第303話 望まぬ再開
有翼種が低空を飛び抜けるたび、地上に銃声が響いていた。
狙撃班は身を隠しながら帝国軍を狙い撃っていたが、上空からの捜索をかわし続けることはできなかった。有翼種の一体が高度を落とし、建物の陰へ視線を向ける。
「いたぞ!」
発見された狙撃班の隊員が、とっさに銃口を上げた。しかし、引き金を引くより早く有翼種の銃弾が襲い、隊員は遮蔽物の陰へ倒れ込んだ。
「狙撃手を発見した!」
別の有翼種が叫ぶ。
狙撃班のもう1人が位置を変えようとしたところへ、有翼種が急降下した。隊員は応射したものの攻撃を止めることができず、その場に倒れる。
「逃げる暇もないとはな」
有翼種が嘲るように言い、周囲を見渡した。その直後、遠方から1発の銃声が響いた。有翼種の頭部が弾け、その身体が崩れ落ちる。
ガーツは狙撃銃を下ろさず、別の有翼種へ照準を移した。
(くそ、こっちにも犠牲者が…)
有翼種がこちらを探していることは分かっている。それでも撃たなければ、帝国軍の進撃を止めることはできない。
そのとき、複数のエンジン音がガーツの耳に届いた。音のする方向へ目を向けると、遠くから複数の車両が近づいてくる。その車列が戦場へ入るにつれて、車両から武装した隊員たちが降りてきた。特別警備隊だった。
石毛 十三郎一等海佐が車両から降りると、前方を確認した。
「敵はあそこだ。久宝、行けるか?」
「行けます」
久宝が答える。
「由良、左を見ろ。俺たちは中央から入る」
「了解です」
特別警備隊の隊員たちが散開し、帝国軍へ向けて射撃を始めた。
突然現れた特別警備隊に、帝国軍の動きが乱れる。
「何だ、あいつらは!」
「撃て! 下等生物に押されるな!」
帝国兵が次々と銃を構える。
しかし、特別警備隊は敵の射線を避けながら前進し、遮蔽物から遮蔽物へ移動しながら射撃を繰り返した。帝国軍が一か所に火力を集めれば別の隊員が側面から撃ち込み、そちらへ向き直れば、今度は正面から別の隊員が攻撃を加える。
帝国兵が次々と倒れていく。
「押し返しています!」
隊員の声に、久宝が周囲を見ながら答える。
「まだだ。敵の後ろを見ろ」
その言葉どおり、帝国軍の後方から新たな部隊が現れた。
石毛が前方を見据える。
「これ以上は追わない。進路を作るぞ」
特別警備隊は敵を撃退しながら、前方へ進んでいった。
しばらく進んだところで、境目の足が止まった。
道端に隊員の遺体が横たわっている。さらに先にも、いくつもの遺体が残されていた。境目は無言のまま歩み寄った。見覚えのある装備だった。
「これは、水機団の……」
境目は遺体の顔を1人ずつ確かめるように見ていく。その先に、見覚えのある顔があった。境目の視線が止まる。
「……アキ」
返事はなかった。
境目はゆっくりと近づき、その場に膝をついた。秋口 将光陸曹長だった。
高校時代、何度も顔を合わせた友人が、泥と血にまみれて地面に横たわっている。
「アキ……」
境目は秋口の肩へ手を伸ばした。触れた身体は冷たかった。それでも境目は手を離せなかった。
(嘘だろ……)
喉の奥から声を出そうとしても、何も出てこない。
久宝が少し離れた場所から境目を見ていた。声をかけようとしたが、言葉が出てこなかった。
石毛は周囲を警戒しながら前方を見ている。
そのとき、遠くから銃声が響いた。続いて、別方向からも銃声が重なる。
久宝が振り返った。
「敵です!」
由良が叫ぶ。
木々の向こうから帝国兵が姿を現した。
「全員、構えろ!」
石毛が命じる。
境目は顔を上げた。秋口の亡骸から手を離し、ゆっくりと立ち上がる。
「境目!」
久宝の声に、境目は銃を手に取った。
帝国兵が一斉に銃を構える。
「撃て! 奴等を逃がすな!」
銃撃が始まり、特別警備隊も応射する。
最初の数人を倒したところで、久宝が異変に気づいた。
「敵が多すぎる!」
前方だけではなかった。左右からも帝国兵が現れている。
「左、抑えろ!」
久宝が叫ぶ。
隊員が左へ回ると、その間に中央の敵が距離を詰めてくる。
「中央が抜かれます!」
「俺が行く!」
由良が中央へ移動し、迫ってきた帝国兵を撃ち倒した。だが、倒した先から新たな帝国兵が現れる。
特別警備隊が1人を倒す間にも、敵はさらに増えていた。
「後方にも敵!」
別の隊員から報告が飛ぶ。
石毛が振り返る。
いつの間にか、退路にも帝国兵が回り込んでいた。
「久宝、下がるぞ!」
「了解!」
隊員たちは後退しながら射撃を続ける。
しかし、18人の隊員だけでは広がる敵をすべて抑えることができない。右を支えれば左が薄くなり、左を支えれば中央へ敵が入り込む。
「押されています!」
隊員の声が飛ぶ。
「分かっている!」
久宝が応じ、銃撃を続ける。
それでも帝国軍の波は途切れなかった。
境目は後退しながら、先ほど秋口が倒れていた場所へ一瞬だけ目を向けた。そこにあった姿は、もう見えない。
敵の銃撃がさらに激しくなる。
「境目、下がれ!」
久宝が叫ぶ。
境目は前を向き直り、銃を構えた。
(これは、後続が来るまで持つのか?)
石毛は敵の数を見ながら、胸中でそう考えていた。
後続が来たとしても、この数を相手に戦線を維持できるのか。そんな疑念が脳裏をよぎる。
特別警備隊は、押し寄せる帝国軍の数に押されながら、少しずつ後退していった。
登場人物紹介
石毛 十三郎……特別警備隊の隊長
久宝 将弘……特別警備隊第1小隊長。コードネームはパーリング
境目 智斗……特別警備隊第1小隊所属。コードネームはデイロン
由良 英樹……特別警備隊第1小隊所属。コードネームはルーゴ




