第287話 門司防衛線
カラーノです。
筑紫野方面に配備されていた敵の大軍が攻めてきました。私達から攻めることが出来なかったのは痛恨の極みですが、今更嘆いても仕方ありません。まずは、この敵を迎え撃たなければなりません。
門司の前方には、すでに自衛隊の普通科部隊が展開しています。
ただ、今回は大分方面での戦闘が続いているため、十分な火力支援を受けることができません。砲兵や迫撃砲による支援がほとんど期待できない以上、前線の部隊だけで敵の進撃を止める必要があります。
「あれは……」
エルメスさんが指す方向を私も見ます。何度か見た事のある兵器です。自走式の速射砲でしょうか。
「帝国産小型戦車ね。あれは厄介よ」
フロリアンさんが呟きます。
ペッ○ー君?
私は何を言っているのかは分かりませんでしたが、厄介な兵器であることは間違いありません。そして、そのペッパ○君は、前線の普通科部隊に猛威を振るいます。
最初に狙われたのは、道路沿いに陣地を構えていた第7普通科連隊の4中隊でした。
「来るぞ!」
陣地の前方から銃声が響き、敵の歩兵が次々と姿を現します。
隊員たちは遮蔽物に身を隠しながら応戦していましたが、その後方から帝国産小型戦車が姿を現しました。
「あれを先に止めろ!」
7普連の隊員が叫びます。
しかし、帝国産小型戦車は歩兵の陰に隠れるようにして前進していました。敵歩兵が盾になるような位置を選びながら、こちらとの距離を詰めてきます。
砲身が動きました。次の瞬間、猛烈な速射が陣地へ叩き込まれます。着弾と同時に土砂が舞い上がり、遮蔽物の一部が吹き飛びました。
「くそっ!」
前方の隊員達が身を伏せます。
「撃ち返せ!」
小銃や機関銃による射撃が集中しますが、帝国産小型戦車は小型の車体を生かして道路脇へ入り込みます。普通の戦車なら入り込むことが難しいような場所へ進入すると、そのまま建物や地形を利用して姿を隠しました。
「また動いたぞ!」
「見失うな!」
敵歩兵が前進する間に、帝国産小型戦車は別の位置へ移動していきます。そして再び砲撃を始めました。自衛隊の陣地がまた揺れます。私はその光景を見ながら、思わず息を呑みました。
「ぐわああああ!」
7普連4中隊員の悲鳴が聞こえます。いきなり、甚大な被害が出たようです。
(やっぱり、あれは厄介だ)
ただの小型車両ではありません。こちらの防御陣地へ近付き、歩兵を支援しながら火力を叩き込んできます。しかも、こちらには十分な砲兵火力がありません。
帝国産小型戦車を遠距離からまとめて叩くことが難しいため、普通科部隊は自分たちの火器だけで対処しなければなりません。
『こちら36普連2中隊。敵歩兵、前進を続けています! 戦闘車両も確認!』
無線が入ります。
『3中隊も同様! 敵の数が多すぎます!』
続けて別の通信が入りました。
『37普連、各中隊とも交戦中!』
次々と報告が入ります。
門司の前方一帯で、戦闘が始まっていました。
「敵、増員!」
エルメスさんが前方を見ながら叫びます。
私は視線を向けました。
確かに、敵は増えています。先ほどまで見えていた兵士の後ろから、さらに別の部隊が姿を現していました。その中には、通常の歩兵とは装備の異なる兵士もいます。
「空挺部隊!」
私が叫ぶと、フロリアンさんが敵の動きを確認しました。
「また来たのね。有翼種はパラシュート要らずでいいわね。」
「そんな事を言ってる場合じゃ…」
私は、思わず突っ込んでしまいましたが、まだ余裕があるという事でしょうか。
フロリアンさんは、前方へ銃口を向けました。
「そうね。でも、あの子たちを放っておくわけにもいかないわ」
その直後、上空から風を切る音が聞こえてきました。見上げると、何人もの有翼種がこちらへ向かって降下しています。地上の歩兵が正面から圧力をかけている間に、空から別の部隊を送り込んでくるつもりです。
「来ます!」
私が叫ぶと、シャークさんがすぐに姿勢を低くしました。
「カラーノ、撃てる?」
「はい!」
私は上空の敵へ照準を合わせます。
その瞬間、別の方向から機関銃の射撃が響きました。イーグル班とコンドル班が対空射撃を始めたのです。空挺部隊は散開しながら降下していきますが、その動きは地上部隊よりもはるかに速く、こちらの防御陣地へ接近してきます。
「数が多い!」
エルメスさんが叫びました。
対空射撃をかわした敵の一部が、道路脇へ着地します。そこから先は、地上の歩兵と同じように前進してくると思っていました。
しかし、違いました。着地した有翼種は、そのままこちらへ突っ込んできます。
「来るわよ!」
フロリアンさんが叫び、私も銃を構え直しました。
数人の敵が一気に距離を詰めてきます。私は引き金を引きました。銃弾が敵の身体を捉え、そのうちの1人が勢いを失って地面へ倒れます。しかし、後ろから続いていた別の敵が、そのままこちらへ迫ってきました。
「近い!」
私は後退しようとしました。その前に、フロリアンさんが動きました。
「下がってなさい!」
フロリアンさんが敵の攻撃をかわし、至近距離から反撃します。敵が体勢を崩したところへシャークさん、エルメスさんさんも射撃を加え、ようやく地面へ倒れました。
けれど、戦線全体を見れば、こちらが押し返しているわけではありません。道路の向こうでは敵の歩兵が前進を続けています。その後方では、あの小型の速射型自走砲(帝国産小型戦車)が再び移動していました。
「また、あれが動いています!」
私が叫ぶと、シャークさんがそちらへ視線を向けました。
「こっちへ来るよ!」
小型の車体が道路脇へ入り込み、建物の陰から姿を消します。次に現れたときには、先程とは違う方向を向いていました。砲身がこちらへ向きます。
「伏せて!」
フロリアンさんの声とほぼ同時に、猛烈な射撃が始まりました。
陣地の前方で爆発が連続し、土砂が一気に吹き上がります。自衛隊員が遮蔽物へ身を寄せ、その間にも敵の歩兵が距離を詰めてきました。このままでは、防御線が削られてしまいます。
「フロリアンさん!」
「分かってるわ!」
フロリアンさんが無線機へ手を伸ばします。
『ピットブルより各班。○ッパー君が前線を支援しているわ。普通科部隊だけでは厳しいわよ』
少し間を置いて、無線から返事がありました。
『こちらタイガー。確認した。こっちも敵歩兵を相手にしている』
教授班長の声でした。
その直後、別の通信が入ります。
『リッチ。敵の後方を確認している。前線への増援が続いている』
ネイマン班長です。
敵は前線だけで戦っているわけではありません。こちらが一つの部隊を押し返しても、その後ろから次の部隊が出てきます。その光景を見ていると、胸の奥が重くなってきます。
(本当に、数が多い……)
これまでの戦闘とは違いました。敵を一つずつ倒していけばいいという状況ではありません。こちらが敵を倒している間にも、その後ろから新しい敵が現れます。しかも、敵には空から攻撃してくる部隊までいるのです。
「カラーノちゃん!」
フロリアンさんに呼ばれ、私は振り向きました。
「はい」
「あたしたちは、帝国産小型戦車を止めるわよ!」
私は帝国産小型戦車を見ました。
「私たちだけで、ですか?」
「ええ。あれを放っておいたら、普通科の子たちが持たないわ」
エルメスさんも頷きました。
「正面から近付くのは危険だよ。あれの射線を避けながら移動する」
「分かりました」
私は銃を握り直しました。そのとき、別の方向から銃声が響きました。敵の歩兵が、こちらの位置へ向けて射撃を始めています。
「先にこっちを片付ける!」
シャークさんが叫びます。私たちは遮蔽物を使いながら応戦しました。敵の数は多いですが、GASTの隊員が普通の歩兵と同じように撃ち合う必要はありません。
フロリアンさんが敵の射撃の隙を見つけて前へ出ます。大柄な身体が頼もしく見えます。私もその後を追いました。
距離が縮まるにつれ、敵兵の姿がはっきりと見えてきます。こちらへ向けて銃を構えた敵兵の1人が、私へ照準を合わせました。私は反射的に身を低くします。銃弾が頭上を通過しました。その直後、フロリアンさんの射撃が敵を倒します。
「止まらないで!」
「はい!」
私たちはそのまま前進しました。敵歩兵の間に入り込み、近距離から攻撃を加えていきます。正面から押し寄せていた敵の列が、そこで初めて崩れました。けれど、その向こうにはまだ敵がいます。そして、さらに遠くには、帝国産小型戦車が見えていました。
「いた!」
エルメスさんが叫びます。
車両は別の道路へ移動しようとしていました。
「逃がさないわよ!」
フロリアンさんが銃を構えます。私も照準を合わせました。
しかし、その瞬間でした。上空から敵の姿が落ちてきます。
「また空挺部隊!」
私は慌てて銃口を上へ向けました。有翼種がこちらへ急降下してきます。その後方には、さらに別の敵が続いていました。
フロリアンさんが舌打ちします。
「もう、次から次へと……!」
空から迫る敵を迎撃するため、私たちは一度、自走砲への攻撃を中断せざるを得ませんでした。その間にも、敵の歩兵は前進を続けています。そして、その戦線の至るところで、同じような戦闘が始まっていました。
登場人物紹介
カラーノ……GASTピットブル班所属で、本作のヒロイン
フロリアン……GASTピットブル班所属で、大柄で筋骨隆々のオネェ
シャーク……GASTピットブル班の副班長
エルメス……GASTピットブル班所属で、アメリカ人とのハーフ
※ペッ○ー君→「第84話 強さの片鱗」参照
https://ncode.syosetu.com/n6005ma/84/




