第280話 誘導の逆手
GASTは、帝国軍の防衛線を少しずつ押し込もうとしていた。しかし、帝国兵は無理に前へ出てくることはなく、GASTの動きを見ながら射撃位置を変えている。通路そのものが広くないため、GASTが横へ展開できる余地も限られていた。
それでも、アマゾネス班とアルバトロス班は、敵の射撃をかわしながら少しずつ前進を続けていた。
その戦闘の中で、キーラは、いつからか帝国兵の射撃に違和感を覚えるようになっていた。
敵がこちらを狙っていること自体は当然だった。だが、射撃の多くは、GASTが現在いる位置ではなく、その先へ向けられている。
キーラが一歩前へ出ようとすれば、その進路を遮るように銃弾が飛んでくる。少し横へ移ろうとしても、今度は移動先へ射撃が集中する。
キーラは足を止めた。
「……変だ」
近くにいたスライスが振り返る。
「何が?」
「敵の撃ち方。私たちを狙ってるようで、違う気がします」
「どういう意味?」
キーラは、帝国兵が展開している方向へ視線を向けた。
「私たちが今いる場所じゃなくて、動こうとする場所を撃ってる」
スライスも、改めて敵の射撃を観察した。その直後、前方にいたマメッドが前進しようとした。すると、その進路上へ銃弾が着弾した。
キーラは、その様子を見て、自分の感じていた違和感が偶然ではないという確信を強めた。
「やっぱり……」
敵はGASTの動きを止めている。しかし、それだけではない。どこへ動くかまで、選ばせないようにしている。
キーラがそのことを仲間へ伝えようとした時、無線からソブラウの声が入った。
『何かに気付いたようですね?』
キーラがソブラウのいる方向を見る。
「何が?」
『敵の射撃ですよ。僕たちのところでも同じことが起きています』
「それはそうと、どうして私が気付いたと思ったの?」
『僕は、カッコいいお姉さんからは目が離せないんです』
「あーはいはい」
『つれないですねぇ』
ソブラウの軽い調子に、キーラは呆れたように返した。だが、すぐにソブラウの声から冗談めいた響きが消える。
『敵は、横へ動こうとすると、先に撃たれる。別の場所へ移ろうとしても、その先を押さえてくる。そうじゃないですか?』
「やっぱり、偶然じゃないんだね」
『ええ』
ソブラウは少し考えてから、再び前方へ視線を戻した。
『でも、何のためにやってるのでしょう?』
キーラは答えられなかった。
敵がGASTを倒したいのであれば、これまでと同じように射撃を続ければいい。ところが、帝国兵はGASTが前進すること自体を完全に阻止しようとはしていない。進ませる。ただし、好きな方向へは進ませない。
その違いが、キーラには引っ掛かっていた。
「……私たちを、どこかへ行かせたいのかもしれない」
キーラがそう言うと、ソブラウも黙り込んだ。
『可能性はありますね』
「でも、どこへ?」
『そこまでは分からないです』
ソブラウは即答した。
『この先に別の部隊がいるのかもしれないし、単純にここで足止めしたいだけかもしれないですし』
それはキーラも同じように考えていた。
地下道の先に何があるのか、GASTには分からない。帝国軍が何を準備しているのかも分からない。
ただ、これまでの戦闘から、一つだけ見えてきたことがある。帝国軍は、GASTの動きを放置してはいない。ならば、そこには何らかの意図があるはずだった。
ソブラウは再び前方を見た。
『だったら、こっちから試してみますか』
「何を?」
『これまでと逆に動いてみます』
ソブラウは一度言葉を切った。
『敵が止めようとしてくる方向へ、少し動いてみます』
キーラは、その意図を理解した。
帝国軍がGASTの動きを誘導しているのであれば、その誘導に対する反応を確かめることで、敵が何を守ろうとしているのかを推測できるかもしれない。
「危険じゃない?」
『危険ですよ。でも、今のまま撃ち合っていても、こっちが消耗するだけですから』
キーラは前方を見た。敵はまだいる。その先に何があるのかも分からない。それでも、ただ敵の射撃に対応しているだけでは、状況は変わらない。
「分かった。試してみよう」
2人が動き出そうとした、その時だった。
スライスがキーラのところへ駆け寄ってきた。
「敵の動きについて報告がある」
キーラが振り向く。
「こっちでも、同じことを確認した。敵は、アタシたちが移動しようとした方向を先に押さえてくる」
その報告を聞いたソブラウは、キーラの方を見た。一つの場所だけで起きている現象ではない。それが分かったことで、2人の考えは単なる思いつきではなくなった。
GASTの別の場所でも、同じ現象が起きている。帝国軍はGASTの動きを制限している。その事実だけは、かなり確かなものになってきていた。そして、それならば、GASTがこれまで「敵に追い込まれている」と考えていた状況を、別の角度から見ることができる。
帝国軍がGASTをある方向へ誘導しているのなら、帝国軍も、その誘導を成立させるために動かなければならない。つまり、敵にも制約がある。
「……敵を動かせるかもしれない」
キーラが呟いた。ソブラウも、同じことを考えていた。
『そうですね』
GASTは、まだ帝国軍の作戦を把握したわけではない。この先に別の部隊が待ち構えているのか、それとも単純に現在地でGASTを足止めすることが目的なのか、それすら分からない。ただ、追い込まれているだけではない。
敵がGASTの動きを制限し、何らかの方向へ誘導しようとしているのであれば、その動きそのものを利用できる可能性がある。閉塞した戦場の中で、GASTは初めて、突破口になり得るものを見つけ始めていた。
その少し離れた場所では、ファスが次の射撃位置を探していた。
単独で狙撃を続けている彼もまた、帝国兵の動きに違和感を覚えていた。敵はこちらの狙撃手を探している。しかし、それだけではない。撃たせようとしている。
ファスは銃を構えたまま、帝国兵の動きを観察した。
(だったら、こっちも利用してやる)
まだ具体的な方法は浮かばない。それでも、GASTが一方的に追い詰められているという状況ではなくなりつつあった。
敵には、敵の都合がある。その都合を見つけ出すことができれば、ここから抜け出す方法も見えてくるかもしれない。
登場人物紹介
GASTアマゾネス班
ビービ(班長)、スライス(副班長)、イリー、キーラ、ピケット、サリカム
GASTアルバトロス班
ブエンテロ(班長)、クラウスレイ(副班長)、ゴルム、ソブラウ、マメッド
GASTセイレーン班
ローレライ(班長)、ボナー(副班長)、シリング、ラスタ、ベルチャー、シノシック、ファス、ビュー、シェンブリ
GASTフォックス班
コルガン(班長)、ダンタス(副班長)、ジミー、グイダ、ラーキン 、ワード、シールズ、ミルトン




