第317話 鋼鉄の包囲
施設の奥から現れた巨大な機体を見た瞬間、ビービは足を止めた。
これまで相手にしてきた帝国兵とは明らかに違う。鈍い金属の装甲に覆われた人型の機体が、通路の奥を塞ぐように立っている。右腕には大型の熱線砲が備えられ、左腕には鋸状の武器が取り付けられていた。
その周囲では、帝国兵が機体の後方へ移動している。
「……何、あれ」
スライスが呟いた。
ビービも答えられなかった。敵が新しい兵器を投入してきたことだけは分かる。しかし、これまで戦ってきた帝国兵とは規模が違いすぎる。
そのとき、機体の右腕が動いた。
「伏せて!」
ビービが叫ぶのとほぼ同時に、熱線が通路を横切った。
壁面が焼け、周囲の空気まで熱を帯びる。隊員たちは反射的に身を伏せ、熱線が通過した場所から距離を取った。
「なんなの、あれ……」
サリカムが壁際へ身を寄せる。
「分からない。でも、まともに受けたら危ない」
ビービは機体から目を離さなかった。
アイゼンはゆっくりと前へ進んでくる。その動きは速くない。それでも、通路そのものを塞いでいるため、GASTが左右へ逃げる余地は限られていた。
後方では、帝国兵が射撃を始めている。
「アルバトロス、右!」
ビービが叫ぶ。
ブエンテロが応じた。
「りょ!」
アルバトロス班が右側へ展開し、帝国兵へ射撃を加える。アマゾネス班も正面の帝国兵を狙うが、アイゼンが前へ出たことで射線を取ることが難しくなっていた。
ゴルムがアイゼンへ射撃を加える。
弾丸が装甲へ当たるものの、機体は止まらない。
「効いてない!」
マメッドが叫んだ。
「無理に倒そうとするな!」
ブエンテロが制止する。
「まず距離を取るぞ!」
アルバトロス班が後退する。
ビービも状況を見て判断した。このままでは、アイゼンと帝国兵の双方から攻撃を受け続けることになる。施設内では動ける範囲も狭く、正面からアイゼンを相手にするのは危険だった。
「いったん下がるよ!」
アマゾネス班が後退を始める。
そのときだった。背後から銃声が響いた。隊員たちが振り返る。
「後ろにも敵!」
イリ―が叫んだ。
通路の奥から帝国兵が現れる。
それは、先ほどまで施設の外で戦っていた119中隊だった。撤退したはずの部隊が、GASTの後方へ回り込んでいた。
中隊長のアッサム・サンスーファが、銃を構えたまま隊員たちを見ている。
「逃がすな!」
サンスーファが叫ぶ。
後方の帝国兵が一斉に射撃を始めた。GASTの隊員たちは身を伏せる。
前方にはアイゼンと32大隊の兵士たち、後方には119中隊。
ビービは歯を食いしばった。
(挟まれた……)
このまま前へ出てもアイゼンに阻まれる。後ろへ下がれば119中隊の射撃を受ける。
「スライス、どうする?」
「このままじゃ動けません!」
スライスが答える。
その直後、アイゼンの左腕が動いた。
鋸状の武器が高速で回転し、床面へ振り下ろされる。隊員たちが散開した直後、床の一部が削り取られた。
「近づくな!」
ビービが叫ぶ。
アイゼンは再び前へ進み始めた。
その動きを見ながら、ビービは周囲を確認した。
機体そのものを止める方法がないなら、別の場所を探すしかない。
「この機体、どこから動かしてるんだろう」
ビービが呟く。
スライスが周囲を見る。
「操縦している人間がいるってことですか?」
「分からない。でも、完全に自動で動いているようには見えない」
アイゼンは帝国兵の位置を避けながら進み、GASTへ攻撃を加えている。誰かが何らかの形で管理している可能性はある。
「ピケット、周囲を見て。機械を操作してそうな場所はない?」
「探します!」
ピケットが周囲を確認する。
施設内にはいくつもの部屋がある。だが、アイゼンを管理していると思われる場所は見当たらなかった。
「それらしい場所、ありません!」
「サリカム、そっちは?」
「こっちも分かりません!」
再び銃声が響いた。
後方から119中隊が前進してくる。
サリカムが身を隠しながら射撃した直後、壁の陰から飛んできた銃弾が腕をかすめた。
「っ!」
サリカムが腕を押さえる。
「サリカム!」
キーラが駆け寄ろうとする。
「大丈夫! 動ける!」
サリカムは痛みに顔をしかめながらも銃を構え直した。
しかし、ビービは状況がさらに悪化していることを理解していた。
前後から攻撃されている以上、このまま戦い続ければ消耗するだけだ。
そのとき、無線が入った。
『こちらセイレーン01。応答願います』
ビービがすぐに無線へ手を伸ばす。
「こちらアマゾネス01」
『施設内で異常な銃声を確認。何かあった?』
「敵の新しい兵器が出てきた。それと、後方から別の部隊が回り込んできた」
短い沈黙のあと、通信が返ってきた。
『了解。こちらから中へ入る』
「お願い」
通信が切れた。
ビービは前方を見た。
「セイレーンが来る。それまで持たせるよ」
スライスが頷く。
「了解」
GASTは後退しながら射撃を続けた。
前方からアイゼンが迫り、後方から119中隊が圧力をかけてくる。アマゾネス班とアルバトロス班は互いに射線を調整しながら、包囲を崩されないように戦い続けた。
その間にも、アイゼンは少しずつ距離を詰めている。
「右!」
ブエンテロの声に合わせ、ゴルムが身をずらす。
直後、熱線が通路を焼いた。
「これ以上は近づけないぞ!」
ブエンテロが叫ぶ。
「分かってる!」
ビービも応じる。
しかし、アイゼンは止まらない。
そのとき、施設の別の通路から銃声が響いた。
「敵だ!」
帝国兵が叫ぶ。
セイレーン班が施設内へ突入してきた。
ローレライが先頭に立ち、後続の隊員たちが左右へ展開する。
「こっちは引き受ける!」
ローレライが叫ぶ。
ビービはすぐに返した。
「後ろの119中隊をお願い!」
「了解!」
セイレーン班が後方へ回り込み、119中隊との間に入る。
サンスーファがセイレーン班を見つけた。
「新手か!」
119中隊が射撃を始める。
セイレーン班も応射した。
施設内で新たな銃撃戦が始まり、GASTは一時的に後方からの圧力を抑えることができた。だが、119中隊の射撃は強かった。
サンスーファ自身も前へ出て射撃を続けている。
シノシックが壁際から身を出した。その瞬間、サンスーファの銃口が動く。
銃声が響いた。
シノシックの頭部に銃弾が命中した。身体がその場で崩れ落ちる。
「シノシック!」
ビューが叫んだ。しかし、応答はなかった。
ローレライは一瞬だけシノシックへ目を向けたが、すぐに前方へ銃口を戻した。
「動くな! ここを抜かせるな!」
セイレーン班はその場を離れられない。アマゾネス班とアルバトロス班も同じだった。
アイゼンを止める方法が見つからないまま、敵の数だけが増えていく。
ビービは周囲を見た。
(このままじゃ、時間を稼ぐどころか、こっちが持たない)
そのとき、キーラが叫んだ。
「班長! ファルコン班に頼めません?」
ビービが振り向く。
「ファルコン?」
「電子戦隊なら、あの機体を止められるかもしれない!」
ビービは一瞬だけ考えた。
あのアイゼンそのものを破壊できなくても、動かしているシステムを止められる可能性はある。
「……やってみよう」
ビービは無線を取った。
『こちらアマゾネス01。ファルコン、応答して』
少しして、通信が返ってくる。
『こちらファルコン01、ピート。どうぞ』
「施設内に敵の大型機体がいる。直接攻撃では止められない。管理システムを探して、制御を奪えない?」
『確認する。こちらで施設内のシステムへ侵入できる経路があるか探す』
「お願い」
通信が切れた。
ファルコン班では、ピートが端末を操作していた。
その隣ではモンソンが画面を確認し、シシリアが周囲の情報を整理している。
「施設内のネットワーク、まだ生きてる」
モンソンが言った。
ピートが画面を見る。
「制御系統は?」
「まだ見えない。でも、管理システムらしいものが複数ある」
シシリアが画面を覗き込んだ。
「この先に、機体制御に関係している可能性があります」
「そこまで行ける?」
ピートが尋ねる。
シシリアは一瞬ためらった。
「……やります」
モンソンが頷く。
「俺が侵入経路を作る。シシリアさんは制御系統を探して」
「はい!」
ピートは2人の画面を確認した。
「急ごう。向こうは時間を稼いでくれてる」
ファルコン班が電子戦を開始した。
その間も、施設内ではGASTの戦闘が続いていた。
アマゾネス班の前では、アイゼンが再び右腕を持ち上げた。
ビービが叫ぶ。
「来るよ!」
熱線が通路を焼く。
隊員たちは身を伏せ、射撃位置を変えた。
後方では、セイレーン班が119中隊を押し返そうとしている。シノシックを失ったことで隊員たちの動きには明らかな緊張が走っていた。それでも、誰もその場を離れようとはしなかった。
ファルコン班が制御系統へ到達するまで、ここを守る必要がある。
ビービは銃を構え直した。
「もう少しだけ耐えるよ!」
施設の奥では、アイゼンが再び動き始めていた。
登場人物紹介
GASTアマゾネス班
ビービ(班長)、スライス(副班長)、イリー、キーラ、ピケット、サリカム
GASTアルバトロス班
ブエンテロ(班長)、クラウスレイ(副班長)、ゴルム、ソブラウ、マメッド
GASTセイレーン班
ローレライ(班長)、ボナー(副班長)、シリング、ラスタ、ベルチャー、シノシック、ファス、ビュー
GASTファルコン班
ピート(班長)、モンソン、シシリア
アッサム・サンスーファ……第119歩兵科中隊長
対人戦闘用重装甲兵「アイゼン」……所謂戦闘型ロボット。まだ量産体制に入っていないので、補給拠点や整備工場等、限られた場所でしか稼働しない。
※)アイゼンは北海道には設置されていなかったので、GASTは初めてアイゼンに遭遇しました




