第296話 無力化
「誰だ!?」
血飛沫を上げながら倒れるペレーロを見て、ティトンは叫んだ。しかし、ペレーロの側には、すでに誰の姿もない。
ティトンたちは周囲を見回した。基地内には格納庫や建物、整備用の設備が並んでいる。そのどこから敵が現れたのか、見当もつかなかった。
次の瞬間、1発の銃弾が飛来した。正確に急所を貫かれ、ティトンの身体が崩れ落ちる。
「がっ……」
声を漏らした直後には、もう動かなくなっていた。
「狙撃手?」
186偵察飛行中隊のパイロットの1人が呟く。その言葉が終わるより早く、2発目の銃弾が飛んだ。同じように急所を撃ち抜かれた兵士が倒れる。
敵の姿は、まだ見えない。それでも銃声だけは続いた。
3発目、4発目、5発目。いずれも狙いに狂いはなく、新たに3人のパイロットがその場に倒れた。さらに別方向から2発の銃声が響く。
それを最後に、基地へ戻っていた第186偵察飛行中隊のパイロットは全員が死亡した。
銃声が止み、しばらくしてから、物陰に身を潜めていたルッテンが周囲を確認した。
「これで全員ですね」
安堵したように、ルッテンが呟く。
186偵察飛行中隊のパイロットたちは、ネイマン、ルッテン、マッキーの正確な射撃によって息絶えていた。
ルッテンとマッキーが1人ずつ仕留めている間に、ネイマンは5人の敵兵を撃ち倒していた。しかも、そのすべてが1発ずつの射撃だった。その射撃技術は、まさに超一流と呼ぶに相応しいものだった。
しかし、ネイマンは周囲を警戒したまま、まだ銃を下ろさない。
「いや、まだいる。その内に戻って来るだろうから、隠れて警戒しよう」
「了解」
2人が応じ、3人は再び遮蔽物の陰へ身を隠した。
それから数分後、基地上空に、別の航空機が姿を現した。
第186偵察飛行中隊の別の機体だった。機体は基地へ接近すると、滑走路へ進入していく。ネイマンたちは姿を見せず、その様子を監視した。
航空機からパイロットたちが降りる。そして、基地内の異変に気付いた。
「何だ、これは……」
「どうなってやがる?」
先に帰還していたティトンたちの遺体を見つけたのだ。
さらに周囲を確認すると、第2陣として待機していたパイロットたちだけではなく、整備小隊まで全滅していることに気付く。
何が起きたのか分からない。誰に襲われたのかも分からない。
戻ってきたパイロットたちは、得体の知れない何かに襲われたような恐怖を覚えながら、それぞれ武器を構えて周囲を警戒した。
その様子を、ネイマンは遮蔽物の陰から静かに見ていた。
「敵は5体。このまま射撃で仕留める」
『了解』
ネイマンの指示を受け、ルッテンとマッキーも銃を構える。しかし、その瞬間だった。5発の銃声が立て続けに響いた。
ルッテンとマッキーが前方へ視線を戻すと、そこには5人の帝国兵が倒れていた。全員が、すでに事切れている。
マッキーは唖然とした。
「は、班長……」
隣にいたルッテンも、しばらく言葉を失っていた。
自分たちが撃つより先に、5発。しかも、敵1人につき1発だった。
「結局、1人で倒すんすね」
ルッテンが呆れたように言う。
ネイマンは、どこか勝ち誇ったような顔を浮かべた。
「はッはッは……これは早い者勝ちだぞ」
その言葉を聞いたマッキーは、思わず呟いた。
「ネイマン班長って、実はローレライ班長よりも狙撃上手いんじゃ……」
「いや、流石に敵わないよ。ローレライは別格だよ、別格!」
ネイマンは笑いながら答える。
「は、はあ……」
マッキーは曖昧に返事をした。
目の前で繰り広げられた射撃を見れば、そんな言葉が出てしまうのも無理はない。ネイマンだけではない。これまで戦場で見てきたGASTの班長たちは、いずれも常人離れした技量を持っている。そんな人達が自分の上官として戦っていることを、マッキーは改めて心強く感じていた。
ネイマンは周囲を確認すると、銃を下ろした。
「これで、敵の航空戦力は無効化できた。次に行くぞ!」
「了解!」
ルッテンとマッキーが応じる。3人は、速足でその場を後にした。
基地には、もはや第186偵察飛行中隊が航空機を再び飛ばすために必要な人員は残されていなかった。
上空では、空自の第6航空団が帝国軍航空機を退けた。そして地上では、ネイマンたちがその航空戦力の拠点を無力化していた。
空と地上。2つの戦いが重なったことで、帝国軍の航空戦力は大きく削られていた。
登場人物紹介
ネイマン……GASTリッチ班の班長
ルッテン……GASTリッチ班所属の隊員。マッキーとバディを組む事が多い
マッキー……GASTリッチ班所属の隊員。ネイマンの技術を盗もうと日々精進している




