第29話 砲兵陣地潜入
「爆発だ!」
「弾薬庫がやられた!」
「伏せろ! 2次爆発が来るぞ!」
轟音が山間を揺らした。弾薬庫で誘爆した砲弾が次々と炸裂し、爆風が兵士と資材を容赦なく吹き飛ばしていく。夜空は爆炎で真っ赤に染まり、砲兵陣地は一瞬で混乱に陥った。
「何事だ!?」
ジェアは指揮所から飛び出した。
「弾薬庫です!」
偵察小隊長アラミー・オサスタ少尉は爆炎を見つめ、顔色を変えた。
「砲撃ではありません」
オサスタは爆炎を見つめ、確信した。
「外からの砲撃ではありません。内部に侵入されています。」
「侵入されたのか…!」
ジェアの表情が凍りつく。オサスタの言葉に、ジェアは自らの油断を呪った。
「特殊部隊か……!」
「敵は少数だ!砲兵は持ち場を離れるな!」
「第一中隊は砲列を防御!」
「本部小隊は指揮所を守れ!」
「偵察小隊は侵入経路を捜索!」
ジェアはすぐさま指示を飛ばす。その声は怒気が強かった。自身の怠慢が許せなかった。
「通信、ジャミングされています!」
「通信途絶か…」
「アイボ!」
「はっ!」
「第1中隊へ急げ!特殊部隊侵入!砲列防御を伝達!」
「ブルーム!」
「はっ!」
「第1歩兵大隊へ 敵特殊部隊侵入!」
「アラミーは、偵察小隊を率いて侵入経路を捜索しろ!」
「了解!」
「第4分隊は、俺と共に上空!」(オサスタ)
「第5分隊は、地上!」(オサスタ)
「了解!」
※ズバンニャ・ゴック曹長、第3砲兵大隊 偵察小隊第5分隊長
「第6分隊は西側!」
「はっ!」
森の奥で、再び爆発が起きた。今度は弾薬庫ではない。砲列の一角だった。
「第2砲列被弾!」
「違う! 爆薬だ! 奴らまだ中にいる!」
砲兵たちの怒号が飛び交う。爆煙が視界を覆い、誰も敵を視認できない。
「どこだ!」
「姿が見えん!」
「木の陰だ!」
「違う!」
「撃つな! 味方だ!」
混乱は連鎖していく。
砲兵は本来、遠距離火力を担当する部隊だ。近距離で姿の見えない敵と戦う訓練は歩兵ほど積んでいない。それを熟知しているからこそ、特戦群は爆破を連続させ、敵を混乱へ誘い込んでいた。
ジェアもそれは理解していた。
「撃つな!」
怒号が陣地中へ響く。
「敵の狙いは混乱だ! 勝手に発砲するな!」
その一喝で兵士たちの動きが止まる。さすがは砲兵大隊長だった。混乱しかけた部隊を、一瞬で立て直す。
「アラミー!」
「はっ!」
「敵は爆薬を設置しながら移動している。必ず痕跡が残る。木の枝、足跡、血痕、何でもいい。探し出せ。」
「了解!」
オサスタは双眼鏡を下ろした。
「第5分隊、地上索敵!」
「第6分隊、西側!」
「第4分隊、俺に続け!」
鳥人たちが空へ舞い上がる。
一方――
森の奥、巨大な杉の幹の陰。そこに4つの人影が静かに伏せていた。
「隊長。」
フウマが囁く。
「敵の指揮統制が戻り始めています。」
イガは双眼鏡越しに砲兵陣地を見る。
「予想より早い。」
「さすが大隊長ですね。」
「だから面白い。」
イガは口元だけ笑った。
「第一班。」
3人が小さく頷く。
「これより指揮所を落とす。」
誰も返事はしない。
返事は不要だった。
全員が同じ秒数を数えていた。
3
2
1
イガが静かに右手を振り下ろした。
4つの影が、夕闇へ溶けるように走り出した。
登場人物紹介
特殊作戦群
イガ
フウマ
他2人
シムバッド・ジェア……第3砲兵大隊長、エルダードワーフの男性
アラミー・オサスタ……同 情報小隊長、カラス型鳥人族の男性
アイボ……アイボ・アウストラ兵士長、ケンタウロス族の男性
ブルーム……ブルーム・オムアム上等兵、同じくケンタウロス族の男性
グーリエ星時に存在する種族
エルダードワーフ……ドワーフ族の上位種。エルフ同様、ドワーフ族と比較して長寿で、様々な能力が高く生まれてくる。こちらも進化種ではないが、ハイエルフのように人を見下すケースが少ない。そのため、ドワーフ族からは深く尊敬される。
ケンタウロス族……上半身は人間、下半身は馬の種族。足が速く、最大速度は時速80キロ。健脚とパワーを活かして、車両の故障時は補給品の運搬、無線が故障した際には伝令役を務めることが多。スピードを活かした突撃も脅威となる。




