第27話 閃光と喪失
「飛鳥三尉!?」
何かを伝えようとしています。しかし、声になりません。
「飛鳥さん、飛鳥さん!」
原口三曹が抱き起こしますが、飛鳥三尉の瞳から光がゆっくり消えた。
「そんな……。」
彼女はそのまま動かなくなった。
「嘘だろ、飛鳥三尉が…」(徳島)
飛鳥三尉の体を抱き起こした原口三曹の手が震えていました。
「飛鳥さん…!」
原口三曹は飛鳥三尉の首筋を見ました。その瞬間、彼女の顔色が変わります。
「……毒?」
数本の細い針が、首に刺さっていました。原口三曹の表情が怒りに歪みます。
「誰が…こんな卑怯な真似を…!」
「笑い声が聞こえた。多分そいつが飛鳥三尉を…。」(入林)
「敵の隊長が倒れた、残りの奴も仕留めるぞ!」(ヴァハムド)
「野郎、やらせるか!」(入林)
飛鳥三尉の死により、グーリエ星人の士気も上がります。入林二曹が、慌てて銃口を向けますが、敵の士気は落ちません。すると、敵の背後から何かが、影のように飛び出しました。
次の瞬間……原口三曹の体が止まりました。
「……え?」
首がゆっくりとずれ、そして地面に落ちました。
「な……」(入林)
「……原口三曹の首が、ない。」(徳島)
「…くだらん。」
ノファト・メリオジン准尉
姿を現したのは、ゴブリンの男でした。奴の持つ軍刀からは、原口三曹の血が滴っています。
「くそっ」
入林二曹が発砲しますが、当たりません。いや──違う。撃った瞬間、そこにはもういなかったのです。
「……え?」
入林二曹がそう呟いた次の瞬間です。彼の背後に、ゴブリンが立っていました。ナイフを一閃――首から血が噴き出し、入林二曹の体が崩れ落ちました。入林二曹は即死でした。あのナイフにも毒が塗られているようです。強い、あまりにも強すぎる…。目で追う事すら出来ませんでした。
奴は肩をすくめるように笑った。
「いやはや、驚いた。まさか、雑草を狩るのに毒が必要だったとは。だが、大したことはなかった。アオハリはこんな奴等に負けたのか。」(メリオジン)
そいつは嘲笑するように、原口三曹の頭部を地面に投げ捨てます。ゴトリ、と鈍い音がした。徳島の足元で、それが転がった。
「う、うわあああああ」(徳島)
そして、今度は飛鳥三尉の遺体へ向かっていく…。
「こいつはイ-05じゃないか。これは好都合。しかし、この程度がイクソキューショナーとは笑わせる。」
そう言うと、ゴブリンは飛鳥三尉の首を切り落としました。
「良い戦利品だ。これでイ-05も回収できて、上も喜ぶ。」
「…これで残ったのは、お前ら青二才の2匹か。いや、2匹どころか、戦意があるのは片方だけか。随分と弱々しい悲鳴をあげているではないか。」
何かを呟いた後、自分達に向かって挑発的な言葉を発します。遺体を弄ぶ姿勢に怒りを感じましたが、敵は強大です。感情的にならず、自分に出来ることを考え、行動しなければ。
まずは、隠れる場所を探さないとなりません。ひとまず、木陰に隠れますが、敵の銃弾を凌ぎ続ける事は出来ません。銃弾が自分の体を貫くのは時間の問題でしょう。撤退も選択肢かもしれませんが、敵のあの素早さでは逃げ切れるとは思えません。こいつはここで仕留める。そう腹をくくると、自分の神経が研ぎ澄まされるのを感じます。
(胸の奥が、熱い。体の奥で、何かが目を覚ましたようだ。)
耳が異常に良くなりました。敵の足音、呼吸、心臓の鼓動が聞こえます。不思議な感覚でした。まるで周囲の時間が穏やかに流れるように感じられ、敵の銃弾が当たることなく、気配でどこに潜んでいるかも手に取るように分かりました。
(11時の方向。)
11時の方向にある木へ向かって発砲します。銃弾は当たりませんでしたが、敵が慌ててその場から去るのが分かりました。
「万代…。」
万代の動きがこれまでと違うのは徳島も気付いていた。万代は新人だった。射撃も格闘も、自分と大差なかった。なのに、今は違う。
(まるで敵がどこにいるか分かってるみたいだ。)
(どうして分かった?)
メリオジンは場所を変え、万代の動きを観察する。
「ふむ。ただの雑草かと思いきや、少しは面白い動きをするようだ。」
メリオジンは木の陰から万代を眺めた。だが、次の瞬間には興味を失ったように鼻で笑った。
「……だが、所詮は虫けらの足掻き。」
メリオジンは、万代の力を認めつつも、それを根底から見下すようなの声を発する。
「徳島」
「どうした?」
「自分が、あいつをを討つ。お前は残りと戦ってくれ。倒さなくていい。自分があいつを仕留めるまで粘ってくれ。」
「お、おう、分かった。」
「死ぬなよ。」
「お互いにな。」
徳島は、残りの敵兵と向き合っていた。彼もまた、仲間である飛鳥や原口、入林の死を目の当たりにしていた。仇を討つべく、恐怖に震える手を抑え、彼は銃を構える。
(ここで俺が倒れたら、万代が孤立してしまう。意地でも生き残って、あいつの背中を、この目で見てやる!)
銃声が二度三度と響き、徳島は敵兵の攻撃を必死にかわした。
「…なるほど。随分と見栄を張るではないか。良いだろう。お前のような虫けらが、俺にどこまで通用するか、見物してやろう。」
メリオジンは、万代の声を聞いていた。
「お前、俺を倒すそうだな。敵の力量を見極められないとは、頭も悪いようだな。」
メリオジンは、万代に挑発的な言葉を投げかける。
(敵の挑発には乗るな。冷静になれ、冷静になれば隙は必ずできる。)
「キイン」と言う音が響く。鍔迫り合いをしている中、メリオジンの口元が僅かに動く。
(来る…!)
万代は、メリオジンの口元から、僅かな「音」と「匂い」を感じ取る。その瞬間、彼の神経はされに研ぎ澄まされ、毒針を紙一重で躱す。
「避けただと!?」
(あれが飛鳥三尉を殺した毒針か…。)
万代は近接戦闘の危険性を再認識した。メリオジンの顎に蹴りを入れ、距離を取って発砲する。
「ちっ…。」
銃弾は掠りもしませんでしたが、敵は舌打ちをしました。
「随分と卑怯な戦い方をするではないか、虫けらが。」
メリオジンは、近接戦闘こそが自分の真骨頂だと自負していた。距離を取って戦おうとする万代の戦術は、彼のプライドを刺激した。
「野郎、ちょこまかと!」
持ち前の素早さと身軽さを駆使し、万代へ近づこうとするメリオジンだったが、近づくことが出来ない。
万代は、メリオジンが移動する先を読み、彼の一歩先に向けて発砲していた。それは、もはや勘や予測ではなかった。研ぎ澄まされた神経が、メリオジンの筋肉の動きや呼吸、わずかな足音の変化を読み取り、次にどこへ動くかを正確に把握していたのだ。
(時間をかけると弾薬が尽きる。ならば…。)(万代)
万代は左袖の装置に触れる――まだ使える。
(銃弾の軌道が変わった? よし、今のうちに背後を取って殺してやる。)
メリオジンの狙いは当たらず、逆に押し込まれてしまう。
「くそ、何故近づけない!?」
万代に翻弄され、苛立ちを隠せないメリオジン。だが、彼はあることに気付いた。
(ここからなら、もう一匹の姿が丸見えだ。)
(まずはあの弱い方を殺す。そうすれば、この雑草の顔も少しは歪むだろう。)
メリオジンはニヤリと笑い、マシンガンを取り出し装填する。
(隙が出来た!)
万代の戦闘服の左袖から筒のような物が飛び出す。筒に付いているスイッチを押すと、先端からフック付きのワイヤーが飛び出し、メリオジンの背後の木に刺さる。もう一つのスイッチを押すと、今度は万代の身体がフックの刺さった場所へ引き込まれ、メリオジンの背後を突いた。
「な、なんだぁ!?」
(獲った!)
メリオジンは理解が出来なかった。しかし、考えをまとめる間もなく、万代の銃弾が彼の体を貫いた。
「…くそ、この俺が、下等生物なんぞに…!」
最後にそう言い残すと、メリオジンは事切れ、その傲慢さを隠さなかった顔には、驚愕と屈辱の表情が刻まれていた。
万代は、メリオジンの動きを先読み出来ることを活かし、立体物が多く、徳島の援護へ素早く行ける位置へ誘導していた。
メリオジンが、飛鳥、原口、入林を先に仕留めた事に間違いはなかった。あの段階で、万代は新人隊員相応の実力しかなかった。万代に謎の力が覚醒したことは想定外のことだった。
しかし、メリオジンは最後まで万代を見下し、格下と決めつけていた。そのため、万代の変化を受け入れることが出来ず、考えを巡らすことが出来なかった。もし、油断せずに万代と戦っていれば、同じ結果にならなかったかもしれない。
こうして何とか奴を倒すことが出来ました。こいつが原口三曹にしたように、首を刎ね捨てようとも思いましたが、徳島の援護が残っています。
(万代、まだか? 俺もしんどくなったぞ…)
徳島は何とか、敵の攻撃から身を守っていたが、距離が徐々に近づいていた。このままでは死ぬ――そう感じていた時だった。
「徳島! 敵を排除! 今向かう!」
「万代! 待ってたぞ!」
あのゴブリンを失った敵兵は明らかに統制を失っていました。徳島と挟撃する形で反撃すると、敵は散り散りに撤退を始めます。それから、引き続き補給路を断つべく動こうとしました。しかし……。
「万代!?」
視界が急に暗くなりました。
(膝が崩れる……)
さっきまで感じていた鋭い感覚が、一瞬で消えます。
(体が鉛のように重い……)
さっきまで鮮明だった世界が、急速にぼやけていく。
「万代!」
徳島の声だけが遠くで響いた。
登場人物紹介
ノファト・メリオジン
種族・性別:ホブゴブリンの男性
所属・階級:帝国陸軍准尉、アオハリ率いる小隊の1人
備考:元は特殊作戦部隊所属だったが、アスゲニフと反りが合わずに部隊を抜ける。アオハリとは同郷で昔から知った間柄。アスゲニフがアオハリとなら上手くやれると判断し、人事参謀に推薦してアオハリの小隊に配属させた。
自衛隊に導入されている架空の装備
グラップル・ワイヤー……片手で握れるくらいの大きさで、両袖に忍ばせている。「出」スイッチを押すと尖端にフックがあるワイヤーが伸びる。フックをターゲットに引っ掛けた後、「収」スイッチを押すと、グリップにワイヤーが収納される。この動きを利用して、フックを引っ掛けた箇所に移動が出来る。ワイヤーは最長で3m出る。この装備を使って、万代はメリオジンの背後へ移動した。




