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外星戦記~異星人に家族を殺された少年は、自衛官になって復讐を誓う~  作者: 無名の凡夫
第3章 九州奪還へ

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第324話 補給線の先に

ローレライはイリーの傍らに膝をつくと、まず呼吸と出血の状態を確認した。


首には強く圧迫された痕が残り、右肩の衣服は血で濡れていた。銃創に加えて軍刀による負傷もあり、応急処置だけで済ませられる状態ではない。意識も失ったままで、呼びかけに対する反応は見られなかった。


「イリー、聞こえる?」


ローレライは声をかけながら負傷箇所を確認し、出血の続いている部分に止血材を当てて圧迫を加えた。その刺激に反応したのか、イリーの身体がわずかに動いたものの、目を開ける様子はなかった。


「痛いでしょうけど、我慢してね。すぐに終わるから」


返事はなかったが、呼吸は続いている。ローレライはその状態を確かめながら処置を進め、ふと近くに倒れているサリカムへ視線を向けた。腹部には軍刀が突き立てられたままで、床には大量の血が広がっていた。すでに息絶えていることは明らかであり、ローレライも彼女を救うことができなかったという現実を理解していた。


今すぐ駆け寄りたい気持ちはあった。しかし、イリーの出血を抑えるために加えている手を離すわけにはいかない。目の前には、まだ命をつなぎ止められる可能性のある仲間がいるのだ。


ローレライは唇を引き結ぶと、サリカムから視線を戻し、イリーへの応急処置を続けた。


     


一方、ビービ達は施設内に残っていた帝国兵の掃討を続けていた。


第117、第118歩兵科中隊の抵抗は弱まりつつあったものの、建物の内部にはなお武装した帝国兵が残っており、戦闘が完全に終結したわけではなかった。通路や各室には死角も多く、残敵が潜んでいる可能性を考慮すれば、安全確認を急ぐことはできなかった。


ビービはスライスたちと連携し、互いの位置を確かめながら通路を進んでいた。


「まだ残っているかもしれない。油断しないで」


「了解」


スライスが応じると、隊員たちは互いの死角を補うように警戒を続け、順番に各室の安全を確認していった。


やがて、ある部屋の確認に入った隊員が、机の上に置かれているタブレット端末を発見した。


「班長、これを見てください」


呼ばれたビービが近づくと、端末の画面には地図らしきものが表示されていた。複数の地点を示す記号が線で結ばれており、当初は施設内の配置図かとも思われたが、表示範囲を確認すると、現在地から離れた場所にも同じ形式の記号が並んでいる。


「……兵站拠点の地図?」


ビービは画面を覗き込み、表示されている情報を詳しく調べようとした。しかし、拠点名や各種の説明には見慣れない文字が使われており、そのままでは内容を読み取れなかった。


「グーリエ語か……」


ビービは自身の小型端末を取り出すと、保存していた辞書を開いた。


それは、これまでに収集したアステリム帝国語の単語や表現を、彼女自身が整理して作成したものだった。一般的な翻訳ソフトとは異なり、軍事用語や装備品に関する語句も含まれており、敵の資料を読み解くために役立つ内容となっていた。


スライスは、ビービが2つの端末を交互に確認し始めたことに気づいた。


「班長、何を?」


「グーリエ語の辞書を見ているの。自分で作ったものだけど」


「自分で?」


「ええ。これまでに分かった単語を少しずつ登録していたのよ。まだ分からない言葉も多いけど、ある程度なら読めると思う」


ビービはタブレットに表示された文字列を一つずつ確認し、自作の辞書に登録されている語句と照合していった。


最初に意味を把握できたのは、地図上に記された施設の分類だった。続いて、物資の搬入と搬出を示す表記が見つかり、各拠点を結ぶ線が輸送経路を表していることも分かってきた。


「……やっぱり、兵站関係の資料ね」


ビービは地図を拡大し、個々の拠点に付随する項目を確認した。


もっとも、辞書を使えば全ての文章を正確に読めるというわけではない。単語ごとの意味は分かっても、組み合わせによって解釈が変わる箇所があり、登録されていない語句も少なくなかった。そのため、前後の記述や地図上の位置関係を照らし合わせながら、慎重に内容を読み解いていく必要があった。


ビービが辞書と地図を何度も見比べていると、スライスが感心した様子で尋ねた。


「よくそんなものを作りましたね」


「敵が何をしているのか分からないまま戦うのは、不便でしょう? だから、分かる範囲で調べていたの」


ビービはそう答えると、再び画面へ視線を戻した。


解析を続けるうちに、地図上の拠点にはそれぞれ異なる役割があり、物資の流れも一様ではないことが分かってきた。特定の施設から複数の拠点へ物資が送られている一方で、別の施設には周辺から物資が集まっている。輸送記録と経路を重ねて確認することで、個々の拠点だけを見ていては分からなかった補給網の構造が、徐々に明らかになっていった。


「全部を順番に攻撃する必要はなさそうね」


ビービの言葉を聞いたスライスが、地図へ視線を向けた。


「どういうことです?」


「ここを見て。複数の輸送経路が、一つの拠点に集まっているでしょう。ほかの記録も確認しないと断定はできないけど、ここが周辺の補給を支えている可能性が高いわ」


ビービが示した地点には、周辺の複数の拠点から輸送経路が延びていた。物資の移動記録を確認すると、その地点を経由して別の施設へ送られているものもあり、補給網の中で重要な役割を担っていることが窺えた。とはいえ、輸送量が多いという理由だけで、そこを最重要拠点と断定することはできない。ビービは他の記録も調べ、周辺の基地との関係を確認しながら、攻撃目標としての価値を検討していった。


その一方で、必要な地図と解析結果を自身の小型端末へ保存する作業も進めていた。敵のタブレットに表示された情報を読み解き、自分の端末で確認できるよう整理していく手際には、電子機器に関する相応の知識が窺えた。


スライスはその様子を見ながら、半ば呆れたように笑った。


「あなた、ファルコン班か布袋班にスカウトされてもおかしくないですね」


「買いかぶりすぎよ。まだ読めないところもあるんだから」


ビービはそう返しながらも作業を止めず、地図と輸送記録の照合を続けた。やがて解析結果を確認すると、次の目標となる拠点に印をつけた。


「今ある情報だけで判断するなら、ここが一番怪しいわね」


ビービは小型端末をスライスへ向け、複数の補給路が集中する地点を示した。


「次は、この基地を目指したい」


周辺の施設を一つずつ攻撃していくよりも、物資の流れが集中する拠点を押さえた方が、敵の補給活動に大きな影響を与えられる可能性がある。ビービは、その考えを踏まえて説明を続けた。


「ここを押さえれば、周辺の基地にも影響が出る可能性が高い。少なくとも、今ある情報では最も重要視されている場所だと思う」


スライスは地図を見つめた後、周囲の隊員たちへ視線を向けた。


「でも、今の弾薬でそこまで戦えます?」


その問いに、ビービはすぐには答えなかった。


施設内での戦闘は長引き、隊員たちの携行弾薬は相応に消耗していた。次の拠点まで移動できたとしても、そこで新たな敵部隊との交戦が始まれば、現在の弾薬だけで戦闘を継続できる保証はない。


今回の施設を制圧することと、さらに別の兵站基地を攻略することでは、必要となる戦力や物資も異なる。敵の補給網に打撃を与えるという方針が正しくても、それを実行するための準備が不足していては意味がなかった。


「補給が必要ね。このまま進むのは危険だわ」


ビービがそう判断したところで、携行している無線機に通信が入った。


『こちら補給部隊。応答願います』


ビービは無線機を手に取り、応答した。


「こちら、アマゾネス01、ビービ。どうぞ」


『補給物資の輸送に成功しました。現在、そちらへの引き渡し準備を進めています』


「補給物資が届いたの?」


『はい。水棲種の脅威が去り、補給が可能になりましたので』


ビービは思わずスライスと顔を見合わせた。


海上輸送を妨げていた水棲種の脅威が去ったことで、滞っていた補給が可能になったらしい。弾薬の不足が問題になったまさにそのとき、必要としていた物資が前線へ届こうとしていた。


「了解。こちらも受け入れの準備を進めます」


通信を終えたビービは、隊員たちへ補給部隊からの連絡を伝えた。


補給物資を受け取れば、次の兵站拠点へ向かうための条件が一つ整う。ただし、弾薬の補充だけで全ての問題が解決するわけではない。戦闘で負傷した隊員への対応も急がなければならず、とりわけ重傷を負ったイリーには、できるだけ早く本格的な治療を受けさせる必要があった。


     


補給部隊に随伴していた衛生要員がイリーのもとへ到着すると、ローレライは負傷状況と、それまでに実施した応急処置の内容を説明した。


「右肩に銃創と刀傷があります。首も強く圧迫されていて、意識が戻ったことはありますが、今は反応がありません」


説明を受けた衛生隊員は、イリーの呼吸と循環の状態を確認すると、必要な処置を引き継ぎながら搬送の準備を進めた。首に強い圧迫を受けていることに加え、右肩には複数の負傷があり、出血の状態だけでなく、搬送中の呼吸状態にも十分な注意が必要だった。


ローレライは処置の妨げにならない位置へ移動したものの、イリーから目を離すことはなかった。


「搬送先は?」


彼女が尋ねると、衛生要員が答えた。


「松山市立病院です。ヘリコプターで搬送します」


「分かりました。お願いします」


イリーは身体を不用意に動かさないよう注意しながら担架へ移され、搬送中に状態が悪化しないよう固定された。


ローレライはその様子を見届けながら、イリーが一度だけ意識を取り戻したときのことを思い返していた。目を開けてはいたものの、声を出すことさえできず、彼女の傍らに膝をついた直後には、再び意識を失ってしまった。あの状態でどこまで周囲の状況を理解していたのかは分からない。だが、少なくともイリーは、デラミーとの戦闘を生き延びた。これから命を取り留められるかどうかは、搬送先で受ける治療にかかっている。


やがてイリーはヘリコプターへ収容され、衛生要員による管理のもと、愛媛県へ向けて搬送されることになった。搬送先となる松山市立病院では救命処置と必要な手術を受け、容体が安定した後には、自衛隊阪神病院へ転院する予定だった。


ローレライは搬送の準備が整ったことを確認すると、静かに息を吐いた。


イリーの命が助かったと断言できる状態ではない。それでも、戦場でできる限りの処置を施し、必要な治療を受けられる場所へ送り出すことはできた。


一方、戦死したサリカムとシノシックについても、遺体の移送が行われることになった。2人は、もう仲間たちとともに戦場へ戻ることはない。サリカムは腹部に軍刀を突き立てられて命を落とし、シノシックもまた、サンスーファの銃撃を受け、帰らぬ人となっていた。


戦死した隊員の中には、さまざまな事情によって家族のもとへ帰ることさえ叶わない者もいる。そのような状況にあって、サリカムとシノシックの2人は、遺体となってではあるものの、家族のもとへ帰ることができるのだった。


     


一方、補給物資を受け取ったビービたちは、次の行動に向けて準備を進めていた。


弾薬の補充によって、これまで懸念されていた継戦能力の問題は一定の改善を見せた。もちろん、補給を受けたからといって敵の抵抗が弱まるわけではなく、次の兵站拠点でどの程度の戦闘が発生するかも分かっていない。それでも、必要な物資を確保できたことは、進撃を継続するうえで大きな意味を持っていた。


ビービは自身の小型端末に保存した地図を開き、先ほど選んだ兵站拠点の位置を改めて確認した。タブレットから読み解いた情報によれば、目標とした拠点には複数の輸送経路が集中しており、周辺の施設へ物資を送り出す役割を担っている可能性が高かった。


敵の補給網を断つためには、目についた基地を順番に攻撃するのではなく、どこを押さえれば最も大きな影響を与えられるのかを見極める必要がある。今回入手した資料は、その判断を下すための重要な手がかりとなっていた。


ただし、解析した情報が全て正しいとは限らず、地図に記されていない敵部隊が存在する可能性もある。目標へ到達するまでに何が待ち受けているのかは、実際に進んでみなければ分からなかった。


ビービは端末の画面を閉じ、補給を終えた隊員たちへ視線を向けた。


「準備が整ったら、次の拠点へ向かうわ」


彼女たちは、再び進撃することになった。

登場人物紹介

GASTアマゾネス班

ビービ(班長)、スライス(副班長)、イリー、キーラ、ピケット、サリカム


GASTアルバトロス班

ブエンテロ(班長)、クラウスレイ(副班長)、ゴルム、ソブラウ、マメッド


GASTセイレーン班

ローレライ(班長)、ボナー(副班長)、シリング、ラスタ、ベルチャー、ファス、ビュー


殉職したGAST隊員

シノシック:本名:図師(ずし) 杏弥(きょうや)

生年月日:1991年12月9日 / 出身:東京都

階級:二等陸曹 / 所属:GASTセイレーン班

享年:31歳


※)アステリム帝国の公用語は、「アステリム帝国語」ですが、自衛隊は「グーリエ語」と言っています。

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ミリタリー SF ファンタジー 自衛隊 戦争
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