第294話 迫りくる航空戦力
有翼種の部隊が撤退してから、しばらくの間、戦場には奇妙な静けさがあった。
先ほどまで上空を飛び交っていた敵の姿はなく、イーグル班とコンドル班も、ようやく対空火器を構え続ける必要がなくなっていた。しかし、休息できるほどの余裕があるわけではない。次の攻撃に備えるためには、消費した弾薬を補充しておかなければならなかった。
「班長、弾薬の確認が終わりました」
スタンが報告した。
「残量はどうなってるのだ~?」
「余裕はありません。特に地対空誘導弾は、かなり減っています」
「分かったのだ~。残っている分は大事に使うんだよ~」
ヒーゾはそう答えると、周囲を見回した。
イーグル班の兵士たちは疲労していた。先ほどまでの戦闘で対空火器を使い続けたため、弾薬も十分とは言えない。それでも、戦場にいる以上、気を抜くことはできなかった。
「少し補給をするのだ~。次に備えるよ~」
「了解」
スタンたちが補給の準備を始めた。その直後だった。遠方から、低く響く爆発音が聞こえた。
ヒーゾが顔を上げる。
「……何なのだ~?」
続いて、別の場所でも爆発が起こった。今度は明らかに近い。
「航空攻撃です!」
フランカが叫んだ。ヒーゾが空を見上げる。そこには、複数の航空機が戦場上空へ進入してくる姿があった。有翼種ではない。これまでとは異なる敵だった。
マコンベリムト軍、第20航空支援隊の隷下部隊・第186偵察飛行中隊の固定翼機が編隊を崩しながら低空へ降りてくる。先頭の機体が対地攻撃に入り、その後方を飛ぶ機体が周囲を警戒していた。偵察を主任務とする機体でありながら、武装を施されたその航空機は、高射特科陣地を攻撃するには十分な火力を備えている。
「偵察って聞いていたのに、まさか戦闘になるなんてな!」
先頭の機体を操縦するパイロットが叫んだ。
『空挺部隊がしくじったからな。その尻ぬぐいさ』
後方機体のパイロットから返事が来る。元は偵察を行う部隊だが、彼らは戦闘になって楽しそうにも見える。
「対空戦闘用意!」
ヒーゾの指示と同時に、イーグル班が再び装備を構える。せっかく始めた補給も中断するしかなかった。
離れた場所では、第8高射特科群の03式中距離地対空誘導弾が発射された。発射装置から飛び出した誘導弾が空へ伸びていく。
しかし、帝国軍の航空機は散開した。一部が中SAMの射界から離れるように進路を変え、その間に別の機体が低空へ進入してくる。
『こちら第8高射特科群。敵機、低空から接近!』
無線が響いた。
直後、別の場所から11式短距離地対空誘導弾が発射される。
帝国機が回避行動を取った。そのまま地上へ向けて攻撃を開始する。爆発が起こり、高射特科の陣地から煙が上がった。
「くぅ~、今攻撃されるのは辛いのだ~!」
ヒーゾが歯を食いしばった。
先ほどまでの戦闘で、対空部隊はすでに多くの弾薬を消費している。そこへ帝国軍は、まるでこちらの残弾状況を把握しているかのように、残された対空陣地へ攻撃を集中させていた。
「スタン、撃てるか~?」
「まだです。目標が速すぎます!」
「ラウネーン、右から来るのだ~!」
「見えています!」
ラウネーンが対空火器を向ける。
しかし、帝国軍機は射線へ入る直前に進路を変えた。その直後、別の機体がイーグル班の側面へ回り込む。
「伏せろ!」
爆発とともに土砂が吹き上がった。イーグル班の兵士たちが地面へ伏せる。
「フランカ!」
ヒーゾが叫んだ。返事がない。
「フランカ!」
もう一度呼んでも、答えは返ってこなかった。ヒーゾは一瞬だけそちらを見る。だが、空にはまだ敵機がいる。
「……全員、戦闘を続けるのだ~!」
ヒーゾは声を絞り出した。
離れた場所では、コンドル班も同じ攻撃を受けていた。
「グリフィン班長、南側の陣地がやられました!」
ビエイラが報告する。
「マキシ、残弾は?」
「11式短距離地対空誘導弾は、もうほとんどありません!」
「分かった。使えるものを全部使え!」
グリフィンは空を睨みつけた。
コンドル班も、有翼種との戦闘で対空火器を使い続けていた。ようやく敵が退いたと思ったところへ、今度は航空機による攻撃が始まったのである。
「来るぞ!」
マキシが叫んだ。
コンドル班が一斉に射撃した。しかし、敵機は速度を落とさず、そのまま攻撃を続けた。爆発によって地面が大きく抉られる。
リーが吹き飛ばされ、コラードが駆け寄った。
「コラード、構うな! まだ敵がいる!」
「ですが!」
「戦え!」
グリフィンの怒声が飛ぶ。その間にも、別の帝国機が接近していた。
第8高射特科群の03式中距離地対空誘導弾が次々と発射される。しかし、残弾は確実に減っている。
水機団の高射特科隊も11式短距離地対空誘導弾による迎撃を続けていたが、こちらも余裕はなかった。
『第8高射特科群より! 残存弾数、限界です!』
『こちら水機団高射特科! こちらも同様!』
次々と無線が入る。その通信を聞いていたのは、イーグル班だけではなかった。水機団特科大隊長の家気 雄信二等陸佐も、指揮所から戦況を見つめていた。
「まだ撃てる部隊はあるのか!」
『残っている部隊もありますが、弾薬が持ちません!』
家気は歯を食いしばった。敵航空機は、対空部隊が消耗していることを理解しているかのように攻撃を続けている。
その頃、第8高射特科群長の舎楽々 兼樹一等陸佐も、同じ報告を受けていた。
「残存する中SAMは?」
『発射可能数、限界です。このままでは継続した迎撃は困難です』
舎楽々は一度だけ目を閉じた。
「……撃てる間は撃て。最後まで防空を維持するんだ」
『了解』
ヒーゾはその無線を聞きながら、空を見上げた。敵機が多い。そして、こちらにはもう、それを止めるだけの対空ミサイルが残っていない。
「このままじゃ……」
スタンが呟いた。
「分かっているのだ~」
ヒーゾが答える。
その直後、帝国軍機が再び急降下した。対空火器が一斉に火を噴く。しかし、敵機は攻撃を受けながらも離脱していく。その動きを見たヒーゾは、嫌な予感を覚えた。
(敵は、迎撃されるのを承知で攻撃を続けているのだ……)
それだけ、こちらの防空能力が落ちていると判断しているのだ。そして、その判断は正しかった。
「班長!」
スタンが叫んだ。
遠方で大きな爆発が起こった。高射特科の陣地が、また1つ沈黙した。
イーグル班もコンドル班も、もはや満足に応戦できない。対空火器を撃ち続けてきた隊員達の手にも、疲労が蓄積していた。
それでも敵機は攻撃をやめなかった。このままでは、防空線が崩れる。
そのときだった。
空の彼方から、別の音が聞こえてきた。帝国機とは違う。鋭い飛翔音が、急速に近付いてくる。
ヒーゾが空を見上げた。
「……何なのだ?」
機影が見えた。1機ではない。複数の戦闘機が、戦場上空へ進入してくる。
『こちらサムライ。戦場上空へ進出する』
無線から聞こえた声に、ヒーゾは目を見開いた。
「サムライ隊……?」
戦闘機が帝国軍機へ接近する。その機体に描かれた日の丸が見えた。第6航空団のF-15J/DJ戦闘機だった。
サムライ隊の隊長、善城 駆空三佐からの通信が入る。
『これより敵航空機を排除する。地上部隊は現在位置を維持しろ』
『了解』
鷲鷹 雅朗空一曹を含むサムライ隊の戦闘機が加速する。
「何だぁ? 敵の空軍か?」
『そのようだ。今更来ても遅い!』
『ぶっ潰せ!』
帝国機が反転した。だが、すでに遅かった。F-15J/DJが敵機の後方へ回り込む。空中に空対空ミサイルの白煙が伸びた。
『クソが!』
帝国軍機の一機が回避行動を取る。その直後、別のF-15J/DJが横合いから接近した。それまで地上から帝国軍機を見上げていたグリフィンは、思わず息を吐いた。
「……間に合ったな」
マキシが答える。
「これで、少しは楽になりますね」
「そう願いたいな」
グリフィンはそう言いながら、再び対空火器を構えた。
空自の戦闘機が来た。それでも、地上の戦闘が終わったわけではない。イーグル班もコンドル班も、残された装備を使って戦い続けなければならなかった。
そして、空では新たな戦いが始まっていた。
帝国軍の第186偵察飛行中隊と、第6航空団、サムライ隊の戦闘機による交戦だった。
その頃、ネイマンは、ルッテンとマッキーを引き連れ、ある場所へ向かっていた。
「航空機が飛んでいる」
マッキーが空を見上げる。
「空自が援軍に来た。サムライ隊なら大丈夫だろう」
ルッテンが答えた。
「おい、もうすぐ着く。無駄話はするな」
ネイマンが2人に注意する。
3人はある任務が課せられていた。これはネイマンにしか出来ない任務であり、事前にシルビアから命じられていたのだ。
登場人物紹介
GASTイーグル班
ヒーゾ(班長)、スタン、ラウネーン、ブシ、ウィン、フランカ
GASTコンドル班
グリフィン(班長)、マキシ(副班長)、ビエイラ、リー、コラード、メネー、ババル
※イーグル班とコンドル班は、対空支援班
家気 雄信……水陸機動団 高射特科大隊長
舎楽々(しゃらら) 兼樹……第8高射特科群長
善城 駆……第6航空団、サムライ隊の隊長
鷲鷹 雅朗……サムライ隊の隊員
※2)サムライ隊は、坂井 三郎氏にあやかってのもの




