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外星戦記~異星人に家族を殺された少年は、自衛官になって復讐を誓う~  作者: 無名の凡夫
第3章 九州奪還へ

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第333話 暴走する狩人

「ふう、これで何とかなりました」


看護兵の女性軍曹は、ようやく処置を終えたことに安堵し、ほっと胸を撫で下ろした。


彼女が担当していたのは、腹部を撃たれたラウティカ・ワグと、両腕を負傷したアルセフィーナ・メロッティの治療だった。本来、看護兵が医官に代わって行うような処置ではなかったが、肝心の医官であるワグ自身が負傷している以上、ほかに方法はなかった。


もっとも、看護兵が独断で治療を進めたわけではない。ワグは腹部の痛みに顔を歪めながらも、必要な処置を一つずつ指示し、自身の腹部に入った弾丸の摘出からメロッティの両腕の処置に至るまで、看護兵を指導していた。


負傷者でありながら医官としての役割を果たし続けたワグだったが、治療が終わると緊張が解けたのか、今は静かに眠っていた。


「メロッティ少尉の腕も、後遺症が残らないようですので、安心しました」


女性軍曹が声を掛けると、治療を終えたメロッティは短く返事をした。


「ああ。」


その素っ気ない態度は、看護兵の処置に不満があったからではない。メロッティの意識は既に、自分達が置かれている状況へ向けられていた。


陣地の出入口は一つしかなく、そこから外へ出ようとすれば敵の狙撃手に狙われる。かといって、別の場所から脱出するために壁を破壊しようにも、陣地は相当に頑丈な造りとなっており、容易に壊せるものではなかった。防御力を高めるための構造が、今では自分たちの行動を制限する要因になっている。


(工兵科の奴等…張り切って丈夫に造りやがって…)


メロッティは思わず悪態をつきたくなったが、その言葉を口に出すことは控えた。というのも、陣地の中には第49工兵中隊長がいたからである。もっとも、その中隊長自身も現在の状況には頭を抱えているらしく、先ほどから何度も溜息をついていた。


陣地を頑丈に造ったことが、まさか脱出の妨げになるとは思っていなかったのだろう。メロッティもそれ以上は何も言わず、敵狙撃手の監視をどうやって突破するか、考えを巡らせていた。




その一方で、陣地の外にいるジミーは、依然として敵の出入口を監視していた。


(まだ出てこないか)


対人狙(M24 SWS)撃銃を構えたジミーは、スコープ越しに陣地の様子を窺っていた。


先程、帝国兵たちが狙撃されたことで警戒を強めたのか、それ以降、出入口には誰1人として姿を見せていない。内部で何が行われているのかまでは分からなかったものの、少なくとも自分の狙撃を警戒して、外へ出ることを躊躇しているのは確かだった。


もっとも、ジミーもこの状況をいつまでも維持できるとは考えていなかった。


敵陣地を発見できたことは大きな収穫だったが、手元にあるM24 SWSでは、その頑丈な陣地を破壊することはできない。出入口を監視することで敵の行動を制限できても、内部に籠もる帝国兵たちを直接攻撃できるわけではなかった。


ジミーは一度スコープから目を離し、周囲に異変がないことを確認してから、再び照準を出入口へ戻した。


(さて、どう動くつもりだ?)


相手が籠城を続けるのか、それとも危険を承知で外へ出てくるのか。どちらにしても、敵が姿を現した瞬間を見逃さないことが重要だった。


ただし、陣地の内部から援軍を要請している可能性も否定できない。もし新たな敵部隊が接近してくれば、狙撃手1人で監視を続けている現在の状況が、かえって不利に働くことも考えられた。そうした危険を認識しつつも、ジミーは不用意に発砲することなく、敵の動きを待ち続けた。


しかし、監視を続けているうちに、別の問題が生じてきた。


(腹減った……)


ジミーはリュックから固形食を取り出すと、包装を開けて一口含んだ。


(不味い……)


口の中に広がる味に、ジミーは内心で不満を漏らした。もともと、この固形食の味は苦手だった。それでも空腹を満たすためには食べるしかなく、彼は敵陣地への警戒を怠らないようにしながら、食事を続けた。




一方、帝国軍の輸送部隊では、ヨン・ベアード大尉が苦境に立たされていた。


(くそ、全然大丈夫じゃない!)


援軍として到着した第31歩兵科大隊は、予想以上に激しい抵抗を受けていた。物資を運搬していた高機動車やトラックは次々とタイヤを撃ち抜かれ、走行不能に陥っている。鳥栖へ向かった車両についても、戻ってきた際には何らかの被害を受けており、輸送任務の継続に支障が生じ始めていた。


ベアードは部下達へ指示を出しながら、被害状況の把握に努めていた。


その傍らを、負傷したスイレン・スウドと彼の部下たちが担架で運ばれていく。ベアードは彼らの姿を目で追い、無事でいてほしいと願ったものの、今は一人ひとりの容体を気にしていられる状況ではなかった。


周囲では依然として銃撃が続いており、その中を縫うようにして物資を輸送しなければならない。幸い、まだ走行可能なトラックが数台残されていたため、ベアードは部下たちに任務を続けるよう指示した。


そのとき、彼の太腿を一発の銃弾が掠めた。


「ひいっ!」


予期しない被弾に思わず悲鳴を上げたベアードは、その場に伏せた。


「大尉殿……大丈夫ですか?」


近くにいた部下が、不安そうに声を掛けた。


普段のベアードは、部下達の前で凛とした佇まいを崩すことがほとんどなかった。しかし、それは内心の緊張や恐怖を表に出さないよう努めているだけであり、実際には戦闘中も常に不安を抱えていた。そんな彼が突然悲鳴を上げて伏せたのだから、部下が心配するのも無理はなかった。


「だ、大丈夫だ…」


ベアードは何とか平静を装いながら答えた。


熊型獣人である彼は、筋肉の塊を思わせるほど頑丈な体格をしており、急所を正確に撃ち抜かれでもしない限り、容易に致命傷を負うことはなかった。今回も銃弾が太腿を掠めただけで、傷そのものは軽かった。しかし、身体が無事だったからといって、恐怖まで消えるわけではない。


(こえぇよ…。大隊長、どうしましょう…)


ベアードは負傷した太腿を庇いながら周囲を見渡した。


部下達の前では指揮官として振る舞わなければならない。それでも、銃弾が飛び交う状況に身を置き続けることへの恐怖は拭いきれず、いつもの小心者の一面が顔を覗かせ始めていた。




「今のところ順調ね」


鹵獲した帝国軍のトラックを運転しながら、ビービはこれまでの行動を振り返っていた。


徒歩で移動していたときに比べ、トラックを手に入れたことで行動範囲は大きく広がり、敵の輸送経路を妨害する機会も増えていた。帝国軍の車両だけあって造りは頑丈であり、至近距離から強力な攻撃でも受けない限り、簡単に破損するような代物ではなかった。


それだけに、ビービはこの車両を手放すことが惜しくなっていた。


「このトラック、乗り捨てするのは勿体ないわ。このまま貰っちゃおうかしら。ねぇ、キーラ?」


「そ…そうですね…」


キーラの返事には、普段のような勢いがなかった。


荷台に積まれた物資へ身体を預けながら、どうにか吐き気を堪えているものの、ビービがハンドルを切るたびに車体が大きく揺れ、そのたびに胃の中身が逆流しそうになる。これまでの移動でも散々振り回されてきたため、今ではトラックが少し速度を上げただけでも嫌な予感がするようになっていた。


しかし、運転席のビービはキーラの体調など気にする様子もなく、前方の道路へ視線を向けていた。


しばらく走ったところで、ビービは進行方向に複数の車両がいることに気付いた。いずれも帝国軍が使用しているトラックであり、その周囲には武器を携えた帝国兵たちの姿も確認できる。


(いたいた。まだ残ってたのね)


ビービは速度を調整しながら、前方の状況を観察した。


敵兵たちは周囲を警戒していたものの、こちらへ銃口を向ける様子はなかった。帝国軍のトラックに乗っていることが幸いし、少なくとも現時点では、敵だと認識されていないらしい。


「キーラ、前方に敵の輸送車両がいるわ」


ビービが荷台へ声を掛けると、キーラは気分の悪さを堪えながら顔を上げ、積み荷の陰から前方を確認した。


「……本当ですね。まだ動ける車両が残っていたんですか」


「そういうこと。せっかくだから、あれも止めておきましょうか」


「班長、まさかとは思いますけど……」


キーラは嫌な予感を覚えた。


ビービの口調には、敵の輸送部隊を発見したことへの緊張よりも、新しい獲物を見つけたような楽しさが滲んでいたからだ。これまでの運転を思い返せば、彼女が何をしようとしているのか、ある程度は想像できてしまう。




その頃、ベアードは負傷した太腿を庇いながら、部下たちに物資輸送の継続を指示していた。


銃撃によって走行不能になった車両が相次いでいるため、残されたトラックだけでも何とか目的地へ向かわせなければならない。周囲では依然として戦闘が続いており、ベアード自身もいつ再び撃たれるか分からない状況にあった。


(頼むから、これ以上何も起きないでくれ……)


そんな彼の視界に、一台のトラックが入ってきた。


帝国軍の車両であることを確認したベアードは、ひとまず味方の輸送車両が戻ってきたのだと思った。しかし、そのトラックは周囲の車両とは異なり、速度を落としながらも、こちらへ向かって進んできていた。


(……ん?)


ベアードは眉をひそめた。何かがおかしいと感じたものの、外見は見慣れた帝国軍のトラックであり、すぐに敵だと判断できる材料はなかった。その間にも、車両は少しずつ距離を詰めてくる。


「……あの車両、どこの所属だ?」


ベアードが近くの部下へ尋ねたとき、運転席のビービは前方の帝国兵たちの様子を確かめながら、口元に笑みを浮かべていた。


「さて、どうしようかしらね」


荷台でその声を聞いたキーラは、思わず身構えた。


「……班長、お願いですから、今度はぶつけないでくださいよ」


しかし、ビービは返事をしなかった。その代わり、トラックのエンジン音が一段と大きくなり、車体が加速を始めた。


(これ、ぶつける気だ…)


キーラはビービの意図を察すると、咄嗟にグラップルワイヤーを荷台の上部へ引っ掛け、その力を利用して車体の上へ登った。


前方には帝国軍のトラックが並んでおり、こちらの接近に気付いた敵兵たちが動き始めている。キーラは車体の揺れに耐えながら銃を構えると、目の前にあるトラックのタイヤへ向けて素早く発砲した。


銃弾を受けたタイヤが損傷し、輸送車両の走行に支障が生じる。その様子を見た帝国兵たちは、接近してくるトラックが味方ではないことをようやく理解した。


「大尉殿、あれは敵です! 車両を鹵獲した模様です!」


部下の報告を聞いたベアードも、もはや状況を疑う余地はなかった。


こちらへ猛スピードで向かってくるトラックの運転席には、猟奇的な笑みを浮かべた女兵士がいる。さらに荷台の上にも別の女兵士が登っており、こちらの車両へ向けて射撃を続けていた。


ただ、荷台の上にいる女兵士は妙に顔色が悪かった。「体調でも悪いのだろうか。あの状態で戦闘を続けて大丈夫なのか」と、ベアードは一瞬、敵である彼女のことを心配してしまった。しかし、そんなことを考えている場合ではなかった。


トラックは既に目の前まで迫っており、今から回避しようとしても間に合わない。ベアードは迫り来る車体を見つめながら、歯を食い縛った。


直後、激しい衝突音が響いた。猛スピードで突っ込んできたトラックの衝撃によって、ベアードの巨体は弾き飛ばされた。筋肉の塊を思わせる熊型獣人の身体さえ吹き飛ばすほどの勢いであり、ビービがどれほどの速度を出していたのか、容易に想像できるものではなかった。


「大尉殿~!」


部下の悲鳴が響く中、キーラは既にグラップルワイヤーを使用し、付近の建物へ移動していた。


ビービがトラックを衝突させる直前に離脱したため、車両と一緒に突っ込まずに済んだのである。あのまま荷台に残っていたら、敵兵より先に自分が死んでいたかもしれない。


そんなキーラの耳に、無線越しにビービの呑気な声が届いた。


『あ、ごめ~ん、キーラのこと忘れてた~』


あまりにも軽い謝罪に、キーラは初めて班長に対して殺意を覚えた。しかし、今は怒りをぶつけている場合ではない。彼女は湧き上がる感情を無理やり抑え込むと、すぐに小銃を構え直した。


先程までの射撃によって、既に何台かのトラックのタイヤを撃ち抜いている。走行不能となった車両の周囲では帝国兵たちが応戦しようとしており、その中にはキーラのいる方向へ銃口を向ける者もいた。キーラはそうした敵兵を確認すると、狙いを定めて順に撃ち抜いていった。


一方、トラックを運転していたビービは、衝突によって吹き飛ばされたベアードの姿を捉えていた。


ベアードは地面に蹲り、先ほど受けた衝撃から立ち直れずにいた。そこへビービは再びアクセルを踏み込み、トラックを加速させた。


激しいエンジン音を耳にしたベアードは、何事かと顔を上げ、音のする方向へ視線を向けた。すると、先程、自分を吹き飛ばしたトラックが、再びこちらへ向かってくるではないか。運転席には、先ほどと変わらず猟奇的な笑みを浮かべた女兵士がいた。彼女は進路上にいるベアードを避けようともせず、そのまま突っ込んできた。


「う、嘘だろ……」


ベアードが呟いた直後、鈍い音とともに、トラックの車体が彼の上へ乗り上げた。大柄な熊型獣人であるベアードも、重量のある車両に押し潰されては耐えられなかった。トラックは彼の身体に乗り上げたことでバランスを崩したものの、ビービがアクセルを踏み続けたため、その重量が容赦なく圧し掛かっていく。


やがてベアードの身体は車体の重みに耐えきれず、腹部が押し潰され、内臓が飛び出した。もはや助かる見込みはなかった。


(トラックが頑丈すぎるのも問題だな)


死の間際、ベアードの脳裏に浮かんだのは、そんな場違いな感想だった。


帝国軍の物資輸送を支えるために造られた頑丈なトラックが、皮肉にも彼自身の命を奪うことになったのである。


ベアードが息絶えた後も、周囲では帝国兵たちが混乱しながら応戦を続けていた。しかし、ビービはそんな状況を気にする様子もなく、無線でキーラを呼びつけた。


『さあ、次行くよ! 乗って!』


その声は、先程まで激しい戦闘を繰り広げていたとは思えないほど元気だった。


キーラには、ビービがどうしてあれほど楽しそうにしていられるのか、まったく理解できなかった。


敵の輸送車両を妨害するという目的は理解しているし、実際に成果も上げている。しかし、そのために何度も衝突を繰り返す運転に付き合わされる身としては、たまったものではない。それでも、班長に呼ばれた以上、いつまでも建物の上に留まっているわけにはいかなかった。


「……誰か助けて…」


キーラは憂鬱な面持ちで、再びトラックの荷台へ戻っていった。

登場人物紹介

ジミー……GASTフォックス班所属。GASTナンバー2の狙撃手

ビービ……GASTアマゾネス班の班長

キーラ……GASTアマゾネス班所属

アルセフィーナ・メロッティ……陸軍少尉で兎型獣人族の女性。第116歩兵科中隊・狙撃班長

ヨン・ベアード……陸軍大尉で、熊型獣人族の男性。第59輸送大隊の副大隊長

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ミリタリー SF ファンタジー 自衛隊 戦争
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