第28話 影の反撃
万代は強敵メリオジンを討ち取った。しかし、その勝利は戦場全体から見れば、小さな戦果に過ぎない。前線ではなお、自衛隊は押し込まれ続けていた。その戦況を覆すため、一つの部隊が静かに動き始めていた。
闇に紛れた数人の隊員が山肌に伏せていた。その先には帝国軍砲兵陣地。双双眼鏡を下ろした男が、低く告げた。
「目標、敵砲兵部隊。座標は既に把握している。」
イガは双眼鏡を覗き込み、遠くに見える砲兵陣地を確認した。砲兵大隊は、油断しているのか、警備が手薄になっている。
「やはり、敵は我々を完全に制圧したと見ているようだ。」
「好都合ですね。」
コウガは静かに答えた。
「第1班、指揮所」
「第2班、弾薬庫」
「第3班、砲列」
「制限時間20分。」
イガはそう告げると、通信機を別当一佐の周波数に合わせる。
「…敵、重火器の使用を確認!全隊、後退しろ!」
※別当 強司一等陸佐、第31普通科連隊長
別当は、怒号にも似た声で叫んだ。帝国軍第1歩兵大隊の攻撃は激しさを増し、さらに後方からの砲撃が自衛隊を追い詰めていた。
(このままでは、全滅だ…。)
その時、別当の通信機からノイズ混じりの声が聞こえてきた。
「こちら、S。聞こえるか?」
その短いコールサインだけで別当は察した。
「こちら、別当。S…特戦群か!?」
「そうだ。現在、敵砲兵部隊を視認した。これから攻撃を開始する。貴官らの部隊は、一時的にでも敵歩兵部隊の進撃を食い止めてほしい。我々の攻撃で敵は動揺する。その隙に体勢を立て直してもらう。」
別当は、にわかに信じられない気持ちだった。特戦群の任務は極秘事項であり、その全容が公に出ることはない。敵の罠も疑ったが、この状況を打開するうえで、作戦の概要を聞くことにした。
「…共同作戦だと?どうやって…。」
「貴官の部隊は、歩兵部隊を正面から引きつけていただきたい。我々は、その隙に敵砲兵陣地を内部から攻撃する。敵は完全に油断している。この機会を逃すわけにはいかない。」
別当は数秒黙った。罠かもしれない。だが、このままでも全滅する。
「……承知した。」
イガにそう告げると、別当は通信機を握りしめた。特戦群。その名前は知っている。だが――共同作戦など前例がない。
「…分かれ。」(イガ)
返事はなかった。だが次の瞬間、隊員たちは同時に動いた。枯葉一枚鳴らさず、隊員たちは森へ消えた。
全員が散開する中、イガだけが、その場に一瞬残った。そして静かに呟いた。
「20分…」
「よし、皆聞け!特戦群が敵の砲兵を潰す連絡を受けた!その間、我々は敵の歩兵部隊を食い止める!」
別当の声に、隊員たちは一斉に顔を上げた。
「劣勢なのは変わりない。だが、我々は多くの国民の命も背負っていることを忘れるな!これは反撃の狼煙だ!絶対に、ここを死守するぞ!」
「はい!」
別当の言葉に、恐怖に震えていた隊員たちの目に、再び闘志が宿った。
「各班、弾薬確認!」
「側面警戒!」
「持ち場へ戻れ!」
隊員たちは、それぞれの持ち場へと走り出す。彼らの顔から、絶望の色が消えたわけではない。しかし、この状況を打開するうえで、特戦群を信じるしか道はないと判断したのだ。
「うし、撃ち方止め!」(ジェア)
「よろしいのですか?」
※アラミー・オサスタ少尉、大月攻略隊第3歩兵大隊・偵察小隊長
「制圧はほぼ完了している。弾の節約だ。あとは、第1大隊に任せて問題ない。」
「それも、そうですね。」
砲撃が止まり、砲兵たちはようやく息をついた。誰も周囲を警戒していない。見張りの兵ですら、銃を下げたままだった。
ジェアやオサスタの高笑いが響く。砲兵たちは誰一人、陣地の外へ注意を払っていなかった――その砲兵陣地の外縁で、見張りの兵が静かに崩れ落ちたことに、まだ誰も気づいていない。砲兵陣地のすぐ外縁。すでに数人の影が、音もなく侵入していた。
『配置につけ』
「了解。」
数秒後。
『第一班』
「到達」
『第二班』
「配置完了」
『第三班』
「配置完了」
イガは短く頷いた。
「…予定通りだ。」
『これより、攻撃開始』
短い沈黙。そして――闇の中で、爆薬の安全装置が外された。闇を裂く爆発音が山間に響いた。
登場人物紹介
イガ……特戦群の1人
コウガ……特戦群の1人
フウマ……特戦群の1人
ダンゾウ……特戦群の1人
アラミー・オサスタ
種族・性別:鴉型鳥人族の男性
所属・階級:陸軍少尉で、第3砲兵部隊の偵察小隊長。
備考:視力が良い
別当 強司……31普連の連隊長
シムバッド・ジェア……大月攻略隊第3砲砲兵大隊大隊長
グーリエ星に存在する種族
鳥人族……鳥のような見た目をしているが、2足歩行で歩く種族。飛行能力はタイプによるが、天使族よりは落ちる。羽に手が隠れているため、物を持つことは出来るが、少々不便。上空で武器を構える時は、緩やかに下降しているので、隙が出来やすい。




