第311話 偶発的な攻撃
118歩兵科中隊が後退したことで、地下通路の出口周辺から聞こえていた帝国軍の銃声も、次第に遠ざかっていった。
GASTはすぐに追撃へ移らず、周囲の状況を確認していた。地下から地上へ出たことで視界は大きく開けている。しかし、先ほどまで戦っていた敵がすべて後退したとは限らなかった。前方に別の部隊が展開している可能性も考えなければならない。
ビービは周囲を見回した。
「この先にも敵がいると思う?」
問いかけられたキーラは、前方へ視線を向けたまま答えた。
「いると思います。さっきの連中が守っていたのは、ここだけじゃないでしょうから」
「アルバトロスはどう?」
ビービが聞くと、ブエンテロが答えた。
「こちらも同じ考え。敵が全部いなくなったとは思えません」
敵の存在を警戒しながら、GASTはその場に留まることなく前進を始めた。
その時、無線が入った。
『こちらスネーク01、シャウブ』
「どうかした?」
ビービが答えると、シャウブが続けた。
『所定の場所へ向かっていたのだが、大規模な工場を見つけましいた。敵拠点の可能性を見て、ロンとカカレコに偵察へ行かせてます。作戦にはなかったけど、今後の事を考えると襲撃したいと考え、連絡しました。』
「作戦にない事はすべきではないけど……」
ビービは考えた。
敵拠点ならば、潰しておくに越したことはない。だが、予定外の行動によって本来の作戦に支障が出れば、それこそ意味がなくなる。工場の存在を無視して予定通りに進むか、それとも今のうちに攻撃するか。
判断を迷っているところへ、別の無線が入った。
『スネーク02、ロンです。』
偵察へ向かっていたロンからの通信だった。
『件の工場は、武器工場でした。このままにしておくのは危険かと』
その報告を聞いたビービは、短く息を吐いた。
「分かったわ。スネーク班はその工場を潰して。あまり時間をかけすぎないでね」
『了解』
通信が切れると、シャウブは周囲を見回した。
工場までは、それほど距離がない。ロンとカカレコが戻ってくるまでの間に、シャウブは施設の位置と周囲の状況を確認していた。敵の増援が近くにいる様子はなく、少なくとも今すぐ大規模な戦闘になる状況ではない。
やがて、ロンから再び無線が入った。
『こちらスネーク02』
『工場から離れました。周囲に目立った増援は確認できません』
「分かった。戻って来い」
シャウブが答えてからしばらくすると、ロンとカカレコが姿を現した。
「どうだった?」
シャウブが尋ねると、ロンは工場の方角を振り返った。
「武器の製造だけじゃありません。完成したものを保管している場所もありました。前線へ送るための施設だと思います」
「つまり、潰す価値はあるわけだ」
「はい」
ロンが答えた。
シャウブは少し考えた。
ここで時間をかければ、本来の任務に支障が出る。それでも、目の前に帝国軍の後方施設がある以上、放置する理由もなかった。武器を製造し、前線へ送り出している施設なら、そこを攻撃する意味は十分にある。
「長居はしない。施設を使えなくして、すぐに戻る」
『了解』
シャウブが指示を出すと、スネーク班は射撃準備に入った。
その頃、工場では帝国兵たちが普段と変わらない様子で動いていた。施設の外を歩いていた1人の帝国兵が、ふと空を見上げる。しかし、異変を察知するより先に、工場の一角で轟音が響いた。建物の壁が大きく崩れ、内部から煙が噴き出す。
「何だ!」
工場内にいた帝国兵たちが騒ぎ始めた。
「攻撃だ!」
別の場所にも衝撃が加わり、施設の一部が大きく損壊する。突然の攻撃に帝国兵たちは慌てて外へ出ようとしたものの、どこから攻撃されているのか分からない。
「敵襲だ! 攻撃を受けている!」
「何匹いる!?」
「分からない! 姿が見えない!」
工場周辺が混乱する中、シャウブは射撃状況を確認していた。
施設への攻撃によって建物の一部が崩れ、工場としての機能にも損害が出ている。しかし、まだ完全に機能を失ったわけではない。
「もう一度」
シャウブの指示に従って攻撃が加えられる。
工場の一部がさらに崩れ、その直後、施設の内部から炎が上がった。
製造設備の一部が破壊され、建物の中に保管されていた資材にも被害が広がっていく。帝国兵たちは施設の外へ逃げながら、攻撃してきた相手を探そうとしたが、姿を捉えることはできなかった。
シャウブは工場の状況を確認すると、すぐに判断した。
これ以上攻撃を続ければ、施設への損害を増やすことはできる。しかし、そのために時間を費やせば、本来の任務に遅れが生じる。
「これ以上はいい。撤収する」
「了解」
ロンが答える。
スネーク班はそれ以上の攻撃を加えることなく、工場を後にした。
残された帝国兵たちは、攻撃してきたGASTがすでに移動を始めていることに気付いていた。しかし、突然の攻撃によって態勢が崩れており、追撃に出られる状態ではない。
破壊された施設を前に、帝国兵の1人が呆然と立ち尽くしていた。
「どうして、こんな場所が……」
別の帝国兵が答える。
「分からん。下等生物どもが入り込んでいたらしい」
「ここは前線の施設じゃないぞ。そこまで入り込んだのかよ!?」
その言葉に、周囲の帝国兵が黙り込んだ。ここが前線の陣地ではないことは、彼ら自身がよく知っている。武器を作り、それを前線へ送り出すための施設だった。その施設が、敵の小規模な部隊によって攻撃された。
自分たちが戦っている場所から離れた後方まで、自衛隊の部隊が入り込んでいたことになる。その事実が意味するものを、帝国兵たちも理解し始めていた。
一方、工場から離れたスネーク班では、シャウブが無線を開いた。
『こちらスネーク01。工場の破壊を完了した。これより予定地点へ向かう』
ビービからすぐに返答があった。
『了解。こちらはそのまま前進する。』
「了解」
シャウブは無線を切った。
工場を破壊したことで、帝国軍の後方に一つの損害を与えることはできた。だが、それだけで戦場が変わるわけではない。
スネーク班は本来の任務へ戻るため、GAST本隊を追って移動を始めた。
登場人物紹介
GASTアマゾネス班
ビービ(班長)、スライス(副班長)、イリー、キーラ、ピケット、サリカム
GASTアルバトロス班
ブエンテロ(班長)、クラウスレイ(副班長)、ゴルム、ソブラウ、マメッド
GASTスネーク班(火力支援部隊)
シャウブ(班長)、ロン(副班長)、ハン、ロスタ、ビアボーム、カカレコ




