第30話 喪失と閃光
「飛鳥三尉!?」(万代)
飛鳥三尉は何か言っていますが、口が動くだけで声を発することが出来ません。そして、息を引き取りました。
「嘘だろ、飛鳥三尉が…」(徳島)
飛鳥三尉の体を抱き起こした原口三曹の手が震えていました。
「飛鳥さん…!」(原口)
首筋を見た瞬間、彼女の顔色が変わった。
「……毒?」(原口)
数本の細い針が、首に刺さっていました。原口三曹の表情が怒りに歪みます。
「誰が…こんな卑怯な真似を…!」(原口)
「笑い声が聞こえた。多分そいつが飛鳥三尉を…。」(入林)
「敵の隊長が倒れた、残りの奴も仕留めるぞ!」(ヴァハムド)
「野郎、やらせるか!」(入林)
飛鳥三尉の死により、グーリエ星人の士気も上がります。すると、敵の背後から何かが、影のように飛び出しました。
次の瞬間……原口三曹の体が止まった。
「……え?」(原口)
首が、ゆっくりとずれた。そして地面に落ちた。
「な……」(入林)
「……原口三曹の首が、ない。」(徳島)
「…くだらん。」(ノファト・メリオジン陸軍准尉)
姿を現したのは、ゴブリンの男でした。奴の持つ軍刀からは、原口三曹の血が滴っています。
「くそっ」(入林)
TATANG!
入林二曹が発砲しますが、当たりません。いや──違う。撃った瞬間、敵の姿が消えている!
「……え?」(入林)
入林二曹がそう呟いた次の瞬間です。彼の背後に、ゴブリンが立っていました。ナイフを一閃――
首から血が噴き出し、入林二曹の体が崩れ落ちました。入林二曹は即死でした。あのナイフにも毒が塗られているようです。
奴は肩をすくめるように笑った。
「いやはや、驚いた。まさか、雑草を狩るのに毒が必要だったとは。だが、大したことはなかった。アオハリはこんな奴等に負けたのか。」(メリオジン)
そいつは嘲笑するように、原口三曹の頭部を地面に投げ捨てます。ゴトリ、と鈍い音がした。徳島の足元で、それが転がった。
「う、うわあああああ」(徳島)
「…これで残ったのは、お前ら青二才の2匹か。いや、2匹どころか、戦意があるのは片方だけか。随分と弱々しい悲鳴をあげているではないか。」(メリオジン)
遺体を弄ぶ姿勢に怒りを感じましたが、敵は強大です。感情的にならず、自分に出来ることを考え、行動しなければ。
まずは、隠れる場所を探さないとなりません。ひとまず、木陰に隠れますが、敵の銃弾を凌ぎ続ける事は出来ません。銃弾が自分の体を貫くのは時間の問題でしょう。撤退も選択肢かもしれませんが、敵のあの素早さでは逃げ切れるとは思えません。こいつはここで仕留める。そう腹をくくると、自分の神経が研ぎ澄まされるのを感じます。
「(胸の奥が、熱い。体の奥で、何かが目を覚ましたようだ。)」(万代)
不思議な感覚でした。まるで周囲の時間が穏やかに流れるように感じられ、敵の銃弾が当たることなく、気配でどこに潜んでいるかも手に取るように分かりました。
「(11時の方向。)」(万代)
TANG!
11時の方向にある木へ向かって発砲します。銃弾は当たりませんでしたが、敵が慌ててその場から去るのが分かりました。
「万代…。」(徳島)
万代の動きがこれまでと違うのは徳島も気付いていた。
「(まるで敵がどこにいるか分かってるみたいだ。)」(徳島)
「(どうして分かった?)」(メリオジン)
メリオジンは場所を変え、万代の動きを観察する。
「ふむ。ただの雑草かと思いきや、少しは面白い動きをするようだ。」
メリオジンは木の陰から万代を眺めた。だが、次の瞬間には興味を失ったように鼻で笑った。
「……だが、所詮は虫けらの足掻き。」
メリオジンは、万代の力を認めつつも、それを根底から見下すようなの声を発する。
「徳島」(万代)
「どうした?」(徳島)
「自分が、飛鳥三尉や原口三曹を殺した奴を討つ。お前は残りと戦ってくれ。倒さなくていい。自分があいつを仕留めるまで粘ってくれ。」(万代)
「お、おう、分かった。」(徳島)
「死ぬなよ。」(万代)
「お互いにな。」(徳島)
徳島は、残りの敵兵と向き合っていた。彼もまた、仲間である飛鳥や原口、入林の死を目の当たりにしていた。仇を討つべく、恐怖に震える手を抑え、彼は銃を構える。
「(ここで俺が倒れたら、万代が孤立してしまう。意地でも生き残って、あいつの背中を、この目で見てやる!)」(徳島)
TATATATANG!
銃声が二度三度と響き、徳島は敵兵の攻撃を必死にかわした。
「…なるほど。随分と見栄を張るではないか。良いだろう。お前のような虫けらが、俺にどこまで通用するか、見物してやろう。」(メリオジン)
メリオジンは、万代の声を聞いていた。
「お前、俺を倒すそうだな。敵の力量を見極められないとは、頭も悪いようだな。」(メリオジン)
「(敵の挑発には乗るな。冷静になれ、冷静になれば隙は必ずできる。)」(万代)
KIIN!
敵の刀剣と自分の銃剣で鍔迫り合いをしている中、敵が口元をわずかに動かしました。
「(来る…!)」(万代)
敵の口元から、微かな「音」と「匂い」がしました。その瞬間、自分の神経はさらに研ぎ澄まされ、毒針の軌道がスローモーションのように見えました。自分は、紙一重でそれをかわします。
「避けただと!?」(メリオジン)
「(あれが飛鳥三尉を殺した毒針か…。)」(万代)
飛鳥三尉の死因を、その目で確かめ、近接戦闘の危険性を再認識します。敵の顎に蹴りを入れ、距離を取って発砲します。
「ちっ…。」(メリオジン)
銃弾は掠りもしませんでしたが、敵は舌打ちをしました。
「随分と卑怯な戦い方をするではないか、虫けらが。」(メリオジン)
メリオジンは、近接戦闘こそが自分の真骨頂だと自負していた。距離を取って戦おうとする万代の戦術は、彼のプライドを刺激した。
「野郎、ちょこまかと!」(メリオジン)
持ち前の素早さと身軽さを駆使し、万代へ近づこうとするメリオジンだったが、近づくことが出来ない。
万代は、メリオジンが移動する先を読み、彼の一歩先に向けて発砲していた。それは、もはや勘や予測ではなかった。研ぎ澄まされた神経が、メリオジンの筋肉の動きや呼吸、わずかな足音の変化を読み取り、次にどこへ動くかを正確に把握していたのだ。
「(時間をかけると弾薬が尽きる。ならば…。)」(万代)
「(銃弾の軌道が変わった? よし、今のうちに背後を取って殺してやる。)」(メリオジン)
メリオジンの狙いは当たらず、逆に押し込まれてしまう。
「くそ、何故近づけない!?」(メリオジン)
万代に翻弄され、苛立ちを隠せないメリオジン。だが、ある事に気付いた彼は不敵に笑う。
「(ここからなら、もう一匹の姿が丸見えだ。)」
メリオジンは笑った。
「(まずはあの弱い方を殺す。そうすれば、この雑草の顔も少しは歪むだろう。)」
マシンガンを取り出し装填する。
「(隙が出来た!)」(万代)
万代の戦闘服の左袖から筒のような物が飛び出す。筒に付いているスイッチを押すと、先端からフック付きのワイヤーが飛び出し、メリオジンの背後の枝に刺さる。もう一つのスイッチを押すと、今度は万代の身体がフックの刺さった場所へ引き込まれ、メリオジンの背後を突いた。
「な、なんだぁ!?」(メリオジン)
「喰らえええええええええええ!」(万代)
TATTATATANG!
メリオジンは理解が出来なかった。しかし、考えをまとめる間もなく、万代の銃弾が彼の体を貫いた。
「…くそ、この俺が、下等生物なんぞに…!」(メリオジン)
最後にそう言い残すと、メリオジンは事切れ、その傲慢さを隠さなかった顔には、驚愕と屈辱の表情が刻まれていた。
万代は、メリオジンの動きを先読み出来ることを活かし、立体物が多く、徳島の援護へ素早く行ける位置へ誘導していた。
メリオジンが、先に飛鳥と原口、入林を仕留めた事に間違いはなかった。あの段階で、万代は新人隊員相応の実力しかなかった。万代に謎の力が覚醒したことが想定外のことであったのだ。
しかし、メリオジンは最後まで万代を見下し、格下と決めつけていた。そのため、万代の変化を受け入れることが出来ず、考えを巡らすことが出来なかった。もし、油断せずに万代と戦っていれば、同じ結果にならなかったかもしれない。
こうして何とか奴を倒すことが出来ました。こいつが原口三曹にしたように、首を刎ね捨てようとも思いましたが、徳島の援護が残っています。
TATATATANG! TATATATANG!
「(万代、まだか? 俺もしんどくなったぞ…)」(徳島)
「徳島! 討伐完了! 今向かう!」(万代)
「万代! 待ってたぞ!」(徳島)
徳島と合流し、残りの敵を掃討しました。伏兵はこれで全滅し、引き続き補給路を断つべく動こうとしました。しかし……。
「万代!?」(徳島)
視界が急に暗くなりました。
「(膝が崩れる……)」(万代)
さっきまで感じていた鋭い感覚が、一瞬で消えます。
「(体が鉛のように重い……)」(万代)
「万代!?」(徳島)
徳島の声が遠くなる…そのまま、意識が途切れました。
登場人物紹介
ノファト・メリオジン
種族・性別:ホブゴブリンの男性
所属・階級:帝国陸軍准尉、アオハリ率いる小隊の1人
備考:元は特殊作戦部隊所属だったが、アスゲニフと反りが合わずに部隊を抜ける。アオハリとは同郷で昔から知った間柄。アスゲニフがアオハリとなら上手くやれると判断し、人事参謀に推薦してアオハリの小隊に配属させた。
万代 佑大……31普連の新人。謎の力が覚醒した。
徳島 陽平……万代の同期。
飛鳥 知子……31普連所属の精鋭だったが、メリオジンの毒によって戦死。享年36歳。
入林 智仁……メリオジンに討たれる。享年30歳。
原口 すず(はらぐち)……飛鳥に鍛えられた成長株だったが、メリオジンに討たれる。享年23歳。
アズー・ヴァハムド……アオハリの部下
自衛隊に導入されている架空の装備
グラップル・ワイヤー……片手で握れるくらいの大きさで、両袖に忍ばせている。「出」スイッチを押すと尖端にフックがあるワイヤーが伸びる。フックをターゲットに引っ掛けた後、「収」スイッチを押すと、グリップにワイヤーが収納される。この動きを利用して、フックを引っ掛けた箇所に移動が出来る。ワイヤーは最長で3m出る。この装備を使って、万代はメリオジンの背後へ移動した。




