第31話 最強部隊
万代がメリオジンを倒したが、戦線全体から見れば、その勝利は小さな点に過ぎない。戦況は依然として帝国軍優勢のままである。しかし、その戦況を覆すべく、ある部隊が着々と準備を整えていた。
「目標、敵砲兵部隊。座標は既に把握している。」(イガ)
イガは双眼鏡を覗き込み、遠くに見える砲兵陣地を確認した。ジェアが指揮を執る砲兵大隊は、油断しているのか、警備が手薄になっている。
「やはり、敵は我々を完全に制圧したと見ているようだ。」(イガ)
「好都合ですね。」(コウガ)
コウガは静かに答えた。
「作戦通り、3班に分かれる。俺は第1班で砲撃指揮所を、第2班は弾薬庫、第3班は砲台を狙う。制限時間は20分。それ以上は、敵の増援が来る可能性が高く、作戦遂行に支障をきたす。」(イガ)
イガはそう告げると、通信機を別当一佐の周波数に合わせる。
「…敵、重火器の使用を確認!全隊、後退しろ!」(別当)
別当は、怒号にも似た声で叫んだ。帝国軍第1歩兵大隊の攻撃は激しさを増し、さらに後方からの砲撃が自衛隊を追い詰めていた。
「(このままでは、全滅だ…。)」(別当)
その時、別当の通信機からノイズ混じりの声が聞こえてきた。
「こちら、S。聞こえるか?」(イガ)
「こちら、別当。S…特戦群か!?」(別当)
「そうだ。現在、敵砲兵部隊を視認した。これから攻撃を開始する。貴官らの部隊は、一時的にでも敵歩兵部隊の進撃を食い止めてくれ。我々の攻撃で敵は動揺する。その隙に体勢を立て直せ。」(イガ)
別当は、にわかに信じられない気持ちだった。特戦群の任務は極秘事項であり、その全容が公に出ることはない。敵の罠も疑ったが、この状況を打開するうえで、作戦の概要を聞くことにした。
「…共同作戦だと?どうやって…。」(別当)
「貴官の部隊は、歩兵部隊を正面から引きつけろ。我々は、その隙に敵砲兵陣地を内部から攻撃する。敵は完全に油断している。この機会を逃すわけにはいかない。」(イガ)
別当は、罠の可能性を捨てきれなかったが、どのみちジリ貧になると判断し、イガと名乗る男を信じた。
「…承知した。特戦群に、我々の命運を託す。」(別当)
イガはそう告げると、仲間の表情を一瞥した。そこに迷いはなく、皆が作戦の成功を確信しているようだった。
「…分かれ。」(イガ)
返事はなかった。だが次の瞬間、隊員たちは同時に動いた。音もなく、影のように森へ溶けていく。
全員が散開する中、イガだけが、その場に一瞬残った。そして静かに呟いた。
「20分快勝負だ。」(イガ)
別当は通信機を握りしめた。特戦群。その名前は聞いたことがあった。だが――合同で任務を行う事は、これまでなかった。
別当は、ぐっと奥歯を噛み締めた。自らの部隊の命運を、見ず知らずの他部隊に託す。罠の可能性も捨てきれない。それは、指揮官として断腸の思いだった。しかし、彼の目に迷いはなかった。
「よし、皆聞け!特戦群が敵の砲兵を潰す連絡を受けた!その間、我々は敵の歩兵部隊を食い止める!」(別当)
彼の声に、隊員たちは一斉に顔を上げた。
「劣勢なのは変わりない。だが、我々は多くの国民の命も背負っていることを忘れるな!これは反撃の狼煙だ!絶対に、ここを死守するぞ!」(別当)
「了解!」
別当の言葉に、恐怖に震えていた隊員たちの目に、再び闘志が宿った。
「大松崎!弾薬の残量を再確認しろ!」(別当)
「天道!緑川!側面を警戒!」(別当)
「元木!山元!青島!小巻!持ち場に戻れ!」(別当)
隊員たちは、それぞれの持ち場へと走り出す。彼らの顔から、絶望の色が消えたわけではない。しかし、この状況を打開するうえで、特戦群を信じるしか道はないと判断したのだ。
「うし、撃ち方止め!」(ジェア)
「よろしいのですか?」(アラミー・オサスタ少尉)
「制圧はほぼ完了している。弾の節約だ。あとは、第1大隊に任せて問題ない。」(ジェア)
「それも、そうですね。」(オサスタ)
砲撃が止まり、砲兵たちはようやく息をついた。誰も周囲を警戒していない。見張りの兵ですら、武器を肩にかけたままだった。
ジェアやオサスタの高笑いが響く。第3砲兵大隊は、完全に緩み切っているようだった。――その砲兵陣地の外縁で、見張りの兵が静かに崩れ落ちたことに、まだ誰も気づいていない。砲兵陣地のすぐ外縁。すでに数人の影が、音もなく侵入していた。
「やはり、連中は油断していますね。」(フウマ)
フウマは双眼鏡を下ろした。
「敵にとっては、もう勝った戦いなのでしょう。」(フウマ)
「だが、好機だ。全員配置につけ。」(イガ)
「制限時間は20分。それ以上は増援が来る。」(イガ)
誰も質問しない。全員、既に動き出していた。
「配置についたな?」(イガ)
数秒の沈黙。
「第1班、指揮所に到達。」(フウマ)
「第2班、弾薬庫確認。」(コウガ)
「第3班、砲台視認。」(ダンゾウ)
「コタロウ、後方警戒。」(ダンゾウ)
「了解。」(コタロウ)
イガは短く頷いた。
「…予定通りだ。」
「これより、攻撃開始。」(コウガ)
短い沈黙。そして――闇の中で、爆薬の安全装置が外された。特戦群の反撃が、始まった。
登場人物紹介
イガ……特戦群の1人。佇まいからして隊長と思われる。
コウガ……特戦群の1人。おそらく隊長格の1人。
フウマ……特戦群の1人。イガと共に行動する。
ダンゾウ……特戦群の1人。おそらく隊長格の1人。
コタロウ……特選軍の1人。ダンゾウと行動を共にする
青島 ホベルト(あおしま)
生年月日:1994年12月3日 / 出身:ブラジル
階級:三等陸曹 / 所属:31普連1中隊
備考:日系人(日本国籍)
大松崎 璃亜
生年月日:1996年9月12日 / 出身:群馬県
階級:三等陸曹 / 所属:31普連1中隊
小巻 幹太
生年月日:2000年7月6日 / 出身:静岡県
階級:一等陸士 / 所属:31普連1中隊所属
天道 仁志
生年月日:1998年4月22日 / 出身:東京都
階級:陸士長 / 所属:31普連2中隊
緑川 一修
生年月日:2002年1月30日 / 出身:静岡県
階級:二等陸士 / 所属:31普連1中隊の新人隊員
元木 ロイド(もとき)
生年月日:1998年2月23日 / 出身:東京都
階級:三等陸曹 / 所属:31普連2中隊
備考:日本人の父とイギリス人の母を持つハーフ。母親似。
山元 泰祐
生年月日:1985年2月16日 / 宮崎県
階級:陸曹長 / 所属:31普連2中隊
アラミー・オサスタ
種族・性別:鴉型鳥人族の男性
所属・階級:陸軍少尉で、第3砲兵部隊の偵察長隊小隊長。
備考:視力が良い
別当 強司……31普連の連隊長
シムバッド・ジェア……大月攻略隊第3砲砲兵大隊大隊長
グーリエ星に存在する種族
鳥人族……鳥のような見た目をしているが、2足歩行で歩く種族。飛行能力はタイプによるが、天使族よりは落ちる。羽に手が隠れているため、物を持つことは出来るが、少々不便。上空で武器を構える時は、緩やかに下降しているので、隙が出来やすい。




