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外星戦記  作者: 無名の凡夫


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第28話 それぞれの絶望

「総員、戦闘開始!」(武石)


武石の号令は、その場に響く隊員の断末魔の悲鳴と、空から降り注ぐ砲撃の轟音にかき消された。後方部隊の状況は、もはや絶望的だった。帝国軍の特殊作戦部隊による暗殺、そして、上空からの無慈悲な砲撃…。


「(あの威力は、RPG相当のものだ。それが何発も…!しかも、こんな山岳地帯に、どうやって重火器を…!?)」(武石)


武石は、思考の混乱を抑えきれずにいた。


「連隊長、小林中隊長が戦死! 第3中隊も壊滅的です!」(古伝間拓人(こでんま たくと)一等陸尉)


「ぐう…。これで13普連は、中隊長2人が戦死か…。」(武石)


「うわあああああ!」

「ぎゃああああああ!」


どこからか聞こえる隊員の悲鳴が、武石の心を深くえぐる。


「今、12特科隊が、FH70を設置していますが…天使族に狙われ、作業が滞っています!」(古伝間)


「麻生と連絡を取れるか?」(武石)


「現在、交戦中。」(古伝間)


「そうか…。もはや、彼に頼るしかないのか…。頼む…。」(武石)


武石は、心の中で、遠く離れた戦友たちの無事を祈ることしかできなかった。





―自衛隊 山梨方面隊・前線部隊―


「ぐ…。」(大脇)


帝国軍第3砲兵大隊からの砲撃により、前線部隊も壊滅的な被害を受けていた。


「天売!」(大脇)


大脇は、瓦礫の山から、無残な姿で横たわる天売の遺体を見つけた。


「く…。死んでる。」(大脇)


「他の者はどうなった?」(大脇)


あたりを見回す大脇。そこには、グーリエ星人の亡骸もあった。ガロウ・イビレイタは胴から下を失っており、首が吹き飛んで誰なのか判別できない遺体が、敵味方問わずに散乱していた。かろうじて生きていた、ココ・プリケリマは、激痛により、声にならない声をあげている。


「(あいつら、味方もろとも吹き飛ばしたのか…。クソが…!)」(大脇)


怒りが湧き上がるが、大脇の体は言うことを聞かなかった。砲撃で吹き飛ばされた左腕からは、ドクドクと夥しい血が流れ続けている。至急、止血処理をする大脇だったが、もはやまともに戦える状態ではなかった。


「(こいつ『プリケリマのこと』は、放っておいても死ぬ。ならば、他の敵兵を倒す…。)」(大脇)


「(これでは小銃を扱えん。だが…。)」(大脇)


大脇は、倒れた天売の遺体から拳銃を抜き取り、自身のものと合わせて2丁を手に取った。


「(この体じゃ、長くはもたん。だが……)」(大脇)


「(天売、お前の無念を晴らせるかは分からねぇ。だが、最期まであがいてみるよ。)」(大脇)


彼の目に、絶望はなかった。ただ、敵への憎悪と、最期まで任務を全うするという使命感が彼を突き動かした。




 ― 帝国軍 野戦本部 ―


「砲撃は共に成功。」(シス・アル・ミルカー陸軍中佐)


「よし! では、第1歩兵大隊も出撃だ!」(アイトンダ)


「敵は虫の息だ! 一気に制圧せよ!」(アル・ミルカー)


第3砲兵大隊、そして上空哨戒部隊の砲撃を受け、壊滅的な被害を被った自衛隊・山梨方面部隊。さらに追い打ちをかけるように、新たな伏兵が進軍してきた。




 ― 自衛隊 山梨方面隊・前方部隊 ―


「隊長! 前方から敵です!」(村西)


「おそらく、これが敵本隊…。」(桐谷)


「迎え撃つぞ! 総員、戦闘開始だ! ここを破られたら、大月を取られる! 絶対に死守する!」(別当)


「了解!!」


ベテランの隊員は、この状況でも最善を尽くそうとしていた。それはこれまでの経験から培ってきたものだ。では、経験の浅い新人だけで孤立した場合はどうなるのか…。




「も、もう駄目だ…。俺たちは死ぬんだ…。」(万代佑大(ましろ ゆうだい)二等陸士)


「いやあ…。誰か助けて…。死にたくないよぉ…。」(鍵島乃希(かぎしま のき)二等陸士)


「何をやってるんだ、立て! 立って戦うぞ!」(津曲)


別の場所では、絶望に顔を歪ませる若手隊員が2人。その2人を鼓舞するもう一人の若手隊員の津曲だが、2人はもう心が折れている。一度、心が折れると、再び立ち上がるのは難しい。唯一、闘志を失っていない津曲も、こめかみ付近から出血しており、血が目に入って視界が悪くなっている。


「もう、無理だよ。さっきの爆撃でほとんど死んじまったんだぞ、俺たちだけでどうやって勝つんだよ!」(万代)


「しかし、ここでじっとしてても何もならんぞ! 戦わないと死ぬ。俺たちだけじゃない、大月に残ってる市民も死なせてしまう!」(津曲)


山梨や静岡は、占領された首都圏と近く、特に神奈川よりの自治体は、テリムトとの緩衝地帯となっている。そのため、多くの住民が避難を余儀なくされたが、それでも残っている住民もいる。実際、この砲撃により、命を落とした住民も少なくなかった。


「これ以上、犠牲者出さないためにも、戦うんだ!」(津曲)


「もう無理よ…。帰りたい…。ヒュッ…ヒュッ…」(鍵島)


彼女の呼吸は浅く、過呼吸気味だった。


「おい、ここに3匹いるぞ!」


「女は殺すな、生け捕りにしろ!」


「くっ…。(鍵島も万代も戦えない。なら、俺がやるしかない。)」


津曲は銃を構えた。


PANG!


乾いた銃声が響く。しかし次の瞬間――


PAANG!


敵兵の銃弾が津曲の胸を撃ち抜いた。津曲の体が崩れ落ちる。


「……あ……」


それが、彼の最後の声だった。


「ああ、津曲…。」(万代)


「ああああ…。」(鍵島)


「お願いです。命だけは取らないでください。」(万代)


「お願いします。助けてください、何でもしますから…。」(鍵島)


必死に命乞いをする2人。だが、グーリエ星人にとって、それは無意味な行為だった。その時…。


PAN! PAN! PAN!


「ぎゃっ!」

「うわっ!」

「ぐっ!」


3発の銃声と共に、敵兵が次々と倒れる。


「敵と対峙したら、泣きながら命乞いしろと教わったのか?」(大脇)


「お、大脇一曹…。」(万代)


「!?」(万代)


大脇が救援に来て、安堵した万代だったが、その大脇の姿を見て驚愕する。大脇の左腕は欠損していた。応急処置はしていたが、血が止まっていない。呼吸は荒く、顔色も悪い。長くは持たないと、万代にも分かった。


「まずは、生存者を探す。俺に着いてこい!」(大脇)


万代は我に返った。大脇は、自分の命が尽きるまで、その使命を全うしようとしていた。最期まで戦う姿勢を崩さない姿勢に、先ほどまで心が折れていたことを恥じ、この切望的な状況を打開すべく立ち上がった。


「了解!」(万代)


「さあ鍵島、行こう。」(万代)


「無理、もう歩けない…。」(鍵島)


か弱い声で呟く鍵島。彼女の心はまだ折れたままだった。


「ここにいても何も出来ない。立たないと。」(万代)


「いやだ、もう戦いたくない…。死にたくない…。家に帰りたい…。」(鍵島)


「鍵島、生きるには自分の足で立たないとダメだ。ここはそういう場所だ。(俺が言うのもなんだけど…。)」(万代)


その時、遠くで銃声が聞こえた。誰かがまた、死んだ。


「……仕方ない。鍵島は置いていく。」 (大脇)


「!?」(万代、鍵島)


「そんな…。お願いです、見捨てないで下さい…。」(鍵島)


「時間がない…。戦えないのなら、ここに置いていく…。」(大脇)


万代の背筋に、冷たいものが走った。


「(自分もそうなってたかも…)」(万代)


非情な決断をする大脇だったが、自分はもう助からないということは自覚していた。ならば、動けるうちに一人でも多くの敵を倒すことが、この状況を切り抜ける最善の策だと信じていた。隻腕の大脇に鍵島を担ぐことは不可能である。


「なら、自分が鍵島を背負って…。」(万代)


「そうすればお前が身重になる。俺がこんな状態だ。お前の動きが重要になってくる。ここに残っても意味がない。進まないといけないんだ!」(大脇)


「…くっ……。」(万代)


「そんな…あんまりです!」(鍵島)


泣きながら懇願する鍵島をその場に残し、生存者を探しにいく大脇と万代。大脇は唇を噛みしめ、万代は涙を流す。


その背後で、鍵島の泣き声がしばらく続いていた。だが、数分後――その声は、突然途絶えた。



生存者を探す大脇と万代だったが、見つかるのは味方の亡骸ばかりだった。


「(大岩…。設楽…。玉城…。くそ………。)」(万代)


中には、苦楽を共にした同期の遺体も見つかった。万代は、亡くなっていた同期と、厳しい訓練を共に乗り越えた日々や、休日に皆で外食をした、数々の思い出がよみがえり、涙が抑えきれない。


「大脇一曹、天売三曹、嶋三曹や長谷川陸士長は…。」(万代)


「俺が倒れていた傍に、天売も倒れてた。首や胴体が吹き飛んでいる仲間の遺体が2つあった。状況からして、それが嶋と長谷川だ。」(大脇)


「…そんな…。」(万代)


「悲しむのは、戦いが終わった後だ…。今は、この状況を切り抜けることを考えろ。」(大脇)


大脇が声に力が亡くなり、呼吸も弱くなっていた。死期が確実に近づいていた。そして、前方に敵兵が4体。戦闘を避けられそうにはなかった。


「万代よ、お前みたいな青二才と一緒では、勝てる戦いも勝てん。お前は奴らの目を盗み、先へ進め。頼んだぞ。」(大脇)


「えっ? 」(万代)


大脇は、そう言い残し、敵兵4体と戦闘を始めた。


PANG! PANG!


拳銃の乾いた音が響く。万代は、その隙に大脇から離れ、その場を離脱する。


「(大脇一曹は、自分を逃がすために…。)」(万代)


「(ちくしょう…。)」(万代)


万代は振り返らなかった。振り返れば、大脇の最期を見てしまう気がしたからだ。


敵兵の銃剣が大脇の胸を貫いた。大脇の体がぐらりと揺れ、膝から崩れ落ちる。兵士の一人が歩み寄り、腰の剣を抜いた。次の瞬間、鈍い音がした。刃が首を断ち、大脇の体が地面に倒れる。切り離された首を、敵兵は髪を掴んで持ち上げた。


「おおっ!」


背後で、敵兵の歓声が上がった。それが何を意味するのか、万代は理解していた。それでも、彼は前へ進んだ。

登場人物紹介

古伝間こでんま 拓人たくと

生年月日:1982年7月12日 / 出身:長野県

階級:一等陸尉 / 所属:13普連本部管理中隊


万代ましろ 佑大ゆうだい

生年月日:2001年8月22日 / 出身:三重県

階級:二等陸士 / 所属:31普連所属の新人隊員。

備考:津曲とは同期。


鍵島かぎしま 乃希のき

生年月日:2001年5月30日 / 出身:栃木県

階級:二等陸士 / 所属:31普連隊所属の新人隊員

備考:津曲とは同期。戦場で心が折れる。女性


小林こばやし 英哉ひでや

生年月日:1980年6月24日 / 出身:長野県

階級:三等陸佐 / 役職:13普連3中隊中隊長

享年:40歳。


大岩おおいわ 史音しおん

生年月日:2002年1月16日 / 出身:神奈川県

階級:二等陸士 / 所属:31普連所属の新人隊員

備考:万代の同期 / 享年:18歳


設楽 シルフ(しがらき)

生年月日:2001年12月29日 / 出身:東京都

階級:二等陸士 / 所属:31普連所属の新人隊員。女性

備考:万代の同期 / 享年:19歳


玉城たましろ ぜん

生年月日:2001年7月1日 / 出身:静岡県

階級:二等陸士 / 所属:31普連所属の新人隊員

備考:万代の同期 / 享年:19歳


シス・アル・ミルカー

種族・性別:狐型獣人族の女性

所属・階級:陸軍中佐、第1歩兵大隊でアイトンダの副官。


武石たけいし 哲也てつや……13普連の連隊長

大脇おおわき 和夫かずお……重傷を負いながらも万代を導いた。享年40歳。

村西むらにし 孝治たかはる……12貞大の2中隊所属

桐谷きりたに 法征のりと……12偵大の大隊長

別当べっとう 強司つよし……31普連の連隊長

津曲つまがり 祐樹ゆうき……真面目な新人隊員。最期まで任務を全うしようとした。享年20歳。


※グーリエ星人は、これまでの戦いで、「捕えた地球人は若い男女以外はすぐに殺害、若い男女は奴隷より酷い扱いを受け、容姿が整っている者は慰み物にされてきた。しかし、これも少数事例で、大抵はその場で殺される。」というデータが自衛隊にあり、隊員には、命乞いは無意味であることを教育しています。

このデータは、かつて捕えられながらも、生きて脱出した女性隊員の証言により得ました。その隊員の現在は退官したとか、脱出できた経験を特戦群に入って活かしているとも言われています。

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