第29話 託された遺志
万代佑大です。自分は今、単独で生存者を探しています。グーリエ星人の砲撃と歩兵隊の猛攻により、戦場は混乱を極めています。自分は、仲間の遺体と血の匂いが漂う中をひたすら走り続けています。
「はぁはぁ、どこに行けば…。」(万代)
津曲や大脇一曹の無念さと想いに応えるため、グーリエ星人の殲滅を誓っても、今年入隊の新人1人でどうにか出来る状況でないのは分かっています。闇雲に突っ込んでも死ぬだけです。この戦いに勝つことも大事ですが、その可能性を1%でも上げるためにも、生存者を見つけ、共に行動することは絶対条件だと考えます。
その時、草むらから複数の銃声と、何かが倒れる鈍い音が聞こました。恐る恐る物音のする方へと身を寄せると、そこには、数体のグーリエ星人の死体と、銃を構える数名の自衛隊員がいました。
「…大脇一曹!?」(万代)
思わず声が出かけました。背格好が、あまりにも似ていたからです。でも、次の瞬間、それが違うと分かりました。銃を構えていたのは、大脇一曹ではなく、背の高い女性隊員――飛鳥三尉でした。その横には、徳島の姿もあります。
「徳島! 無事か、良かった…。」(万代)
胸の奥に張り詰めていたものが、一気にほどけました。暗闇の中で一人だった恐怖が、その瞬間だけ消えた気がしました。
「万代! お前も無事で良かった!」(徳島)
徳島に駆け寄る万代に、飛鳥が訪ねる。
「どうして単独でいるの?」(飛鳥)
「自分がいた班は壊滅…」(万代)
「生き残っていた津曲は戦死、鍵島は行方不明…」(万代)
「助けに来てくれた大脇一曹は…死亡しました」(万代)
話を聞き終えた飛鳥3尉は、「そう」とだけ答えた後、地図を広げ、冷静に状況を分析します。
「敵は、前線部隊と後方部隊を同時に叩き、我が軍の指揮系統を麻痺させた…。」(飛鳥)
飛鳥三尉の指が地図上の特定の地点をなぞります。
「おそらく、敵の最終目標は、大月の市街地ね。このままでは、さらに市民に被害が出る。私たちは、敵の増援部隊をここで食い止めなければならない。」(飛鳥)
飛鳥三尉の表情には迷いがなく、その瞳には強い意志が宿っていました。
「私たちは、敵の補給路を断つ。それが、今できる唯一の反撃よ。蔵田誠吾二等陸曹、入林智仁二等陸曹、原口すず三等陸曹、古郡翔和陸士長、末永春馬一等陸士、徳島陽平二等陸士、万代佑大二等陸士、あなたたちは私と行動を共にし、敵補給部隊を奇襲する。すず、作戦概要を皆に伝達しなさい。」(飛鳥)
飛鳥三尉の作戦は大胆で、成功すれば戦況を覆す可能性を秘めています。
「しかし、敵も我々が補給路を狙うことを想定しているのでは?」(蔵田)
「…その可能性は高い。だけど、私たちにはそれを上回る速度と正確さで迎え撃つ。それに、ここは山岳地帯。敵は私たちの地の利を完全に把握しているわけではない。」(飛鳥)
飛鳥三尉が冷静に答えます。
「(とは言っても、私達も山岳レンジャーじゃないから、彼らほどの動きは出来ない。成功率は3割ってとこかしら。でも、やるしかない。)」(飛鳥)
― 敵補給路付近 ―
TATATATANG! TATATATANG!
飛鳥三尉の作戦は順調に進んでいました。自分たちは、敵の補給部隊を次々と襲撃し、壊滅させていきました。
「やった、成功だ!」(徳島)
徳島が叫んだその時でした。
「伏兵! 隠れろ!」(飛鳥)
TATATATANG! TATATATANG!
飛鳥三尉の声が響きますが、間に合いませんでした。突如現れた敵伏兵の猛攻により、古郡士長が命を失います。
「古郡!!」(蔵田)
TATATATANG!
「うぐっ…。」(蔵田)
「ぐあ!」(末永)
敵伏兵は、補給部隊とは明らかに違います。動きが速く、そして、迷いがない。先頭の大柄なオークが、突進してくる。その圧力だけで、隊列が崩れました。オークの圧倒的なパワーとスピードに徐々に追い詰められていきます。奮闘虚しく、蔵田二曹と末永一士が敵銃弾に倒れました。
「くそ、これじゃ勝てない…。」(徳島)
絶望に顔を歪ませる徳島に、飛鳥三尉が叱咤します。
「諦めるな! まだ終わってない!」(飛鳥)
「そうだ、徳島! まだ戦える!」(万代)
ここで折れてしまったら無駄死にです。志半ばで散った仲間に合わす顔がありません。
「お、おう!」(徳島)
「(同期のあいつが頑張ってるんだ、俺だって。)」(徳島)
「お前がこの部隊のリーダーだな。グフフ…面白い…。」(ジュンムー・アオハリ陸軍少尉)
飛鳥三尉は、敵兵の隊長と思われるオークと対峙していました。敵兵の圧倒的なパワーとスピードを受け流し、銃剣を突き刺します。しかし、大柄な敵兵は、簡単に倒れません。
「万代、 俺を援護しろ!」(入林)
入林二曹でした。意図が分かりませんでしたが、入林二曹の指示に従い、言われた場所へ手榴弾を投げ込みます。
DOONG!
爆発音と共に、オークの動きが一瞬止まります。
「隙が出来た! 原口、今だ! 三尉を援護しろ!」(入林)
入林二曹の命令により、原口三曹が銃剣を持って突撃します。2人で協力して戦った結果、飛鳥三尉と原口三曹が、大柄なモンスターを仕留めました。
「やった!」(万代)
「すず、入林、よくやった。」(飛鳥)
「な!? 小隊長が…。」(ガイア・アギナウド一等兵)
「くそ、小隊長の敵討ちだ!」(アズー・ヴァハムド兵士長)
「しかし、小隊長が勝てない相手に俺たちが勝てるか?」(オムアム・ウジ兵士長)
「敵は動揺している。一気に叩く!」(飛鳥)
飛鳥三尉が一歩踏み出した、その瞬間でした。飛鳥三尉の体が、ぐらりと揺れ、そして――口から、血があふれたのです。
自分は理解できませんでした。敵は、誰も動いていない。それなのに。
「誰が撃ったんだ?」(万代)
敵は動揺し、攻撃を止めていたはずです。飛鳥三尉は、苦しそうに何かを呟こうとしますが、声になりません。彼女の口元から、赤黒い血が止めどなく溢れ出します。
「ククク…。」
その時、遠くから何者かの不気味な笑い声が聞こえました。
登場人物紹介
蔵田 誠吾
生年月日:1991年8月7日 / 出身:神奈川県
階級:二等陸曹 / 所属:31普連1中隊
備考:自部隊とはぐれた後、飛鳥と合流していた。
享年:29歳
入林 智仁
生年月日:1990年10月3日 / 出身:東京都
階級:二等陸曹 / 所属:31普連2中隊
古郡 翔和
生年月日:2000年2月17日 / 出身:茨城県
階級:陸士長 / 所属:31普連2中隊
享年:20歳
末永 春馬
生年月日:2001年2月15日 / 出身:神奈川県
階級:一等陸士 / 所属:31普連2中隊
備考:享年19歳
ジュンムー・アオハリ
種族・性別:オーク族の男性
所属・階級:帝国陸軍少尉、大月地攻略隊第1歩兵大隊で、小隊長の1人。
備考:圧倒的なパワーとスピードを活かして近接戦闘で猛威を振るう。飛鳥と原口の挟撃により討たれる。
アズー・ヴァハムド
種族・性別:オーク族の男性
所属・階級:帝国陸軍兵士長、大月市攻略隊第1歩兵大隊で、アオハリの小隊に所属。
備考:伏兵として現れる。
オムアム・ウジ
種族・性別:ゴブリン族の男性
所属・階級:帝国陸軍兵士長で、アオハリの小隊に所属。
ガイア・アギナウド
種族・性別:オーク族の男性
所属・階級:帝国陸軍一等兵で、アオハリの小隊に所属
万代 佑大……31普連1中隊所属の新人隊員。
徳島 陽平……万代の同期。
飛鳥 知子……31普連2中隊所属の精鋭。
原口 すず(はらぐち)……飛鳥によって鍛えられた成長株。
グーリエ星に存在する種族
オーク……ファンタジー物でお馴染のモンスター。ゴブリン族同様、知性があり会話が可能なので、帝国内で市民権がある。生活様式は、ゴブリンと似ているが、オークは大柄でパワーがあり、力仕事を任されることが多い。上位種にオーガがいる。




