へ銃口を向け、地上の帝国軍に対する攻撃を開始した。


その中でも、ローレライの射撃は正確だった。敵歩兵の動きを捉えた彼女が引き金を絞ると、先頭にいた帝国兵が銃弾を受けて倒れた。突然の狙撃に、周囲の帝国兵たちは慌てて身を低くする。


「狙撃手だ!」


「伏せろ!」


帝国兵たちは狙撃を避けようと、次々に地面へ伏せた。だが、その動きは自衛隊側にとって好機となった。


「今だ、撃て!」


第7普通科連隊の第2中隊と第3中隊の隊員たちは、敵が身を伏せた瞬間を逃さず、一斉に射撃を開始した。


狙撃手を警戒して頭を上げられない帝国兵へ、別方向から銃弾が浴びせられる。反撃しようと身体を起こした敵兵は狙われ、伏せたままでは自衛隊側の射撃を十分に抑えられない。


帝国軍も応戦を試みたが、GASTの援護を受けた自衛隊側の射撃は激しさを増していた。先程まで押されていた隊員達は敵の動きに合わせて銃撃を重ね、前方にいた帝国兵を次々と倒していく。


生野は、その変化を確かに感じ取っていた。


敵航空機は遠ざかり、地上の帝国軍も勢いを失いつつある。GASTに加えて浪城大隊まで到着した以上、ここで攻撃を緩める理由はないように思えた。


(このまま押し切れば勝てる!)


敵が後退を始める前に、さらに攻撃を加えるべきではないか。生野がそう考えていたところへ、浪城が近づいてきた。


「生野二佐、撤退だ!」


予想外の言葉に、生野は思わず浪城の顔を見た。


「しかし…」


今なら勝てる。生野には、そう思えるだけの理由があった。


地上の帝国軍はGASTの参戦によって押され始めており、航空機も一時的とはいえ戦場から引き離されている。せっかく訪れた好機を捨ててまで撤退する必要があるのか、生野には納得できなかった。


しかも、撤退を口にしたのが浪城であることも意外だった。普段から隊員たちに「引くことを知らない」と言われている男が、今になって自分へ撤退を促している。生野はその真意を測りかねた。


しかし、浪城は生野の疑問にすぐ答えることなく、上空へ指を向けた。


「上を見ろ、生野」


生野は指し示された方向へ顔を上げた。


先程まで敵航空機を追っていたドローンとは別に、複数の小型ドローンが敵機へ接近していた。


その動きは執拗だった。敵航空機が進路を変えると、ドローンもそれを追うように飛行し、機体の周囲へまとわりつくように接近していく。やがて、そのうちの一機が敵機の近くで爆発し、続いて別のドローンも自爆した。


爆発のたびに敵航空機は進路を変え、接近してくるドローンを避けようとしている。致命的な損傷を与えているようには見えなかったが、あれほどしつこく接近されては、パイロットも地上への攻撃どころではないだろう。


生野は上空で繰り広げられる光景を見つめながら、ようやく浪城が撤退を促した理由を理解し始めた。


ドローンによって敵航空機を追い払えているとしても、それがいつまで続くかは分からない。敵機がドローンを振り切り、再び地上への攻撃を始める可能性は十分にあった。


「桂陸将が、頼んだらしい。あのドローンは中部方面隊の物だ。」


「そうだったのか…」


生野は改めて上空を見上げた。


自分達の装備では、あの航空機を無力化できなかった。迫撃砲による攻撃も地上の帝国軍を十分に押し返すには至らず、航空機からの攻撃まで受けていたのだから、苦しい戦いを強いられていたのも当然だった。そこへ投入されたドローンが、敵航空機の注意を引きつけ、撤退するための時間を作ってくれたのである。


生野は桂の機転に感謝するとともに、今の状況を冷静に考え直した。地上の敵を押し返せる見込みが立ったことと、この場所で戦い続けるべきかどうかは別の問題だった。航空機が戻ってくる前に部隊を離脱させられるのであれば、無理に敵を追撃して損害を増やす必要はない。


生野は深追いをしないよう部下に命じ、浪城の撤退判断を受け入れた。戦闘が続く中、隊員達は敵の動きを警戒しながら離脱の準備を進めた。


     *


第186偵察飛行中隊の航空機は、自爆型ドローンへの対応に追われていた。


当初、パイロットは接近してきた一機のドローンを撃墜すれば済むものと考えていた。ところが、そのドローンに注意を奪われている間に、今度は別のドローンが現れたのである。しかも、後から接近してきたドローンは、こちらの攻撃を避けて逃げ回るだけではなかった。機体へまとわりつくように接近し、次々と自爆を仕掛けてくる。


パイロットは急いで進路を変えたが、爆発を避けたと思ったところへ、また別のドローンが接近してきた。致命的な損壊こそ免れているものの、これでは落ち着いて地上を偵察することも、攻撃目標を狙うこともできない。


小さな無人機を相手に、有人航空機である自分が振り回されている。その事実が、パイロットをますます苛立たせた。


それでも、接近するドローンを無視するわけにはいかなかった。自爆によって機体が損傷すれば、任務を続行できなくなるおそれがある。


パイロットは周囲のドローンを避けることに集中し、地上の戦況を確認する余裕を失っていた。


やがて、機体の進路を変えた際、ふと地上へ目を向けた。そこで目にした光景に、パイロットは表情を険しくした。


第4歩兵科連隊の偵察中隊も、第114歩兵科中隊も、すでに撤退を始めていたのである。


先程まで帝国軍が優勢に戦闘を進めていたはずだった。地上の下等生物共は航空機による攻撃を防ぐこともできず、こちらの歩兵部隊に押されていた。ところが、あのドローンが現れてから状況が変わってしまった。


航空機が地上への攻撃を中断している間に、下等生物共は反撃を強め、帝国軍の歩兵部隊を後退させていたのである。


パイロットは歯を食いしばった。


「くそが! ドローン如きに……」


相手は所詮、無人の小型機である。それにもかかわらず、自分はその対応に追われ、地上部隊への支援を続けられなかった。そのうえ、燃料の残量も無視できなくなっていた。


ドローンを追い回している間にも燃料は消費されており、補給を考えれば、いつまでもこの空域に留まるわけにはいかない。


戦況を取り戻すために攻撃を続けたい気持ちはあったが、地上部隊が撤退を始めている以上、これ以上の交戦を続ける意味も薄れていた。


「引くぞ!」


パイロットは怒りを押し殺しながら、機体の進路を変えた。


自爆型ドローンに追い回された挙げ句、下等生物共を仕留めることもできず、補給のために引き返さなければならない。腸が煮えくり返る思いだったが、パイロットはその場を離れるしかなかった。


やがて、帝国軍の航空機は戦場から遠ざかっていった。


     *


地上では、ビービが敵航空機の動きを見守っていた。


上空を飛び回っていた偵察機は、ドローンによる妨害を受けた末に進路を変え、戦場から離れていく。地上の帝国軍も後退を始めており、生野大隊と第7普通科連隊の隊員たちが、これ以上の攻撃を受けずに離脱できる見込みが立っていた。


もっとも、敵航空機が完全に脅威でなくなったわけではない。補給を終えれば再び戻ってくる可能性もあり、地上の帝国軍がこのまま撤退を続ける保証もなかった。それでも、ドローンの支援によって、今は部隊を動かすための時間が確保できている。


ビービは敵航空機が十分に遠ざかったことを確認すると、周囲の隊員たちを集めた。


「作戦の変更を伝えるわ」

登場人物紹介

アマゾネス班:ビービ(班長)、スライス(副班長)、ピケット、イリー

アルバトロス班:ブエンテロ(班長)、クラウスレイ(副班長)、ゴルム、ソブラウ、マメッド

セイレーン班:ローレライ(班長)、ボナー(副班長)、ファス、ビュー、ラスタ、ベルチャー、シリング

フォックス班:コルガン(班長)、ダンタス(副班長)、ジミー、グイダ、シールズ、ラーキン、ワード、ミルトン

スネーク班:シャウブ(班長)、ロン(副班長)、カカレコ、ハン、ロスタ、ビアボーム


浪城(なみしろ) 激(げき)……第1空挺団第2普通科大隊長

崔(さい) 勇太(ゆうた)……第47普通科連隊第1中隊所属の一等陸曹

琴小濱(ことこはま) 大成(たいせい)……第47普通科連隊第1中隊の中隊長代理

生野(いきるの) 氷護(ひょうご)……第1空挺団特科大隊長

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ミリタリー SF ファンタジー 自衛隊 戦争
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