第33話 撤退そして再起
アイトンダは、第3砲兵大隊が控えていた地点から、砲撃とは違う爆発音を耳にし、至急、大隊長のジェアと交信を命じた。しかし、ジェアをはじめ、その副官とも連絡がつかない。
「おい、シス! 砲兵隊はどうなった?」
「ジェア大隊長とは、未だ連絡がつきません。」
※シス・アル・ミルカー中佐、大月攻略隊副隊長
「他に連絡が取れる者はいるか?」
「通信中ですが、まだ誰とも繋がりません。」
「(敵にやられたと考えるのが自然だが、どうやって潜入した? …いや、潜入できる連中がいた!)」
「(――特殊作戦群! 奴等、陸軍の特殊部隊だ。陸軍にいる精鋭連中の中でも最精鋭。こいつらも山梨に!)」(アイトンダ)
一瞬、狼狽えたアイトンダだったが、すぐに冷静になる。特殊部隊は陰に潜む部隊。それならば、本隊ではない山梨方面に出現しても不思議ではない。
「(もしや、ゴア准将やポートレミは、これも読んでいた?)」
「(いや、今それはいい。まずは、第3砲兵大隊の生き残りを保護せねば。奴ら、特殊部隊はまだ健在なら、1人でも多くの味方が必要だからな。)」
アイトンダは、第3砲兵大隊が控えていた陣地を捜索するよう、部下に命じた。
――1時間後――
「大佐殿!」
第3歩兵大隊の生き残りがやって来る。ピオトル・シマオ兵士長だ。
「敵特殊部隊より、第3砲兵大隊に壊滅的被害!
「やはりか…。」
アイトンダは、伝令にやって来たのが、ケンタウロス族ではない、シマオだったことで、状況を察した。
「生き残りはどのくらいいる?」
「詳しくは…。」
「ならば至急、生き残りを集め、私のところへ連れてこい。」
「了解しました。」
― 30分後 ―
「集まったのは、2個小隊といったところか。」
「申し訳ありません…。」
※ダレン・ドフィーラ軍曹、第3砲兵大隊防空支隊所属
「貴様らは、特殊部隊にやられたと聞いたが?」
「はい。」
「やられっ放しでは、貴様らも気が済まんだろう。次、奴らのターゲットは補給路とみてる。ならば、貴様らは、補給路の防衛だ。」
「了解!」
「分隊を組め。曹長・軍曹の者が分隊長を務め、準備が整い次第、補給路へ向かえ!」
「了解!」
「(幸い、兵の士気は高い。だが、砲兵科の連中に歩兵科として動いてもらうのだ。どこまでやれるか未知数だ。いざという時は、このペーリ・アイトンダ自らが!)」
「大松崎3曹、弾薬が間もなく尽きる!補充は可能か?」
「了解。緑川! 青島三曹の下へ持って行って!」
「了解!」
わずかな弾薬を抱え、緑川は敵の銃火をくぐり抜けて青島のもとへと走った。
「青島三曹、弾薬です!」
「おい、たったこれだけか!?これじゃあ、まるで…。」
「残量もあと僅かです。これだけしか持ち出せません。」(緑川)
「くっ…。これじゃ持ちこたえられんぞ…。」
銃撃の音が途切れるたびに、彼らは恐怖に怯えた。弾薬が尽きれば、彼らはただの的になってしまう。
「弾薬が足りなければ、敵から鹵獲しろ!ここで諦めたら、何の意味もなくなるぞ!」
別当の言葉は、悲痛な叫びにも似ていた。
「この戦場に散っていった、多くの仲間のためだ!ここで怯んで、あいつらの無念を踏みにじるわけにはいかない!前に進め!」
彼の言葉に、隊員たちの顔つきが変わる。恐怖に染まっていた目が、再び闘志を宿した。しかし、気休め程度にしかならないことは、ここにいる誰もが自覚していた。
「ぐ……。」
天道が呻き声をあげ、その場に倒れ込む。彼の胸には、敵の銃弾が何発も命中していた。
「天道!!」
「一佐、天道が…。」
悲痛な叫びをあげた山元は、天道を撃った敵兵に反撃しようとする。しかし、彼の銃からは乾いた空撃ちの音が響くだけだった。弾薬が尽きていたのだ。
「ちくしょう…。」
山元は、その悔しさを噛み殺す間もなく、敵の銃撃を受け戦死した。
「天道、山元…。」
仲間を目の前で失い、別当は唇を強く噛み締めた。その時、大松崎が叫ぶ。
「別当一佐、もう弾薬がありません!」
「(敵はこちらが鹵獲することを警戒して、遺体の回収が早い。無理に突っ込むと、さらに犠牲者が出るだけだ。ここで立ち止まっていたら、全滅…。だが、ここで引けば、仲間の死を無駄にすることになる。…それでも、生き残らなければならない。後の世代に、この戦いの真実を伝えるためにも。)」
別当は、覚悟を決めた。
「後退する!」
彼の声に、隊員たちは一瞬驚いた表情を見せた。しかし、別当の目に宿る強い光を見て、彼らが異を唱えることはなかった。これは、単なる敗走ではない。生き残って反撃の機会を窺うための、苦渋の決断だった。
「(だが、まだ諦めたわけではない!)」
「敵指揮官はベットウ。イ-03だ、奴はここで仕留める!追え!!」
※パウ・シュグルポッター大尉、第1歩兵科大隊、中隊長の1人
「連隊長、俺はまだ弾薬が残っています。殿を…。」
別当は一瞬だけ青島を見た。
「僕もまだ弾薬あります! その間に逃げてください!
「……分かった。ただし、死ぬんじゃないぞ!」
「了解!」
「中隊長、敵2匹が戦列から離れました!」
「お前に任す!」(シュグルポッター)
「了解!」
「くそ、釣り出せたのは一人かよ!」(青島)
「これじゃ、殿の意味が…。」(緑川)
一瞬だけ、緑川の顔から血の気が引いた。思わず、別当たちが去った方向を振り返った。
しかし緑川は、視線の先に誰かがいることに気付く。その「誰か」は、ハンドサインで「大丈夫」と伝えたため、エレメントとの戦闘に専念した。
「(信じますよ。)」
「一佐、こっちです!」
後退する別当へ届く誰かの声。
「(この声は…。)」
「こっちだ!」
声の主を信じ、部下を誘導する別当。
「今だ!」
声の主の号令の後、「ドオン」という爆発音。敵兵の周りで爆炎を挙げる。即席爆弾を設置していたようだ。
「ご無事で何よりです。」
「お互いにな。」
声の主は、東財 晴美三等陸佐。31普連2中隊の中隊長。東財ほか、彼女の部下、古山 大地三尉、竹内 良樹二曹、仁科 空翔二曹、田中 一成陸士長が控えていた。
「12偵の西陸士長が、連隊長が戦闘しているのを見つけまして。」
※東財 晴美三等陸佐、第31普通科連隊第2中隊長
「そうだったのか。」(別当)
「援軍へ行くよりも、撤退を想定して罠を仕掛けることを東財中隊長が提案し、我々は待ち伏せていました。」(西)
※西 友貴陸士長第12偵察隊1中隊所属
「撤退するなら、このルートを選ぶだろうと予測した結果です。賭けでしたが…。」
「おいおい、このルートに来なかったらどうするつもりだったんだ?」
別当は一瞬、後方を振り返った。
「大したものだ。」
「別当一佐、室三曹が青島と緑川を連れてきました。」(古山)
「無事だったか、良かった…。」
青島と緑川の無事に安堵する別当。
「室三曹の援護もあり、敵を討伐出来ました。」(青島)
「室三曹、助かった。礼を言う。ところで、東財、弾薬は残っているか? 俺達の弾薬は底を尽いてしまってな…。」
「私達も、決して多く残っているわけではありませんが、多少は蓄えがあります。」
東財たちは手分けして弾薬の補充を行った。乾いた銃声が遠くで響く中、隊員たちの表情がわずかに緩む。「助かった…。」誰かが小さく呟いた。
「小巻!!」
その時、一発の銃声。銃弾がこめかみを貫通し、その場に崩れ落ちる小巻。即死だった。
「スナイパー!?」(元木)
「いや、違う。あの爆発の中、生きていたのか。なんてタフな奴だ…。」
別当の視線の先には、血を流しながらも鬼気迫る表情でこちらを睨むシュグルポッターの姿があった。彼の左腕は力なく垂れ下がり、右手に持った銃から白煙が立ち上っていた。それでも照準だけは狂っていない。
登場人物紹介
パウ・シュグルポッター
種族・性別:獅子型獣人族の男性
所属・階級:陸軍大尉。テリムト大月攻略隊第1歩兵大隊所属で、中隊長の1人
別当 強司……第31普通科連隊長
ペーリ・アイトンダ……テリムト大月攻略隊長
シス・アル・ミルカー……同 副隊長




