第315話 シャウブという男
シャウブは迫ってくる帝国兵を見据えていた。
先頭にいるのは、先ほど狙撃を突破したケンタウロス族だった。その後ろには有翼種の姿もある。地上から接近する兵士だけなら、シャウブ1人でも十分に対応できる。しかし、上空を自由に動ける敵が加われば話は変わってくる。それでも、ここを離れるわけにはいかなかった。
「敵砲撃部隊を発見。前方に1匹! まずはそいつを排除する!」
ウルシュマが叫んだ。健脚に任せて突っ込む気のようだ。
背後では部下達が砲撃を続けている。シャウブが敵を引きつけることができれば、その間もスネーク班は火力支援を継続できる。
ウルシュマが速度を上げた。4本の脚が地面を蹴り、距離が一気に縮まる。真正面から受ければ、その勢いをまともに受けることになる。シャウブは動きを見極め、直前まで引きつけてから身体を横へずらした。
ウルシュマの突進がシャウブの脇を抜ける。その瞬間、シャウブは相手の動きを利用して距離を詰めた。ウルシュマが振り向くより早く、射撃を叩き込む。
ウルシュマの身体が大きく揺れ、そのまま地面へ崩れ落ちた。あまりにも短い攻防だった。後方にいた帝国兵たちは足を止めた。
「トゥーレル!?」
同じ小隊のフォエニコ・キバナネ兵士長が叫んだ。
「馬鹿な……」
チェナーゼ・ミネラウ上等兵が声を漏らす。
「砲撃部隊のはず……」
シャウブは倒れたウルシュマには目も向けず、次の敵へ視線を移した。
「砲撃しかできないなんて、誰が言った?」
シャウブが構え直す。
帝国兵たちは警戒しながら距離を取った。先ほどまでウルシュマの速度を頼りに接近していた部隊の勢いが止まっている。
だが、その上空から影が降りてきた。シャウブが顔を上げる。
有翼種が1体、建物の間を抜けながら急降下してきた。シャウブが身を引いた直後、敵の攻撃が目の前を通過する。すぐに別の影が動いた。2体目の有翼種が横から回り込み、さらにその後ろから3体目が高度を下げてくる。
シャウブは一歩下がった。
地上の敵だけなら、相手の動きを見ながら1体ずつ潰していける。しかし、有翼種は上空から方向を変えられる。視線を1体に向ければ、その間に別の1体が側面へ回り込んでくる。
シャウブは建物の壁際へ移動した。背後を取らせないためだった。
1体目が再び接近してくる。シャウブは攻撃を避けると、そのまま反撃に移った。しかし、上空から別の有翼種が迫っているのが視界の端に入る。シャウブは攻撃を中断して身を引いた。直後、2体目の攻撃が地面を捉える。
「厄介だな……」
シャウブが呟いた。
その間にも、地上の帝国兵が距離を詰めてくる。シャウブは一度に複数方向へ注意を向けながら、少しずつ後退した。
背後から砲撃音が響く。部下達はまだ撃ち続けていた。
『班長、こちらは問題ありません!』
無線からロンの声が入る。シャウブは前方の敵を見ながら答えた。
「そのまま続けろ。こっちは俺がやる」
『了解!』
砲撃音が再び響いた。
有翼種の1体が上空へ戻る。その動きを追ってシャウブが視線を上げた瞬間、別の1体が低空から突っ込んできた。
シャウブは間一髪でかわした。しかし、完全には避けきれず、攻撃が身体をかすめる。シャウブはよろめきながらも倒れなかった。
「まだやれるな……」
自分に言い聞かせるように呟き、再び構える。
帝国兵たちはその姿を見ていた。ウルシュマを一瞬で倒した下等生物が、今度は有翼種の攻撃に苦戦している。それでも、砲撃を続けるスネーク班の位置まで敵を通そうとはしない。
「囲め!」
鷲型鳥人族のジェイウェル・レイハー伍長が叫んだ。
有翼種が左右から同時に降下する。シャウブは片方をかわし、もう1体の攻撃を受け止めた。衝撃で身体が押される。その隙に地上の帝国兵が近づいてくる。
シャウブは敵を押し返すと、建物の陰へ移動した。これ以上、正面で受け続ければ危険だった。
敵の数は多くない。しかし、有翼種が空中から攻撃を加えることで、シャウブは常に複数方向を警戒しなければならない。地上の敵だけを相手にする場合とは負担が違っていた。それでも、敵はスネーク班の射撃位置まで到達できていない。その間にも、部下達は砲撃を続けている。
『次弾、準備完了!』
ロンから報告が入った。
「撃て」
シャウブが答える。
直後、砲撃音が響いた。遠方の建物へ向かって砲弾が飛び、着弾と同時に大きな爆発が起こる。帝国兵達が一斉に振り返った。
「まただ!」
「施設の方向だ!」
敵の注意が一瞬だけ逸れる。シャウブはその隙を逃さなかった。
目の前にいた帝国兵との距離を詰め、攻撃をかわして反撃する。相手が体勢を崩したところで、さらに追撃を加えた。
「うがっ……」
キバナネが倒れる。
シャウブはすぐに上空へ視線を戻した。有翼種が1体、こちらへ向かっている。
シャウブは建物の陰から飛び出した。敵の進路を読んで移動し、低空へ降りてきたところを迎え撃つ。有翼種は攻撃を避けようと上昇したが、シャウブはその動きを追って距離を詰めた。
有翼種が再び高度を取る。その間に、別の1体が側面から接近していた。シャウブは攻撃を中断し、身体を翻す。間一髪で攻撃をかわした。
複数の有翼種を相手にする限り、完全に主導権を握ることはできない。それでも、シャウブは後退しながら敵をスネーク班から遠ざけていった。
『班長!』
ロンから無線が入る。
「何だ?」
『施設への攻撃、効果が出ています。もう一度叩けます』
シャウブは一瞬だけ後方を見る。煙が上がっている。それでも、敵はまだこちらに残っていた。
「なら、続けろ」
『了解!』
シャウブは再び前を向いた。
「ここから先へは行かせない」
有翼種が上空を旋回し、地上の帝国兵が距離を詰めてくる。
シャウブはその場を離れなかった。
最初に降下してきた有翼種が、再び低空へ入る。シャウブは正面から迎えず、建物の陰へ身を寄せた。有翼種がそのまま通過すると、シャウブは反転して追い、着地する直前の相手へ射撃を加えた。
「う…」
有翼種の一体が地面へ落ちる。
「チアキ!」
それを見たミネラウがシャウブへ向かってくる。シャウブはその攻撃を受け流し、距離を詰めると、足払いで相手を倒した。
「あ…」
ミネラウの前足が、不自然な方向に曲がって倒れ込む。もう立ち上がる事は出来ない。シャウブは躊躇なくとどめを刺す。
上空では、最後の有翼種が旋回している。
シャウブは動きを追った。
有翼種は何度か高度を変えながら接近を試みたが、シャウブは建物を利用して射線と進入方向を限定させた。敵が低空へ降りてきたところで、シャウブはその動きに合わせて攻撃を加える。
有翼種の身体が地面へ落ちた。
「残ったのは俺だけか…」
レイハーが周囲を見回すと、味方の兵士は全て倒されていた。上空を旋回しながら様子を伺うが、シャウブに隙が無い。
「くそ……」
レイハーは覚悟を決めて高度を落とし、銃を構えたが、羽ばたきを止めた瞬間、シャウブの射撃が胸部を貫いた。
「あが……」
シャウブは武器を下ろさず、しばらく周囲を警戒した。やがて、新たな敵が近づいてくる気配がないことを確認すると、後方へ振り返る。
スネーク班はまだ砲撃を続けていた。
『班長、こちらはまだ撃てます』
ロンから無線が入る。
シャウブは前方の戦場を確認してから答えた。
「そのまま続けろ」
『了解!』
再び砲撃音が響いた。
シャウブはその音を聞きながら、倒れた帝国兵たちへ一度だけ視線を向けた。
ウルシュマの突進を退けた直後は、帝国兵たちもシャウブを単なる火力支援部隊の隊員だと思っていた。しかし、実際にはそれだけではなかった。GASTの隊員は、それぞれの役割を担いながらも、必要になれば別の戦い方にも対応できる。
そのことを、シャウブ自身が敵に示していた。そして今、そのシャウブが時間を稼いだことで、スネーク班は砲撃を止めずに済んでいる。
遠方では、砲撃を受けた施設から煙が上がっていた。シャウブはその方向を見つめた。
「……これでいい」
そう呟くと、再び周囲の警戒に戻った。スネーク班の砲撃は続いている。
登場人物紹介
GASTスネーク班(火力支援部隊)
シャウブ(班長)、ロン(副班長)、ハン、ロスタ、ビアボーム、カカレコ
トゥーレル・ウルシュマ……ケンタウロス族の男性で、陸軍兵士長。第302歩兵科小隊所属
フォエニコ・キバナネ……ケンタウロス族の男性で、陸軍兵士長。第302歩兵科小隊所属
チェナーゼ・ミネラウ……ケンタウロス族の女性で、陸軍上等兵。第302歩兵科小隊所属
ジェイウェル・レイハー……鷲型鳥人族の男性で、陸軍伍長。第302歩兵科小隊所属
※)チアキ……チアキ・デムビム一等兵。鴉型鳥人の女性




