第318話 鷹の目
ファルコン班の拠点では、3人がパソコンの画面を見つめていた。
モンソンの前には、施設内部から取得した大量の情報が並んでいる。施設の照明、監視装置、扉の開閉、通信設備、電力系統など、さまざまな設備が複雑に接続されていた。
「……多いな」
モンソンが呟いた。
ピートが隣から画面を確認する。
「大型機体に関係しているものは?」
「まだ絞り込めてません。施設全体のシステムが生きてるから、こいつらが全部繋がってる状態です」
モンソンは表示を切り替えた。大量の情報が整理され、その中からいくつかの系統が浮かび上がる。
「ただ、妙なのがあります」
「何?」
ピートが尋ねる。
「通常の施設管理とは別に、優先度の高い制御系統がいくつかあります。たぶん軍用設備です」
シシリアは自分のパソコンへ情報を移し、取得したデータを一つずつ確認していった。複数の系統を比較しながら関連性のあるものを探していると、施設の管理機能が一つのシステムに集約されているわけではないことが分かってくる。
「この施設、複数の管理システムが並行して動いてます」
「複数?」
ピートが聞き返した。
「はい。施設設備を管理するものと、兵器や防衛設備を管理するものが分かれているみたいです。ただ、全部が同じ場所から制御されているわけじゃありません」
モンソンがシシリアの画面を覗き込む。
「つまり、大型機体の管理システムも別にあるってことか」
「その可能性があります」
シシリアはそう答えたものの、画面から目を離さなかった。表示される情報を整理し、関係している可能性の高いものだけを抜き出していく。
「……ありました」
シシリアが声を上げた。
ピートとモンソンが同時に画面を見る。
「これです。通常の施設管理系統とは通信の経路が違います」
「大型機体に繋がってる?」
「まだ分かりません。でも、他のシステムよりも強い認証がかかっています」
モンソンが操作を続けると、画面に認証画面が表示された。その瞬間、彼の指が止まった。
「……簡単には入れないな」
「突破できそう?」
ピートが尋ねる。
「やってやりますよ」
モンソンは短く答えた。
「でも、向こうもこっちが入ろうとしてるのを気づくかもしれない」
その言葉を聞いたピートは、施設の状況を映した別の画面へ目を向けた。そこには現地から送られてくる戦闘情報が表示されている。大型機体が動き、帝国軍とGASTが交戦していることも確認できた。
「時間はない」
ピートが言った。
「やるぞ」
「りょ」
モンソンが作業を再開した。
まずは施設内の通信経路を利用し、管理システムへ繋がる入口を探す。しかし、目的の系統へ近づこうとすると、別の認証が現れた。
「またか」
モンソンが眉を寄せる。
「一段ずつ分けてるみたいだ」
シシリアが画面を確認する。
「こちらは施設側の認証です。その先に軍用系統があります」
「二重になってるのか」
「たぶん、それだけじゃありません」
シシリアが別の情報を開いた。
「こっちにも認証があります」
ピートが画面を見る。
管理システムへ続く経路は、いくつもの区画に分けられていた。施設の設備を守るためだけではない。仮に一つの系統へ侵入されたとしても、そこから別の系統へ簡単には移れないように構成されている。
「厄介だな」
ピートが呟いた。
モンソンは画面を睨みながら操作を続けた。
「でも、入口はある」
「分かるの?」
「完全に閉じてるなら、そもそも施設の外から管理できません。どこかに外部との接続経路が残ってるはずです」
モンソンは取得した情報を照合していく。
施設内の複数のシステムを辿りながら、外部との接続に使われている経路を探していく。やがて、いくつもの情報の中から一つだけ異なる動きをしている経路が浮かび上がった。
「……ここだ」
シシリアが画面を確認する。
「この通信経路は?」
「施設内の別系統を経由してる。直接じゃない」
「なら、そこから先へ行けます」
「ただし、途中に監視がある」
モンソンが答えた。
シシリアは表示された情報を整理した。監視系統の位置を確認し、そこから先へ進むための経路を探していく。
「監視を避けて進む必要があります」
「できる?」
ピートが尋ねた。
シシリアは一瞬だけ画面から目を離した。
「さっきのペ○パー君よりはマシです」
「そうか」
ピートは嬉しそうに答えた。
(いい顔するじゃないか)
いつも自信なさげなシシリアの表情が、以前よりも逞しくなっている。電子戦の経験を積み重ねてきたことで、少しずつ自分の技術に自信を持ち始めているように見えた。
だが、相手は簡単にはいかない。施設全体を管理する巨大なシステムの中に、軍用設備の制御系統まで組み込まれている。しかも、向こう側では今も戦闘が続いている。失敗すれば、GASTが大型機体に押し切られる。
「やります」
シシリアは再び画面へ向き直った。
「私が監視系統を確認します」
「りょ」
モンソンが頷く。
「俺がその間に経路を作る」
ピートは2人の作業を見ながら、通信状況を確認した。施設側から新しい反応が返ってくる。
「向こうも動いてる」
「気づかれました?」
シシリアが尋ねた。
「まだ分からない。でも、こっちの動きに反応してる可能性はある」
ピートが答えた。
その直後、モンソンの画面に新たな警告が表示された。
「……来た」
「何が?」
「防御側が経路を閉じ始めてます」
モンソンは操作を続けた。
「向こうも馬鹿じゃない」
シシリアが画面を見つめる。
「このままだと、入口がなくなります」
「なら、その前に入る」
モンソンの指が止まらない。
閉じられようとしている経路を追いながら、別の接続先を探していく。防御側が一つの経路を閉じるたびに別の経路へ移り、そこからさらに奥へ進もうとする。しかし、移動した先にも防御が待ち構えていた。
「くそ……」
モンソンが低く呟いた。
ピートは2人の画面を見比べた。
大型機体を止めるには、その管理システムへ辿り着かなければならない。しかし、敵は施設全体を利用して侵入経路を遮断しようとしている。正面から突破するだけでは間に合わない。
「シシリア」
「はい」
「あれ」
ピートが画面の一角を指した。シシリアは、指し示された場所を確認する。
そこには複数のシステムが表示されていた。施設管理、防衛設備、通信、監視。それぞれが独立しているように見える中で、一つだけ他とは異なる動きをしている系統があった。
「……これ」
シシリアが指を止めた。
「大型機体に関係している可能性があります」
モンソンが画面を見る。
「どこ?」
「この系統です。ほかの設備とは接続されていますが、指示を受ける側ではなく、状態を返しているように見えます」
ピートも画面を確認した。
「つまり?」
「大型機体の状態を管理しているシステムかもしれません」
モンソンがすぐに経路を確認する。
「……ある」
その先には、これまで見つからなかった管理系統が存在していた。ただし、そこへ続く経路は一つしかない。そして、その経路にはこれまで以上に強固な防御が施されていた。
「ここを抜ければ、大型機体の管理システムまで届きます」
モンソンが言った。
ピートは頷いた。
「なら、そこだ」
シシリアが画面を見つめる。
「でも……」
「何?」
「この先に入ったら、向こうにもこちらの存在が分かると思います」
ピートは少しだけ考えた。そして、落ち着いた声で答えた。
「それでもやる」
「……はい」
3人は再び画面へ向き直った。
大分の戦場では、GASTが大型機体を相手に戦い続けている。その戦況を直接見ることのできないファルコン班にとって、頼れるのは送られてくる情報だけだった。
それでも、モンソンは画面から目を離さない。シシリアは監視系統の動きを追い、ピートは2人の作業と戦場から送られてくる情報を同時に確認している。
大型機体を止めるために必要なのは、敵の姿を直接見ることではない。遠く離れた場所から、施設全体の動きを読み取り、その奥に隠された管理系統を見つけ出すことだった。
モンソンが最後の接続を開始する。
シシリアが監視系統を確認し、ピートは全体の状況を見ながら2人の作業を見守った。
やがて、画面に新しい表示が現れた。
「入った」
モンソンが言った。
しかし、その先にはさらに別の認証が待ち構えていた。
「……まだ先がある」
ピートは画面を見つめた。
「続けよう」
ファルコン班は、さらに深い場所へと侵入を始めた。
登場人物紹介
GASTファルコン班(電子戦隊)
ピート(班長)、モンソン、シシリア




