第32話 第3砲兵大隊壊滅
イガのもとへ、ハンゾウ、フウマ、コウガ班、ダンゾウ班の面々が駆けつけた。
ジェアはその光景を黙って見つめる。指揮所を包囲する日本軍特殊部隊。弾薬庫も砲列も沈黙した今、その戦力差は誰の目にも明らかだった。
「……。」
ジェアは一度だけ部下たちを見渡した。誰一人として顔を上げられない。
「……ダス。」
「はっ。」
「アイトンダ大佐殿へ伝えろ。」
「我々は敗れた、と。」
「……了解しました。」
ダス・ツカナム先任曹長は無線のスイッチを入れ、周波数をアイトンダへ合わせた。掛けた。
「こちら第3砲兵大隊――」
乾いた銃声が響く。ツカナムの喉が弾け、そのまま崩れ落ちた。送信機からは雑音だけが流れ続ける。
この間にも、特戦群からの射撃は続いた。
誰かがアイトンダへ状況を伝えようとする。しかし、彼らは銃撃を躱すので精いっぱいだ。状況を打開したい――1人の鳥人族兵士が飛び出した。
「俺が行く!」
1人の鳥人族兵士が天井近くまで跳び上がった。その瞬間だった。乾いた銃声が聞こえる。兵士の胸が跳ね上がり、そのまま床へ叩きつけられる。
「飛ぶな!」
オサスタが鋭く怒鳴った。
「飛べば狙われる!」
鳥人族たちは思わず翼を畳んだ。
天井が低く、飛行経路は限られる。宙へ浮いた鳥人族は、自ら射線へ飛び込んでいた。
(これだけ狭ければ、奴らの機動力は死ぬ。)
イガは冷静に状況を見極める。
一方、オサスタも同じ結論へ達していた。
「飛ぶな。全員、地上戦に切り替えろ!」
わずか数秒で、鳥人族は最大の武器を失った。
兵士たちは翼を畳み、遮蔽物から遮蔽物へ走った。
本来なら空へ舞い上がり、速度と高度を利用して敵の照準を外す。しかし、この狭い指揮所では翼は邪魔でしかない。慣れない地上戦では動きが一瞬遅れる。
「ぐわあっ……!」
先頭の兵士が胸を撃ち抜かれ、その場へ倒れた。
「ぎゃっ!」
続いて別の兵士が柱の陰へ飛び込もうとした瞬間、肩口へ銃弾を受けて崩れ落ちる。
(残り2体)
フウマはオサスタを目で追った。
(遅い。だが……)
オサスタの動きは落ちていた。いや、正確には遅くなったのではない。左翼の負傷を庇うたびに、一瞬だけ体勢が崩れる。そのわずかな隙が、今まで見えなかっただけだ。
フウマはハンゾウにサインを送る。
(承知)
フウマとハンゾウは左右に分かれる。
(攪乱する気が)
オサスタがそう察知した瞬間には、すでにフウマの銃口が火を噴いていた。左翼の死角を突く容赦のない連射。オサスタは辛うじて身を翻すが、崩れた体勢を立て直す隙を、もう一人の影が見逃すはずもなかった。
「終わりだ」
反対側から回り込んでいたハンゾウの冷徹な声。その直後、銃声が狭い指揮所に木霊し、オサスタの胸が大きく跳ね上がった。鳥人族の少尉は、2度と羽ばたくことのない翼を広げたまま、床へと崩れ落ちる。
残る敵は、司令官ジェアただ一人。
「アラミー……!」
ジェアが苦渋に満ちた声を上げるが、感傷に浸る時間すら特戦群は与えない。
コウガ班とダンゾウ班が、まるで精密機械のように完璧な十字砲火を形成し、ジェアの退路を完全に断ち切っていた。
「チェックメイトだ、ジェア」
隊長イガの低く、威圧感に満ちた声が響く。
ジェアは自らの敗北を悟り、ガチガチと震える手で拳銃を引き抜こうとした。しかし、その指がトリガーに触れる前に、イガ、コウガ、ダンゾウの放った弾丸が同時にジェアの身体を穿つ。
「帝国兵として……最後まで戦え……」
崩れ落ちる敵将。送信機から流れていた雑音さえもが、やがてぷつりと途切れた。
「ジェア大隊長!」
そこへ現れたのは、ケンタウロスのアイボ・アウストラ兵士長。アイトンダの下から戻ってきたところだった。彼は、倒れているジェアを目の当たりにして動揺する。
「うおおおおおおおお」
アウストラは叫び、銃のトリガーを引いた。
(雑な射撃だ)(イガ)
イガは、遮蔽物から様子を伺う。ケンタウロスは大柄だ。的が大きく、イガが難なく仕留めた。
「制圧完了」(イガ)
静寂が戻る。火薬の臭いだけが残った。イガは周囲を見回す。
「……モモは?」
誰も答えない。
コウガが静かに口を開いた。
「コタロウ戦死。」
「コタロウは戦死。モモは、行方不明か…」
一瞬だけ、イガは目を閉じた。
イガは数秒だけ黙る。
「……そうか。」
目を閉じる。そして開く。
「撤収する。」
「了解。」
登場人物紹介
特戦群隊員
イガ(隊長)
フウマ
ハンゾウ
コウガ
ダンゾウ
第3砲兵大隊
シムバッド・ジェア……大隊長
アラミー・オサスタ……偵察小隊長
ダス・ツカナム……本部管理小隊の先任曹長




