第337話 トラックを止めろ
救出された兵士たちが次々と後方へ搬送される中、第31歩兵科大隊長ラース・シグコプリニ中佐は、机の上に広げられた被害報告書を前に、残存兵力の再編を迫られていた。
負傷者の搬送や部隊間の連絡が続く周囲の騒がしさとは裏腹に、報告書に記された数字は容赦なく現実を突きつけていた。各部隊が受けた損害は深刻であり、とりわけ第115歩兵科中隊の被害は、中隊としての戦闘能力を維持できる水準を大きく下回っていた。
(115中隊は1個小隊規模にまで減っている。いや、これは小隊と言うには少なすぎるな)
シグコプリニは報告書から顔を上げると、傍らに立つ第4歩兵科連隊長、フーリー・ティエング大佐に意見を求めた。
「連隊長、どう思われますか?」
しかし、ティエングは手元の資料から視線を動かさず、厳格な声音で答えた。
「115は貴官の隷下部隊だ。まずは、自身で案を出し、それからこちらに意見を求めろ」
(それを言ったら、31大隊は連隊の隷下なのだが……)
一瞬、そんな不満が胸の内をよぎったものの、シグコプリニは口に出すことなく思いとどまった。上官の言葉に対する反論としては、あまりにも子供じみた屁理屈である。そもそも、自分が指揮する大隊の再編について、最初から連隊長の判断を仰ごうとしたこと自体が適切ではなかった。シグコプリニは改めて報告書に目を落とし、各部隊の残存兵力と指揮官の状況を照らし合わせた。
(やはり、115は295小隊に吸収すべきだ。アルサーフィンは納得するだろうか……いや、上官の命令だから従わないと困る。現在の295に必要なのは確かな指揮官だ。アロッコは良くやったが、実戦での経験がまだ足りない。アルサーフィンを小隊長とし、295小隊を強化する。うん、これで行こう)
第295小隊は小隊長を失っていたが、副小隊長のテイム・アロッコ准尉が残存兵をまとめ、負傷者の後送も進めていた。あの若い准尉の判断力は評価に値するものの、それだけで今後の指揮を全面的に任せるには経験が不足している。一方、第115中隊には中隊長のアルサーフィンが生存している。大きな損害を受けた両部隊を統合し、指揮系統を立て直すことができれば、少なくとも個別に運用するよりは戦力を維持しやすくなるはずだった。
シグコプリニが考えをまとめたところで、ティエングが再び口を開いた。
「考えはまとまったか?」
「はっ」
シグコプリニは作成した提案書を差し出し、ティエングはそれを受け取ると、記載された内容に目を通し始めた。
どれほど科学技術が発展しても、グーリエ星では完全なペーパーレス化が実現しているわけではない。機密情報の保管や確実な伝達を重視する場面では、電子データだけに頼るよりも、紙の書類を使用した方が扱いやすい場合があった。
「妥当だな」
提案書を読み終えたティエングは、短くそう告げた。
通常、兵士の所属異動には、人事参謀への書類提出と参謀長による審査を経て、正式な決定を下す手続きが必要となる。しかし、戦場ではそうした手続きを待つ余裕がない場合もあるため、緊急時に限って部隊の長へ一時的な人事権が認められていた。今回の再編は第4歩兵科連隊の隷下部隊間で行われるものであり、その決定権は連隊長のティエングにあった。
「よし、では早速、アルサーフィンにこの事を伝えよ」
「はっ」
承認を得たシグコプリニは、腕に装着したリストコミュニケーターを操作し、第115中隊の詰所へ連絡を取ろうとした。ところが、通信先を切り替えた直後、別の回線から呼びかけが入った。
『シグコプリニ中佐殿』
声の主は、第297小隊に所属する兵士、ニコラス・ソレだった。普段とは異なる緊迫した口調から、何らかの問題が発生したことを察したシグコプリニは、操作を中断して応答した。
『どうした?』
『前線でトラックが鹵獲され、各地で暴れ回ってると報告があります。輸送兵も被害が出ており、至急、対策が必要になっています』
シグコプリニは眉をひそめた。
(敵兵と同じように、機銃でタイヤを撃ち抜けよ)
真っ先に浮かんだのは、車両そのものの機動力を奪うという単純な対処法だった。しかし、ソレから伝えられた報告によれば、前線の兵士たちもすでにタイヤを狙って射撃を繰り返しているという。問題は、下等生物どもに奪われたトラックが速度を落とさず、不規則な動きを続けていることだった。射撃を浴びせてもタイヤを捉えることができず、かえって輸送部隊の被害が拡大しているらしい。
「燃料切れを待つ余裕もないしな」
シグコプリニは忌々しげに独り言ちた。トラックが燃料を使い果たせば、いずれ動けなくなることは確かだ。しかし、それまで敵の好き勝手にさせるわけにはいかない。被害報告が増え続けている以上、早急に手を打つ必要があった。
『少し待ってろ』
そう告げたシグコプリニは、ソレとの通信をいったん保留し、火力支援中隊長ゴリンボ・ディアカテ中尉の回線へ切り替えた。
『ディアカテ、シグコプリニだ』
『大隊長、どうされました?』
『敵に奪われた輸送トラックが移動しているとの報告が入った。貴様の中隊で捜索しろ。発見した場合は排除を許可する』
『了解しました』
ディアカテの返答に迷いはなかった。シグコプリニは通信先を再びソレへ戻し、今後の情報伝達について指示を与えた。
『ソレよ、トラックの情報を得たら、ディアカテに繋げ。排除は奴らに任す』
『了解』
これで鹵獲トラックへの対処は火力支援中隊に委ねられた。シグコプリニは、ひとまず目の前の問題に戻ることにし、第115中隊の詰所へ回線を合わせ直した。
アルサーフィンに伝えなければならないのは、単なる人員の補充ではない。第115中隊を第295小隊へ吸収し、その指揮を執らせるという、部隊の存続に関わる決定だった。シグコプリニは通信がつながるのを待ち、アルサーフィンを呼び出した。
*
ビービは鹵獲した帝国軍の輸送トラックを運転しながら、前方へ続く道路を注意深く見渡していた。荷台ではキーラが周囲の警戒に当たっていたものの、長時間にわたる移動とビービの運転によって、車酔いはまだ収まっていなかった。荷台と運転席の間には小窓があり、キーラはそこから前方の様子を確かめることもできたが、今は揺れに耐えるだけでも精一杯だった。
2人は筑紫野方面へ向かう帝国軍の輸送車両を探していた。しかし、目当ての車列はなかなか見つからず、道路を進む時間ばかりが過ぎていた。
そのとき、ビービは前方の道路周辺に複数の帝国兵が展開していることに気付いた。
「前方に敵…」
速度を落として様子をうかがうと、帝国兵の何人かがこちらを見ているのが分かった。
帝国軍のトラックに乗っているからといって、無条件で通過できるとは限らない。車両が鹵獲されたという情報がすでに広まっていれば、外見だけで相手を欺くことは難しいだろう。
ビービはハンドルを握り直し、兵士たちの動きを観察した。
やがて、そのうちの1人が道路へ進み出て、トラックに向かって停止を求める合図を送った。
「止まれ!」
帝国兵の叫び声が聞こえた。
「まあ、止まれとは言われるよね」
もちろん、相手が発したのは日本語ではない。それでも、身振りや声の調子から何を要求されているのかは、おおよそ察しがついた。
荷台で銃を構えていたキーラが、無線越しに問いかけてきた。
『班長、言葉分かったんですね』
実際には、ビービも帝国兵の言葉を正確に理解したわけではなかった。だが、長年戦ってきた自分と、まだ経験の浅いキーラとの差を見せつけるには、ちょうどよい機会でもあった。
『まあ、長く戦っているとね。言葉が分からないのは、あなたがまだペーペーだからよ。』
『止まるんですか?』
『止まるわけないじゃない』
ビービはそう答えると、アクセルを強く踏み込んだ。減速していたトラックが勢いよく加速し、車体の振動が一段と激しくなる。
『キーラ、援護!』
『なら、安全運転してください!』
キーラの抗議を聞き流し、ビービは前方の帝国兵へ向けてトラックを走らせた。
「あのトラック、スピードを上げたぞ!」
「例のトラックだ!」
「撃て! 撃って足止めをしろ!」
帝国兵達は次々と銃を構えたが、トラックは減速するどころか、さらに速度を上げて接近してきた。銃撃が始まると同時に、ビービは車体を左右へ振って射線を外そうとした。荷台からはキーラが援護射撃を行い、帝国兵達は迫る車両と銃弾の双方に対処しなければならなくなった。
進路上に残っていた兵士たちは慌てて逃れようとしたものの、全員が間に合ったわけではない。トラックは数名を轢きながら道路を突破し、ビービは後方で起きた混乱を振り返ることなく、そのまま走り続けた。
『班長…』
キーラの声には、もはや抗議する気力すら残っていなかった。激しい蛇行運転によって胃の奥から込み上げてくる不快感をこらえながら、キーラはどうにか荷台で姿勢を保っていた。敵の足止めを突破できたことは確かだったが、その代償として車酔いがさらに悪化してしまったのである。
*
帝国兵の制止を振り切った輸送トラックは、その後も速度を落とさず道路を走り続けていた。ビービはバックミラーに目を向け、先程まで進路を塞ごうとしていた兵士たちが遠ざかっていくのを確かめると、満足そうに口元を緩めた。
「ふふん、あんなので止まるわけないでしょ」
一方、荷台のキーラは青ざめた顔で小窓の向こうを見つめていた。トラックの揺れが収まる気配はなく、前方を見ていなければ、ますます気分が悪くなりそうだった。
「班長……もう少し、ゆっくり……」
「そんなこと言ってたら追いつかれちゃうじゃない。もう少し我慢してよ」
ビービはアクセルをさらに踏み込み、キーラの願いとは正反対に速度を上げた。
その頃、足止めに失敗した帝国兵のうち、トラックに轢かれずに済んだ2名が、遠ざかる車両を見つめていた。
1名はケンタウロス族の兵士であり、もう1名は別種族の兵士だった。
生き残った兵士はリストコミュニケーターを操作し、逃走した車両について報告を入れた。
『こちら前方警戒班。鹵獲された輸送トラックが制止を突破した。現在、東方向へ逃走中。追跡を継続する』
通信を終えると、その兵士は同僚のケンタウロス族の背に跨った。ケンタウロス族の兵士は、背に乗った仲間の姿勢が安定したことを確かめると、トラックが逃走した方向へ駆け出した。車両との距離はすでに開いていたが、その脚力を生かせば、少なくとも進行方向を見失わずに追跡することは可能だった。
報告は第297小隊のソレを経由し、ディアカテ率いる火力支援中隊へ伝えられた。受け取った情報からトラックの進行方向を確認したディアカテは、重迫撃砲エレオンによる攻撃を命じた。
一方、ビービは追跡してくる帝国兵との距離が十分に開いたと思い込み、前方の道路へ意識を戻していた。その直後だった。進行方向の道路で凄まじい爆発が起こり、巻き上がった土砂が視界を覆った。
「うわっ!?」
ビービは反射的にブレーキを踏み込んだ。急減速によって車体が大きく揺れ、タイヤが路面を擦る音が響く。ビービはハンドルを操作して横滑りする車体を立て直そうとしたが、目の前では爆発によって道路の一部が陥没し、トラックが通り抜けられる状態ではなくなっていた。どうにか停止させたものの、破壊された道路まではわずかな距離しか残っていなかった。
「ちょっと、何よ今の!?」
『砲撃です!』
キーラの切迫した声に、ビービはすぐさまギアを操作して後退しようとした。しかし、そのときには後方から追跡してきた帝国兵が距離を詰めていた。
ケンタウロス族の背に乗った兵士が銃を構え、トラックに向かって発砲する。銃弾が荷台や車体を激しく叩き、ビービが後退を始めようとした瞬間、鋭い破裂音が響いた。
「えっ?」
タイヤを撃ち抜かれた車体が片側へ傾き、ビービは慌ててハンドルを握り直した。さらに別のタイヤにも銃弾が命中し、トラックは完全に走行能力を失った。前方の道路は砲撃で破壊され、後退することもできない。これまで何度も危険な場面を切り抜けてきた輸送トラックだったが、ついに動けなくなってしまった。
「このトラック、気に入っていたのに~」
ビービは心底残念そうに呟いた。しかし、キーラにはそんな感傷に浸っている余裕などなかった。
『そんなこと言ってる場合じゃないですよ! また砲撃が来ます!』
その警告に応じるかのように、遠方から再び砲弾が飛来する音が聞こえてきた。
ビービはようやく車両を諦め、運転席のドアを開けた。荷台のキーラも急いで脱出し、2人が車体から離れた直後、近くに砲弾が着弾した。爆発によって周囲の土砂が跳ね上がり、衝撃を受けたトラックが大きく揺さぶられる。
「あっぶなぁ~」
ビービは間の抜けた声を漏らしたものの、すぐに銃を構え直した。
砲撃で破壊された道路の向こうには進めず、後方には追跡してきた帝国兵がいる。お気に入りのトラックを失ったことを惜しんでいる場合ではなかった。ビービは車体を遮蔽物にしながら、前方に見える敵兵へ鋭い視線を向けた。
*
追跡してきた帝国兵2名は、トラックが走行不能になったことを確認すると、車両から一定の距離を保ったまま銃を構えた。先程まで手の届かない場所を走っていた車両は、砲撃によって進路を塞がれ、今ではタイヤを撃ち抜かれて身動きが取れなくなっている。
「ようやく止まったか!」
ケンタウロス族の背に跨った兵士はそう吐き捨てると、車体の陰に隠れた敵へ銃口を向けた。
一方、ビービはトラックの側面に身を寄せながら、敵兵の位置と周囲の状況を確認していた。銃弾が荷台や車体を叩くたびに金属音が響き、気に入っていた輸送トラックが、今では自分達の身を守るための遮蔽物となっていた。もっとも、敵兵の射撃だけを警戒していれば済む状況ではない。道路を陥没させた砲撃が再び行われれば、トラックの陰に隠れていても安全とは限らなかった。
「まったく、しつこい連中ね」
ビービが苛立たしげに呟くと、車体の反対側で身を低くしていたキーラが無線で問いかけてきた。
『班長、どうします?』
『どうするも何も、倒すしかないでしょ。ただ、あの砲撃が厄介ね』
ビービは返答しながら、道路の先にできた大きな陥没へ目を向けた。
先程の砲撃は、走行中のトラックそのものではなく、その進路を塞ぐように着弾していた。偶然にしては位置が良すぎるうえ、車両が停止した後も砲弾が飛んできている。敵がこちらの移動方向を把握し、遠方から攻撃を加えている可能性は高かった。
仮に目の前の帝国兵を倒せたとしても、砲撃が止まらなければ、この場所にとどまることはできない。ビービが反撃の機会をうかがっていると、ケンタウロス族の兵士が道路脇へ移動し始めた。背に乗った兵士はその動きに合わせて銃口を向け直し、トラックの陰に潜む2人を牽制するように射撃を続けていた。
車体の側面に銃弾が集中し、金属板が激しく震える。キーラも応射を始めたが、敵は1ヶ所にとどまらず、ケンタウロス族の脚力を生かして位置を変えようとしていた。背に乗った兵士が射撃を担当し、ケンタウロス族が移動を受け持つことで、2名ながらも機動力を維持していたのである。
その動きを見たキーラは、敵の足を止めることが先決だと判断した。
「班長、馬を抑えます!」
「了解。私は上の敵をやるわ」
キーラはトラックの陰から銃を構え、ケンタウロス族の兵士へ向けて射撃を開始した。敵は銃弾を避けようと進路を変えたものの、背に仲間を乗せているため、移動する方向には一定の制約があった。キーラは相手の動きを追いながら射撃を続け、ビービが別の位置へ移るための隙を作った。ビービはその機会を逃さず、車体の反対側へ回り込んだ。
トラックを挟んで射線を切り替えたことで、敵兵からは一時的に彼女の姿が見えなくなった。ビービは車体の端から相手の位置を確かめ、背に乗っている兵士を狙える角度へ銃口を向けた。
ケンタウロス族の兵士は、ビービが移動したことに気付いていた。しかし、キーラの射撃を警戒しながら仲間に注意を促そうとした、そのときだった。ビービが発砲した。
「うがっ」
銃弾を受けたケンタウロス族の兵士が苦痛に声を上げ、前脚の踏ん張りを失って体勢を崩した。
「やばっ」
背に跨っていた兵士は突然の揺れに対応できず、銃を構えたまま地面へ投げ出された。受け身を取る余裕もなく路面に叩きつけられ、手にしていた銃が離れた場所へ転がっていく。
「う…」
兵士は慌てて上体を起こし、落とした銃へ手を伸ばそうとしたが、その動きをキーラが見逃すことはなかった。
「チクショウ…」
銃声が響き、兵士は銃を拾うこともできずに倒れ込んだ。
「これで終わりね」
ビービは敵兵が動かなくなったことを確かめると、銃口を下げきらないまま周囲を見渡した。
ケンタウロス族の兵士も地面に倒れていたが、まだ意識は残っていた。撃ち抜かれた脚に力を込めようとしても、痛みが走るばかりで、立ち上がることができない。ケンタウロス族は優れた脚力と強靱な身体を持ち、その機動力を生かして兵士や物資の運搬にも従事している。しかし、移動能力の大部分を四肢に頼る以上、脚を負傷すれば、その長所を失うことになる。倒れた兵士は歯を食いしばりながら、遠ざかろうとする敵の姿を睨みつけた。
その直後、遠方から再び砲撃音が響いた。飛来した砲弾はトラックから少し離れた道路脇に着弾し、凄まじい爆発とともに土砂を巻き上げた。爆風を感じたビービは反射的に身を伏せ、キーラも車体の陰へ身体を引っ込めた。
「火力支援中隊…」
ケンタウロス族の兵士は、爆発の方向へ顔を向けながら呟いた。自分達を追跡していた下等生物共に対し、味方の火力支援中隊が攻撃を続けている。その事実に安堵したものの、負傷した脚は思うように動かず、砲撃が続く場所から自力で離れることもできなかった。
一方、ビービは頭上から降り注ぐ土砂を払いながら、苛立ちを隠さず声を上げた。
「ちょっと! まだ撃ってくるの!?」
目の前の帝国兵を退けたというのに、状況は少しも好転していなかった。トラックは走行不能となり、周囲には砲撃によってできた陥没や飛び散った土砂が残っている。これ以上同じ場所にとどまれば、次の砲弾がどこに落ちるか分からない。
『班長! ここから離れましょう!』
キーラが無線越しに呼びかけた。
『分かってる! でも、どこから撃ってるのか分からないのよ!』
ビービは銃を握ったまま立ち上がりかけたが、その直後、またしても砲弾が飛来した。今度は道路の反対側で爆発が起こり、衝撃が周囲へ広がった。ビービは咄嗟に姿勢を低くし、飛散した土砂が収まるのを待った。
敵兵との銃撃戦には勝利したものの、遠方からの砲撃に対しては、銃で応戦することすらできない。砲弾の着弾位置から大まかな方向を推測することはできても、敵の重迫撃砲がどこに展開しているのかまでは判断できなかった。
しかも、トラックの周辺に砲撃が続いている以上、車体を遮蔽物として利用し続けるのも危険だった。砲弾が至近距離に着弾すれば、車両そのものが破壊され、火災が発生する可能性もある。
ビービは周囲の地形を見渡し、砲撃を避けながら移動できそうな方向を探した。
『とにかく、ここから移動するわよ!』
『はい!』
キーラは返答すると、ビービの動きに合わせて身を起こした。2人は砲撃の合間を見計らい、破壊されたトラックから距離を取り始めた。ビービは周囲への警戒を怠らず、キーラも銃を構えたまま後方を確認していたが、無理な運転に付き合わされることがなくなったからといって、安心できる状況ではなかった。頭上を砲弾が飛び交う限り、どこに逃げれば安全なのか分からないのである。
*
第31歩兵科大隊火力支援中隊長、ゴリンボ・ディアカテ中尉は、部下から送られてきた報告を確認していた。
当初、鹵獲された輸送トラックの排除を命じられた際には、移動を続ける車両をどのように足止めするかが問題だった。しかし、前方警戒班から進行方向の情報が伝えられたことで、エレオンによる砲撃を実施することができた。
最初の砲撃で道路を破壊し、車両を停止させることには成功している。さらに、追跡していた兵士達がタイヤを撃ち抜いたことで、トラックは完全に走行不能となった。
ディアカテがその後の状況を確認していると、部下から新たな連絡が入った。
『鹵獲された輸送トラックは走行不能となりました。ただし、乗車していた敵兵2匹は生存しており、追跡していた兵士との交戦後、車両から離れています』
「そうか。トラックは止めたが、敵は逃がしたわけだな」
ディアカテはリストコミュニケーターに表示された情報へ目を落とした。
報告に記された内容を見る限り、鹵獲トラックを排除するという当初の目的は、ひとまず達成されていた。輸送車両を奪われたことで生じていた問題も、これ以上同じ形で拡大することはないだろう。しかし、車両に乗っていた下等生物どもは生存しており、すでにトラックから離れている。
僅か2匹とはいえ、輸送部隊に被害を与え続けてきた敵である。ここで見逃せば、別の場所で再び同様の被害を引き起こすかもしれない。
ディアカテは通信を切り替え、砲撃を担当する部下たちへ命令を下した。
「エレオンの砲撃を継続しろ。敵を逃がすな」
命令を受けた部下達は、重迫撃砲による攻撃を続行した。
ディアカテは、相手がたった2匹であることを承知していた。それでも、輸送部隊を混乱させ、帝国軍の車両を奪って暴れ回っていた敵を放置するつもりはなかった。奪われたトラックを止めただけでは、任務を終えたことにはならない。
ディアカテは報告された敵の移動状況を確認しながら、攻撃を続ける部下達の動向に注意を向けていた。
登場人物紹介
ビービ……GASTアマゾネス班の班長
キーラ……GASTアマゾネス班所属
ラース・シグコプリニ……陸軍中佐でハイエルフの男性。第31歩兵科大隊長
フーリー・ティエング……陸軍大佐でダークエルフの男性。第4歩兵科連隊長
ゴリンボ・ディアカテ……陸軍中尉でゴリラ型獣人族の男性。第31歩兵科大隊・火力支援中隊長
当作品に出てくる架空の装備
エレオン……帝国軍の重迫撃砲の名称
リストコミュニケーター……これまでは、「ウォッチ」や「腕時計型端末」と言っていましたが、今話から「リストコミュニケーター」という名称を用います。帝国兵はリスコンと略します。
リスコンは、腕時計型端末に通話(無線)、カメラ、メール、マイク、ファイルの保存といった機能が入っている装備品です。ほか機能として、
‣画面を直接覗き込むだけでなく、手首から青白いホログラム映像が15cmほど空間に立体投影され、作戦地図や敵の顔写真、現場の映像(TV通話)を複数人で覗き込める。
‣タッチパネルで操作
‣夜間や潜伏中、画面の光で敵に居場所がバレないよう「網膜投影」や「微光表示」に切り替わる設定。
‣会話はピンマイクとイヤホンが接続されていて、そこで行う
といった機能があります。




